奇跡の詩人
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
「奇跡の詩人」(きせきのしじん)は2002年4月28日に『NHKスペシャル』として放送されたテレビ番組。重度障害児の少年(番組では実名)が母親の手を借りて文字盤を指差し、哲学などを語っているというもの。
目次 |
[編集] 概要
母親は少年が指したい文字を読み取り、それに応じた手の動きを感知して文字盤の上の文字を高速で読み取り、それを口述できるとされた。少年は障害の民間治療としてドーマン法(英:Doman Method)またはファシリテーティド・コミュニケーション(英:Facilitated Communication)と呼ばれるアメリカ発のリハビリ療法を受けており、重度障害児であるはずの少年がこのようなことを可能としたのは、その療法の成果として紹介された。
しかし、この番組を見た視聴者の間で、母親が少年の手を持って文字盤を指している場面で、少年があくびをしたり、よそ見や居眠りをしている間も正確に文字盤を指しているなど不自然な場面が多々見られるという指摘がなされ、「母親が少年の手を動かして文字盤を指させているのではないか」「ドーマン法は本当に効くのか」という疑問が沸き起こった。また泣いている妹を虐待している疑惑があるとして、インターネットを中心にその内容の信憑性をめぐって議論になった。この疑問を巡っては『異議あり! 「奇跡の詩人」』という批判本も出版された。
批判派はこれが事実であるかどうか確認するために「母親が目隠しして、少年に何かを書いた紙を見せ、その後で少年に今見たものは何かを尋ねる」などの第三者による厳密な検証をすべきだと主張している。しかし、少年の父親はこうした検証を拒否しており、真偽は不明である。
番組に対して少なくない批判を受けたNHKは特別に会見番組を放送するなどして「信憑性を否定する事実は無い」と広報したが、通常のNHKスペシャルで行われる再放送や海外での放送は取りやめ、WEB上での放送記録を消すなど、実質上「放送はなかった」ように処理された。
また、放送から数日後、講談社から少年著の『ひとが否定されないルール』が「NHKスペシャル大反響」の帯付きで発売され、NHKと講談社とのタイアップ疑惑も指摘された。
[編集] NHKと講談社
講談社は『おかあさんといっしょ』の雑誌『NHKのおかあさんといっしょ』を発行し、1990年代後半には『カードキャプターさくら』『あずきちゃん』『だぁ!だぁ!だぁ!』『十二国記』などの漫画・小説が『衛星アニメ劇場』などで次々とアニメ化された。また最近はNHK韓国ドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』のコミカライズの連載を行っている。また、大平光代の『だから、あなたも生きぬいて』(2000年)を出版した際にもNHKスペシャルなどで扱われたことを宣伝に大きく利用している。このことから、NHKと講談社は『奇跡の詩人』だけでなく、メディアミックスにおいて親密な関係があるという指摘がある[要出典]。
ただし、『月刊現代』がNHKによるインドネシアの爆弾漁法報道はやらせだったと報じた問題で、NHKから民事裁判を起こされ(裁判は和解)るなど、ジャーナリズム色の強い部門はNHKとの関係が相当悪い。『週刊現代』は2004年以降のNHKの不祥事を追及している。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 『ひとが否定されないルール―妹ソマにのこしたい世界』(日木流奈著 講談社 ISBN 4062113120)
- 問題にされた本。
- 『異議あり! 「奇跡の詩人」』 (滝本太郎、石井謙一郎共編著、同時代社) ISBN 4886834752
- 『と学会年鑑2002』 (と学会著、太田出版) ISBN 4872336372
- 巻末の第10回日本トンデモ本大賞選考(2001年8月18日開催)において、ノミネート外作品として少年著の『伝わるのは愛しかないから』を紹介。
- 『と学会年鑑BLUE』 (と学会著、太田出版) ISBN 4872337476
- 藤倉珊が『伝わるのは愛しかないから』を紹介。例会で発表されたのは2001年で「奇跡の詩人」放送前であったため(出版は2003年)付記で番組を批判。
- 『ハインズ博士「超科学」をきる』 (テレンス・ハインズ著、井山弘幸訳、化学同人) ISBN 4-7598-0275-4
- 15章「はびこるいかさま療法」の中でドーマン法の問題点や科学的間違いを指摘している。
- 『SKEPTICAL INQUIRER』 May/June 2003,P.12-13(The `Miracle Poet` Case,SADAHIKO NAKAJIMA)