ノルウェイの森
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『ノルウェイの森』(ノルウェイのもり)は、村上春樹の長編小説。1987年9月、講談社から書き下ろされ、後に講談社文庫にて上下巻で文庫化された。
学生運動の時代を背景として、主人公と、自殺した友人の恋人を軸に、さまざまな思春期の葛藤や人間模様、恋愛、喪失感などを巧みに描き、非常に広く読まれた。
アメリカなどの英語圏のほか、ロシアや中国などでも翻訳されている。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
目次 |
[編集] あらすじ
1987年、37歳になった主人公の「僕」は、ハンブルク空港に到着した飛行機の中で流れる『ノルウェイの森』を聴いて、18年前に死んだある女性のことを思い出す。
18年前の1969年、「僕」は神戸から上京して大学寮に住み始めた。高校のときに唯一無二の親友キズキが自殺をして以来、「僕」は自分の周りの世界との間に「しかるべき距離」をおこうとするようになっていた。物事を深刻に捉えすぎず、とにかく生き続けようとだけしていた。そんな生活の中で、「僕」はふとしたことから生前のキズキの恋人、直子と東京で再会する。やがて二人はよく一緒に出掛けるようになり、「僕」は直子に対して思いを抱くようになるのだが、それと同時に彼女と共にいることで「僕」は言いようのないもの哀しさに囚われてもいた。なぜなら直子が必要としていたのは「僕」という人間ではなくて、「誰か」でしかなかったからだった。
「僕」と直子はお互いに過去から逃れることを求めて上京してきていた。そんななかで二人は出会い、まるで失われたものを共有するかのようにお互いを必要とするようになる。そして直子の20歳の誕生日に直子のアパートで誕生日を祝う最中、突然泣き出した直子を鎮めようとして、「僕」は直子と寝ることになる。直子は事が終わるとすぐにまた泣き出してしまい、けっきょく朝までほとんど口も聞かないまま「僕」は直子のアパートを後にする。それ以降直子からの連絡は途絶え、次に「僕」がアパートに行ってみたときにはもうすでに直子はどこか別の場所へ引っ越してしまっていた。「僕」は直子の実家に手紙を書くが返事はなく、また退屈さしか得られないような生活へと戻って行く。
他にするべきこともない「僕」は大学の授業に毎日出席し、アルバイトをし、毎日をどうにかやり過ごしていたのだが、そのなかで同じ講義を取る一年生の緑と話をするようになる。一風変わった緑との関係は「僕」も生活を少し楽にしてくれる。彼女に家に招かれ、食事をご馳走になり、たまたま起きた隣家の火事を屋上で見物しながら不思議とリラックスしたあたたかい気分になり、「僕」は緑になんとなくキスをする。その後緑は自分には恋人がいると言い、そのキスはどこにもたどり着かないのだが、その後も二人はちょくちょく会うようになる。
[編集] 登場人物
- 僕
主人公。神戸の高校を卒業後、東京の私立大学に進学(学生運動に関する記述など、一部の設定については、村上春樹の母校である早稲田大学と重なる部分が見られる)。フルネームは「ワタナベトオル」。
- キズキ
直子の恋人で「僕」の高校時代の同級生。自宅のN360の中で自殺する。
- 直子
キズキの幼なじみで恋人。高校卒業後、東京の大学に進学(津田塾大学がモデルと見られる)。後に京都にある精神治療施設「阿美寮」に入院。
- 突撃隊
「僕」が入った寮の最初の同室人。国立大学(東京教育大学がモデルと推測されている)で地図学を専攻。国土地理院への就職を希望。
- 永沢さん
「僕」が入った寮にいる先輩。学籍は東京大学法学部。実家は病院を経営。外交官を志望。独自の人生哲学を持っている。
- ハツミさん
永沢さんの恋人。学籍は東京の女子大。
- 小林緑
「僕」と同じ大学で同じ授業(「演劇論 II」)を受講。実家は大塚で書店を経営。
- レイコさん
直子が入った精神治療施設の同室人。かつて音楽大学に通っていた。フルネームは石田玲子。
[編集] 作品解説
