のび太と雲の王国
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『のび太と雲の王国』(のびたとくものおうこく)は藤子・F・不二雄によって執筆され、月刊コロコロコミック1991年10月号から1992年1月号に掲載された大長編ドラえもんの1作品。および、1992年3月7日に公開された映画作品。大長編ドラえもんの第12作、映画ドラえもんとしては第13作。
映画監督は芝山努。音楽は菊池俊輔。配給収入16億8000万円。同時上映は『21エモン 宇宙いけ!裸足のプリンセス』『トキメキソーラーくるまによん』(前面にドラえもんの顔をあしらったソーラーカーソラえもん号を扱ったショートフィルム)同時上映に関連してか、同作品には「ソーラーカー」が登場する。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
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[編集] 概説
シリーズで初めて、ドラえもんが故障してしまうという危機的状況が描かれた。ドラえもんは故障してしまうと、目が「★」や「#」になったりしてしまい、台詞があやふやになり、口も変形する。また、体をのび太にさわられると、「H!」と反応してしまう。このドラえもんを見てショックを受けた人も少なくない。このシリーズの他作品でも何度かドラえもんが故障することがあるが(次作『のび太とブリキの迷宮』、『のび太のねじ巻き都市冒険記』など)、1エピソード中に2回も故障したのは本作のみ。
『のび太の日本誕生』同様、OP前のプロローグにはのび太らが登場せず、どこからともなく「ドラえも~ん!」の叫びが聞こえてOPに移る。
原作、製作総指揮、脚本は藤子・F・不二雄。ただし『コロコロコミック』連載時は、藤子・F・不二雄の体調不良のため、ラスト2回が描かれず、藤子プロによる絵物語として掲載されるという異例の事態となった。その後の1994年3月、「ドラえもんクラブ」に完結篇が掲載され、映画上映から2年を経て本映画の原作は正式に完結を迎えた(このため、漫画版の単行本は、次回作『のび太とブリキの迷宮』のそれよりも後の発売となった)。ちなみに、その絵物語と映画版とでは結末が異なり、原作の完結篇に映画版が採用されたことにはスタッフ一同大変喜んだという[要出典]。
[編集] 物語の舞台
[編集] 天上世界(天上連邦)
12の州から成り立つ架空の連邦国家。首都は中央州中央市。宇宙との交流が盛んであり、ドラえもんらが訪れたときには植物星の大使が訪れていた。クリーンエネルギーの技術は発達しているものの、地上からの公害が原因で年々人口が減少し続けている。天上人は基本的に地上人と同じ種族の人類であり、住んでいる場所が違うだけで生物種的には同種。そのため、ドラたちの言語もそのまま通じた。天上世界は全てこの天上連邦に属しており、地球上に外敵はいないが、軍隊や警察などはかなり強力で地上世界に対して敵対的。大統領制を採っているので共和制国家であると思われる。また、この国の元首、要人、役人は皆背中に羽の生えた衣服を身に着けている。創世神話などを見る限り、宇宙からの彗星の特殊なガスで固まった雲に乗れることを発見した古代の高地にいた人々が、雲上に移住したのが起源だと思われる。
- 中央州
- 天上連邦の首都。巨大な空港、公園、ホテル、裁判所、シティホールなどが立ち並ぶ大都会。
- エネルギー州
- 天上連邦で用いるエネルギーのほとんどを生産する州。北海道ほどの広さで、その一面に無数のソーラーパネルが設置されている。ここで作られたエネルギーは、マイクロ波で他の州に送られている。
- 絶滅動物保護州
- 地上で絶滅した動物、および絶滅危惧種の動物を集め、保護している。作中に登場した動物としては、マンモス、ドードー、フクロオオカミ、クアッガ、ジャイアントモア、メガテリウム、スミロドン、ネッシー、フォルスラコス(と思われる巨鳥)、グリプトドン、ムカシダイダラアホウドリがいる。
[編集] 雲の王国
のび太がドラえもんの道具で作った自称天国。王国という名がついているが実際は金銭上の理由から1株100円の株式制を採用。「株式国家」と称した。製作にあたっての総工費のうちほとんど(3万円、つまり300株)をスネ夫が出した(スネ夫が大株主。静香は100円で1株、ジャイアンは50円で半株)。小さな国であるが、山、谷、川、滝、湖などが存在していて、レストラン、図書館、ゲームセンター、野球場、テニスコートなどが充実している。また、株式は多数の出資者を募る前提にもかかわらず、他の同級生に興味を持たれると、話題を偽ってごまかしている。
