コンドーム
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コンドーム(英Condom)は、ラテックスやポリウレタンの薄膜をサック状にした避妊具。一般には「ゴム」「スキン」「サック」と呼ばれることも多い。性行為の際に、膣に挿入する前に勃起した状態のペニスへこれをかぶせて射精すれば精液はコンドームの中に溜まるので破れない限り膣内には放出されない。
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[編集] 形状
コンドームの先端部は、精液を溜めるための小さな袋状突起を有するものが多く、射精しても膣内に精液が出ないようになっている。また、コンドームは粘膜の接触も遮断するため、避妊だけでなく、クラミジアなどの性感染症の予防にも一定の効果がある。公的にも推奨され大変よく使用される避妊方法である。
コンドームは装着することによって性的快感を損なわないよう非常に薄く作られており(約0.02~0.1mm前後)、表面にはゼリー状の潤滑剤が塗布されている。女性の膣快感を高めるために、表面に凹凸状の加工がされているものや、冷感・温感剤を塗布したもの、ゴム臭を抑えるための香り付けをしたものもある(ただし凹凸加工は、「実際に使ってみると性感に殆ど関係ない」という声もあがっている)。
また、ラテックスゴムに対するアレルギーや特有のゴム臭を避けるために、ポリウレタン製コンドームも開発された。(1998年4月の発売時、一部の製品に穴が開いていたことにより、回収される問題が発生。現在は販売再開)
ポリウレタン製コンドームはゴム製のものと比較すると、熱伝導に優れ相手の体温が感じられる利点があるが、材質的に「硬い」ため、装着時に尖った爪などを当てると簡単に裂けたり、装着時にしわが出来ると男女ともに違和感を覚えることがあるので注意が必要である。
コンドームの色は、半透明、水色、ピンク色、蛍光色、黒色などカラフルな色が多数揃っており、好みで選ぶことが出来る。また異なるサイズをラインナップしているメーカーもあり、小さいもの(直径34mm)から大きいもの(同44mm)まで、各人のサイズに合わせて選ぶことも出来る。
精子は射精時の精液だけでなく、前段階で分泌されるカウパー腺液中にも僅かに存在する場合があるため、コンドームによる避妊を確実にするには、ペニスが勃起してすぐ(女性器への挿入前)に装着する必要がある。
避妊を考慮せず、衝動的な性行為を行う男性もいるために、近年では、自己防衛の意味で女性側がコンドームを所持する事も珍しいことではない。
[編集] 女性用コンドーム
女性の膣内に装着する女性用コンドームの場合は、女性の外陰部と膣壁を覆い、精液の侵入を防ぐ。女性が主体的に利用できる避妊法として注目されたが、装着がやや難しいことや装着時の外観の問題、膣内で胴部がしわになって密着感がなく違和感を覚えること、男性器に装着するコンドームと比較して割高であることなどから、男性器に装着するコンドームと比べてあまり普及していない。
※現在日本では、不二ラテックスが女性用コンドームを輸入・販売している。大鵬薬品が「マイフェミィ」の商品名でも発売していたが、2004年4月30日限りで販売中止となった。
また人間用途以外に、去勢されて苦しむ犬を増やさないという意図に基づいた、雄犬用コンドームも存在し、2006年中に日本国内に市場流通する模様である。
[編集] 目的
- 避妊:
- 最も普及している避妊具であり、正しい使用法で用いれば妊娠する確率を大きく低減できる(PIは3%程度)。ただし使用法を誤ると意味がない。
- 性感染症の予防:
- 男性の尿道経由での性感染症や、精液・血液の膣内接触による性感染症の予防には有効である。ただし毛じらみなど、保護対象外部分の接触によるものには効果がない。
いずれの目的にしても、絶対確実なものではない点に注意が必要である。
[編集] 避妊
コンドームを正しく使用した場合、避妊に失敗する確率(パールインデックス/PI)は約3パーセントである。しかし、現実には誤った使用方法などによりこの値は上昇するため、実際には14パーセント程度といわれている(PI:3-14%程度)。従って、コンドームによる避妊では、正しい使い方を習得することが重要である。
[編集] 性感染症予防
性行為感染症の予防にも重要であり、欧米での性教育の重点はここに置かれている。特にエイズ(ヒト免疫不全ウイルス感染症、HIV感染症)について多くの疫学調査が実施されており、これらの結果から世界保健機構(WHO)は2000年に、コンドームの使用によってHIV感染リスクを85%減らすことが可能だとの試算を報告している。コンドーム使用によって完全に感染防止出来る訳ではないが、HIVには有効なワクチンが存在しないことや、抗HIV治療に掛かるコストとの兼ね合い、また他のウイルスに対するワクチンの場合の予防効果の実績などと比較しても、コンドームによるHIV感染予防の持つ効果は大きいものだという判断から、WHOはエイズ対策の一環としてコンドームの使用推進キャンペーンを行っている[1]。
性行為感染症については疫学調査の方法や対象集団の選択等に議論があるものの、体液を介して感染する淋病やクラミジアなどについては効果があると証明されている。ただし、陰部に生じた潰瘍などの病変部から感染する性器ヘルペスや梅毒、あるいは病変を伴わない粘膜から直接、皮膚に感染するヒトパピローマウイルスなどについては、完全に感染を予防できないが接触の機会を減らす事が出来るため、感染を防止する一定の効果がある。また、製造、管理が不十分な一部の新品のコンドームにHIVを通す小さな穴が無数に確認され、世界保健機構もコンドームだけで完全にHIV感染を予防出来るとは考えていない。その為、どのメーカーにも「コンドームでエイズや性感染症は完全に防げない」と明記するように呼びかけている。
