坊っちゃん
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『坊っちゃん』(ぼっちゃん)は、夏目漱石の中編小説。1906年、「ホトトギス」に発表。のち『鶉籠』(春陽堂刊)に収録された。
作者の松山での教師体験をもとに、江戸っ子気質の教師が正義感に駆られて活躍するさまを描く。漱石の最初期の代表作の一つ。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
目次 |
[編集] あらすじ
無鉄砲な江戸っ子の坊っちゃんの少年時代と、何くれとなく坊っちゃんの世話を焼く下女の清の描写から、『坊っちゃん』の物語は始まる。
成長した坊っちゃんは物理学校を卒業して、四国の中学校に数学の教師として赴任する。赴任先の学校で、坊っちゃんは、校長には狸、教頭には赤シャツ、画学の教師は野だいこ、英語の教師はうらなり、数学の主任教師には山嵐と、さっそく綽名を付けてやる。
天麩羅蕎麦を四杯食べたことや温泉の湯船で泳いだことを冷やかされたり、宿直の日に蒲団の中にバッタ(正体はイナゴ)を入れられるなどして、坊っちゃんと生徒との悶着の種はつきない。
教頭の赤シャツは坊っちゃんを取り込もうとするが、遠回しに山嵐を中傷する赤シャツの陰湿さに、坊っちゃんは却って頑なになる。下宿の婆さんの噂話で、赤シャツがうらなりから婚約者のマドンナを横取りした一件を知らされて、うらなりに同情した坊っちゃんは憤慨する。
会津っぽの強情な山嵐とは、奢ってもらった一銭五厘を返す返さないの喧嘩をきっかけにして、逆に親しくなる。赤シャツの策謀で、うらなりは延岡へ転任させられるが、その送別会で、赤シャツやマドンナを揶揄する祝辞を放った山嵐に、坊っちゃんは快哉を送る。
日露講和条約の祝勝会の日に、中学校と師範学校の生徒の乱闘事件に坊っちゃんと山嵐は巻き込まれる。赤シャツに乱闘事件の責任を擦り付けられ、山嵐は免職される。
赤シャツの非道に憤激した坊っちゃんと山嵐は、芸者帰りの赤シャツと野だいこを捕まえ、拳骨で制裁を加える。
中学校に辞表を出した坊っちゃんは東京に帰り、街鉄の技手となって清を引き取る。清が死んだ後に小日向の養源寺に葬られた事を記して、『坊っちゃん』の物語は終わる。
[編集] 登場人物
- 坊っちゃん
- 本編の主人公。無鉄砲な江戸っ子気質の持ち主(といっても幕臣の家柄で、本人がわざとやっている面も)で、松山の中学校で数学教師になる。
- 清
- 坊っちゃんの家の下女。明治維新で零落した身分のある家の出。坊っちゃんを溺愛している。
- 山嵐
- 数学の主任教師。会津出身。正義感の強い性格で生徒に人望がある。坊っちゃんとの友情を得る。名字は堀田。
- 赤シャツ
- 教頭。文学士。陰湿な性格で、坊っちゃんから毛嫌いされる。おそらく長州出身のイメージ。
- 野だいこ
- 美学教師。赤シャツの腰巾着。名字は吉川。
- うらなり
- 英語教師。お人よしで消極的な性格。延岡に転属になる。名字は古賀。
- マドンナ
- うらなりの婚約者だった令嬢。赤シャツと交際している。坊っちゃん曰く、「水晶の珠を香水で暖ためて、掌へ握ってみたような心持ち」の美人。名字は遠山。
- 狸
- 坊っちゃんの学校の校長。事なかれ主義の優柔不断な人物。
[編集] 作品解説
作者が、高等師範学校(後の東京高等師範学校)英語嘱託となって赴任を命ぜられ、愛媛県尋常中学(現在の松山東高校)で1895年4月から教鞭をとり、1896年4月に熊本の第五高等学校へ赴任するまでの体験を下敷きに、後年書いた小説である。
主人公は東京の物理学校(現在の東京理科大学)を卒業したばかりの新米教師、喧嘩っ早くて、江戸っ子丸出し、無鉄砲な青年の物語である。人物描写が滑稽で、腕白中学生のいたずらに、乱闘さわぎなど、他の漱石作品とは違い比較的大衆的なために広く読まれている。
