ミールワーム
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ミールワーム | ||||||||||||||
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チャイロコメノゴミムシダマシ Tenebrio molitor の幼虫 |
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分類 | ||||||||||||||
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種類 | ||||||||||||||
本文参照 | ||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||
Mealworm |
ミールワーム(mealworm)、あるいはミルワームは、幼虫を飼育動物の生餌とするために飼育・増殖されているゴミムシダマシ科の甲虫の幼虫の総称。
目次 |
[編集] 概論
ゴミムシダマシ科の昆虫には、穀物倉庫などで貯穀害虫となっている種がいくつも知られている。こうした昆虫は本来乾燥した土地で地表に落ちたイネ科植物の種子や腐植質、動物の死体などを食べて生活していたものが、人間が食物を貯蔵するようになると屋内に生活圏を広げたものと考えられている。
このように屋内生活に適応した昆虫は人工的な飼育環境に適応しやすく、容易に大量増殖ができるため、実験動物や生餌飼料として飼育されることがある。特にゴミムシダマシ科の昆虫の中型種、大型種の幼虫の大きさは、生餌が必要な小鳥、爬虫類、両生類などの餌として好ましい大きさであり、また幼虫期間が長いため、一年中餌としての供給が可能である。そのため古くからペットや動物園、研究施設における飼育動物の生餌飼料としての飼育が行われており、ミールワームと呼ばれてきた。
[編集] 旧来のもの
ミールワームとして古くから飼育されているのはコメノゴミムシダマシ Tenebrio obscurus Fabricius, 1792 、チャイロコメノゴミムシダマシ T. molitor Linnaeus, 1758 の2種である。
前者は高温に強く熱帯から温帯に広く分布するが、元来はインド原産と考えられている。日本でも、貯穀害虫としてすでに野生化しているが、国内では商業的な増殖や流通は行われていない。幼虫の体色が暗い色調の褐色であるため、「ダーク・ミールワーム」と呼ばれている。
一方、後者は低温に強く温帯の冷涼な地域に広く分布するが、元来はヨーロッパ原産と考えられている。日本では、貯穀害虫として野生化しているという確実な報告はほとんどなく、野生化の現状は不明である。日本国内で古くから商業的に増殖され、主としてミルワームの商品名で流通しているミールワームは、このチャイロコメノゴミムシダマシの幼虫である。幼虫の体色が黄褐色であるため、「イエロー・ミールワーム」と呼ばれる。また日本国内で単にミールワームといえば、ほぼこの種を指していると考えてよい。
これらの2種が小動物の餌として飼育増殖されるようになったのは20世紀に入ってからと推定されており、また商品化されて販売されるようになったのは第二次世界大戦以後のことであるらしい。
[編集] 新顔
これらに加えて近年登場し、日本でも急速に流通量が増えているのが中南米原産で、以前からアメリカ合衆国に増殖業者が多かったツヤケシオオゴミムシダマシ Zophobas atratus Fabricius ,1775 の幼虫である。
コメノゴミムシダマシやチャイロコメノゴミムシダマシよりもはるかに大型であり、それらの幼虫が成長しきったときの体長が17mm前後なのに対し、ツヤケシオオゴミムシダマシは40mm余りにも達する。そのため、「ジャンボミールワーム」、「ジャイアントミールワーム」、「キングミールワーム」、「スーパーミールワーム」などといった巨大さをアピールする商品名で流通している。学名は、シノニムの Z. morio (Fabricius, 1776)も、特にアメリカの増殖業者の間でよく使われているので注意を要する。
ツヤケシオオゴミムシダマシの幼虫は体サイズのみならず栄養価も高いようで、たとえば観賞魚として古代魚ポリプテルスの小型種を飼育するとき、従来のミールワームを単独飼料として飼育すると栄養不足になるのに対し、この種の幼虫を単独飼料として飼育可能だとする観賞魚専門誌記事も見かける。日本での餌としての使用は、アジアアロワナの飼育ブームに伴って、好適な生餌として注目されたことを契機としたこともあり、肉食魚の餌としてアクアリウム趣味家の間から広まっていった。そのせいか、現在日本では小動物飼育の餌としてのみならず、釣り餌としても流通している。
1990年ごろに中国の業者の手を経て日本に導入され始め、1995年ごろから日本国内でも国内の増殖業者によって飼育されたものが大量に流通するようになったといわれている。こうした経緯から、日本への導入は植物防疫法に抵触する密輸であったと推定されている。もともと国内に分布していない種であるため和名はなかったが、釣り餌用昆虫の流通状況を調査していた昆虫学者、梅谷献二がこの虫の正体に関心を持ち、ゴミムシダマシ科の専門家である安藤清志に飼育して得た成虫を同定依頼した際に、安藤の提案でツヤケシオオゴミムシダマシの和名が与えられた。
これらのほかに、類似した生態をしめすコクヌストモドキ Tribolium castaneum (Herbst, 1797)、ガイマイゴミムシダマシ Alphitobius diaperinus (Panzer, 1797)のような何種かのゴミムシダマシ科の甲虫が、実験動物や飼育動物の飼料として研究所や動物園といった専門的機関において飼育繁殖されているが、ペット産業や趣味的動物飼育の世界では一般的ではない。
[編集] 飼育
旧来の2種のミールワームは基本的に、小麦を製粉するときに糠として分離される、ふすまを飼料として与えて増やすことができる。飼育容器の中にふすまをある程度の厚さに敷き、そこに幼虫や成虫を放せば、幼虫は内部に潜り、成虫は表面を歩き回って生活を始める。ふすまの表面の半分ぐらいを布などで覆うとなおよい。
産卵は雌が尾端を伸張してふすまの内部に差し込み、微小な粘着性のある柔らかな卵を産み込む。ただし、動物園などでは栄養価を高めるために、ニンジン、ジャガイモ、菜っ葉類のような生の新鮮な野菜などを、ミールワームの幼虫が潜っている飼育容器内のふすまの表面に置くなどして摂食させている。成虫、幼虫ともに雑食性であり、コメノゴミムシダマシの幼虫は鶏糞に発生したハエの幼虫を捕食するという報告もあるぐらいであり、植物質とともに、与えれば動物質も盛んに摂取する。そのため飼育容器内で蛹になったものをそのまま放置すると、すぐに幼虫や成虫の捕食対象となり共食いを引き起こすので、増殖を行うときには蛹になったものから他の容器に移さなければならない。
ツヤケシオオゴミムシダマシの幼虫は前2種よりもさらに雑食性が強く、主飼料のふすまに加えて野菜くずを与えるのみならず、動物性蛋白質を与えなければ成長は難しく、幼虫同士の共食いも見られるとされる。また、比較的多湿環境を好むこともあって、ふすまではなくクワガタムシの飼育に使うような腐植土や朽木を粉砕したフレークを湿らせて住み場所兼餌とし、さらに野菜くずや動物性蛋白質を含む小動物用配合飼料を補助的な餌として用いて飼育することも多い。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 梅谷献二著 『虫を食べる文化誌』 創森社、2004年、ISBN 4-88340-182-0。