性感染症の予防についてはコンドームの使用だけではなく、パートナーの選択や性感染症に対する知識など、安全な性行為に対する啓蒙が必要である。
[編集] 装着手順及び装着時の注意
- 勃起した陰茎の包皮を押し下げる。
- コンドーム先端の精液溜り(小袋)をつまんで空気を出し、その状態のまま亀頭部に手で固定する。
- コンドームを固定したまま、コンドーム周囲のロール状に巻いてある部分を押し下げ、陰茎に密着させながら包み込む。
- ロール状に巻いている部分が陰茎の根元まで伸びれば完了。
装着時の注意点は次のとおり。
- 陰茎が十分勃起していない状態ではうまく装着できないので、十分勃起した後装着する。
- コンドームを裏返しにすると装着できないので装着前によく確認する。
- コンドームに爪などを立てない。微小な穴でも精液が漏れる場合がある。
- 装着時に陰毛を挟み込まないよう注意する。挟み込んだまま使用すると、陰毛が引っ張られ痛みを伴う。
[編集] 使用後の注意
射精すると陰茎の勃起は急速に解け、陰茎は小さく柔らかくなるので、射精後の陰茎からはコンドームが脱落しやすくなる。射精後は、コンドームを被せた陰茎の根元を押さえコンドームが脱落しないようにして、膣から陰茎を引き抜くようにする。また、完全に勃起が解けてしまうまで陰茎を膣に挿入していると、膣から陰茎を引き抜いたときに精液が入ったコンドームを膣内に残してしまうことがあるので、射精後はあまり長く陰茎を膣内に挿入したままにしないようにする。精液を他に利用しないのであれば、使用後のコンドームは精液が流れ出さないよう入り口を強く結んでおくとよい。
[編集] 歴史
この物品の起源は、紀元前3000年頃の初期エジプト王朝にあると言われており、ブタやヤギの盲腸や膀胱を利用して作られていた。ただし当時は男性生殖器を虫刺され等から守るための下着の一種として日常的に装着したものであるため、今日のコンドームのような避妊を目的とした物ではないとされる。しかし、その一方で、性行為時に男性側の刺激を減らし、性交持続時間を延長させるためにも用いたとされており、今日でも男性が女性へのサービス的な意味合いから厚手のコンドームを装着した時と同じ効果があったと思われる。同種の動物内臓を用いた男性生殖器に装着する物品は、世界各地で利用され、魚の浮き袋を利用した物も伝えられている。
イタリアの解剖学者ファロピウスが1564年、性病予防の観点からリネン鞘と呼ばれる陰茎サックを開発したが、実用性は疑問視されていた。
なお、今日のコンドームの原型となったのはチャールズ二世殿医のドクター・コンドーム(人名)が1671年に牛の腸膜を利用して作った物であるとされている。 尚、読みについては"コンドン"と発音する場合もあるのを付記しておく。 これはチャールズ二世が無類の好色で、非嫡出子だけでも14名の子をもうけ、王位継承の混乱を避けるための措置だったといわれている。
ゴム製のものは1844年にゴム精製技術が改良されてから後の事だと言われているが、この辺りの事情ははっきりしていない。
日本では江戸時代に導入されており、その後明治42年(1909年)にゴム製の第1号が誕生した。ただし、当時はまだ正しい使用法が知られておらず、使用後裏返して再使用したというような珍談も多く伝わっている。当時の有名な国産コンドームとしては「ハート美人」「敷島サック」、そして軍用の「突撃一番」「鉄兜」などがある。
今日では性病予防の観点から、世界的にも使用が推奨されているが、2005年現在、日本の物が最も製造技術と薄さと並んで安全性にも優れているとされ、世界各国にも輸出されている。1989年12月に革命によって旧政権が崩壊したルーマニアでは、国民の避妊は旧政権下において禁止されていたため国内におけるコンドームを含む避妊具の製造・販売がされていなかったが、旧政権崩壊時に、首相官邸に立ち入った軍部に依れば、首相や高官用に大量の日本製コンドームがストックされていたという逸話もある。
[編集] 語源
コンドームの語源は、前述の医師コンドームの名から来ているとする説と、フランスの地名コンドームにあるとする説があり、ウィキペディアの英語版とフランス語版の双方においても意見が食い違っている。なお、ドイツ語版では、英語版と同じく医師の名前からとする説を挙げているが、異説として、イタリア語のcon doma、すなわち「家つきの」という意味の言葉から来ているという説も併記している。
[編集] 主なメーカー
[編集] 購入先
日本ではドラッグストア、薬局など医薬品関係の販路を中心に、自動販売機やコンビニエンスストア、スーパーマーケット、100円ショップ、アダルトグッズショップなどで販売されている。
購入することが恥ずかしいために、かつてはコンドームとは分かりにくいように、ギフト商品のように厳重に包装していたが、エイズ問題を契機としてコンドームが予防に効果的との宣伝がされるようになり、現在ではそのまま陳列され、気軽に購入出来るようになった(レジで会計後は女性生理用品などと同様に、不透明な紙袋などに別包装されることが多い)。しかし、一部では未だに購入には抵抗感があり、メーカーや販売業者による通信販売ウェブサイトも開設され、全く無関係の商品を装って配送するなどの配慮もされている。