ブラウ作戦
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ブラウ作戦(ドイツ語:Unternehmen Blauウンターネーメン・ブラウ) は、第二次世界大戦中の1942年夏から1942年初冬にかけてのドイツ軍・ルーマニア軍・イタリア軍のソ連南部への攻勢である。なお、作戦名の「ブラウ」(blau)は青の意である。
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[編集] 作戦の背景と目的
独ソ戦を短期に終わらせることに失敗（モスクワ攻勢での敗退）し、国内の石油事情が格段に悪くなったドイツ軍はソ連南部への攻勢を決定した。ヒトラーは北方軍集団はレーニングラード包囲を継続。中央軍集団はハリコフ付近での現状維持に務めるとし、南方軍集団により、長期戦に備えるためにとカフカース油田地帯を確保しソ連の継戦能力を奪い、また黒海の制海権を握ってトルコを枢軸国側に引き込むことも狙った。
[編集] 作戦開始と部隊編成
立案の段階においてブラウ作戦は、カフカース地方に全攻勢をかけ、スターリングラードは補給線後方の防御拠点確保という副次的なものでしかなかった。計画では、スターリングラードを8月に早期占領後、快速部隊でカスピ海沿岸の都市アストラハンに進出し、バクーへの陸上交通を断ち後方の安全を確保した上で、バクーを攻略する予定だった。
ドイツ軍の将軍達、特にフランツ・ハルダー参謀総長は当初この作戦は補給路と戦力の分散を懸念し反対したが、ヒトラーは絶対の自信を持ってバクーとスターリングラードの両方を奪うという作戦を決行した。
南方軍集団は、ドン川を渡ってカフカース地方のマイコプ・グロズヌイを経てバクーを目指すA軍集団（約100万人）と、ドン川沿いを制圧してスターリングラードを目指すB軍集団（約30万人）に分かれて、6月28日一斉に進軍を開始した。
ドイツ軍の機甲力は、A軍集団の第一装甲軍には6個装甲師団、一個自動車化歩兵師団、グロスドイッチュラント師団、SS ヴィーキング師団（デンマーク人の志願兵の部隊）が参加。B軍集団の第4装甲軍には、4個装甲師団、2個自動車化歩兵師団が参加していて、両軍集団にはT-34対策として長砲身の5cm砲を装備したJ型を含めた3号戦車を約600両、長砲身型の7.5cm砲を装備したF2型を含めた4号戦車を約300両配備されていた。
[編集] 進撃の経過
ソ連軍はドイツ軍の行動を当初モスクワへの攻勢と予想しB軍集団に対してヴォロネジで激戦となったが突破する。この時A軍集団もロストフ付近で激戦となったため、B軍集団の第4装甲軍から多数の装甲師団と自動車化歩兵師団が支援することとなった。そのために第六軍のみで先にスターリングラードを目指す事となる。その後ソ連軍は戦略的に撤退、A・B軍共に快進撃し特に第六軍は数週間で1,000キロ以上も進撃。どの部隊も物資、石油の補給が追い付かなくなっていった。
[編集] A軍集団の戦闘
A軍集団は7月25日、ソ連海軍の拠点であるロストフを占領し、ソ連黒海艦隊を壊滅状態にして黒海の制海権を握り、カフカースへ向けて進撃していった。（しかしトルコの中立によるダーダネルス・ボスポラス海峡の軍艦通航禁止と、イギリス海軍の妨害によって、ドイツの船舶は黒海に進出できるものは少なく、現地で接収したのを含めても、補給にはあまり貢献しなかった）8月9日には大規模な油田施設のあるマイコプを占領した。A軍集団は既に補給線が長く伸び、フランツハルダーが危惧したとおり補給が追いつかなくなっていった。そのために石油が不足していたので、グロズヌイやマイコプの油田の石油を捕獲する事をあてにしていたが、油田施設がソ連軍により破壊されていた。これが後に大きく影響していく事となる。