村上春樹の短編小説「螢」を拡大した作品である。ヒロインが愛好した、ビートルズの『ノルウェーの森』が舞台回しとして効果的に用いられている。「直子」という女性、「精神病」「自殺」「喪失感」「井戸」など、後の作品にも通じるテーマが登場しており、主人公の通っている「東京の私立大学」は村上春樹の母校早稲田大学を、「主人公が入っていた寮」は村上春樹が入寮していた和敬塾をモデルにしているなど、この作品は村上春樹自身の実体験を基にした「自伝的小説」であるといわれるが、本人はこれを否定している。
作中に、主人公ワタナベトオルが大学の講義で出席をとるときに返事をしないシーンがあり、それをきっかけに緑と知り合う。興味深いことに、後に緑の家の小林書店でワタナベトオルが読んだ、ヘルマン=ヘッセの『車輪の下』にも主人公ハンスが教授に対して返事をせず反抗するシーンがある(第9章)。優等生だったハンスが不眠症とノイローゼに陥り退学し、本屋の見習いになるも自殺してしまうストーリーは、『ノルウェイの森』にこの作品が登場する理由を暗示している。
他の作品に見られるような複雑さ、難解さがなく、一貫してリアリズムの書体で書かれていることから、現在では村上作品の入門書として位置づけられることが多い。ただし、作品の背景や心理描写は深く、多層的な読み方が可能である。したがって、爆発的な売上の作品となったが、簡単にテーマを語ることが難しい作品でもある。
[編集] 豆知識
- 村上春樹はこの「ノルウェイの森」というタイトルについて現在はあまり気に入っていないようである(本人談)。ちなみに村上春樹の他の小説が先にタイトルが決まった後に書き始められたのとは異なり、この作品は「雨の中の庭」というタイトルで書き始められ、途中で「ノルウェイの森」というタイトルに変更された。この決定にはこの題名にするか迷った村上春樹が妻に作品を読ませて題名は何がいいかと聞くと「ノルウェイの森でいいんじゃない?」という返答が返ってきたためだといわれている。また、村上春樹自身は、特別なビートルズマニアではないらしい。村上春樹は、ドアーズにより強い思い入れを持っていることが、自身の著作の中で明かされている。
- フジテレビが放映権を取得したといわれたが、2007年現在、未だ映像化はされていない。
[編集] 作中で読まれた文学作品
- 『車輪の下』
- 『魔の山』
- 『グレート・ギャツビー』
- 『八月の光』
- 『ケンタウロス』
[編集] 出版
装丁を村上春樹自身が手がけ、帯に「100パーセントの恋愛小説です」と書かれた赤と緑の表紙は話題となった。単行本の発行部数は、上巻が238万部、下巻が211万部の計449万部。文庫本を含めた発行部数は2002年時点で計786万部。上巻は、片山恭一の『世界の中心で、愛をさけぶ』に抜かれるまで、日本における小説単行本の発行部数歴代1位であった。しかし、『世界の中心で、愛をさけぶ』が映画化やドラマ化などの他のメディアによる相乗効果の結果としてベストセラーになったのに対して、この作品はそういう相乗効果とは無縁であったもののベストセラーとなったのは驚異的ですらある。
- 単行本
- 1987年9月、講談社(上・下)
- 文庫
- 1991年4月、講談社文庫(上・下)
- 2004年9月、講談社文庫(上・下)※新装版
村上春樹 | |
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作品 | |
長編小説 : | 風の歌を聴け | 1973年のピンボール | 羊をめぐる冒険 | 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド | ノルウェイの森 | ダンス・ダンス・ダンス | 国境の南、太陽の西 | ねじまき鳥クロニクル | スプートニクの恋人 | 海辺のカフカ | アフターダーク |
短編小説 : | パン屋再襲撃 | ファミリー・アフェア | TVピープル | トニー滝谷 | 東京奇譚集 |
随筆 : | 意味がなければスイングはない | 遠い太鼓 |
ノンフィクション : | アンダーグラウンド | 約束された場所で |
翻訳 : | キャッチャー・イン・ザ・ライ | グレート・ギャツビー | ロング・グッドバイ |
関連 | |
カテゴリ : | 村上春樹 | 小説 |