倉庫
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倉庫(そうこ)とは、有形の物品を保存・収納する施設を指す。
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[編集] 日本の倉庫
[編集] 倉庫業
特に、事業として他人の物品を保存・収納する業種は倉庫業と呼ばれ、倉庫業が持つ施設は「営業倉庫」ともいい、倉庫業法第2条で次のような定義がされ、第3条で「国土交通大臣の行う登録を受けなければならない」と規定されている。
- 第2条 この法律で「倉庫」とは、物品の滅失若しくは損傷を防止するための工作物又は物品の滅失若しくは損傷を防止するための工作を施した土地若しくは水面であつて、物品の保管の用に供するものをいう。
- 2 この法律で「倉庫業」とは、寄託を受けた物品の倉庫における保管(保護預りその他の他の営業に付随して行われる保管又は携帯品の一時預りその他の比較的短期間に限り行われる保管であつて、保管する物品の種類、保管の態様、保管期間等からみて第6条第1項第4号の基準に適合する施設又は設備を有する倉庫において行うことが必要でないと認められるものとして政令で定めるものを除く。)を行う営業をいう。
- 3 この法律で「トランクルーム」とは、その全部又は一部を寄託を受けた個人(事業として又は事業のために寄託契約の当事者となる場合におけるものを除く。以下「消費者」という。)の物品の保管の用に供する倉庫をいう。
[編集] 倉庫業の内容
倉庫業者の大きな機能は、「倉庫」という、物流における重要な中継点であり、工場から出荷されたり輸入されたりした製品を小売店に輸送するまでの間一時的に保管しておく施設を持っており、その施設のスペースと保管サービス(保管、荷役、場合によっては仕分けや輸送など)を他の会社に提供することである。(また、スペースのみを他の会社に賃貸し、荷役や運送はその会社が独自に行う「貸庫(たいこ)」という不動産業のような形態もある。)
特に港湾の保税地域などで、通関前の外国貨物である輸入品を保管する倉庫は「保税倉庫」などと呼ばれている。また、倉庫業法の規定では、建物や工作物(簡単な上屋)などだけでなく、水面に木材を浮かべるような貯木場(往年の木場など)や、貨物やコンテナなどを野積みするための地面も倉庫とみなされている。
物流と無関係な分野では、法律の規定などで一定期間保管の必要のある、各種帳簿などの書類を保管していることもある。(後述トランクルーム参照)
立地場所としては、貿易港の周辺の埋立地、郊外の高速道路のインターチェンジの近くなど、港湾・空港・幹線道路・鉄道などへのアクセスが容易な場所に立地していることが多い。
貨物の搬出入のため、新しい倉庫の多くはコンテナトレーラーやトラックをつけることのできるプラットホームを備えている。また、倉庫内で貨物を運ぶため、クレーン(ホイストクレーン)や、ISO標準パレットに載せた貨物を運ぶフォークリフトが用意されている。フォークリフトは、コンテナやトラックからの貨物の出し入れをする為にも用いられる。
[編集] 倉庫の形態
収納する物品によって、
に分けられる。輸入食品などを消毒する薫蒸庫を備えた倉庫や、危険品など物品によってはさらに防火や防水対策などが強化された倉庫もある。
[編集] 倉庫の配送センター化
もっとも現在、各企業は在庫の削減や、ジャストインタイム生産システム(JIT)によるリードタイムの軽減など、貨物の滞留時間をいかに減らし物流コストを下げるかで頭を悩ませている。サプライチェーン・マネジメントなどロジスティクスの高度化により、倉庫は入ってきたものを何ヶ月も保管する場ではなく、海外や国内から原料が集められて工場に送られ、生産された商品が小売店に配送され販売されるまでの、「物流チェーンの一部」となりつつあり、貨物の滞留時間も早い場合、数時間や数日以下にまで短くなってきている。