8月21日にはノヴォシーロフを占領。9月1日には一年以上も続いたセヴァストポリの戦いを終えた第11軍が、初期の予定よりだいぶ遅れて、A軍集団支援の為にケルチからタマン半島に上陸した。9月6日にはノボロシースクを占領。しかし油田施設はやはりソ連軍によって破壊され一つも確保できず、石油の早期確保を目指していたブラウ作戦で達成されていたことといえば、ドイツ軍の山岳部隊が8月23日にカフカース山脈の最高峰のエルブルス山に登頂したことぐらいだった。ただのニュース映画用のパフォーマンスぐらいの意味合いしかなく、軍事的には何の意味もない事で、ヒトラーは無駄なことに時間をかけたと怒って、A軍集団の指揮権をリスト将軍から剥奪し、自ら指揮をとることとなった。この後補給もままらなない中、ヒトラーは進撃を乱命するようになった。
10月6日にはマルゴベクに至るが、ソ連軍の抵抗と石油不足によって一時攻勢を停止。この時ソ連軍はアストラハンからの補給線を、ドイツ軍から爆撃を受けつつも確保し、現地のパルチザンとも連合して抵抗を強めていた。ソ連軍の戦略的撤退は完了し、反撃の為の補給を受けつつあったのである。初期の作戦では、スターリングラードとアストラハンの両都市を制圧後、バクーを攻略する計画であったが、B軍集団のスターリングラードでの苦戦により、連携を欠いた。またマイコプからバクーまでの行程はそれまでの平原とは違い、カフカース山脈の尾根が連なる山岳地帯であった。この地域の道路は他のソ連領内同様に整備されておらず、鉄道も爆破されており、補給もままならず進撃は滞った。このような地形は装甲部隊の進撃には適しておらず、逆にパルチザンやソ連軍にとって防衛には適していた。それでもなんとかドイツ軍も10月25日テレク川の南で攻勢を再開してオルジョキニゼ付近まで進出したが、ついにグロズヌイから僅か60キロの所でついに石油が尽きて進撃を停止してしまった。（ここが東部戦線におけるドイツ陸軍の最遠進出地となる）
11月8日、ソ連軍がテレク川付近で攻勢を開始したためバクー攻略を諦めてカフカース西部まで撤退をはじめた。さらに11月22日には当戦線の背後にあたるスターリングラードのB軍集団が包囲されてしまった。これによりA軍集団は突出した形となり、ソ連軍はさらにカフカースのA軍集団も包囲しようと、側面を守っていた脆弱なイタリア軍歩兵師団を狙って攻勢を開始したが、12月28日にヒトラーが東部戦線の崩壊を避けるため、A軍集団にカフカースからの退却を命令。フォン・クライスト将軍が撤退の指揮を任され、A軍集団は奇跡的に包囲網が完成する前にほぼ全部隊の撤退をすることには成功した。だが、長期戦に備えるためにとカフカース油田地帯を確保し、ソ連の継戦能力を奪い、さらにトルコをカフカース方面の国境でも包囲して参戦させることを狙った、ブラウ作戦の本来の目的を達成することはできなかった。こうしてドイツの継戦能力が逆に削られて、ドイツ軍の石油事情は改善される事は無く、ヒトラーの石油確保の目論みは完全に失敗した。
[編集] B軍集団の戦闘
B軍集団は、A軍集団支援の為引き抜かれていた第4装甲軍をB軍集団に戻しやっと攻勢を順調にしたが、これにより作戦は予定よりも三週間遅れていた。先に進んでいた第6軍は8月14日ドン川屈曲部のソ連軍を排除した。8月21日、クレツスカヤ付近でB軍集団はドン川を渡りスターリングラード攻防戦が始まった。8月25日、スターリングラードの包囲が完成し、9月3日スターリングラードの南で第4装甲軍の一部がヴォルガ川東岸に到達。9月4日、ドイツ空軍機約1,000機が2週間に及ぶスターリングラードの爆撃を開始し、市内は瓦礫と化した。