スタジアム
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スタジアム (英:stadium) は主に屋外でのスポーツやコンサートなどの催し物を行うための大規模な建築物である。競技場をさす場合が多い。競技を行うフィールドやステージと、それを取り囲む観客席で構成されている。観客席は全周を囲むこともあれば、一部のみを囲むだけの場合もある。
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[編集] スタジアムの歴史
スタジアムという言葉は、古代ギリシアの「球技場」を意味したギリシャ語「スタディオン (στάδιον)」に由来する。日本語に直訳すれば「(人々が)立つ(所)」である。
現在知られているうちで最も古いスタジアムはギリシャ、ペロポネソス半島西部の、オリンピアのものである。ここでは紀元前776年以降古代オリンピックが開催された。最初はスタジアムの端から端まで走る短距離走だけが競技として行われていた。そのため、競争で走る距離として、オリンピアのスタジアムの長さ(約190m)が大なり小なり標準的なものと考えられた。この長さはローマにも引き継がれ、180m-200mというトラックの長さが標準とされた。長さの単位であるスタディオンはこれに由来し、メートル法では177.6mである。
なかなか興味深いことに、走る距離が約200mを超えると、それ以下の距離よりも最高速度を落とさないと人間の身体は耐えられないことが知られており、近現代の陸上競技の成績もそうなっている。ギリシャやローマの古代都市の多くにスタジアムが見つかっているが、その中でもローマのコロッセオやギリシャのドミティアヌス帝の時代につくられたスタジアムが特に良く知られている。
[編集] 近現代のスタジアム
[編集] 種類
スタジアムには、屋根をもつドーム型スタジアムがある。これらは屋根を持ってはいるものの、通常ならば屋外で行う競技ができる程の広さを持っており、それらの競技向けに設計されているため、「スタジアム」を名乗っている。一方、(フィギュアスケートのような)屋内競技用のものは「アリーナ」と呼ばれる。屋根は一部分を覆うだけのタイプもある。多くはないが、フィールドが可動式になっているものもある。
観客席全席が椅子になっているものもあれば、立ち見を前提としたものもある。
特に1923年のヤンキースタジアム以来、野球場を「スタジアム」と呼ぶ例が増えた。ヤンキースタジアムには最初、陸上競技用のトラックがあり、「真の」スタジアムであったし、フットボールにも用いられた。何十年か経つうちに、主に野球場として用いられる場合でも屋外競技場ならなんでもかんでも「スタジアム」と呼ばれるようになった。
[編集] 設計上の問題
競技によって必要となるフィールドの大きさや形が異なる。一つの競技向けのスタジアムもあれば、複数の競技に対応できるものもある。各種フットボール専用のスタジアムは極めて一般的にみられる。多目的スタジアムで最も一般的なものはフットボール競技場と競争用のトラックを組み合わせたタイプで、若干の問題点はあるがおおむね良好に用いられる。最も大きな問題はフットボールの際に観客席が遠くなること(特にフィールドの両端で)である。小さなスタジアムでは両端部に観客席をおかないこともある。全周に観客席をもつスタジアムの平面形は楕円に、一端が開放されているタイプでは馬蹄形になる。特にアメリカ合衆国の学生フットボール会場ではこれら三種類はいずれも一般的である。
観戦するための屋外競技としては、アメリカ合衆国ではアメリカンフットボール(以下アメフト)と野球の人気が高い。そのため、特に1960年代に多くのアメフト・野球兼用のスタジアムが建設された。その中にはうまくいったものもあるが、両競技が要求するものにははっきりした違いがあるため、専用スタジアムを建設する動きが1972-1973年にカンサスシティーから始まり、1990年代までその動きは加速していった。例は多くないが、野球場に隣接してアメフト用スタジアムを建設した場合もある。
多くの場合、古い野球場は既にある土地や都市の一角の平面形に合う形で建設されたので、フィールドの形が非対称になっていた。例えばヤンキースタジアムはニューヨーク、ブロンクスの一角にあった三角形の土地に建設されたので、左翼側は広いが右翼側は狭いという特徴をもつことになった。
農作物を段をなして植えた状態をさす「テラス」が、特にイングランドのスタジアムでは観客席をさす言葉として用いられることがある。イングランドではかつて殆どのスタジアムに見られ、アメリカの野球場でも時折みられる。これはtier という単語の代わりに用いられるものである。本来は立見席を意味していたが、現在では椅子が備えられているのが通例である。
正確に同じではないが関連した用法として、「テラス」が外野側の傾斜面を指すことがある。これは実用上ないし装飾上の目的を持っており、観戦に使うこともできる。オハイオ、シンシナティのCrosley Fieldのものが有名である。
スタジアムの設計が悪いと、ヒルズボロの悲劇(イングランドのシェフィールド・ヒルズボロ・スタジアムで1989年4月15日に起きた大規模な観客圧死事故。詰め掛けた観客とフェンスの間に挟まれた96人が死んだ)や ヘイゼルの悲劇(ベルギーのブリュッセル・ヘイゼル・スタジアムで1985年5月29日に起きた事故。イングランドの流儀でどっと押し寄せたリヴァプール側ファンに驚いたユヴェントゥス側ファンが混乱状態に陥り、39人が死んだ)のような大事故に結びつくことがある。
[編集] コーポレート・ネーミング、命名権
クラブのオーナーにあやかってスタジアムに名付けることがあった。例えば Crosley Field や Wrigley Field、Bush Stadiumである。その名前がオーナーの経営する企業の名前と一致することもあった。しかし、企業名を名乗る新しい潮流が生まれてきた。
ここ何十年かの間に、アメリカ合衆国におけるスポーツスタジアムの所有者は、企業をスポンサーにしてスタジアムの名前を売ることがコスト削減に有利であると知った。1970年代に始まったこの動きは1990年代に大いに加速し、新旧問わずスタジアム名に企業名が冠としてつくことになった。うまくいったかどうかは別にして、場合によっては古くからの名前を廃止して企業名を名乗るスタジアムも出てきた。例えばサンディエゴの Qualcomm Stadium である。これは Jack Murphy Stadium として親しまれてきた。新しい野球場では、最初から企業名がついているものが多い。例えばミルウォーキーの Millar Park である。企業をスポンサーとして迎える動きは、既に全世界に広まった。若干の自治体立のスタジアムは、ご当地の著名な事物や人物の名がつけられている。例えば、ミネアポリスの Hubert H. Humphrey Metrodome である。
コーポレート・ネーミングの結果、スタジアムの名前が頻繁に変更されることとなった。これは契約期間の終了や名付けもとの企業の変更に伴うものである。アメリカ合衆国での例では、フェニックスの Chase Field は以前 Bank One Ballpark と呼ばれていたが、Bank One の買収に伴い名前が変わった。サンフランシスコの 3Com Park は、以前の Candlestick Park から一旦 3Com Park と名前が変わり、数年後には契約が切れ、その2年後に Monster Park という新しい名前がついた。逆に、ロサンゼルスの Great Western Forum は現在では廃業しているが、その名の元になった銀行が消滅した後も何年もの間同じ名前を名乗っていた。恐らく最も面白いのはヒューストンの Minute Maid Park であろう。もとは Enron Field という名であったが、あっというまにその名前は駄目になった。スポンサー企業エンロンのスキャンダルのためである。その後 Astros Field を一年名乗った後、新しいスポンサー企業がついた。このような名前の変更はアメリカ合衆国などでは盛んであるが、スタジアムの命名権売買をよしとしない国も多い。それらの国の人々は企業の資本参入よりもスポーツの方が高貴なものであると考えているからである。命名権参照。