自動販売機
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自動販売機(じどうはんばいき)とは、商品又は金券の授受と、その代金支払いおよび釣り銭の受け取りにおいて、対面販売でなく機械を相手とし、顧客自身が機械に対して決済し、直接商品を受け取るために使用される機械のことである。自販機(じはんき)とも略される。乗車券や食券などの券の販売機の場合は(自動)券売機とも言われる。
日本全国の自動販売機台数は、2002年末現在で552万台<うち214万台が清涼飲料販売用>(日本自動販売機工業会の調査)である。(とくに屋外の)設置数の多さや、販売商品の多様さで世界的に群を抜いており、海外の関係者からも注目を集めている。
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[編集] 歴史
最初の自動販売機といわれているのは、紀元前215年頃古代エジプトの神殿に置かれた聖水(いけにえの水)の自販装置である。てこの原理を応用し、投入された5ドラクマ硬貨の重みで内部の受け皿が傾き、その傾きが元に戻るまで弁が開いて蛇口から水が出る。これの記述図解はアレクサンドリアのヘロン(10年頃 - 70年頃)著『気体装置(Pneumatika)』にあるが、だれの発明かは不明である。
日本では、俵谷高七が1904年に発明した「自働郵便切手葉書売下機」が最初である。
多くの国でも自動販売機は見られるが、基礎となるメカトロニクス(電気・電子技術と機械技術の融合)技術や治安の関係からか、日本のような多機能販売機はほとんど無いうえ、また台数自体も少なく、あってもチューインガムやチョコレートなどの嗜好品や新聞など、単純な機構のものに限られる。それらも信頼性に乏しく、お金を入れても商品が出てこないなど日常茶飯事であり、日本人の商社員などは揶揄して「お賽銭箱」と呼んでいる。
[編集] 形態と品目
基本的には平成2年6月改訂の日本標準商品分類に沿って記載する。
これによると、物品・非物品(サービス情報)に大別される。物品の場合、食品系(食品・飲料)と非食品系に分かれる。
[編集] 物品等自動販売機
- 食品系
- 非飲食物系
- タバコ
- 新聞、雑誌(新聞は主に「ニュースくん」という愛称が付いている。また雑誌では有害図書を扱うものもある)
- 切手、はがき(但し、集配局の郵便局の一部のみ)
- 乾電池
- ビデオ(DVD)、CDソフト
- 販売だけでなく、貸し出し・返却機もある。
- 風船
- 透明ロッカー型(日用小物から下着、靴下、お菓子など常温保存可能な食品も含む)
- ガシャポン(ガチャ、ガチャガチャ) - カプセルに入ったキーホルダーサイズのフィギュア
- 先払いセルフ式ガソリンスタンド(先に現金を投入して品種(レギュラー・ハイオク・軽油)を選択し、投入金額分まで給油できる。残余分は釣銭として払いだされる)、温泉スタンド
- カード類 - テレフォンカード・ハイウェイカードなどのプリペイドカード類や乗車券などの切符類。トレーディングカード類(カードダス)。
- コンドーム
- 花(生花)(温度・湿度管理がされている)
- キーホルダー
- 下着
- 旅行保険(空港などで見られる。保険料を投入すると保険証書の用紙が払い出され、住所や氏名などを記入して、一番下の控え以外の部分を投入口に入れる)
- トイレットペーパー(駅のトイレなどに設置される。少ない投資で(自動販売機の購入のみで)、簡易的な有料トイレを作ることができる)
- おみくじ
- 自動券売機
- コスチューム
[編集] サービス情報自動販売機
- 就職情報自動販売機
- パソコンソフト自動販売機
- かつて「ソフトベンダーTAKERU」(旧名「武尊」)があった。
- 写真撮影・印刷自動販売機
- 証明写真自動撮影機
- プリクラ(プリント倶楽部)
- デジカメプリント
- その他のサービス情報自動販売機
- 携帯電話機への着メロなどのダウンロード
一般には、冷やしたり暖めたりした缶・ビン・ペットボトル・紙パッケージ・カップ入り飲料、カップめん・菓子パン・菓子類・タバコ・雑誌・新聞など保存の簡単なものが多い。また特殊なところでは、その都度豆から挽いて抽出するコーヒーや、冷凍食品(焼きおにぎり、焼きそばなど)を内蔵電子レンジなどで温めて提供するものもあり、非常に多様化している。