この時、ウクライナ各地からの難民の集まっていたスターリングラードの市民にもやっと避難令が出ていたが、もはや市民にそのような力は残っていなかった。9月13日市内に侵入したドイツ軍は一ヶ月以上も市内で戦闘を続け、10月中旬頃にはヴォルガ河岸までの約150mの地域までおし続けたが、ソビエト軍守備隊は1日に2,500人もの犠牲をはらいながらも死守していた。ドイツ側の消耗も激しく、第305歩兵師団のある連隊は戦闘可能な兵が1,200人から60人に減っていた。ドイツ軍兵士には砲弾恐怖症になるものもでた。さらに冬が近づいたが兵士たちに冬の装備は無く状況は悪化、第六軍指揮官フリードリヒ・パウルス大将は10月6日戦闘を停止させた。そして10月22日にはついに雪が降り始めた。
ヒトラーはスターリングラードをもう既に制圧したつもりであったため、11月8日に演説で「もはや船1隻たりともヴォルガ川をのぼることはできない」と豪語した。しかし、この演説から10日後ソ連軍（約100万人）がついに包囲行動を開始、側面を守備していたルーマニア軍・ハンガリー軍の脆弱な部分を蹂躙し22日包囲網は完成した。ドイツ空軍は包囲するソ連軍を爆撃したが、ルーマニア軍・ハンガリー軍の装備は旧式の大砲や馬を中心とする歩兵師団であり、また第4装甲軍の戦車も稼動していたのはかき集めても約100両で、T-34戦車を1,200両余りも投入したソ連軍に対して反撃する能力は残っていなかった。
[編集] 冬の嵐作戦
ヒトラーは第六軍のスターリングラード死守を命じたが、ルーマニア軍の最高指揮官イオン・アントネスク元帥は脱出を主張。長い協議の末に脱出を決定、マンシュタイン元帥に指揮を委ねた。マンシュタイン元帥は12月11日、第6軍の救援作戦「冬の嵐作戦」を開始し、最後の予備兵力であったホート将軍の装甲軍団を送り南西部から進んでいった。南西部へのソ連軍の配備は手薄く進撃は順調で、スターリングラードに取り残された第6軍兵士は、最後の望みである救出部隊の戦闘音が近くなるのを喜んだ。先頭の部隊は照明弾を第6軍に向けて撃ち、第6軍の脱出は可能になるかと思われた。しかしヒトラーから死守命令を受けていた第六軍パウルス将軍は脱出を拒否。さらにソ連第2親衛軍がドン河畔で攻勢に出てからは激戦となり進撃は停止。救出部隊は戦力不足のため、損害も日に日に多くなった。クリスマス以後、ソ連軍はスターリングラードの包囲網を狭めていき状況はさらに悪化。このままホート装甲軍団を失っては予備兵力はなくなり、東部戦線全体の崩壊を危惧したマンシュタイン元帥は12月26日、ドン川南から全面的に退却を始め、これ以後SS将校やヒトラーに脱出を認められた将官達は輸送機でスターリングラードを去った。
[編集] スターリングラードでの悲劇
スターリングラードに取り残されたドイツ第六軍と第4装甲軍の一部と同盟国軍のルーマニア軍・ハンガリー軍（約33万人）はドイツ空軍の輸送機で辛うじて命をつないでいた。既に一兵士への1日の食料はパン50gとなった。運のいい負傷兵（約4万人）は輸送機で病院へ運ばれたが、ほとんどの兵士はチフス、栄養失調、凍傷等で命を落としていた。市内には1万人以上の市民が残っていため、ドイツ兵達は彼らから接収するより仕方なかった。兵士も市民も飢えに苦しみ軍馬や犬を、最後には人肉を食うしかなくなる人もいた。1月に入るとソ連軍は包囲網をさらに狭めてヒトムニク飛行場が攻撃され、70機以上が地上破壊された。