それゆえ、青少年への読書課題にもよく選出され、しばしば映画、テレビのドラマとしても取り上げられている。高度な文学性を備え、読み手の力量が問われる作品でもある。主人公は漱石自身かと考えられる事もあるが、漱石自身は中学校で唯一人の「学士」であった。
しかし、『坊っちゃん』は決して単純な勧善懲悪の物語では終わらず、坊っちゃんも山嵐も、最終的には赤シャツに勝利したわけではない。坊っちゃんたちが去った後も、松山の中学校で、赤シャツは権力者として采配を振るい続けると考えられる。むしろ、『坊っちゃん』は敗北と挫折の物語といえる。だがそれを漱石の独特なリズムに満ちた文体の魅力によって、読者に深い感銘に満ちた爽やかな読後感をもたらしている。
福武文庫発行の『児童文学名作全集1』のあとがきで、作家の井上ひさしは、『坊っちゃん』の映像化がことごとく失敗に終わっているとする個人的見解を述べ、その理由として、『坊っちゃん』が徹頭徹尾、文章の面白さにより築かれた物語であると主張している。
[編集] 「坊っちゃん」の表記
「坊っちゃん」のタイトルは「坊ちゃん」と誤って書かれることがある。初期の書籍を見ると、「つ」付きとなしとが混在している。作者である漱石自身も表記は一貫していなかったとされる。ただ、原稿(複製)を見ると、確かに「つ」付きとなっている。校正の段階で編集者が統一したという説がある。なお、漱石が高浜虚子に宛てた手紙の中では「坊チやン」と書かれている。
[編集] 関連作品
[編集] 映画
- 『坊っちゃん』(1966年 監督市村泰一 坊っちゃん:坂本九、マドンナ:加賀まりこ、山嵐:三波伸介、赤シャツ:牟田悌三、野だいこ:藤村有弘、うらなり:大村崑、狸:古賀政男、小使:三木のり平、その他:桜むつ子)
- 『坊っちゃん』(1977年 監督前田陽一 坊っちゃん:中村雅俊、マドンナ:松坂慶子、清:荒木道子、山嵐:地井武男、赤シャツ:米倉斉加年、野だいこ:湯原昌幸、うらなり:岡本信人、狸:大滝秀治、小夜:五十嵐めぐみ、〆香:宇都宮雅代、小使:今福将雄)
[編集] テレビドラマ
- 『坊っちゃん』(1957年 日本テレビ 坊っちゃん:宍戸錠、赤シャツ:十朱久雄、野だいこ:西川敬三郎、うらなり:春日俊二、その他:村瀬幸子、浜田寅彦)
- 『坊っちゃん』(1960年 NET(現テレビ朝日) 坊っちゃん:高島忠夫、マドンナ:安西郷子、山嵐:田島義文、赤シャツ:十朱久雄、野だいこ:谷晃、うらなり:瀬良明、狸:中村是好)
- 『坊っちゃん』(1965年 フジテレビ 坊っちゃん:市川染五郎、マドンナ:喜浦節子、山嵐:加藤武、赤シャツ:北村和夫、野だいこ:三木のり平、狸:三島雅夫)
- 『坊ちゃん』(1966年 NHK 坊っちゃん:津川雅彦、マドンナ:入江若葉、山嵐:ハナ肇、赤シャツ:佐藤慶、野だいこ:谷啓、うらなり:石橋エータロー、その他:益田喜頓、横山道代、浦辺粂子、なべおさみ)
- 『坊っちゃん』(1968年 MBS 坊っちゃん:石田太郎、マドンナ:三井美奈、山嵐:名古屋章、赤シャツ:仲谷昇、野だいこ:藤岡琢也、うらなり:西本裕行、狸:高木均)
- 『ザ・ドリフターズの坊っちゃん』(1970年 NET 坊っちゃん:加藤茶、マドンナ:松原智恵子、山嵐:荒井注、赤シャツ:いかりや長介、野だいこ:仲本工事、うらなり:高木ブー)
- 『坊っちゃん』(1972年 日本テレビ 坊っちゃん:竹脇無我、マドンナ:山本陽子、山嵐:田村高廣、赤シャツ:米倉斉加年、野だいこ:牟田悌三、うらなり:小松政夫、狸:松村達雄、その他:財津一郎、木田三千雄、佐々木すみ江、江戸家小猫、野島昭生、安原義人)
- 『新・坊っちゃん』(1975年 NHK 坊っちゃん:柴俊夫、マドンナ:結城しのぶ、山嵐:西田敏行、赤シャツ:河原崎長一郎、野だいこ:下條アトム、うらなり:園田裕久、狸:三國一朗)
