イラクのお尋ね者トランプカード
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イラクのお尋ね者トランプカード(イラクのおたずねものトランプカード)とは、2003年におけるアメリカ合衆国および有志連合国によるイラク侵攻において、兵士らがフセイン政権のお尋ね者やバアス党の幹部や革命指導評議会のメンバーを特定するのに助けとなるようアメリカ軍が開発したトランプセットである。
目次 |
[編集] カードについて
それぞれのカードにはお尋ね者の名前、写真(入手可能な物のみ)、肩書が記されている。エース、キングなど、もっとも高いランクのカードは、お尋ね者リスト(U.S. list of most-wanted Iraqis)の上位の人物に使われた。スペードのエースはサッダーム・フセイン、クラブ及びハートのエースはそれぞれ彼の息子クサイとウダイであり、ダイヤのエースはサッダームの大統領秘書官アービド・ハーミド・マフムードである。作成当初はカードの順番は前述のお尋ね者リストの順番と完全には一致していなかったが、2003年後半にお尋ね者リストの方の順番が入れ替えられ、カードの順番とほぼ一致するようになった。
- このようなトランプカードは南北戦争のときから使用されている。第二次世界大戦に空軍が作ったものにはドイツと日本の戦闘機のシルエットが印刷され、現在では数百ドルの価値がある。朝鮮戦争でもこのようなカードが作られた。兵士は暇をつぶすためによくトランプをし、ゲームの間にお尋ね者の名前や顔や肩書を見たりすることは、兵が戦場でお尋ね者に遭遇したときに助けになる。(アメリカ国防情報局による説明)[1]
このトランプは、2003年の4月11日に、中央軍の作戦副司令官のVincent Brooks陸軍准将による記者会見で初めて公に発表された。その晩、ヒューストンの実業家Max Hodgesは、国防総省のウェブサーバからトランプのための高画質の画像ファイルを発見し、ダウンロードした。翌日ファイルがウェブサーバから消えたことに気づいて、彼はカードを複製できるPDF形式で提供する、最初のeBayの売り手になった[2]。彼は約4000ドルで1000組のトランプを印刷する契約をGemaco Playing Card Companyと速やかに結び、印刷が終わる前にeBay、Amazon.com、彼自身のウェブサイトでトランプを売り出し始めた。4ドルのトランプの早い時期でのオークションがすぐに120ドル以上に高騰したとき[3]、ほかのeBayユーザが便乗し、彼ら自身が売り出すためにトランプを印刷したり注文したりするようになるまで時間はかからなかった。たった数日で何百人もの売り手が出現し、価格は1組あたり数ドルにまで下降した。
記者会見から数時間のうちに、ニューヨークの企業家はこのカードを販売するためのウェブサイト BaghdadRummy.com(Rummyとは当時の国防長官ラムズフェルドのニックネームとトランプゲームのラミーをかけたもの)を立ち上げ、のちにほかの実業家たちによって同様のウェブサイトが数十個誕生した。
テキサスのLiberty Playing Card Co.は、クウェートのアメリカ大使館よりトランプを製造するよう注文を受け、「政府の正式な契約者」であることを自称し、すぐに国内市場での供給者として人気の高いものの一つとなった。アメリカ軍はうっかりジョーカーに「Hoyle」ブランドのトランプのジョーカーの絵柄を含めてしまい、これはオハイオ州のシンシナティにあるU.Sプレイング・カード社に商標登録されていた。U.Sプレイング・カード社は政府がその絵柄を使用することには抗議しなかったが、他の企業がその絵柄を使用することには抗議した。従って、そのジョーカーの絵柄が正規品であるための要件と考えるなら、ある意味、アメリカ軍ははからずもU.Sプレイング・カード社に正規品の独占的製造権を与えたことになる。