1月8日にソ連軍は第6軍に名誉ある降伏を求めたが、パウルス上級大将はヒトラーの命で拒否。翌々日にはソ連7個軍の攻勢が始まり、陣地は次々に突破されていった。1月14日、ヒトラーの下にビンリッヒ・ベーア大尉が送られて戦況を報告し降伏交渉の許可を求めるが、ヒトラーは断固としてそれを認めなかった。1月30日、ヒトラー政権誕生10周年の党大会でヘルマン・ゲーリングは「少し残酷に聞こえるかもしれないが、ノルウェー・アフリカ・スターリングラードでの兵士の死は大きな問題ではない。最終的には我が軍の勝利する地となるからだ。」と演説。ヨーゼフ・ゲッベルスも「この困難を乗り越えてこそ真の勝利者となれるのだ。」と述べ、スターリングラードでの敗退を決め付け、第6軍の兵士たちを見捨てた。そしてこの日、ヒトラーはパウルスを元帥に昇進させる。ドイツ軍の歴史に降伏を選択した元帥はおらず、すなわち昇進は玉砕を意味する。しかし翌日、南部のパウルス元帥及び彼が率いるドイツ軍は降伏した。2月2日には北部のドイツ軍も降伏した。小規模な戦闘は3月まで続いた。
生き残りの10万人のドイツ兵は捕虜となったが、収容所までの移動により2万人が死亡（歩けない者は射殺だった）。このときソ連は各地で鉄道が爆撃されていて食料補給さえまともにできなかったが、軍は支給される食料の半分を捕虜にまわしていた。それでも飢えとチフスにより捕虜5万人が死亡。シベリア・カザフスタンに移送される際に1万3,000人（貨車に乗せられて、食事は三日に一度だった）。さらに移送先では石炭・ウラン採掘をさせられて最終的には5,700人しか生き残れなかった。
[編集] ブラウ作戦の結果と敗因・その後への影響
ブラウ作戦は立案時よりヒトラーが深く関与していた。総統は作戦会議中、提示した作戦を反対する将軍たちに激怒し、地図のカフカースとスターリングラードに拳をつきつけて「この作戦を支持するか?」と聞いた（フランツ・ハルダーの証言）。彼の直感と自論の戦争経済をもとに、ソ連を甘く見て自国軍を過大評価した、最初から失敗が決まっていた作戦だった。実際、6月頃に諜報機関からの情報でウラル山脈周辺の工場から大量の戦車が貨物列車で送られていると知らされたがヒトラーは黙殺した。
さらにヒトラーは乱命を繰り返した。A軍集団が苦戦している時に、B軍集団から装甲師団を引き抜いたためスターリングラードへ到達したのは第6軍のみが先に着いて待機し、第4装甲軍は予定より三週間も遅れて着いてやっと突入した。この間にスターリングラードには多くの陣地が作られ、撤退してきたソ連部隊を集結した。A軍集団の指揮権を剥奪し自ら指揮したことも、部隊を混乱させている。酷いのはやはりスターリングラード死守命令であり、それをパウルスは遵守し第6軍の脱出も降伏も不可能にした。その結果は約30万のドイツ・ルーマニア・ハンガリー兵と約50万のソ連兵、そして一般市民を合わせて100万人以上の犠牲を出していた。これはドイツ軍にとって多くの精鋭師団を失い東部戦線の主導権はソ連軍に渡っていく事態を招いた。さらにブルガリア、ルーマニアなどの同盟諸国からの信頼も失うという事を意味していた。こののち、マンシュタイン元帥の指揮によって第三次ハリコフ攻防戦に勝利し、一時的には東部戦線を維持する事はできた。
この作戦はドイツ軍にとっては人的被害が極めて大きく、いままで兵役を免除されていた熟練工や工場労働者も動員されるようになっていった。つまり国内の軍需生産率が悪くなっていった原因でもある。
ドイツ軍が一時進出したカフカース地域、特にチェチェンは、元来から複雑な民族構成をしていた為、ソ連からの独立運動も絶えない地域だった。そのためスターリンはカフカース奪回後に、カフカース地域に住んでいたチェチェン人などの民族を、ドイツ軍に協力しナチスによって反共主義的にされたと決め付け、中央アジアへ強制移住させた。スターリンの死後、強制移住させられた人達は帰郷を許されたが、帰郷後の地域には別の民族が移住しており、後のチェチェン紛争への糸口ともなった。
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