中国地方、四国地方の一部の地域(有名なところでは今治市の菊間地区)では、生うどんを使ったうどんの自動販売機も存在する。かつては全国に存在していた。
農業地域においては、トマト、鶏卵などの農産物の無人直売スタンドも存在する。かつては利用者の良心を信じて箱などの非機械的な方法で代金を受け取っていたが、代金の不払いのみならず盗難まで頻発するようになったため、自動販売機化されたものが増えている。
交通機関の乗車券や特急券、遊園地やテーマパークなどの入場券、各種プリペイドカードなど、券の形をした商品を販売するものは特に自動券売機ともいう。
ジュークボックス、アーケードゲーム機、公衆電話など、物ではなくサービスを提供する機械は自動販売機とは呼ばないが(日本自動販売機工業会では「自動サービス機」と呼んでいる[1]。総務省の日本標準商品分類では「その他の機器 > 自動販売機及び自動サービス機」として分類されている(日本標準商品分類提供システムを参照)。)、証明写真やプリクラのようにサービスとも商品とも取れるものもあり、線引きは曖昧である。
最近では、コンビニエンスストアなどに設置されている端末(マルチメディアステーション)から楽曲や画像データをMDやメモリーカードなどにダウンロードできるようになるなど、この傾向は更に強くなっている。
※日本標準商品分類による自動サービス機の分類(数字は商品コード)
- 5821 自動両替機
- 5822 玉・メダル貸機
- 5823 自動貸出機
- 5824 自動改札機
- 5825 自動入場機
- 5826 自動写真撮影機
- 証明写真、写真シール(プリント倶楽部など)
- 5827 コインロッカー
- 5828 コインランドリー
- 5829 その他の自動サービス機
なお、商品によっては自動販売機に制限が設けられている場合がある。日本において2004年現在で多いものは、タバコ、ビールなどアルコール飲料類、アダルトビデオやポルノ雑誌の自動販売機の販売時間や設置場所の制限である。タバコやアルコール飲料の販売機は、国税庁の認可や免許が必要なほか、行政指導で午後11時から翌朝5時まで停止されており、アダルトビデオやポルノ雑誌は市町村や都道府県レベルの自治体による条例などで、設置場所や販売時間に制限が課されていることが多い。
ちなみに、アルコール飲料の自動販売機の場合、深夜から翌朝の間の販売停止については罰則があるが、タバコの自動販売機の場合は自主規制であり、深夜から翌朝にかけて販売出来る状態にしていても罰則は無い。なお、販売停止されている場合は押しボタンがすべて「売切」の点灯状態になっている。
[編集] 決済方法
飲料やタバコなど価格が数百円以下の場合、硬貨と1,000円紙幣併用のものがほとんどである(なお一般的には1円硬貨と5円硬貨は使用不可能)。交通機関の乗車券・定期券・予約券・プリペイドカード(例・ハイウェイカード)、外食産業における食券、公営競技場の投票券など、1,000円前後およびそれ以上となる高額なものになると、硬貨や1,000円紙幣に加え2,000円、5,000円および10,000円紙幣も利用可能となっていることが多い。また、先払いセルフ式ガソリンスタンドでは、クレジットカードやキャッシュカードで決済出来るものもある。
2000年代に入り、紙幣・硬貨・クレジットカード・キャッシュカードなどの偽造が増えたため、識別器の能力の強化が図られている。しかし、偽造する側も新たな方法を編み出すため、犯罪の防止につながる成果があがっていない。
2006年頃からコカコーラが提供するC-modeが急速に設置されその利便性が受け入られ利用者が急増している。将来的にはコカコーラの全ての自販機をC-mode対応機に置き換える計画がある。
なお、現金やクレジットカード以外の支払方法として、携帯電話やFelicaを利用した決済方法、C-modeやEdy又は「Suica」など電子マネーのチャージ(入金)残高分、iDやPiTaPaなどのポストペイで支払う販売機も登場した。特に、酒や煙草の販売機では年齢認証付きの電子マネー専用とすることが未成年への販売を防止できるという、又、機械を破壊しての現金盗難を防げることから今後は増えるものと見られる。
[編集] 問題点