このトランプからは様々な模造品やパロディが生まれた。例えばブッシュ政権や共和党のメンバーが載っているもの、[4]著名なリベラリストや民主党の党員を載せたものがある。[5]また、後の大統領選挙を記念するトランプも作られた。そのうちの一つであるPresidential Poker [6]は各スートを政治的な視点(積極的な共和党員、消極的な共和党員、積極的な民主党員、消極的な民主党員)に対応させたもので、2004年の大統領選挙での論争を風刺するポーカーの独自のルールが付いてくる。
ブッシュ政権がイラクに夢中になるあまり、ウサーマ・ビン=ラーディンやアルカーイダへの視点を見失っているとする批判がある。この立場を取る者はしばしばその例として、政府がアルカーイダの幹部を使ったこのようなトランプを作っていないことを指摘する。
このトランプはエフェメラの好例である。なぜならいずれ近いうちに当初の目的は失われ、好奇の目も消え、歴史上の大きな出来事に関する独特な印刷された証拠品になるからである。
[編集] トランプカード
[編集] スペード
- エース ♠: サッダーム・フセイン, 大統領 (#1)2006年処刑された。
- キング ♠: アリー・ハサン・アル=マジード, 大統領顧問/革命指導評議会メンバー "ケミカル・アリ"としてより知られている。 (#5). 拘束中
- クイーン ♠: ムハンマド・ハムザ・アッ=ズバイディー, 元首相 (#9、最初は#18).
- ジャック ♠: イブラーヒーム・アブドゥッ・サッタール・ムハンマド, 国軍参謀総長 (#13、最初は#11).
- 10 ♠: ハーミド・ラジャー・シャラーフ, 空軍総司令官 (#17、最初は#15).
- 9 ♠: ルーカーン・ラズーキー・アブドゥル=ガフール・スライマーン・アル=マジード, 大統領府部族問題事務局長 大統領ボディーガード (#21、最初は#39).
- 8 ♠: ターリク・ミハイル・アズィーズ, 副首相 (#25、最初は#43).
- 7 ♠: マフムード・ディアーブ・アル=アフマド, 内務相 (#29、最初は#46).
- 6 ♠: アーミル・ラシード・ムハンマド, 大統領顧問/元石油相 (#33、最初は#47).
- 5 ♠: ワトバーン・イブラーヒーム・ハサン, 大統領顧問 (#37、最初は#51).
- 4 ♠: ムハンマド・ズィマーム・アブドゥッ=ラッザーク, バアス党タミーム県党支部長 (#41、最初は#23).
- 3 ♠: サアド・アブドゥル=マジード・アル=ファイサル, バアス党サラーフッディーン県党支部長 (#55、最初は#36).
- 2 ♠: ラシード・タアーン・カーズィム, バアス党アンバール県党支部長 (#49、最初は#30).
[編集] クラブ
- エース ♣: クサイ・サッダーム・フセイン, フセイン大統領の次男 (#2).銃撃戦の結果死亡
- キング ♣: イッザト・イブラーヒーム, 革命指導評議会副議長 (#6).逃亡中
- クイーン ♣: カマール・ムスタファー・アブドゥッラー, 共和国防衛隊及び特別共和国防衛隊事務局長 (#10、最初は#8).
- ジャック ♣: サイフッディーン・フレイヒ・ハサン, 共和国防衛隊参謀総長 (#14、最初は#12).
- 10 ♣: ラティーフ・ヌサイイフ・ジャースィム, 党軍事局副議長(#18、最初は#37).
- 9 ♣: ジャマール・ムスタファー・アブドゥッラー, 元大統領府部族問題局副局長 (#22、最初は#40).
- 8 ♣: ワリード・ハーミド・タウフィーク・, バスラ県知事 (#26、最初は#44).
- 7 ♣: イヤード・フタイイフ・ハリーファ, アル=クドス軍参謀総長 (#30、最初は#20).
- 6 ♣: フサーム・ムハンマド・アミーン, 国家監視局長 (#34、最初は#49).
- 5 ♣: バルザーン・イブラーヒーム・ハサン, 大統領顧問 (#38、最初は#52).処刑された
- 4 ♣: サミール・アブドゥル=アズィーズ, バアス党バグダード県ルサーファ地区党支部長(#42、最初は#24).
