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フォード・コスワース・DFVエンジン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

フォード・コスワースDFVエンジンDouble Four Valve)はフォードの資本提供を受けたコスワースによって製作されたフォーミュラ1 (F1) 用エンジン。F1で一線を退いてからもスケールダウンしてF3000用のエンジンとしても用いられた。F1での通算成績は156勝。

フォードは1963年フェラーリの買収を試みるもエンツォ・フェラーリから契約直前に破棄され、これに激怒したフォードは莫大な資金を投入しDFVエンジンの開発に着手する。DFVエンジンでフォードは後述される戦績によってフェラーリを見返すのである。

リジェJS11に搭載されたDFVエンジン
リジェJS11に搭載されたDFVエンジン

目次

[編集] スペック

  • V型8気筒エンジン、4バルブDOHC自然吸気
  • バンク角 90度
  • ボア×ストローク 85.6×64.8mm
  • 最大出力 405hp/9000rpm
  • 最大トルク 33.8mkg/8500rpm
  • 重量 161kg
DFVに初優勝をもたらしたロータス49 ノーズにFordの4文字。ウイングが全く無いなどの特徴が見られる。
DFVに初優勝をもたらしたロータス49 ノーズにFordの4文字。ウイングが全く無いなどの特徴が見られる。

[編集] 記録

  • F1での優勝回数 156回
  • 初優勝 1967年 オランダGP 
  • 最後の優勝 1983年 アメリカ東GP
  • 総合優勝(ドライバー)12回
    • 1968年,1969年,1970年,1971年,1972年,1973年,1974年,1976年,1978年,1980年,1981年,1982年
  • 総合優勝(コンストラクター)10回
    • 1968年,1969年,1970年,1971年,1972年,1973年,1974年,1978年,1980年,1981年
    • ただし、ドライバー、コンストラクターのタイトルはエンジンメーカには与えられない。

[編集] 歴史

[編集] DFVエンジンの誕生

DFVエンジンの開発は、1966年のレギュレーション改正によってエンジン排気量が3000ccにスケールアップされた事に端を発している。それまでの1500ccから2倍の排気量までが認められたが、各コンストラクターはこのサイズのエンジンを確保するのに非常に苦労した。他のカテゴリで使用しているエンジンを流用したり、それまでのエンジンを2倍のスケールにしたりと、各コンストラクターの対応は個々であったが、ロータスのオーナーコーリン・チャップマンは新たに3000cc用のエンジンを開発するのが良いと考えた。

チャップマンがその新しいエンジンの開発先として目を付けたのがマイク・コスティンとキース・ダックワースが立ち上げた、新進のエンジンメーカーコスワースであり、特にダックワースの考えるV型8気筒エンジンはコンパクト且つパワフルで非常に魅力的なプランであった。ところが、コスワースにはダックワースのアイデアを実現できる資金力に乏しく、開発費を提供してくれる提携先を探している段階であった。チャップマンはイギリスフォードに対してコスワースに資金提供をしてくれるように依頼し、フォードはその依頼を呑んだ。このためダックワースのプランを実現したDFVエンジンにはフォードのバッチがつくことになり、このエンジンは一般的にフォード・コスワース・DFVとして知られるようになった。

[編集] デビュー

こうして1967年に誕生したDFVエンジンは、開発に尽力した、ロータスのマシーンに同年のオランダGPから搭載される事になった。このレースではロータスのグラハム・ヒルポールポジション、決勝レースでは同じくロータスのジム・クラークが優勝。DFVエンジンはデビュー戦で初PP、初優勝を飾り、そのポテンシャルの高さを見せ付ける事になった。

この順風な出だしを、最も喜んだのはフォードであった。フォードはDFVエンジンの独占供給を望むロータスを振り切って、翌シーズンの1968年からDFVエンジンを他のコンストラクターに、しかも非常に安価な価格で販売する事を決定した。ロータスは68年シーズンにDFVエンジンユーザーとして初めてのワールドチャンピオンとなったが、フォードの決定により、その後はDFVエンジンユーザーの先駆けとしての座を失い、数あるDFVユーザーのうちの一つとして埋没して行った。

[編集] DFV絶頂期

6輪車ティレルP34。この形状はDFVと言うイコールコンディションでの空力研究のひとつの到達点であった。
6輪車ティレルP34。この形状はDFVと言うイコールコンディションでの空力研究のひとつの到達点であった。

フォードがDFVエンジンを市販し始めた事は、F1の勢力図に大きな変動をもたらした。低予算のコンストラクターがDFVと市販のシャーシーを購入し、数名のメカニックを雇っただけのチーム形態でグランプリへ参加する事を可能にした。こうしたコンストラクターとしてマクラーレン、ティレル、ウィリアムズミナルディなどがある。

こうしたコンストラクターが増えた事で、相対的にワークスがGPに踏みとどまっている必要性が薄くなってきたため、ワークスの撤退が相次ぎ、一時期はフェラーリ以外は全て、DFVユーザーと言う事態も起こった。

技術面に関しては、エンジンとシャーシーにおいてマシーンの平均化が進んだ事から、他のコンストラクターに打ち勝つ要素として、空力に対してのR&Dが進んだ。今日私達が目にするような整流機能やダウンフォースを得るためのウィングがマシンに取り付けられる様になったのもDFVエンジン絶頂期の1968年のことである。

