昆虫類
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昆虫綱 Insecta | ||||||
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昆虫類(こんちゅうるい)または昆虫は、節足動物門に属する動物のグループのひとつ。分類上は、昆虫綱(Insecta)と呼ばれる。
一般には単に「虫」(むし)と呼ばれることが多いが、虫という言葉はクモ類など昆虫以外のものも含んでいる。「昆虫」のカテゴライズは現代に行われたので厳密には重ならない。
漢字の「虫」(キ、huǐ)は本来、毒蛇:マムシを型取った象形文字であるが、蛇など、爬虫類の一部や、両生類、環形動物などまでを含めた広い範囲の生物群を指す「蟲」(チュウ、chóng)の略字として使用されている。
目次 |
[編集] 概説
昆虫類は硬い外骨格をもった節足動物の中でも、特に陸上で進化したグループで、ほとんどの種が陸上で生活し、淡水中に生活するものは若干あるものの、海中で生活する種は例外的である。水中で生活する昆虫は水生昆虫(水棲昆虫)とよばれる。
ほとんどの昆虫が2対の翅をもって空を飛ぶことができる。空を飛んだ最初の動物は、昆虫だとされている。昆虫の翅の構造は、グループによって様々に特化し、彼らの生活の幅の広がりに対応している。
地球の歴史上、陸上に初めて登場した動物が昆虫類を含む触角類である。そして地上で昆虫が成立した。脊椎動物門の両生類よりも早いとされる。生活様式、形態は非常にバラエティに富んでおり、数多くの目(もく)(下記の分類を参照)に分類されている。最近の話題では、2002年にナナフシに似た外観をもつ昆虫カカトアルキが新目新科新属新種として記載され、マントファスマ目という新しいグループがつくられた。
世界の様々な気候、環境に適応しており、種類数が非常に多い。現在の地球上に存在する生物の種の数のうち、かなりの部分を昆虫が占めている。昆虫綱全体で80万種以上となる。未記載種を含めると軽く100万種を越えると思われる。南極にも昆虫は生息しているため、世界で最も繁栄している種族は昆虫類であるといえる。
多くの昆虫は3℃以上の環境でないと、成長が行われず、冬眠状態となる。また、成虫の場合、一般に-3℃以下、または45℃以上の環境にさらされ続けると死滅する。虫卵の状態では若干範囲が広くなると考えられる。
種類数の多いグループでは、
- 甲虫目 [鞘翅目](カブトムシ、ゴミムシ) 35万種
- チョウ目 [鱗翅目](チョウ、ガ) 17万種
- ハエ目 [双翅目](ハエ・カ・アブ) 15万種
- ハチ目 [膜翅目](ハチ、アリ) 11万種
- カメムシ目 [半翅目](セミ、カメムシ) 8万2千種
- バッタ目 [直翅目](バッタ、コオロギ) 2万種
- トンボ目 [蜻蛉目](トンボ) 5千種
[編集] 特徴
昆虫類の特徴として、以下のような特徴があげられる。ただし例外もある。
- 成虫の体は、頭部、胸部、腹部の3つに分かれていて、胸部にのみ、足が生えている。
- 節足動物の体は、体節と呼ばれる節(ふし)の繰り返し構造でできているが、体節がいくつかずつセットになり、機能的、構造的にまとまった部分に分かれる。昆虫類以外の節足動物では、明確な部域に分かれないグループや、2つの部位(頭胸部と腹部)に分かれるものなどがある。詳しい構造上の特徴については昆虫の構造を参照。
- 基本的に、足が六本ある。
- 呼吸器官として気管と気門がある。
- 卵生。
- 生育過程で、幼虫が成虫に変化する変態を行う。変態の形式により、幼虫が蛹になってから成虫になる、完全変態をするグループと、幼虫が直接成虫に変わる不完全変態を行うグループ、そして形態がほとんど変化しない無変態を行うグループがある。成虫になるときに翅が発達するが、トビムシやシミなど翅の全くない種類も少なからずいる。
[編集] 人間とのかかわり
生物世界でもっとも種類の多い動物群であり、何等かのかかわりなしに暮すことが不可能なほどに、あらゆる局面でかかわりを生じる。直接に人間の役にたつものを益虫、害をなすものを害虫と言う。
また、昆虫採集や飼育を趣味とする人間もまた、多数存在する。
[編集] 有益な面
益虫の項も参照のこと
[編集] ペットとしての昆虫
クワガタムシやカブトムシなどの甲虫類は、鑑賞価値があり、飼育するファンが多く、10万人単位の愛好者がいるといわれる。
日本国では伝統的にスズムシやコオロギが鳴き声を鑑賞するなどの目的で飼育される。中国の北京などではコオロギの格闘を楽しむ風習があり、そのために飼育する。
特別な乾燥耐性を持つネムリユスリカは、教材として乾燥状態で販売される予定である。
[編集] 食材としての昆虫
