ワンロマ
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ワンロマとは、路線バスの車両の中で、貸切バスとしての運用を考慮した仕様として導入されたバスに対する、趣味者による俗称である。
平日は路線バスの需要が多いため路線バスとして使用し、路線車に余裕が出る休日は貸切バスの需要が多くなるために、車両の有効活用の方法として考案された仕様である。
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[編集] 定義
「ワンロマ」は当時の京王帝都電鉄(現:京王電鉄バス)の路線・高速兼用車(後述)に対する社内呼称が起源とされており、他社にも存在する同様の車両に対して趣味者が「ワンロマ」と呼び出したものが広まった俗称である。語源は「ワンマン・ロマンスシート車」(One-man Romance-seat)から。
なお、「ワンロマ」が正式な社内呼称として使用されていたのは、京王帝都電鉄と富士急行の路線・高速兼用車のみであるが、他にも旧国鉄バスではワンロマ様の車両を「半貸切仕様車(半貸)」と呼んだ例や、北海道中央バスでは郊外線用の中扉付ロマンスシート車を「中ロマ」と呼んでいる例がある。
[編集] 狭義のワンロマ
路線バスと貸切バスの仕様が大きく異なる事業者において、双方の中間的な仕様の車両に対して呼ばれる。 共通の仕様としては、以下のような点が挙げられる。
- 2つ以上の乗降扉を持つ。
- ハイバックシート・リクライニングシート・補助席のいずれかを装備。
- マイクジャック、ステレオ、ビデオデッキなどを車内娯楽用設備を装備(未装備例あり)。
- 新製導入時からの仕様または路線車両からの改造車である(貸切車からの格下車は対象外)。
従って、2箇所以上の扉を持ち、ハイバックシートであっても、これを標準装備とする事業者の車両については呼称の対象外となる(画像の佐賀市交通局の兼用車はトップドア車であるため、厳密には定義から外れるものの、シャーシは路線シャーシである)。
これは、この呼称の発祥の地である関東地方においては、上記仕様の車両を標準で投入した事業者は皆無であったためである(富士急行も関東に営業エリアを展開しているが、ここでの関東地方では含まない)。ゆえに、主に関東地方南部の事業者が保有する車両に限定して適用される傾向にある。逆に、地方都市の事業者で同様の事例が存在してもワンロマとは呼称しないことが多い。例えば、大分バスにはP-HU275BA、P-HU233BAなどが上記の仕様で存在し一般路線車との仕様差も大きいが、ワンロマとは呼ばれていない。
[編集] 広義のワンロマ
「狭義のワンロマ」で記した共通の仕様を全て充たしているわけではないが、路線バス・貸切バスの兼用車をはじめとして、座席定員を多く確保した仕様など、通常の路線バス車両とは異なる仕様にしている車両について「ワンロマ」と呼ばれることがある(後述の富士急行「乗合デラックス」を「ワンロマ」と呼んでいたケースがある)。極端なケースでは、観光バススタイルの正面になっていても「ワンロマ」と呼ぶケースもある。実際にそう呼んでいるのは、やはり関東地方在住のファンが多いが、これは「狭義のワンロマ」で記したように、関東地区ではそういった車両を標準仕様としている事業者が皆無に等しいことから、普段見ているバスを基準にしていることによる。
最近では、京王帝都電鉄バスで使用されていたワンロマ車が他社へ譲渡された際に「元ワンロマ車」として扱われ、その地方で類似仕様の車両を「ワンロマ仕様」と呼ぶケースもあるようである。
この場合でも、貸切車からの格下車は対象外とされているケースが多い。
[編集] 運用
いずれの車両も、路線バスとしての使用時には、着席時にはかなり快適であるが、逆に立席スペースが少なく、つり革なども少ないことから、混雑するバス向きではない。中途半端な面はあるものの、近年はバス乗客が減少しているため、ある程度の混雑であれば対応可能になってきていることから、サービスアップと車両運用の効率化が同時に図れるために導入されている。
また、貸切の経年車を使用することが多かった深夜急行バスも、近年の代替ではこのタイプの車両が新車投入されている。これは、バリアフリー法対応のため車椅子スペース設置する事を主な目的としている。関東地方では、後述の東急バスを皮切りに関東バス、国際興業バス、ちばグリーンバス、東武バスの各社で導入されており、国際興業、東武バスでは現在のところ(流用貸切を除けば)深夜急行専用だが、東急バスでは一般路線および新横浜駅~溝の口駅(第3京浜経由)や五島育英会等の契約貸切に、ちばグリーンバスでは一般路線、関東バスでは途中無停車の鷹34(三鷹駅北口~武蔵野大学)への運用もある。また、相鉄バスでも深夜急行用に路線シャーシ、路線ボディの車両を導入しているが、こちらはトップドアである。
