乗車整理券
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乗車整理券(じょうしゃせいりけん)とは、特定の列車等に乗車し、着席するために車内ないしは車外で発行される切符の一つ。またワンマンバス等で行わている整理券による運賃授受方式で、乗車時に車内で発行される乗車票(じょうしゃひょう)のことも指す。
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[編集] 着席整理用
[編集] 創始
1949年(昭和24年)5月1日に旧国鉄の急行列車・準急行列車や長距離を走る普通列車において、年末・年始やいわゆる月遅れのお盆などの混雑時季に、その列車の始発駅において乗客の着席確保の便を図り、結果的に乗客整理の一環ともなるこの形態の券が発行され始めた。なおこのときは発駅着席券(はつえきちゃくせきけん)と呼ばれ、1965年(昭和40年)10月1日に正式な「旅客営業規則」(通称「旅規」、旅客輸送に関する国・会社などが定めた公式な規則・約款)に組み込まれた後、1972年(昭和47年)7月15日に乗車整理券と名前が改称された。券面に「発車5分前までに乗車されなければ無効」などと記載されていたことが示すように、始発駅における「着席整理」のための券であり、混雑時の改札整理も兼ねていた。
しかし、この券を発行する時季については中間駅での乗車確保が難しくなることや、東海道新幹線開業前後より全席指定席の特別急行列車の本数がふえてきたこと、さらに国鉄が全ての列車の座席指定席券を発券するシステムであるマルスシステムを拡充したことにより、指定席の確保がしやすくなったことから発行枚数・回数が徐々に減って行き、1976年(昭和51年)11月6日に旅規から当券は削除され、その後もしばらくは発行を続けていたが、次第に消えていった。
なお、発券については、一般的な切符の体裁を採っていたが、東北本線・奥羽本線・上越線・信越本線など多くの方向に運行している上野駅や品川駅[1]で運行された際には色で縁取りをしたワッペンなどを配布する形もとっていた。
- ^ 当時は長距離列車の運行本数が多かったため、繁忙期は上野駅だけでは容量が不足し、品川駅からも運行されていた。
[編集] 現行
1984年(昭和59年)6月1日、上野駅~大宮駅間でホームライナーの運転が開始され、その際に「乗車整理券」が復活し、徐々に日本全国へ拡大していった。ホームライナーの場合、定員制を保障するために発行しているが、乗車整理券の金額は会社・列車毎に任意に決めている。いわゆるホームライナー以外で初めて定員制をうたって、東海旅客鉄道(JR東海)の中央本線で1999年(平成11年)12月4日から運行が開始されたセントラルライナーでも、この名称で発行している。
しかし、湘南ライナーなど東日本旅客鉄道(JR東日本)の東京近郊区間を走るホームライナーは、この券の発行が全車指定席列車並みとなり、自由席特急券と同額となったことから、ライナー券と名称を変更している。
なお、京急ウィング号については正式な名称は着席整理券(ちゃくせきせいりけん)であるが、同様の運行形態及び発券システムを有していることからこちらに含まれる。
[編集] 発券方式
上に掲げたとおり、当初は始発駅での整理を目的とし、中間停車駅での乗車を前提としていない。
そのため、JR東海で発行した乗車整理券では号車と列が指定されており、1列4席(A~D席)のうちのどこに座ってもよい方式を採用していた。
券面には「X月Y日列車名 n号車o番」という形式で表示されている。つまりA駅ではn号車のo番からp番までが割り振られ、以下B駅ではn号車のq番からr番という形で座席が各駅に割り振られていることになる。発行枚数を限定するだけではなく号車・列を指定する意図は、前列から順番に乗客を詰めて座らせることにより、車掌が検札業務を行い易くする意図や、着席に関する乗客間の無用のトラブルを防ぐ意図、そして乗車整理券を持った客を優先的に着席させるためという意図があったと思われる。
各駅毎に確保座席数が完全に固定されているため、A駅で完売してしまうとA駅ではもう乗車整理券の購入はできない。極端な例を挙げれば、A駅で80名の乗車希望客がいたとしてA駅で割り振られた40席が完売してしまったとする。次のB駅分の座席40席が空席だったとしてもA駅の乗客にはそれが把握できない。その結果、A駅での乗車希望客がいたにも関わらず、B駅では空席を残して列車が発車するという事態も起こり得た。
列車設定以来の座席指定システムに後述するような欠点が指摘されていたが、2006年3月18日のダイヤ改正を機に、これらの欠点を改善するため、発券システムの変更がなされている。これは、昼間時に運行されるセントラルライナーで問題となった事例を参照しているものであるが、これは当初の設定時の「発駅着席券」が想定していなかった、「途中駅での発券」を「号車指定」という形で運用していたことから起きた事態でもある。
従来、整理券は基本的にホーム上に設置された専用の券売機でしか購入できなかった。あらかじめ列車毎に各駅で発行枚数が割り振られており、券売機上部に直近の列車の残り枚数が表示されていた。券売機が設置されていない釜戸駅、武並駅、美乃坂本駅の各駅では、駅窓口で販売を行っていた。変更後は原則としてコンコースに設置された乗車券と共用の自動券売機で購入するようになった。なお、名古屋駅はプラットホームにも専用券売機を設置している。