今日の日本においては、昆虫食はあまり一般的ではなく、どちらかと言うと下手物料理や珍味として扱われる機会が多い。イナゴ(佃煮)は全国的に食べられていると言ってもよく、ハチ、セミ、ゲンゴロウ、トビケラやカワゲラ(ざざむしの佃煮)、カイコガ、カミキリムシ等を食用とする文化がある。信州のハチの子の佃煮のように郷土料理や名物になっている地域もある。世界的にもタガメやアリ、甲虫などの昆虫の幼虫を食べる文化を持っている国や地域、民族は多い。特に気象条件や地理的な問題で他の食材が手に入りにくい土地の場合、貴重な栄養源となっていることは当然である。栄養価の面からみると、一般的に昆虫はタンパク質やミネラルを豊富に含むため、人口増加や砂漠化により、将来的に世界規模の食料危機が起こった場合に、繁殖が早い昆虫は重要な食料となるとの見方もある。中国では、セミなどの昆虫およびサソリ等の食用飼育業者がある。
[編集] 薬材としての昆虫
中国の生薬を集めた『本草綱目』には、多種の昆虫が記載されている。 一例として、シナゴキブリは、「蟅虫」(しょちゅう)の名で、血行改善作用があるとされている。学問的に薬効は、必ずしも明らかになっていない例が多いが、他にも薬酒の原料としてスズメバチ、アリ、ゴミムシダマシ、冬虫夏草(実体は真菌)などが使われたり、粉末にして外用薬にされる昆虫もある。
[編集] 農薬としての昆虫
日本の法律(農薬取締法)は、農作物を害する昆虫、ダニ、細菌などの防除に使われる薬剤のみならず、天敵をも一括して農薬と整理した。このため、農薬として登録されている昆虫、クモ、ダニ、ウイルスなどがある。農薬のため、用法、用量、販売にも規制がある。現在日本で登録されている天敵昆虫には、オンシツツヤコバチ、ヨコスジツヤコバチ、タイリクヒメハナカメムシ、ヤマトクサカゲロウ、ナミテントウ、コレマンアブラバチなどがある。
[編集] 産業用の昆虫
歴史的にもっとも広範に利用されている産業用昆虫として、絹糸を生産するためのカイコガがある。柞蚕糸が取れるサクサンも同様に飼育されている。またミツバチ類は、蜂蜜やロイヤルゼリーの採取目的で飼育されている。カイコとミツバチは昆虫でありながら家畜になっているといえる。
農業用としては、天敵農薬以外に、果樹や野菜の受粉を助けるマルハナバチ類やミツバチが使用されている。
この他、海外では染料原料としてのカイガラムシ類も重要。また、釣り餌として累代飼育されているハエや爬虫類の餌として飼育販売されているコオロギなどもある。
[編集] 装飾用の昆虫
タマムシ、チョウ、ガなど、色彩や光沢の鮮やかな昆虫は、工芸品などの装飾材料にも利用される。
[編集] モデル生物として
小型で扱いやすいものは、モデル生物として重要である。ショウジョウバエなどが遺伝学で、コクヌストモドキなどが個体群生態学で演じた役割は非常に大きい。
[編集] 法医昆虫学
クロバエなどが死体にたかる特性を利用して、アメリカ合衆国などでは、遺体の放置時間を推定することが行われている。
[編集] 有害な面
害虫の項を参照のこと。
[編集] 系統関係
昆虫は1対の触角と大小の顎をもつことから、多足類の一部との類縁関係があると考えられることが多い。それらの中から、胸部と腹部の分化が生じ、腹部の付属肢が退化したものと考えられる。
現在一般的な昆虫綱の中では、カマアシムシ目、トビムシ目、コムシ目、シミ目が原始的である。翅の分化以前の分類群と考えられる。それ以外の昆虫は、翅を持っているか、持っていないものについては、二次的に退化させたものと考えられている。前記の4目については、翅を発達させる前の昆虫の姿をとどめるものと考えられていた。しかし近年の学説では、この中でコムシ、シミが昆虫の系統に属するものであるというのが一般的ある。カマアシムシ、トビムシはより以前に分岐したグループで昆虫に含める考え方と、別の系統であるとする考え方がある。
[編集] 分類
[編集] 多節昆虫亜綱 (Myrientomata)
- カマアシムシ目 (原尾目, Protura)
[編集] 少節昆虫亜綱 (Oligoentomata)
[編集] 無翅昆虫亜綱 (Apterygota)
[編集] 有翅昆虫亜綱 (Pterygota)
- ノミ目 (微翅目/隠翅目, Siphonaptera)
- チャタテムシ目 (噛虫目, Psocoptera)
- シラミ目 (虱目/裸尾目, Anoplura)
- アザミウマ目(総翅目, Thysanoptera)
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- カメムシ目(半翅目, Hemiptera)
- ハジラミ目 (食毛目, Mallophage)
- トンボ目 (蜻蛉目, Odonata)
- カゲロウ目 (蜉蝣目, Ephemeroptera)
- アミメカゲロウ目 (脈翅目, Neuroptera): ウスバカゲロウ、クサカゲロウ、ヘビトンボ、カマキリモドキ
- ヘビトンボ亜目(広翅亜目, Megaloptera)
- ラクダムシ亜目(駱駝虫亜目, Raphidiodea)
- アミメカゲロウ亜目(扁翅亜目, Planipennia)
- コウチュウ目 (甲虫目/鞘翅目, Coleoptera)