- 『坊っちゃん -人生損ばかりのあなたに捧ぐ-』(1994年 NHK 坊っちゃん:本木雅弘、マドンナ:千堂あきほ、清:加藤治子、山嵐:所ジョージ、赤シャツ:江守徹、野だいこ:渡辺いっけい、うらなり:宮川一朗太、狸:フランキー堺、ぎん:由紀さおり、森田:中条静夫、モナリザ:高岡早紀)脚本:内館牧子
- 『坊っちゃん』(1996年 TBS 坊っちゃん:郷ひろみ、マドンナ:清水美砂、清・クロ(二役):樹木希林、山嵐:嶋大輔、赤シャツ:井上順、野だいこ:ケーシー高峰、うらなり:平田満、狸:名古屋章)
[編集] ミュージカル
- ミュージカル『坊っちゃん!』(2006年 劇団わらび座、脚本・演出ジェームス三木、音楽飯島優、振付室町あかね)
- アイ・ラブ・坊っちゃん(1992年初演、音楽座)
[編集] アニメ
- 『坊っちゃん』(1980年フジテレビ版) 監修:出崎統、キャラクター原画:モンキー・パンチ、声の出演 坊っちゃん:西城秀樹、山嵐:納谷悟朗、赤シャツ:八奈見乗児、野だいこ:田の中勇、うらなり:山田康雄、狸:永井一郎、清:瀬能礼子、ナレーター:久米明
- 当時フジテレビで放送されていた『日生ファミリースペシャル』の中の一作品として放送される。マドンナは登場するが、台詞が一切無い。
- 『坊っちゃん』(1986年日本テレビ版)キャラクターデザイン:本宮ひろ志、声の出演 坊ちゃん:安原義人、山嵐:飯塚昭三、赤シャツ:中村正、マドンナ:滝沢久美子、野だいこ:はせさん治、狸:神山卓三、うらなり:林一夫、清:京田尚子、語り手:木内みどり
- 日本テレビで放送された青春アニメ全集の中の1作品として放送された。
[編集] マンガ
- 『「坊っちゃん」の時代』(原作:関川夏央 作画:谷口ジロー) - 本作執筆中の漱石を中心に明治末期の文学者達を描いた作品。
- 『BOCCHAN 坊っちゃん』(作画:江川達也) - コミック・ガンボ連載、「坊っちゃんは、明治のサムライである」という観点の元、『坊っちゃん』を江川流の解釈でコミカライズした作品。
[編集] パロディ
- アニメ『ヤッターマン』の第103話「シッパイツァーだコロン」(1978年12月23日放送)では、ゾロメカが坊っちゃん仕立てとなっている。ヤッターマン側がカボッチャン(カボチャ+坊っちゃん)・イモアラシ(イモ+山嵐)、ドロンボー側がアカシャツノカブ(赤シャツ+カブ)・ノダイコン(野だいこ+ダイコン)・プリマドンナ。
- 柳広司が、坊っちゃんが再び松山に渡り、赤シャツの首吊り自殺の真相究明に乗り出す、という『贋作「坊っちゃん」殺人事件』と言う小説を発表している。
[編集] 「坊っちゃん」を付けた施設・商品等
作品では「四国」としか書かれていないが、松山が舞台となっており、松山のことを「不浄の地」など、かなり批判的に記しているが、松山では「坊っちゃん」や「マドンナ」を宣伝に多いに利用し、以下のように松山市とその周辺には「坊っちゃん」の冠のついた多くのものが存在する。
- 坊っちゃん湯 - 道後温泉本館のこと
- 坊っちゃん列車
- 坊っちゃんスタジアム(サブグラウンドは「マドンナスタジアム」)
- 坊っちゃんエクスプレス(松山-高松間の高速バス。なお岡山方面は「マドンナエクスプレス」)
- 坊っちゃん団子
- 坊っちゃん文学賞
- 坊っちゃん劇場(2006年4月東温市にオープン)
- ぼっちゃりん(松山けいりん公式マスコット)
その他、商品名、店舗名に「坊っちゃん」冠したものがある。なお、「坊ちゃん」と「っ」抜きで誤って表記されているものも散見される。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 『坊っちゃん』:新字新仮名(青空文庫)
- 坊っちゃん列車に乗ろう(伊予鉄道株式会社)