のび太とアニマル惑星
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『のび太とアニマル惑星』(のびたとアニマルプラネット)は、藤子・F・不二雄によって執筆され、月刊コロコロコミック1989年10月号から1990年3月号に掲載された「大長編ドラえもんシリーズ」の作品。および、この作品を元に1990年3月10日に公開された映画作品。大長編ドラえもんシリーズ第10作、映画ドラえもんとしては第11作。
映画監督は芝山努。配給収入19億円、観客動員数380万人。同時上映は『チンプイ・エリさま活動大写真』。
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[編集] 概説
環境問題への提示など、作者が存命中に手がけた後期の作品に見られる要素が増えている。のび太のワンニャン時空伝と並び、耳をつけた青いドラえもんが見られる珍しい作品でもある。
同日には東映アニメ祭りで「ドラゴンボールZ この世で一番強いヤツ」が封切られ、以降1996年にのび太と銀河超特急が公開されるまで、いわゆる「ドラ・ドラ対決」と比較されるまでに配給収入及び観客動員数を巡るドラえもんとドラゴンボールZとの間での熾烈な争いが展開される事となる。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] 物語の舞台
- アニマル惑星
- 色々な種類の動物たちが平和に暮らす星。太陽光や風力などのクリーンエネルギーによる発電技術や、光・水・空気から食物を合成する技術、高度な汚水処理装置などの、自然環境に徹底的に配慮した地球よりもはるかに発展した科学文明が栄えている。平和主義のため、軍隊は存在しない。
- 月
- アニマル惑星のすぐそばにある星。かつて人間による文明世界が栄えていたが、環境問題・核戦争・自然災害などですっかり荒廃しきってしまい、わずかに生き残った人間が石器時代の生活レベルまで戻った後、古代のガラクタから宇宙船などを造れるレベルまでになった(但し、その部品等を自分たちで造る事が出来ないため、古代のスクラップ置き場のガラクタから日用品などを製作している)。水や空気が汚染されているため、ここに住む人間は常に防護服をまとっている。
[編集] ゲストキャラ
- チッポ(声優:田中真弓)
- 好奇心あふれる犬の少年。危険を冒そうとして、いつも父に怒られる。名字はワンゲル。
- チッポの父(声優:キートン山田)
- 町でただ一人の警察官。
- チッポの母(声優:佐々木るん)
- ロミ(声優:西原久美子)
- チッポの従姉妹。コクローチ団に連れ去られ、人質にとられる。
- ウータン(声優:川久保潔)
- オランウータンの町長。敬虔なアニマル惑星の神の教徒で、ニムゲとの決戦前夜に神への祈りを続けた。
- ゴリラ(声優:広瀬正志)
- 船長(恐らく漁師)。ジャイアンのことを何度も自分の息子と間違えていた。
- ゴリ郎(声優:峰あつ子)
- 上記のゴリラの息子。ジャイアンによく似た顔をしている。
- ペリカン(声優:茶風林)
- 郵便配達員。
- ニムゲ総長(声優:森功至)
- ニムゲ組長(声優:小杉十郎太)
[編集] あらすじ
ある夜、のび太はピンクのもやをくぐって見知らぬ森に迷い込む。そこでは動物が人間の言葉で話していた。翌日、のび太はその体験を皆に話すが「幼稚園児並みの夢だ」と馬鹿にされるだけ。だが、動物たちが持っていた蛍を入れていた花(ホタルブクロ?)が部屋に落ちているなど、のび太には夢とは思えなかった。そんな中、ママ達の話からのび太達の学校の裏山がゴルフ場建設のために切り崩されてしまうという話を聞きつける。
その夜、寝ぼけたのび太は、再びあの靄の中に入り込んだことに気付いた。動物の世界は夢ではなかったのだ。後を追ってきたドラえもんと共に靄の向こう側を探検する中で、2人はチッポという犬の少年に出会い、友達となった。
