水からの伝言
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『水からの伝言』(みずからのでんごん)、略称『水伝』とは、水の結晶(つまり、氷)の写真を集めた写真集で、江本勝の著作。著者らが開発した方法で撮影した「雪花状の氷」[1]の写真を収録する。2006年現在までに20万部以上が発行された。続編や関連書も多くあり、日本国外でも出版した。水に言葉をかけると結晶の形がその言葉に影響されると主張しており、一般には疑似科学書とされるにもかかわらず、初等教育に使われるなど社会的影響が大きく、問題となっている。
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[編集] 本の主張
江本らは、結晶を作る際に「ありがとう」や「平和」など「よい言葉」をかけると美しい雪花状の結晶ができ、「ばかやろう」や「戦争」など「悪い言葉」をかけると汚い結晶ができると主張している。言葉のかけ方は「紙に言葉を書いて、水をいれたビンに貼る(この際、水から「見える」ように文字の書かれた面を内側にして貼る)」あるいは「水のはいったビンに向かって声をかける」などである。また、水をいれたビンに「音楽を聴かせる」と音楽の種類によって結晶形が変わると主張されている。
[編集] 科学的な注釈
彼らの実験で作られる雪花状の氷は、雪や霜と同様に「気相成長」でできたもの、つまり種となる氷に周辺の水蒸気がくっついてできたものである。ひと言で言えば、「小さな霜」である。したがって、結晶の形は中谷宇吉郎が研究した雪の結晶形の成長条件に従い、雪花状に成長するかどうかは温度と水蒸気量で決まる。形こそ雪花状であるが、雪や霜がそうであるのと同様、分子構造は普通の氷と同じである。
[編集] 本への批判
物体に過ぎない水が江本らの主張するように音楽や言葉の内容に反応する事は科学的にはあり得ない。江本らはこれを「波動」と説明しているが、そもそも「波動」自体が代表的な疑似科学とみなされており、科学的には実在を認められていない。なお、時として誤解されるが、言葉や音楽を見せたり聴かせたりするのはあくまでも凍らせる前の水に対してであり、結晶成長時ではない。したがって、音波が影響する可能性を考慮する必要はない。
[編集] 波紋
この書籍が小学校などの道徳教材に使われ、問題となった。授業の実践例が「TOSS(教育技術法則化運動)」で紹介され、授業案のリンク集である「TOSSインターネットランド」に収録されたことが、広まった要因である。これに対して学校関係者や科学者からは、激しい批判が起きた。単に擬似科学・ニセ科学を授業で教えることが科学的見地から批判されているだけではなく、「言葉の善し悪しを水に教わる」という内容自体がそもそも道徳教材として不適切であると指摘されており、問題は科学的正否にとどまらない。また、「画一的な美的感覚の押しつけ」であるとの指摘もある。
[編集] 著者の説明
江本は「水からの伝言」を「科学」ではなく「ファンタジー」「ポエム」と自ら認めている[2]。しかし、いずれは証明されるとも述べており、事実ではないとは認めていない。当然、現在のところ証明要素は全く存在しない。また、江本は、『水からの伝言』の絵本版を2006年から2015年にかけて約500億円の予算で6億5000万部を印刷し世界中の子供たちに配布する計画を発表している [2][3]。
[編集] 関連図書・資料
- 『水は答えを知っている―その結晶にこめられたメッセージ』 江本 勝(著) サンマーク出版 ISBN 4763193961 2001年
- 『水からの伝言―世界初!!水の氷結結晶写真集(Vol.2)』江本 勝(編集) 波動教育社 ;ISBN 4939098044 Vol.2 2001年
- 『自分を愛するということ―水からの伝言 Vol.3』 江本 勝(著), 波動教育社 ISBN 4939098052 2004年
[編集] 批判・反論書籍
- 『トンデモ本の世界T』 と学会(著), 太田出版 ISBN 4872338499 2004年(同書の中で藤倉珊が一連の『水からの伝言』シリーズを取り上げ、間違いや問題点を指摘している)
- 『水はなんにも知らないよ』 左巻健男(著), ディスカヴァー携書 ISBN 9784887595286 2007年
(『水からの伝言』シリーズの間違いや問題点を指摘している他、マイナスイオン水や波動水など水が 関係した疑似科学全般の間違いや問題点について言及している)
[編集] 脚注
[編集] 外部リンク
- 水への愛と感謝プロジェクト
- 水からの伝言 株式会社I・H・M
- 絵本版「水からのでんごん」(国際生命の水協会)
以上は全て江本勝関連
批判サイト
- 「水からの伝言」を信じないでください(田崎晴明)
- kikulog(菊池誠)
- 水商売ウォッチング天羽優子(山形大学)による批判サイト
- やっかいな「水からの伝言」 世界一の誤解 市民のための環境学ガイド(安井至)
- Skeptic's Wikiの「水は答えを知っている」の項目
批判に対する批判サイト
- 「水は変わる」(吉岡英介)