- 飲料の自動販売機は消費電力が大きく(ひとつの家庭に匹敵するほどの電力を消費する)省エネルギーの観点からは問題がある。また、光害の問題も指摘されている。
- 私有地から公共地である道路にはみ出して設置してある場合があり、通行の障害となることがある。これに対してはメーカー側も薄型の販売機を開発し導入している。
- 飲料の自動販売機では周囲に空缶などが散乱してしまう問題がある。空缶回収ボックスの設置と回収管理が大変重要となる。
[編集] 構造
ものによって種類は多々あり、一概にこれだけが自動販売機とは呼べない。
コイン投入部は一般的な自動販売機は横型、鉄道などの券売機では縦型となっている。また、車椅子に乗っている人などのために投入口を広く取って入れやすい形になっているものや、同時に複数の硬貨を投入できるものもある。
紙幣を投入するための投入口も存在し、そこから紙幣を投入するが、折れ曲がっていたり、しわになっていると反応せずに戻ってくることがあり、しわを伸ばしている人の姿もみられる。
農作物の無人販売スタンドなどでは、扉を透明な樹脂にしたコインロッカー様のキャビネットを設置し中に収穫した作物を入れ、「利用料金を支払って施錠する」コインロッカーから発想した、「代金を支払うことで商品を取り出せる」料金徴収方法を採っている。但しその場合、支払い以前に商品を手にとって鮮度を確認することは出来ない。
[編集] 缶飲料(ペットボトル含む)自動販売機
本体部、商品棚の後ろ側には商品のストックが入っている。コインを入れてスイッチを押せば内部の電磁コイル等が通電し、商品を出す。また、下にベルトをつけ一度落下させた商品を上に持ってくることで取り出しやすくした自動販売機も存在する。しかしこのベルト式は一度下に落ちた物体をまた上に運ぶという重力に逆らった方法から、開発当初から故障が後を絶たない。
又、以前は販売する商品にあわせ機械側の調整が必要なものだったが、昨今その調整を自動で行う無調整機構というものも開発されている。この方式であれば仮に間違って商品を投入しても詰まることなく商品が払い出され故障の低減に一役かっている。また、近年小型ペットボトル容器が登場し、ペットボトル自体の素材から投入の際に詰まり易いという弊害もでてきている。しかしながら蓋をして持ち運べるという観点からその需要は今も急速に伸び続けている。
さらに、空缶回収ボックスの管理が悪いと周囲に空缶が散乱し、悪臭を放つこともあるので注意が必要である。
通常、屋外にある販売機では取り出し口は手前引きとなる。これは雨水などの浸入を防ぐ衛生上の配慮である。
[編集] 自動販売機と犯罪
自動販売機が普及すると、これを標的にした窃盗も現れた。自動販売機窃盗は、加害者から被害者の顔が見えないため、心理的な障壁が低い。窃盗は、機械に誤認識させる知能的な窃盗と、機械を破壊する暴力的な窃盗に分かれる。
1990年代前半には護身用のスタンガンの高周波を悪用し、自動販売機内部の硬貨選別装置を誤動作させ硬貨を盗み出すという手口まで現れた(現在は対策が施されており、不可能)。
その他、コイン投入口から洗剤を入れたり等の巧妙な手口があとを絶たない。
機械の破壊に対して、設置側がとれる決定的な対策はない。そのため、自動販売機は通常、人の目が届く場所に設置される。例外的に日本では屋外での設置が広く普及しており、日本の景観上の特色にもなっている。これは日本の治安が良いためだが、それでも破壊的な自動販売機荒らしは多く、日本の窃盗件数のかなりの部分を占めている。
また、韓国の500ウォン硬貨を変造し、500円硬貨として不正利用する事件が相次ぎ、500円硬貨は改鋳を余儀なくされた。価値がおよそ10分の1しかない500ウォン硬貨(発行開始日:1982年6月11日)は、500円硬貨(発行開始日:1982年4月1日)よりもわずか2ヶ月後に制定されたものであるが、重さが0.5g違うだけであり、素材金属の混合比や、外径が同じであった。そのため、穴をあけたり、表面を削り落とすと自動販売機が500円と誤認識した。
なお、現在では、携帯電話やPHS、無線LANを利用して在庫情報の管理や、機械の破壊に対しての緊急通報を行う機能を持つものも存在する。
従って、自動販売機そのものが治安の良さという、日本の特殊事情のもとにおいてのみ発展可能な消費文化と言えよう。