ミリシア
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ミリシア (Militia) とは民間人を軍事要員として編成した武装組織のこと。ミリシャ、ミリティア、パラ・ミリタリー(準軍事組織)、民兵、義勇軍、民間防衛、私設軍、私兵、ともいう。
ただし、実際にはミリシアの定義は複数あり、マスコミにおいて「ゲリラ」と表現される組織も実質的には民兵とみなす事ができる。また、一般的な軍隊(国家の正規軍)とは異なるナチスの武装親衛隊やイランのイスラム革命防衛隊、フセイン体制時のイラクの大統領警護隊といった、私兵的傾向の強い「体制の軍隊」も時としてミリシアと表現される事もある。
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[編集] 概要
ミリシアは本来的には平時においてその他の職業についている民間人が、緊急的な軍事要員として短期的な軍事訓練を受けた上で戦時において召集され、正規の戦力である陸海空の軍隊とは区別されて考えられる。ハーグ陸戦条約においては、4条の条件をすべて満たせば交戦者として認められる。((ハーグ陸戦条約を参照)ただしミリシアの編成については各国によって差があり、一概には言えないが、訓練期間は比較的短期間であり、投入される費用も限定的であることなどがあげられるが、正規軍の一部であったり、戦争が勃発してから緊急的に編成されるものであったりその形態は一様ではない。
[編集] 分類
[編集] 「民兵」と解釈されるべきミリシア
アメリカ合衆国には、合衆国憲法修正第二条に記されている民兵が武器を保持する権利により、多数のミリシアが存在する。
ミリシアとは本来は国家・政府とは完全に独立した市民の市民による市民の為の軍隊である。
しかし、1916年に制定された国民防衛法 (NDA) により、州兵 (National Guard) が、民兵扱いされるようになり、本来ミリシアと呼ばれていた人達は市民ミリシア (Civilian Militia) として区別されるようになった。オクラホマ連邦ビル爆弾テロの犯人はこの市民ミリシアと深いかかわりがあったとされ、近年アメリカでは国内の市民ミリシアに関心が集まっている。
米国以外では大韓民国の民防衛隊やスイス連邦の民間防衛隊が良く知られており、中華人民共和国にも民兵組織が存在する。
日本では日本国憲法第9条と銃刀法による武器の保有禁止により認められていない。
[編集] 「私兵」「軍閥」と解釈されるべきミリシア
- 詳しくは軍閥も参照
私兵とは、国家ではなく、ある限られた人物や団体が自らの権益を守るために作り上げた兵士をいう。この、「私兵」と解釈されるべきミリシアは世界的に数多く存在している。
一部の国では法律等によってその身分が制定されている場合もあるが、そのほとんどは政治・宗教団体や土地の有力者などによって脱法・非合法的に所有されている。規模・組織に関しては様々で、資産家や政治家といった富裕層の保有するボディーガード程度の文字通りの私兵から、レバノンのヒズボラのように単なる私兵集団の域を超えて国家や国際社会にまで影響力を持つ集団まで様々である。一般的にはライフル、拳銃といった小火器の装備がほとんどであるが、内戦状態の国では戦車・ロケットランチャーといった重装備を持つ事もしばしばある。(具体的な例は世界の軍閥一覧を参照)
なお、日本のかつての戦国大名、イタリアや中国などのマフィア、欧米の民間軍事会社も広い意味では私兵といえるが、普通は私兵の範疇に入れない。
私兵が成立する要因としては、
- 武器・重火器の所有を禁止・制限する法律が存在しない。あるいは、存在していても十全に機能していない。
- 政府・国軍の力が弱く、中央集権化がうまく行われていない。
- 国家とは別の、歴史的(近代以前から続く旧王族や豪族)・宗教的・土着的(血族・氏族集団)な権力が国内の全体もしくは一部に存在しており、その権力が時として国家をも上回る。
