博士の愛した数式
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『博士の愛した数式』(はかせのあいしたすうしき)は、小川洋子の小説(ISBN 4-10-401303-X)。2003年8月新潮社刊。第一回本屋大賞受賞。
交通事故による脳の損傷で記憶が80分しか持続しなくなってしまった元数学者「博士」と、博士の新しい家政婦である「私」とその息子「ルート」の心のふれあいを、美しい数式と共に描いた作品。
本屋大賞受賞、2006年1月の映画化の影響をうけ、2005年12月に文庫化(ISBN 4-10-121523-5)されるやいなや新潮文庫では史上最速の2ヶ月で100万部を突破した。
数学者エルデシュを描いた『放浪の天才数学者エルデシュ』 (ISBN 4-79-420950-9) が参考文献として挙げられており、エルデシュは「博士」のモデルと言われることもある。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
目次 |
[編集] あらすじ
家政婦紹介組合から『私』が派遣された先は80分しか記憶が持たない元数学者「博士」の家だった。こよなく数学を愛し、他に全く興味を示さない博士に、「私」は少なからず困惑する。ある日、「私」に10歳の息子がいることを知った博士は、幼い子供が独りぼっちで母親の帰りを待っていることに居たたまれなくなり、次の日からは息子を連れてくるようにと言う。次の日やってきた「私」の息子を博士は「ルート」と呼び、その日から3人の日々は温かさに満ちたものに変わってゆく…。
[編集] 登場人物
- 博士
- 64歳。数学(整数論)専門の元大学教授。数学と子供と阪神タイガース(特に博士が事故に遭った当時阪神の選手だった江夏豊投手(背番号は2番目に小さい完全数である28))をこよなく愛している。47歳のときに巻き込まれた事故により、新しい記憶が80分しか持続しないようになってしまった。大切なことを記したメモ用紙を体中につけている。クッキー缶の中に、野球カードや思い出の写真などをしまっている。他者と接することが苦手で、何を話して良いか分からなくなったとき、言葉のかわりに数字を持ち出すのが癖。特技は、文章や単語を逆さまから読むことと、一番星を見つけること。
- 私
- シングルマザーの家政婦。数学にしか興味を示さない博士に初めは困惑するが、博士の優しさやその数学への情熱に触れるうちに、博士に尊敬や親しみを抱くようになる。私の誕生日である2月20日(220)と、博士が大学時代に超越数論に関する論文で学長賞を獲った時に貰った、腕時計の文字盤の裏の番号No.284(284)は、友愛数の関係にある。博士が投稿している数学の懸賞問題の雑誌『JOURNAL of MATHEMATICS』を、上手く発音する自信がないため、「ジャーナルオブ」と呼んでいる。博士の誕生日に、江夏豊の野球カードを贈る。
- ルート
- 10歳。「私」の息子。頭が「√ 」のように平らだったので博士に「ルート」と呼ばれるようになる。阪神タイガースのファンで、博士に頼んでラジオを直して貰い、一緒にラジオ観戦をする。因みに、大人になったルートは中学校の数学の教師になる。
- 未亡人
- 博士の義姉。(博士の兄の妻)事故のせいで足が悪い。
[編集] 作中に登場する数学用語
- ルート
- 虚数
- 階乗
- 友愛数
- 素数
- 双子素数
- 完全数
- 過剰数
- 不足数
- 三角数
- ルース=アーロン・ペア
- メルセンヌ素数
- ネイピア数
- オイラーの公式
- フェルマーの最終定理
- アルティン予想 参考w:Emil Artin(アルティン)
[編集] 映画
「私」の視点で描かれた原作に対し、映画では中学校の数学教師になった29歳のルート(原作に準ずれば教員生活7年目)が、あるクラスの最初の授業で博士との思い出を語るというものになっている。また、原作では深く描かれなかった博士と未亡人の関係についても触れていることなどの違いはあるが、原作をほぼ忠実に映画化している。興行収入12億円のヒットとなった。
[編集] キャスト
[編集] スタッフ
- 原作:小川洋子「博士の愛した数式」(新潮社刊)
- 脚本・監督:小泉堯史
- プロデューサー:荒木美也子 桜井勉
- エグゼクティブプロデューサー:椎名保
- 撮影:上田正治 北澤弘之
- 美術:酒井賢
- 録音:紅谷愃一
- 照明:山川英明
- 衣装コーディネーター:黒澤和子
- 音楽:加古隆
- 配給:アスミック・エースエンタテインメント
[編集] ラジオドラマ
大阪の毎日放送(MBS)の開局55周年記念企画として、MBSラジオで2006年3月19日の19:30~21:00にラジオドラマとして放送された。脚色は倉持裕、出演は柄本明、中嶋朋子、武井証ほか。ラジオドラマ版では、ドラマの鍵となる阪神タイガースのエピソードも織り交ぜる。1992年9月11日の阪神対ヤクルト戦で、直後に二塁打と判定された“代打の神様”こと八木裕選手の“幻の本塁打”で、実況アナウンサーが「サヨナラ!サヨナラ!」と連呼するシーン(MBS制作の音源を使用)も登場する。なお、このドラマはTBSラジオでも同年3月25日の19:00~20:30に放送された。