キリル文字
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キリル文字 | ||
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類型: | アルファベット | |
言語: | 多くのスラヴ系言語、および旧ソビエト連邦のほとんどすべての言語 | |
時期: | 初期のキリル文字は940年頃に存在した。 | |
親の文字体系: | フェニキア文字 ギリシア文字 グラゴール文字 キリル文字 |
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姉妹の文字体系: | ラテン文字 コプト文字 |
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ISO 15924 コード: | Cyrl | |
キリル文字は、主にスラヴ諸語を表記するのに用いられる表音文字の体系の一種である。伝統的には、東方正教会の宣教師キュリロスとメトディオスの兄弟がスラヴ人に布教するためにギリシャ文字を元に考案されたとされるが、彼らが実際に考案した文字はグラゴール文字であったらしい。しかし、グラゴール文字はすぐに廃れたため、キリル文字が広く用いられるようになり、キュリロスが作った文字であるという意味からキリル文字と呼ばれるようになった。
現在では、ウクライナ語、セルビア語、ベラルーシ語、ブルガリア語、マケドニア語、ロシア語等のスラヴ諸語と、ロシアの強い影響を受けたアルタイ語、エヴェンキ語、オセット語、カザフ語、カルムイク語、キルギス語、サハ語、ショル語、タジク語、タタール語、チュヴァシ語、チュクチ語、トゥバ語、ドンガン語、ニヴフ語、ハカス語、ブリヤート語、モンゴル語などの旧ソ連内外の諸民族の言語に用いられている。また、アゼルバイジャン語、ウズベク語、カラカルパク語、トルクメン語では旧ソ連時代にはキリル文字が使用されていたが、独立後ラテン文字が採用され徐々に切り替えられつつある。
日本ではロシア語の文字として知られており、ロシア文字と呼ぶこともあるが、起源や使用範囲から見て不適切だとする意見も強い。また、誤って「キール文字」とされることが稀にある。英語名の「シリル文字」もごく稀に使われる。
同じくギリシア文字を元に作られたラテン文字とは似た形の文字が多いが、形が似ていても対応関係にない場合も多いので注意を要する。例えば[v]の音価に相当する文字は、ラテン文字ではギリシア文字のΥ([u])から派生したVだが、キリル文字ではВ([b]、現代ギリシア語では[v])から派生したВである。
[編集] ロシア語に用いられるキリル文字
(※以下はあくまでロシア語に用いられるキリル文字であり、ロシア語以外の言語では文字の種類に若干違いがあるほか、同じ文字でも発音の違う場合がある)
大文字 | 小文字 | 文字の名前 | 音価 | 注意すべき発音 |
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А | а | a | /a/ | |
Б | б | be | /b/ | |
В | в | ve | /v/ | |
Г | г | ge | /g/ | |
Д | д | de | /d/ | |
Е | е | je | /je/ | 日本語の「イェ」に近い |
Ё | ё | jo | /jo/ | 日本語の「ヨ」に近い |
Ж | ж | zhe | /ʒ/ | フランス語の"je"のj([ʒ])。そり舌気味で舌が歯茎に触れないジ。 |
З | з | ze | /z/ | |
И | и | i | /i/ | |
Й | й | i-kratkoje | /j/ | 「短い"イ"」英語の"boy"のy(半母音)¹ |
К | к | ka | /k/ | |
Л | л | el, elj | /l/ | |
М | м | em | /m/ | |
Н | н | en | /n/ | |
О | о | o | /o/ | |
П | п | pe | /p/ | |
Р | р | er | /r/ | ふるえ音(巻き舌)のR |
С | с | es | /s/ | |
Т | т | te | /t/ | |
У | у | u | /u/ | |
Ф | ф | ef | /f/ | |
Х | х | xa | /x/ | 喉の奥から出す「ハ」 |
Ц | ц | tse | /ts/ | 「ツァ」「ツ」「ツォ」 |
Ч | ч | che | /tʃ/ | 「チャ」「チュ」「チョ」 |
Ш | ш | sha | /ʃ/ | 「シャ」「シュ」「ショ」(そり舌気味で発音される[ʃ]) |
Щ | щ | shcha | /ʃj/ | 日本語のシの子音[ɕ]に似るが、やや長め |
Ъ | ъ | tvjordyj znak | ─ | 硬音記号。口蓋化する。 |
Ы | ы | 1 | /1/ | 「ウイ」 |
Ь | ь | mjaxkij znak | ─ | 軟音記号。非口蓋化する。 |
Э | э | e | /e/ | 「エ」 |
Ю | ю | ju | /ju/ | 「ユ」 |
Я | я | ja | /ja/ | 「ヤ」 |
[編集] 注
(※以下はあくまでロシア語での注意事項であり、ロシア語以外の言語ではこの限りではない)
半母音のЙは、主に母音の後ろでのみあらわれ、日本語のヤ、ユ、ヨのように/j/ の音の後ろに母音が続く場合は、Е Ё Ю Яを用いる。
硬音の子音は微妙に「ウ」の音感、軟音の子音は微妙に「イ」([j])の音感を伴う。軟音記号はそれが伴う直前の子音が軟音であることを現す。ロシア語では硬音記号は現在では特に硬音であることを示す特別の場合(具体的には軟母音で始まる単語の前に硬子音で終わる接頭辞が付加される場合。例:под + ехать → подъехать)にしか用いられないが、日本語を音訳する際に鼻音(ん)と後続の母音を分けて発音することを明示する場合など、外国語の表記に用いることがある。
[編集] その他
シベリア抑留の際赤十字から日本人捕虜に送られた箱入りのフルーツケーキが英語で「CAKE」と印刷されていたためソ連軍の収容所看守が「ケーキ」でなく「サケ」と誤解し「酒類は禁止だ。没収する」と取り上げてしまったことがある。[要出典]
キリル文字 (一部の文字は環境によって表示されないことがある) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
А | Б | В | Г | Ґ | Д | Ѓ | Ђ | Е | Є | Ѐ | Ё | Ж | З | Ѕ | И | І | Ї | Й | Ѝ | Ј | К | Л | Љ | М | Н | Њ | О | Ө | П | Р | С | Т | |||||||||||||||||||||||||||||
а | б | в | г | ґ | д | ѓ | ђ | е | є | ѐ | ё | ж | з | ѕ | и | і | ї | й | ѝ | ј | к | л | љ | м | н | њ | о | ө | п | р | с | т | |||||||||||||||||||||||||||||
Ћ | Ќ | Ѹ | У | Ү | Ў | Ф | Х | Ѡ | Ц | Ч | Џ | Ш | Щ | Ъ | Ы | Ь | Ѣ | Э | Ю | Я | ІА | Ѥ | Ѧ | Ѫ | Ѩ | Ѭ | Ѯ | Ѱ | Ѳ | Ѵ | Ѷ | ||||||||||||||||||||||||||||||
ћ | ќ | ѹ | у | ү | ў | ф | х | ѡ | ц | ч | џ | ш | щ | ъ | ы | ь | ѣ | э | ю | я | іа | ѥ | ѧ | ѫ | ѩ | ѭ | ѯ | ѱ | ѳ | ѵ | ѷ |
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