- チョウ目/ガ目(鱗翅目/蝶目/蛾目、Lepidoptera)
- シリアゲムシ目 (長翅目, Mecoptera)
- トビケラ目 (毛翅目、Trichoptera)
- カワゲラ目 (襀翅目、Plecoptera)「せきしもく」と読む。
- ゴキブリ目 (網翅目、Blattaria)
- シロアリ目 (等翅目、Isoptera)
- シロアリモドキ目 (紡脚目、Embioptera)
- カマキリ目(蟷螂目, Mantodea)
- ナナフシ目 (竹節虫目, Phasmida) : ナナフシ、コノハムシ
- ハエ目(双翅目, Diptera)
- ハチ目 (膜翅目, Hymenoptera) : ハチ、アリ
- ネジレバネ目 (撚翅目, Strepsiptera)
- バッタ目 (直翅目, Orthoptera)
- ハサミムシ目 (革翅目, Dermaptera)
- ジュズヒゲムシ目 (絶翅目, Zoraptera)
- ガロアムシ目 (擬蟋蟀目/欠翅目/非翅目, Notoptera/Grylloblattodea)
- マントファスマ目/カカトアルキ目(踵行目, Mantophasmatodea)
[編集] 分岐分類
(英語版より)
[編集] 無翅昆虫亜綱 Subclass: Apterygota
-
- Archaeognatha
- シミ目 Thysanura
- 絶滅目 Monura - extinct
[編集] 有翅昆虫亜綱 Subclass: Pterygota
-
- カゲロウ目 Ephemeroptera (mayflies)
- トンボ目 Odonata (dragonflies and damselflies)
- 絶滅目 Diaphanopteroidea - extinct
- 絶滅目 Palaeodictyoptera - extinct
- 絶滅目 Megasecoptera - extinct
- 絶滅目 Archodonata - extinct
[編集] 新翅下綱 Infraclass: Neoptera
-
-
- ゴキブリ目 Blattodea (cockroaches)
- シロアリ目 Isoptera (termites)
- カマキリ目 Mantodea (mantids)
- ハサミムシ目 Dermaptera (earwigs)
- カワゲラ目 Plecoptera (stoneflies)
- バッタ目 Orthoptera (grasshoppers, etc)
- ナナフシ目 Phasmatodea (walking sticks)
- シロアリモドキ目 Embioptera (webspinners)
- ジュズヒゲムシ目 Zoraptera
- ガロアムシ目 Grylloblattodea
- マントファスマ目 Mantophasmatodea (gladiators)
-
[編集] 外翅上目 Superorder: Exopterygota
-
-
- チャタテムシ目 Psocoptera (booklice, barklice)
- アザミウマ目 Thysanoptera (thrips)
- シラミ目 Phthiraptera (lice)
- カメムシ目 Hemiptera (true bugs)
-
[編集] 内翅上目 Superorder: Endopterygota
-
-
- ラクダムシ目 Raphidioptera (snakeflies)
- ヘビトンボ目 Megaloptera (alderflies, etc.)
- アミメカゲロウ目 Neuroptera (net-veined insects)
- 甲虫目 Coleoptera (beetles)
- ネジレバネ目 Strepsiptera (twisted-winged parasites)
- シリアゲムシ目 Mecoptera (scorpionflies, etc.)
- ノミ目 Siphonaptera (fleas)
- ハエ目 Diptera (true flies|fly|flies)
- トビケラ目 Trichoptera (caddisflies)
- チョウ目 Lepidoptera (butterflies, moths)
- ハチ目 Hymenoptera (ants, bees, etc.)
- 絶滅目 Miomoptera - extinct
- 絶滅目 Protodiptera extinct
-
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 斎藤哲夫、松本義明、平嶋義宏、久野英二、中島敏夫『新応用昆虫学』三訂版 朝倉書店 ISBN 4254420153
- 水波誠 『昆虫』驚異の微小脳 中公新書 中央公論新社 ISBN 4121018605
[編集] 外部リンク
- 日本産昆虫目録データベース - 九州大学による日本産昆虫のデータベース
- 昆虫図鑑 - 900種以上の画像付き昆虫図鑑