役職としては、のび太が国王、しずかが王妃、ドラえもんが総理大臣、スネ夫がナンデモ大臣、ジャイアンが召し使い(国王以外はのび太の任命)。
[編集] ゲストキャラ
- パルパル(声優:伊藤美紀)
- 天上世界の絶滅動物保護州管理員の女性。グリオと同じく地上人を敵視していたが、ドラえもん達と行動を共にするうちに地上人の考え方にも理解を示す。ゲストとしては『のび太の魔界大冒険』の美夜子に続いて年上キャラであり、のび太達を諭したり味方となるシーンもある。
- グリオ(声優:村山明)
- 天上世界の絶滅動物保護州管理員の男性。地上人を敵視している。
- 大統領(声優:屋良有作)
- 天上世界の大統領。ノア計画の実行が議会で可決された場合、地上に大雨を降らす為のスイッチを押さなければならないという使命を負っている。
- タガロ(声優:高乃麗)
- 漁の途中で船が難破し、無人島にいた所をノア計画の実験に巻き込まれ、天上人によって植物と共に天上世界に吸い上げられた少年。地上に残してきた母に会う為、仲良くなったグリプトドンと共に天上世界脱出を試みる。
- タガロの父(声優:池水通洋)
- タガロと共に天上世界に吸い上げられた、タガロの父親。
- タガロの祖父(声優:松田文雄)
- タガロと共に天上世界に吸い上げられた、タガロの祖父。天上人の事を神様だと思っている。
- ホイ(声優:松尾佳子)
- てんとう虫コミックス35巻収録『ドンジャラ村のホイ』に登場した、小人族の少年。ドラえもんとのび太に移住させてもらったアマゾン奥地にも開発が進むようになり、天上人によって天上世界の絶滅動物保護州へと移住した。後にノア計画を阻止しようとしたドラえもんらを擁護した。
- ホイの父(声優:山崎たくみ)
- ホイの母(声優:速見圭)
- ネッシー
- 絶滅動物保護州に生息するUMA。ホイの友達。
- モア、ドードー
- てんとう虫コミックス17巻収録『モアよドードーよ永遠に』に登場した現在は絶滅した種類の鳥。初出の話でのび太が「タイムとりもち」によって現代に捕獲してきた後に孤島に住まわせることになった。その後に天上人が天上界に連れて行ったようである。恩義を忘れていなかったのか、ドラえもんらを擁護する側に立った。
- キー坊(声優:丸山詠二)
- てんとう虫コミックス33巻収録『さらばキー坊』に登場した、進化植物。元々は宅地開発予定地に生えていた小さな苗木だった。のび太により助けられ、ドラえもんの道具「植物自動化液」で知性を得る。地球から植物星へ留学して大使となり、ノア計画の検討の為天上世界へとやってきた。のび太と一緒に暮らしていた時は子供だったが、現在は立派な成木となっている。密猟者達による天上界の破壊を阻止したために傷ついたドラえもんを救った。
- 密猟者(声優:小林清志、島香裕)
- アフリカのケニアでゾウを密猟していたところ、天上世界へと吸い上げられた地上人4人。全員がサングラスを掛けており、悪知恵ばかりが働く。後に雲の王国を乗っ取って天上界を破壊しようとしたがドラえもんの特攻で阻止された。
[編集] あらすじ
雲の上には本当に天国があると信じてそれを馬鹿にされたのび太に、ドラえもんは雲の上に自分の理想の王国を作ろうと提案する。紆余曲折あったものの、仲間たちの協力を得て雲の王国はついに完成。しかし、王国で遊んでいる途中偶然に、本当に天上人の住む雲の上の世界があることを発見する。自然に恵まれ絶滅動物も生息するその雲は、絶滅動物の保護地区だった。そこの監察員パルパルにつれられ、施設に移動する5人。友好的に見えたパルパルだが、天上界では「動植物と地上人をあらかじめ天上界に避難させ、大洪水で地上文明を洗い流して破壊する」という恐ろしい方策「ノア計画」が実行されようとしていた。
[編集] スタッフ
- 監督:芝山努
- 脚本:藤子・F・不二雄
- 演出:塚田庄英、平井峰太郎
- 作画監督:富永貞義、渡辺歩
- 美術設定:川本征平
- 美術監督:沼井信朗
- 美術補:工藤剛一
- 色設計:野中幸子
- 撮影監督:高橋秀子
- 編集:井上和夫、渡瀬祐子、佐多忠仁
- 録音監督:浦上靖夫
- 効果:柏原満
