港湾
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港湾(こうわん)、港・湊(みなと)とは、天然の地勢(島嶼・岬など)や人工構造物(防波堤など)により風浪を防いで船舶が安全に停泊することのできる、水陸交通の結節点となる場所・施設を指す。港湾には、物流・旅客輸送が円滑に行われるために各種の港湾施設が整備され、ポート・オーソリティ・港務局・地方自治体などの組織によって運営されている。
目次 |
[編集] 歴史
[編集] 機能
港湾に求められる最も重要な機能は、船舶が安全に停泊できるようにすることとされている。島・岬や湾入などにより遮蔽された地形は、しばしば天然の良港と呼ばれる。近代に入ってからは、防波堤・岸壁といった構造物や掘り込み式港湾などの建設技術が著しく向上し、天然の地形に恵まれない場所でも大規模な港湾が造られている。英語の Harbour は古英語の軍隊(here)をかくまう(beorg)に由来しており、船舶が安全に停泊できる港という避難港的な意味合いが強い。
旅客の乗降や貨物の荷役・保管といった水陸輸送の転換機能、すなわちターミナル機能も港湾の重要な機能である。そのため、港湾には、船舶の係留のみならず、貨物の荷さばき・保管、旅客の乗降、港湾から後背地への陸上輸送などのための施設が整備されている。英語の port の語源は、古代ローマのラテン語の運ぶ(portare)である。そして運び入れたり運び出す場所をport(門)と呼ぶようになり、都市・国家間の輸送の門である港湾の意味に転じた。すなわち、port には水陸輸送の転換場所という意味合いが強い。
これらの他の港湾の機能としては、船舶へ水・燃料・食糧・船用品などを補給する運行援助機能などがある。
[編集] 分類
[編集] 主要な分類
港湾は機能・用途・運営主体・規模・法令などによって分類することができる。代表的な分類としては、用途による分類がある。港湾の用途に応じた分類であるが、出入港する船舶種類に応じた分類であるとも言える。用途による分類の概略を以下に示す。
種類 | 内容 | 主な入港船舶 |
---|---|---|
商港 | 外国貿易・内国貿易による貨物取扱いを主とする港湾 | 貨物船、コンテナ船など |
工業港 | 工業地域に接し原料や工業製品の取扱いを主とする港湾 | タンカー、原料輸送船など |
漁港 | 水産物の取扱いを主とする港湾 | 漁船など |
フェリー港 | 車両・旅客を運送するフェリーが出入港する港湾 | フェリー |
マリーナ | 娯楽・観光目的の船舶が停泊・発着する港湾 | ヨット、遊覧船など |
軍港 | 軍事的な性格を持った港湾 | 軍艦、空母など |
避難港 | 小型船舶が強い風浪から避難するための港湾 | 小型船舶など |
また、港湾の立地・地形に着目した分類もある。港湾の多くは海洋に面している海港・沿岸港であるが、河口や河川・湖に建設された港湾も少なくない。概略は以下のとおり。
種類 | 内容 | 港の例 |
---|---|---|
海港・沿岸港 | 海洋に面した港湾 | 多数 |
河口港 | 河口に位置する港湾 | ルアーブル港、酒田港 |
河川港・河港 | 河川に面した港湾 | ロッテルダム港、ロンドン港、旧伏見港、上海港、ハンブルク港 |
湖港 | 湖に面した港湾 | シカゴ港、土浦港 |
以上のほか、天然の地勢に恵まれた天然港と、海浜掘込など人為的に建設された人工港のように建設方法による分類、高緯度地域において冬季でも暖流などによって凍結することのない不凍港の分類などがある。
[編集] 日本における分類
日本においては、いくつかの港湾関係法令が制定されており、それぞれの法令目的に従って港湾分類がなされている。
港湾の管理・建設を目的とした港湾法においては、次のような港湾区分を設けている。
区分 | 概要 |
---|---|
特定重要港湾 | 重要港湾の中でも国際海上輸送網の拠点として特に重要な港湾 |
重要港湾 | 国際海上輸送網又は国内海上輸送網の拠点となる港湾など |
地方港湾 | 重要港湾以外で地方の利害にかかる港湾 |
56条港湾 | 港湾区域の定めがなく都道府県知事が港湾法第56条に基づいて公告した水域 |