この様にDFVエンジンがF1の勢力図を大きく塗り替えた事は、それだけDFVエンジンのポテンシャルが高かったからに他ならない。DFVエンジンは1991年にF1から撤退するまでに実に156勝をあげた。一つのエンジンでこの記録を打ち破れるものが、今後現れるとは想像し難く(現在では、シーズンごとにエンジンの名称が変わるのが一般的)、まさしくグランプリに輝く金字塔であると評価できる。

[編集] DFVの退潮

DFVに終焉をもたらしたのはターボエンジンの登場であった。F1のレギュレーションにはそれ以前にも過給器付きエンジンの規定が設けられていたが、それは長らく忘れられていた規定であった。ターボエンジンは、低回転時にターボラグが発生し、使い物にならないと言うのが、グランプリでの「常識」であったからである。こうした「常識」を打ち破って1977年、F1にターボエンジンを持ち込んだのがルノーである。といっても最初のうちのルノーの仕事と言えば、コース上で白煙を上げる事であったため、DFVエンジンの敵にはならなかった。しかし次第にルノーが実力を発揮し信頼性をあげ、1979年フランスGPで初優勝を上げると、次第に各メーカー、各コンストラクターの目はターボエンジンに向けられるようになっていった。

1980年代に入ると、ルノーに続いてそれまでDFVのやられ役に追い込まれていたフェラーリがターボエンジンへの切り替えに踏み切り、BMWホンダもターボエンジンの供給を始め、次第にDFVが活躍する幅は狭くなっていった。それでも1982年のグランプリではDFVエンジンを搭載したウイリアムズのケケ・ロズベルグが総合王者になったが、DFVの栄光もここまでであった。翌1983年のシーズンではBMWターボエンジンを搭載した、ブラバムを駆るネルソン・ピケが総合王者になり、DFVエンジンは遂に王座から陥落した。

[編集] グランプリからの退場

ターボ勢の急迫にコスワースも手を拱いて見ていただけではなく1983年に、DFVエンジンをショートストローク化したDFYエンジンを投入したが、このエンジンはデトロイトGPで1勝を上げたに留まっている。このDFYエンジンでの優勝がDFVエンジンにとって156勝目、すなわち最後の優勝となった。

1986年に、レギュレーションによって自然吸気エンジンが禁止されると、DFVはグランプリから撤退さざるをえなくなり、コスワースはターボエンジンへの転換を迫られる事になった。しかしながらターボエンジンの開発競争では遅れをとったため、コスワースエンジンは長い低迷期間を迎える事になった。コスワースが再びF1においてその頂点に立つのはミハエル・シューマッハ駆るベネトンが優勝する1994年を待たなければならなかった。

[編集] DFVの発展形エンジン

F1で一時代を築き上げたDFVエンジンは、F1での活躍の場を失ってからも、様々な手を加えられながら他のカテゴリで使われ続けた。

先ず、F2に代わって1985年から始まったF3000エンジンとして使用され始めた。中でもヤマハは独自にDFVエンジンを5バルブ化したコスワース・ヤマハOX77エンジンを開発し、1988年には鈴木亜久里が全日本F3000選手権のチャンピオンを獲得するのに貢献した。 また全日本F3000ではそれ以降もケン松浦チューンのDFVが活躍を続け、91年には片山右京、93年には星野一義がチャンピオンを獲得している。

またアメリカのCARTでもDFVエンジンをショートストローク化し、シングルタービンのターボチャージャーを装着したDFXが用いられ、さらに改良型のDFSも存在した。

1980年代のグループC用にも転用され、DFLという名前が付けられた。DFLには当初、DFVのボアアップ版の3.3l、ストロークアップ版の3.6l、ボア/ストロークアップ版の3.95lの3種類が想定されていたが、実際には3.3lと3.95lの2種類が使われた。 DFLの3.3l版には、後にターボが付加されたが、このターボ版では強度に勝るDFX用のシリンダーが転用されていた。 DFLの3.3l版は、1987年のF1モナコGPにてレイトンハウス・マーチのスペアマシンにも搭載されている。

1987年にF1で自然吸気エンジンの使用規定が復活、排気量が3500ccに拡大すると、同年にDFVをベースとして排気量を拡大したDFZを市販、翌年にはエンジンワークスチームであったベネトンに改良型のDFRを供給した。

DFRは1989年にDFZに変わって市販され、1991年まで使用された。この年を以って、DFVの系譜を継ぐエンジンは終焉を迎えた。

[編集] DFVが生んだ名チューナー

DFVが市販されたことで、よりポテンシャルを発揮できるよう、コスワースとは別個でエンジンのチューニングを行うようになった。これにより、ジョン・ジャッド、ハイニ・マーダー、ブライアン・ハート、ジョン・ニコルソンなどの名チューナーが生まれた。 特にジョン・ジャッドはエンジン・デベロップメント社(ジャッド)を、ブライアン・ハートはハート・エンジニアリング社を創業し、チューナーだけでなく独自開発のエンジンを送り出していった。

ジャッドはホンダと共同開発したインディ用V8をベースにして1988年に市販したV8自然吸気エンジン「CV」を皮切りに、「EV」、V10レイアウトの「GV」を供給、1993年からはヤマハ発動機との共同でエンジンの開発を1997年まで行っていた。

ハート・エンジニアリング社は、F2でトールマンに供給した直4エンジンにターボチャージャーを搭載したエンジンを以って1981年にトールマンとともに参戦、同エンジンは1985年まで市販された。その後はDFRエンジンのチューニングがメインとなったが、1993年にジョーダン向けにV10エンジンを開発、供給、1994年-1996年、1998年-1999年にはアロウズにも供給した。

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