エーリヒ・フロム
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エーリヒ・フロム(Erich Fromm, 1900年3月23日-1980年3月18日)は、ユダヤ系ドイツ人の社会心理学、精神分析、哲学の研究者。マルクス主義とフロイトの精神分析を社会的性格論で結び付けた。新フロイト派、フロイト左派とされる。
[編集] 思想
彼の思想の特徴は、フロイト以降の精神分析の知見を社会情勢全般に適応したところにある。彼の代表作とも言える「自由からの逃走」ではファシズムの心理学的起源を明らかにし、デモクラシー社会が取るべき処方箋が明らかにされている。彼によれば、人は自分の有機体としての成長と自己実現が阻まれるとき、一種の危機に陥る。この危機は人に対する攻撃性やサディズムやマゾヒズム、および権威への従属と自己の自由を否定する権威主義に向かうことになる。自分自身の有機体としての生産性を実現する生活こそが、それらの危険な自由からの逃避を免れる手段だと説いた。彼は、スピノザと同じく「幸福は徳の証である」と考えていた。つまり生産的な生活と人間の幸福と成長を願う人道主義的倫理を信奉するとき、人は幸福になれるとした。 彼によれば神経症や権威主義やサディズム・マゾヒズムは人間性が開花されないときに起こるし、これを倫理的な破綻だとした。
[編集] 略歴
1900年、ドイツのフランクフルトに生まれる。大学では社会学、心理学、哲学を学び、1922年にハイデルベルク大学でアルフレッド・ウェーバー(マックス・ヴェーバーの弟にあたる)、カール・ヤスパース、ハインリヒ・リッケルトの指導の下に学位を取得する。1926年にはフリーダ・ライヒマンと結婚する。
1931年にフランクフルト大学の精神分析研究所で講師になる。
ナチスが台頭し始めた1934年、フランクフルト学派の主要メンバーと共にアメリカへ移住する。コロンビア大学でまず教鞭をとり、その後、ワシントンと大学を渡り歩く。1962年~1974年までニューヨーク大学の精神分析学の教授を務めた。 フランクフルト学派のメンバーとは、共同研究として『権威的な性格』を発表する。
1980年に自宅で亡くなる。
[編集] 主要な著作
- 1941年『自由からの逃走』ファシズムの勃興を心理学的に分析した名著。近代において発生した個人の自由がいかにして権威主義とナチズムを生み出したのかを丁寧に著述している。サディズムやマゾヒズムおよび権威主義を人間の自由からの「逃走のメカニズム」として分析し、現代において真のデモクラシーを保つための提言がなされている。
- 1947年『人間における自由』前著に続いて人間性を破壊する権威主義と人間性を守り育てようとする人道主義に関する考察が進められる。人間は人道主義的な倫理を信奉し、生産的に生きれないとき、権威主義的理想に助けを求めようとする。
- 1950年『精神分析と宗教』
- 1955年『正気の社会』
- 1956年『愛するということ』Die Kunst der Liebe
- 1962年『疑惑と行動』
- 1963年『革命的人間』
- 1968年『希望の革命』
- 1976年『生きるということ』Haben oder Sein