座席情報は、マルスに収容され、従来号車と列のみの指定であったものが、席番まで指定されるようになった。リアルタイムで座席の管理ができるようになったことにより、4人までは整理券を同時購入すれば隣接する席が割り振られるようになった。また、その日の分であれば直近列車以外の整理券も購入可能である。それ故従来「当日、次にやってくる列車のものしか購入できない」ことになっていた積み残しや無駄な空席といった不合理は改善されている。
[編集] ライナー券
JR東日本の東京近郊区間内では名称をライナー券に変更している。
もともとは、ホームライナーに乗るために必要な切符としては乗車整理券が用いられていたが、ホームライナーが単なる特急車両の回送列車から、ごく短距離を走行する「通勤特急」としての色合いを強めてきたことから、東京近郊区間内を走る特急の料金で最低区間である50kmまでのものと同額に設定し、同時に名称を変更した。
発行手続きも乗車日前日の午前10時から乗車駅で発売する当日券を購入するのが通例だが、下り列車については1ヶ月前より首都圏のみどりの窓口で発売する。しかし、変更・払い戻しが出来ない形をとっている。
なお、この扱いを行っているのは、東京近郊区間内を走るホームライナーと湘南ライナー・中央ライナー・青梅ライナーだけである。
但し、中央ライナー・青梅ライナーとりわけ東京駅発車列車については、同駅の中央本線ホームがいわゆる島式ホーム1面2線のみであり、且つ2線とも短時間で交互に折り返し運転を行っており、その特殊性から従来の号車定員制では乗車の際に乗車位置を指定できないこと(正確に言えば乗車位置を特定することが出来るが、乗車に際して車外での検札を行うと乗車が出来ないおそれがある位の頻度で他の中央線快速電車が運行されるため)から、座席の指定を行っている。
[編集] ライナーセット券
上りの「湘南ライナー」・「おはようライナー新宿」と横須賀線逗子駅→東京駅を結ぶ「おはようライナー逗子」については、1ヶ月単位で定期券と組み合わせるライナーセット券を発行している。
乗車月の前月1日の14時から乗車月の前月2日前の21時までが発売期間となっている。例えば、6月分のセット券は5月1日の14時から5月30日の21時までが発売期間になる。発売額は同期間の月~金までの祝日を除く日数×500円。月にもよるがおよそ1万円程度となる。
毎日券売機で購入する手間が省けるため、当日で売り切れることが多々あった。それゆえ、ライナーセット券は「プラチナチケット」と称されることもある。そのためセット券購入のために徹夜組が並んだことがある。その名残として、現在でもセット券発売日の8時から整理券を配布している。
最近は徹夜までして並ぶ人は少なくなり、整理券を入手した人はもちろん、整理券を持ってなくても購入できるようになってきた。しかし最近の景気回復にともない、ライナーセット券を購入する人は再び増えてきている。
[編集] 乗車票・乗車駅証明書
ワンマン運転を行うバスや路面電車で、運転士が運賃授受を行う際に乗車する区間によって異なる運賃を徴する場合、乗車した地点を確認する為に乗車時に車内ないしは車外で発行する、乗車確認をするための証明書の一種。その性格から、乗車後運賃授受を行う際に紛失した場合には、その運行区間の最高額を請求される場合がある。また事業者によっては、始発地の整理券番号が「0」であったり、「1」であったり、また発行しない場合もある。なお、始発地で発行しない場合、運賃表示機には「無券」または「なし」と表示されている。
路線によっては自動放送装置によるアナウンスで「終点」とアナウンスしていても、それはそのバスや列車の「運転系統の起終点」であって「真の起終点」となるバス停や駅はそこから更に奥に入ったところにある場合があり、この場合は扱いとしては「途中での折り返し」になることがある。この扱いになる場合は運賃表示機が「真の起終点」から該当するバス停・あるいは該当駅までの運賃を列記した状態となる場合が多く、始発駅や始発バス停が「無券」になる路線といえども整理券が発券されることになる。なお、整理券発行機に「始発(駅)では整理券を発券しません」と明記されている場合もある。(例:JR東海キハ11形気動車など)
乗車票は、定期券やバス共通カードなどプリペイドカードでは不要になる場合がある。前者はあらかじめ区間が定められており、また運賃授受をすませている事から、後者の場合は乗車確認証明をプリペイドカード等に記録させ、それを降車時に運賃授受の際に精算機で確認することが可能だからである。しかし、事業者によっては乗車時にカードリーダーを通す代わりに、バーコード付の乗車票を受取り、降車時にそれを運賃箱に投入して読み込ませて運賃を表示させて、プリペイドカードを通して精算する方式をとっていることがあり、その場合は乗車票を取る必要がある。また定期券利用でも乗車票を必要とする場合については、降車時に乗車票を運賃箱に投入して降車する。これは乗車人員をカウントするためである。
なお、無人駅または早朝・深夜で駅員が不在の場合に発行されるもので、降車駅でこれを提示し運賃の精算を行うために発行するものは「乗車票」・「整理券」とは呼ばず、乗車駅証明書(じょうしゃえきしょうめいしょ)と呼んでいる。ただし一般向けの案内では、車内の発行機で乗車駅証明書を発行する形態のものについてはより一般的な言葉である「整理券」という呼称を用いることが多い。一方、駅に発行機を設置している場合(備え付けてある場合も含む)は、「乗車駅証明書」という呼称が用いられるのが普通である。なお、近畿日本鉄道の無人駅に設置された発行機では「乗車票」の呼称が用いられている。
ちなみに「乗車証明書」というものもあるが、これはある特定の列車または特定の路線を利用した場合に鉄道事業者側が記念品として利用者に配布するもので、乗車駅証明書とは直接関係がない。もっとも、言葉としては乗車駅証明書と乗車証明書が混同されることもある。