そのほか、千葉海浜交通では3扉、千葉内陸バスでは前後扉の一般路線車にハイバックシートを取り付け、貸切対応に改造した車両が存在する。千葉海浜交通では貸切専用車として使用されていたが、新造の中型貸切車(日野メルファ)で代替された模様である。また、千葉内陸バスでは稼働率は少ないものの、一般路線でも使用される。
[編集] 路線・貸切兼用車
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[編集] 路線・高速兼用車
平日は路線バスの需要が多いため路線バスとして使用し、休日は高速バスの需要が多くなるために、車両の有効活用の方法として考案された仕様である。貸切バスは必ずしも高速道路を走行するとは限らないことから考えても、全く異なる走行条件の車両を兼用させた例は少なく、ワンロマ車の中でも特殊な部類に位置付けられる。
- 沖縄本島の高速バスは、設備面では全く一般路線バスと同様の路線バス用機器を有するリクライニングシート装備車であるが、もともと明確な区別がされているわけではなく、一般路線の一部系統が沖縄自動車道経由であるという位置付けに近い(このため、一般路線車も高速バスで使用されることがある)ため、このカテゴリには該当しない。
- 路線バスのシャーシを利用して、内装を高速車と同様の仕様にしたバスを導入し、高速バスに使用しているバス事業者も存在するが、この場合はあくまで位置付けが「高速車」となっており、一般路線バスの運用に入ることは考えていないため、ワンロマ車には含まれない。
時期波動の大きい中央高速バス富士五湖線を運行する京王帝都電鉄(現:京王電鉄バス)・富士急行で数次に分けて導入していたが、100kmを超える距離を走る高速バスと路線バスの兼用としてまとまった台数を導入した例は他にはほとんどない。京王帝都電鉄・富士急行のワンロマ車については、「中央高速バス#高速・路線兼用車「ワンロマ」」に詳述されているため、ここではそれ以外の導入例について述べる。
- 京浜急行電鉄(現:京浜急行バス)
- 京浜急行電鉄(現:京浜急行バス)では、横浜駅~羽田空港線に使用される車両の一部車両を前中扉の路線バス車体で増備した。ハイバックシートを装備し、一般路線にも使用できる仕様となっている。導入当初は横浜駅~羽田空港線専用だったが、現在は一般路線での運用がメインとなっている。1996年以降は増備されていない。
- なお、外観上ほぼ同一仕様の車両が川崎駅~羽田空港線で使用されているが、こちらは車内に荷物置き場を設置し、空港路線に特化した仕様となっていることから、このカテゴリには含まれない。
- 静岡鉄道バス(現:しずてつジャストライン)
- 静岡鉄道バスでは、特急静岡御前崎線の予備車として、三菱エアロスター(U-MP618MT・U-MP618PT)前後扉の車両の一部を路線貸切兼用車として導入した。競輪輸送にも使用されるなど、高速道路を経由する機会も多いため、過給器付エンジンを搭載しており、車内はシートベルト付ハイバックシートが並ぶ。相良・浜岡地区に配置され、普段は一般車と共通運用になっている。現在は1995年増備の車が活躍中。
- 遠州鉄道
- 遠州鉄道では、静岡~浜松の高速バス路線車両として、1984年に路線・高速兼用車を1台導入した。これは、日野の観光バスシャーシ(日野P-RU637AA改)に富士重工の5E型車体を架装したもので、「高速バスの足回りを持った路線車」という点で、京王・富士急行とは逆の組み合わせの仕様であった。標準床ということで、高速車両としては物足りない設備であったことから、数年で高速車としては使用されなくなった。また、高速車ということで座席定員確保を考えたために、中扉は通常の折戸となっていたが、4枚折戸が標準となっていた遠州鉄道路線車の中では使いづらいものとなり、1995年に廃車された。なお、浜松~静岡の高速バス路線についても、1994年3月31日限りで廃止となっている。
- 三重交通
- 三重交通では、高速バス車両をA特急車、トップドア路線バス車をB特急車と社内で呼称しており、B特急車は主に契約輸送や、名古屋市内の路線バス、観光路線などで使われている。三重交通の名古屋市内の路線バスは全て桑名営業所の担当で、名古屋桑名間の路線バスで車両が送り込まれるが、運用の都合によっては、B特急車が東名阪経由の高速バスで桑名から名古屋へ車両が送り込まれる場合もある。
- なおB特急車は排ガス規制や、バリアフリー法の影響で廃車や桑名からの転出が進み、三重交通の名古屋市内の路線バスは高速バスの間合いのA特急車や、一般路線車で運転されるケースが増え、B特急車が高速バスとして走るケースは無いようである。