- 3 ♣: サイフッディーン・アル=マシュハダーニー, バアス党ムサンナー県党支部長 (#46、最初は#27).
- 2 ♣: ウグラ・アービド・サクル・アル=クバイスィー, バアス党マイサーン県党支部長 (#50、最初は#31).
[編集] ハート
- エース ♥: ウダイ・サッダーム・フセイン, フセイン大統領の長男 (#3).銃撃戦の結果死亡
- キング ♥: ハーニー・アブドゥッ=ラティーフ・トゥルファー, 特別治安機関副長官 (#7).
- クイーン ♥: バルザーン・アブドゥッ=ガフール・スライマーン・アル=マジード, 特別共和国防衛隊司令官 (#11、最初は#9).
- ジャック ♥: ラーフィウ・アブドゥッ=ラティーフ・トゥルファー, 総合治安局長 (#15、最初は#13).
- 10 ♥: アブドゥル=タウワーブ・ムッラー・アル=フワイシュ, 副首相 (#19、最初は#16).
- 9 ♥: ミズバーン・ハドル・ハーディー, 革命指導評議会メンバー (#23、最初は#41).
- 8 ♥: スルターン・ハーシム・アフマド, 国防相 (#27、最初は#19).
- 7 ♥: ズハイル・ターリブ・アブドゥッ=サッタール, 軍事情報局長(#31、最初は#21).
- 6 ♥: ムハンマド・マフディー・アッ=サーリフ 貿易相 (#35、最初は#48).
- 5 ♥: フダー・サーリフ・マフディー・アンマーシュ,微生物学者。党貿易局長兼学生青年局長。ミセス炭疽菌として知られる。 (#39、最初は#53).
- 4 ♥: フマーム・アブドゥル=ハーリク・アブドゥル=ガフール,高等教育相兼科学研究相 (#43、最初は#54).
- 3 ♥: ファーディル・マフムード・ガーリブ, バアス党バービル県党支部長 (#47、最初は#28).
- 2 ♥: ガーズィー・ハンムード, バアス党ワーシト県党支部長 (#51、最初は#32).
[編集] ダイヤ
- エース ♦: アービド・ハーミド・マフムード, 大統領秘書官 (#4).
- キング ♦: アズィーズ・サーリフ・アッ=ヌウマーン, 党地方組織局・南部局長(#8、最初は#17).
- クイーン ♦: ムザーヒム・サアブ・ハサン, 防空軍司令官 (#12、最初は#10).
- ジャック ♦: ターヒル・ジャリール・ハッブーシュ, 総合情報局長官 (#16、最初は#14).
- 10 ♦: ターハー・ヤースィーン・ラマダーン, 副首相/革命指導評議会メンバー (#20、最初は#38).
- 9 ♦: ターハー・ムヒーウッディーン・マアルーフ, 副大統領/革命指導評議会メンバー (#24、最初は#42).
- 8 ♦: ヒクマト・ミズバーン・イブラーヒーム・アッザーウィー, 副首相/財政相 (#28、最初は#45).
- 7 ♦: アーミル・ハンムーディー・アッ=サアディー, 科学技術担当大統領顧問 (#32、最初は#55).
- 6 ♦: サブアーウィー・イブラーヒーム・ハサン, 大統領顧問 (#36、最初は#50).
- 5 ♦: アブドゥル=バーキー・アブドゥル=カリーム・アブドゥッラー, バアス党ディヤーラー県党支部長 (#40、最初は#22).
- 4 ♦: ヤヒヤー・アブドゥッラー・アル=ウバイディー, バアス党バスラ県党支部長 (#44、最初は#25).
- 3 ♦: ムフスィン・ハドル・アル=ハッファージ, バアス党カーディスィーヤ県党支部長 (#48、最初は#29).
- 2 ♦: アーディル・アブドゥッラー・マフディー, バアス党ディーカール県党支部長(#52、最初は#33).