ここでは倉庫は、各工場の要求に応じて搬入される原料を一時的に保管し、即時に各工場へ配送する拠点であり、また小売店からの要求に応え工場から配送されてくる商品を、仕分けて全国へ配送する拠点である。倉庫にあるコンピュータなど情報機器は、生産から販売までをつなぐ情報システムの一部として運用され(その情報システムは顧客企業が構築することもあれば、倉庫会社が代行して構築することもある)、内部の貨物(商品や原料)の位置はすべてシステムで把握されており、各貨物の配送が小売店や顧客本社などから指示されればすぐトラックの待つプラットホームへ送られる。配送に便利なように情報システムと連動した自動ラックを備える倉庫もある。
倉庫業にとっては主たる収益源だった保管料が激減し苦しいところだが、逆に顧客の物流業務のアウトソーシングにともない、これまで顧客が自営していた物流業務を受注し全面的に代行して、それを新規の大きな収益源とすることもできる。
[編集] 廃倉庫の再利用と不動産業
この物流高度化の流れに応えられない老朽化した倉庫は、廃業してオフィスビルかマンションか駐車場になるほかない。
現に、日本国内の多くの倉庫業者の主な利益の源泉は、かつて川や運河沿い、古い幹線道路沿いなどに持っていた倉庫を取り壊して作ったオフィスビルやマンション、ショッピングセンター等の経営による不動産賃貸業である。老舗の倉庫業者は、地価の安い時代に買った多くの土地資産(いわゆる含み益)を所有することから、その資産の有効活用の行方をめぐりしばしば株式の売買の対象となる。
欧米では多くの街で、港湾地区や川沿いなどに老朽化して廃墟と化した大型倉庫が大量に打ち捨てられており、景観やセキュリティー(防犯)上の頭の痛い問題となっている。犯罪の温床となるほか、1980年代末にはイギリスなどでしばしば不法占拠された上、レイヴパーティーの会場とされたこともあった。
荒れた旧港湾の再生のため、欧米では廃倉庫群はさまざまに処理されてきた。取り壊されてウォーターフロント地区のビジネスセンターのオフィスビルの敷地となるか、あるいは倉庫の建物そのままで改修(リノベーション)されて美術館・博物館・瀟洒なショッピングセンターとなってウォーターフロント地区に賑わいを生み出すか、ほとんど手を加えない状態で大きなアパート兼アトリエ、ギャラリー、レストラン、クラブに改造され先端的な芸術地区を形成したりすることもある。(今日高級ショッピング街として有名なニューヨークのソーホー地区は、もとは廃業した繊維倉庫などのロフト(上層階、屋根裏部屋)を芸術家がアトリエとして利用し、ギャラリーなど美術関係者が集積したことが発展の端緒である。)
しかし日本の場合、倉庫を住居や商業施設に用途変更するには、消防法や建築基準法の厳格な基準(窓、防火設備、耐震補強)をクリアしなければならないという壁があるため、転用するにはかえって巨額の改造費用がかかるためなかなか実現しない。よってスクラップ&ビルドもしくは放置となり、安価で個性的な手法で日本の倉庫街が再活性化する道は閉ざされている。
ただし、函館(金森倉庫)、小樽(小樽運河煉瓦倉庫街)、横浜(横浜赤レンガ倉庫)、舞鶴(赤レンガ博物館)、神戸(神戸ハーバーランド煉瓦倉庫レストラン街)、姫路(姫路市立美術館)など、大正時代以前のレンガ倉庫を擁する港町などでは、それなりの予算をかけてレンガ倉庫を保存・修復・転用した商業施設や博物館運営がおこなわれ、集客に成功している。
[編集] トランクルーム
近年では、一般個人や企業を対象に、倉庫のスペースの一部を「トランクルーム」と名付けて骨董品、絵画などの美術品、スキー板・サーフィンボードや毛皮など季節限定の家財、引越や改築時の家財道具の一時的な保管場所のほか、企業の各種書類や帳簿、病院の古いX線フィルムやカルテ、放送局などの撮影済み・放映済みフィルムの保管などのためのスペースとして販売している事業者も多い。(こうした業者は、注文に応じ顧客への配送サービスも行っている。)都市周辺では多くの個人が一戸建てではなくマンションに住み、収納スペースも少ないことからトランクルームへのニーズは高まっており、今後はトランクルームは富裕層向けから中間層までに顧客が広がることが期待できる。
[編集] 関連項目
- SKU
- ロジスティクス
- 在庫管理
- 貨物輸送
- サプライチェーン・マネジメント
- サード・パーティー・ロジスティクス
- ロジスティクスとコスト
- 正倉院
- 酒蔵
- 金庫
- 車庫
- 納屋
- サイロ
- 保税倉庫