- (特に新興の多民族(宗派)国家、旧植民地諸国において)同じ国民であるという国民意識が存在していない。
- 政治闘争の激しい国において、国家が行なえない非合法活動を代行させる。
などがある。このほかに、隣接する敵対的な国家が私兵を育成するケースもある(レバノンの南レバノン軍―イスラエルが支援など)
中近東諸国では植民地時代以前から宗派や血縁、地縁で結ばれた中小グループが数多く存在していた。これらは常に武装しており、政策等が中央政府と食い違ったり、外国勢力が侵攻してきた場合には対抗して闘争を繰り広げた。時には集団内において抗争を繰り広げることもあった。こうした集団は、中近東諸国が独立して以後も一定の影響力を持ち続け、強権的な政府に対しても警察権の行使などにおいて一定の妥協を求めた。こうした集団は現在でも数多く存在し、パキスタンでは事実上の自治区を築くに至っている。また、レバノンの各宗派政党、イエメンの武装部族もこうした前近代的な権力を背景にした集団といえる。
中南米諸国では古くから資産家や大地主が私兵を設ける事が多く(メキシコなど)、これら小規模な私兵をベースにコロンビアなどでは冷戦期に政府や軍の肝煎りで民兵組織が結成される事もあった。後者は、ある意味「民兵」と訳されるべきミリシアではあるが、後述の理由から政府や軍はあくまでも無関係を装っていた。
こうした民兵組織は国内で跋扈する左翼ゲリラとの対峙に主眼がおかれていた。しかし、それ以上に重要だった事は、国軍や警察が行わない(行えない)非合法活動を行なうことであった。このため、民兵組織のメンバー(幹部)には元軍人や情報機関関係者が就いている事も多い。これらの民兵は、左翼ゲリラに対する掃討も行なったが、左翼にシンパシーを持つといわれる貧民や知識人に対して拉致・拷問・処刑を繰り返した。特にストリートチルドレンの殺害は「街の清掃」などとも言われ、左翼ゲリラ同様に麻薬取引にも関わっている事もあって、国際的な人権問題に発展する事がしばしばあった。
代表的な例としてはレバノンのヒズボラをはじめとする各宗派政治組織、アフガニスタンのムジャヒディン諸派、コロンビアの麻薬カルテル、イエメンの武装部族などがあげられる。
[編集] 「義勇兵」と解釈されるべきミリシア
古くはスペイン内戦における反ファシズム国際旅団、最近ではバルカン紛争、ミャンマー内戦、アフガニスタン紛争等で数多く見られる。特にソ連のアフガニスタン侵攻やボスニア内戦において外国のイスラム教徒が義勇兵という形で参加した事が有名となった。日本人でもクロアチア内戦、ボスニア内戦、ミャンマーのカレン族ゲリラに参加した者がいるといわれる。金銭的な理由というよりは、同じ民族・宗教としての連帯感や憤慨感であったり、戦争の実態を知りたいといった好奇心や冒険心の満足といった内面的な理由に拠る事が多い。著名人が参加する事もあり、スペイン内戦においてヘミングウェイ、オーウェル、マルローなどが人民戦線側の国際旅団に参加したのは有名である。
自発的な参加が大半であるから、「雇用主」であるゲリラ組織から「報酬」が得られるかは不透明であったりするなど、身分的には非常に不安定であり、国際法上の保護も得られない。「雇用主」によっては自前のゲリラ兵の損失が惜しい場合の「捨て駒」として使われたりする事もある。また、士気こそ高いが軍事的に無知であったり、現地社会と摩擦を起こしたりする事も多く、地元民とのトラブルが発生する事もある。
特に宗教的・民族的連帯感に基づいた義勇兵は大量虐殺など戦争犯罪を起こす可能性も高いといわれる。ボスニア内戦においてはギリシア人義勇兵が虐殺や捕虜虐待に関与したといわれる。
現地政府や軍、交戦国は、捕らえた反政府ゲリラ参加の外国人を単なる捕虜として取り扱う事はほとんど無く、処罰する場合がほとんどである。2001年のアフガニスタン紛争では、タリバン兵士であったイスラム教徒のアメリカ人が国家反逆罪でアメリカ政府に逮捕された。