避難港 | 小型船舶が荒天・風浪を避けて停泊するための港湾 |
水産業の発展を図り漁港漁場の整備の推進を目的とした漁港漁場整備法において、漁港に関する区分がなされている(→漁港)。行政において、港湾は港湾法に基づく港、漁港は漁港漁場整備法に基づく港だとして、明確に区別されている。
港内における船舶交通安全の確保を目的とした港則法は、喫水の深い船舶・外国船舶が常時出入りできる港を特定港として分類しているほか、港則法を適用する港を港則法適用港(港則法施行令別表第1)としている。
貨物の輸出入の手続きについて定める関税法においては、外国船舶が寄港できる開港とそうでない不開港を区分している。その他、検疫法による港湾分類、入国管理法による港湾分類がある。
[編集] 管理・運営
[編集] 港湾管理者
港湾を管理・運営している主体、すなわち港湾管理者には、ポートオーソリティ・港務局・地方自治体などがある。
ポートオーソリティとは、公営企業の形態をとった港湾管理組織であり、独立採算によって港湾および港湾隣接区域の運営を行うもので、主にヨーロッパ・北米で広く普及している。このポートオーソリティ制度を模範として、第二次世界大戦後の日本で導入されたのが港務局である。港務局もポートオーソリティと同様、独立採算の公営企業形態をとっている。日本で港務局を設置しているのは、新居浜港のみである。日本では新居浜港を除いて、ポートオーソリティ・港務局の代わりに地方自治体が港湾の管理・運営主体となっている。
[編集] 関係機関
港湾に関わる公的な機関には、港湾管理者のほか港長・沿岸警備隊・税関・検疫所・出入国管理機関などがある。
港長は、港湾内の水域における船舶の安全な航行・停泊・荷役などを司る職である。港長のもとでこれらの任務に当たるのは沿岸警備隊(日本での海上保安庁)であることが多い。税関は、港湾を通じて輸出入する貨物・物資を検査し、関税の課税・徴収を行う機関である。このほか、密輸取締りなども税関の業務である。検疫所は、外国から国内に伝染病の病原菌が侵入するのを防ぐ機関であり、外国から来た船舶は、検疫所の検疫が完了するまで人の上陸・貨物の陸揚げを行うことができない。国・地域により異なるが検疫所には動物検疫所・植物防疫所などがある。また、出入国管理機関も港湾に関係する機関である。多くの国・地域で、港湾を通じた出入国を公正に管理するために設置されている。
[編集] 関係事業者
港湾に関わる事業者には、船舶代理店・港湾運送事業者・荷役事業者・はしけ(いかだ)運送事業者・検数事業者・検定事業者・水先人・曳船業者(タグボート)などがある。
[編集] 構成・施設
[編集] 港湾の構成
港湾は水域と陸域に二分される。国・地域により異なるが、水域部分については一定の区域を港湾区域として定め、陸域部分についても臨港地区として指定することのが一般的である。陸域における臨港地区は商港区・工業港区・鉄道連絡港区・漁港区・保安港区などに区分され、港湾機能の有効的な発揮が図られている。
また、港湾の一定の区域を埠頭という。埠頭は、その区域内の港湾施設を総称したものであり、港湾の中枢をなす。(→詳細は埠頭を参照。)
[編集] 港湾施設
水域・陸域それぞれに各種の港湾施設が整備されている。主要な港湾施設は下表のように区分されている。(→詳細は港湾施設および各項目を参照。)
区分 | 施設の例 |
---|---|
水域施設 | 航路、泊地など |
外郭施設 | 防波堤、防潮堤、堤防など |
係留施設 | 岸壁、物揚場、係船浮標、桟橋、浮桟橋など |
臨港交通施設 | 港湾道路、臨港鉄道、運河など |
荷さばき施設 | ガントリークレーン、荷役機械、上屋など |
旅客施設 | 旅客乗降用施設、旅客ターミナルなど |
保管施設 | 倉庫、野積場、貯木場、コンテナターミナルなど |
船舶役務用施設 | 給水施設、給油施設など |
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 小林義久監修・池田宗雄著、『港湾知識のABC』、青山堂書店、1994年、ISBN 4425391241
[編集] 外部リンク
- 港湾法 - 法令データ提供システム