- 音楽:菊池俊輔
- 監修:楠部大吉郎
- 制作デスク:市川芳彦
- プロデューサー:別紙壮一、山田俊秀、小泉美明
- 制作協力:藤子プロ、ASATSU
- 制作:シンエイ動画、小学館、テレビ朝日
[編集] 特徴
シリーズでは巨悪的な敵キャラが登場しストーリーを盛り上げていたが、本作では「敵キャラと真正面から戦う」というパターンがとられていない。密猟者グループが終盤での敵ということにはなるが、むしろストーリー全体を通して描かれた天上人の方が地上人にとっての「敵」であった。天上連邦の国民全体を地上にとっての脅威とするならば、敵組織としてはその人口および兵力などは群を抜いていると言えよう(匹敵するのは『のび太の魔界大冒険』における国家的体裁をとっている大魔王軍団と、『のび太と鉄人兵団』におけるロボットの星メカトピアの鉄人兵団くらいか)。しかし、天上連邦は文明的に劣る弱い種族(地上人)には強いが、自分と同等以上の力を持つ者には弱いという描写がなされていた(終盤で密猟者らが雲戻しガスを乱用した際、まったくなすすべがなかった)。
今回はドラえもんが故障し、5人とも散り散りにはぐれてしまうという状況でストーリーが進むことや、今までのような確固たる「悪」とは言い切れない相手(地球環境保護を唱え、環境を破壊する地上人を批判する天上人は悪とはいえない)とやむなく敵対する……という展開からヒーローもの的な要素は薄められ、メッセージ性が重視されている作品として印象深い。『のび太と竜の騎士』における、恐竜人たちとの対立と和解の物語を更に一歩進めたものといえよう。
上記以外に本作が他の大長編と比べて「異色」といえるのは、物語中でジャイアンとスネ夫が天上人をはっきり「敵」と見做しており、戦うか逃げるかという姿勢を示すという「メンバー中での対立」が緊張感を増していたことやドラえもん不在の状況下、ひみつ道具の使用も不可能なため地上へ逃げて国連軍や自衛隊に天上界攻撃を頼もうとするなどの「現実的」な点である(この「危機的状況に、国連や自衛隊に連絡を試みる」という現実的な描写は『のび太と鉄人兵団』や原作のいくつかの話にも見られる)。
シリーズ中でも特に直接的に環境(自然)保護の重要性を訴えている作品(2年前に公開された『のび太とアニマル惑星』でも人類文明への警鐘を鳴らしている点は同じ)である。ドラえもんたちは自然を守ることを誓い、映画を見ている人に呼びかけているように見える。
また、他の問題点として、"ドンジャラ村のホイくん"、"キー坊"など過去の(原作、テレビアニメの)作品に登場したゲストキャラクターが多数出演している作品でもある。原作の該当エピソードを既読の者であればともかく、それ以外の者などにとっては「突然現れる謎のキャラクター」でしかなく、これらのキャラクターの解説も一応入ってはいるものの、別の意味で人を選ぶ作品となっているおそれがある。
このようなシリアスな内容であるため、ファンの間でも本作を傑作であると高く評価するファンは比較的多数存在する。特に、ラストにおけるドラえもんのタンク突撃、意識不明になったドラえもんをキー坊が助ける場面はファンの間でも有名であり、高く評価するファンも多い。しかし、地上人を悪としてあまりにメッセージが直接的すぎてあざといとの批判的意見も決して無視できない作品であり(例:斎藤貴男「カルト資本主義」においてドラえもんに出てくる天上人の発想はカルトにつながるディープエコロジーだという発言)、賛否の分かれる作品であるおそれがある。
[編集] 豆知識
本作より16年前に発表された短編作品『無人島の作り方』(「小学四年生」1975年8月号、てんとう虫コミックス9巻収録)は、結末が「空中に土地を作る機械」を欲するのび太に対し、ドラえもんが「そんなものない」と答える場面である。本作は、その時ののび太の希望が長い年月を掛けて実現したものだともいえる。
作中、雲がジャイアンとスネ夫の顔になる描写があるが、これは当時のED「青空っていいな」にも似たような描写がある。
[編集] 主題歌
「雲がゆくのは…」(作詞・唄:武田鉄矢 作曲:深野義和)
「ドラえもんのうた」(作詞:楠部工/作曲:菊池俊輔/唄:山野さと子)
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
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