翌日、裏山を開発しようとする業者達が下見に訪れた。ドラえもんが秘密道具で追い払ったものの、これくらいであきらめるとは思えず、安心はできない・・・。その時、2人はあのピンクの靄を見つけた。静香も誘い、再びアニマル惑星に遊びに行くことに。だが、こっそりついてきたジャイアンとスネ夫は、靄の中をさ迷ううち、荒れ果てた星に着いてしまう。ジャイアンはその中で「恐ろしい何か」を感じると言うが……。
[編集] スタッフ
- 監督:芝山努
- 脚本:藤子・F・不二雄
- 演出助手:塚田庄英、平井峰太郎
- 作画監督:富永貞義
- 作画監督補佐:渡辺歩
- 美術設定:川本征平
- 美術監督:高野正道
- 色設計:野中幸子
- 撮影監督:斎藤秋男
- 特殊撮影:渡辺由利夫
- 編集:井上和夫、渡瀬祐子
- 録音監督:浦上靖夫
- 効果:柏原満
- 音楽:菊池俊輔
- 監修:楠部大吉郎
- 制作デスク:市川芳彦
- プロデューサー:別紙壮一、山田俊秀、小泉美明、加藤守啓
- 制作協力:藤子プロ、ASATSU
- 制作:シンエイ動画、小学館、テレビ朝日
[編集] 主題歌
「天までとどけ」(詞:武田鉄矢/作曲:堀内孝雄/編曲:原田末秋/唄:武田鉄矢)
「ドラえもんのうた」(作詞:楠部工/作曲:菊池俊輔/唄:山野さと子)
[編集] この作品の特徴
ドラえもんシリーズの中では、シリアスなテーマ性・メッセージ性(特に環境問題など人類文明への警鐘)を抱えた作品であり、冒頭、裏山のゴルフ場建設計画に反対する町内会の一員、のび太のママが環境問題についてのび太とドラえもんに説教するシーンなどが随所に挿入されている。
また、クリーン・エネルギーが発達し兵器の概念すら持たない平穏な動物たちの世界を侵略しに来る「ニムゲ」は、まさに人間そのもの(「ニムゲ」というネーミングも、「ニンゲン」をもじったもの)である。しかも、アニマル星を侵略しようとするニムゲの一団は他のニムゲ(人間)から「秘密結社コクローチ団(Cockroach=ゴキブリを意味する英単語)」と呼ばれており、極めて強い否定的イメージが暗に植えつけられている。原作では「コクローチ団」ではなく「ニムゲ同盟」となっており、「ニムゲ」はアニマル星を侵略しようとする人間のみを指している(ちなみにニムゲの防護服のデザインと色も、原作と映画版では相違がある)。
原作にあった出木杉くんの登場シーンが、映画では全てカットされている。1人のキャラクターの登場シーンが丸々カットされた珍しいパターンである。
アニマル惑星は汚水処理施設や太陽光発電など環境に気を遣っている星であり、また「大ごもり」やお守りなどの風習、聖典に書かれている「光の階段(=ピンクのもや)」「星の舟」「月の悪魔族ニムゲ」、誰も立ち入ってはいけない「禁断の森」などの宗教的慣習・言い伝えがアニマル星という独特な世界を構成しており、それらが実はアニマル星成り立ちの経緯につながっているという謎解き仕立てのストーリーに関しては一定の評価がされている。一方で、メッセージ性が直接的で説教臭いとする批判的意見も多い作品である。
また映画では、原作ではあっさりと流された終盤のシーンで大幅にオリジナルシーンが追加され、かなり深く踏み込んでいる(原作ではページ数の関係か、本作品やのび太と銀河超特急などラストがあっさり流されてしまい、映画で補完されることがしばしばあった。ちなみにゴルフ場計画は中止となっている)。このこともあり、前作『のび太の日本誕生』同様、原作以上の評価を得る数少ない映画となっている。特にチッポとの別れのシーンや、オリジナルで追加されたニムゲ総長の素顔&最後の一言は、ファンの間でも評価が高い。
各種の動物が擬人化した世界観を生かし、「迷子の仔猫を助ける犬のおまわりさん」や「黒ヤギさんからの手紙を食べてしまった白ヤギさん」といった有名な童謡になぞらえたシーンが登場する。また、せっかく耳を付けたのにタヌキ扱いされて怒るドラえもんに対して本物のタヌキが文句を言い、ドラえもんが返事に詰まってしまうシーンも、この世界観ならではである。そのあとに「もうタヌキでもネコでもいいですよ」とドラえもんが折れる。
映画ではいい奴になるという評判のジャイアンであるが、この作品では珍しく弱気なジャイアンの描写がある。