コンテナ船
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コンテナ船(コンテナせん、container ship)とは、貨物船の一種で、全ての貨物をトラック大のコンテナに入れて輸送する船。貨物輸送をすべてコンテナを使って行うことをコンテナ化(コンテナライゼーション、containerization)という。コンテナは商業貨物の輸送手段として最も一般的な手段となっており、陸上ではトレーラーで牽引されあるいは貨物列車に載せられ、海上ではコンテナ船に積まれ、輸出元の工場などから輸入先の店舗や倉庫などへ一貫輸送されている。
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[編集] 歴史
- コンテナ#歴史も参照せよ
世界最初のコンテナ船は、第二次世界大戦後に余った軍用タンカー(リバティー船の一種、T-2 タンカー)を改造して建造された。全米有数の陸運業者の経営者で、船にもトラックに積めて海陸一貫輸送ができる「コンテナ」というアイデアの発案者だったマルコム・マクリーン (Malcolm McLean) は、アイデアを実現すべく自らのマクリーン・トラッキング社を売って船会社パンアトランティック・スチームシップ社を買収し、T-2タンカーを買ってコンテナ船「Ideal-X」に改造し、1956年の4月に58個の金属製コンテナを積んでニュージャージー州ニューアークからテキサス州ヒューストンまでの区間を航行させた。
マクリーンは1960年、パンアトランティック社を「シーランド」と改名してコンテナ船の運航やコンテナ専用埠頭の運営に乗り出し、海外にも進出した。やがて各国の船会社が追従し、1970年代には港運のコンテナ化が急速に進んだ。ユニット化されたコンテナをガントリークレーンで積み下ろすことは、作業員や小型クレーンがバラ積み貨物を積み下ろしするよりも早く済むため、在来貨物船に比べ定時運航や速達性に優れたコンテナ船が貨物船の主流となっていった。
1980年代以後、一度にたくさんのコンテナを運んで運賃競争に勝つために、パナマ運河を通過できるサイズ(パナマックス)より大きなオーバー・パナマックス船が登場したが、その後も巨大化が進み、2000年代にはスエズ運河を通れるぎりぎりの大きさ(スエズマックス)に近いコンテナ船も現れた。現在、コンテナ船はあらゆる貨物を運ぶ目的で建造され、その大きさは、貨物船の中では原油を輸送するための超大型タンカーに次ぐものとなっている。
[編集] 構造・特徴
コンテナのみを積むフルコンテナ船はスペースの無駄を極力減らして建造されている。コンテナ船の積載能力は、TEU(twenty-foot equivalent units、20フィートコンテナ1個分)という単位で計測され、4,000TEUといえば20フィートコンテナを4,000個積める大きさの船ということになる。もっとも、現在ではコンテナの主流は40フィートコンテナとなりつつある。
ある程度の大きさ以上のコンテナ船は、スペース節約のため独自の荷役機器(クレーンなど)は積んでいない(フルコンテナ船)。コンテナの積み下ろしは、埠頭に設置されているコンテナ専用のガントリークレーンで行う。しかし2,900TEU以下の比較的小さなコンテナ船は、施設のない港での積み下ろしなどのためクレーンを備えている場合もある(セミコンテナ船)。
ほとんどのコンテナ船はディーゼルエンジンでプロペラ(スクリュー)を回して推進力を得ている。また乗組員は20人から40人である。居住区画はふつう船尾のエンジン室の真上に設けられている。
[編集] コンテナ船の貨物と種類
英語の俗語ではコンテナ船は「box boats」とも呼ばれる。コンテナ船は世界の貨物(特に、冷凍の必要な食品や、液体・気体など特殊な貨物を除く、日用品、工業製品、精密機器、木材や金属インゴットのような原材料などドライカーゴと呼ばれるもの)のほとんどを運んでいる。金属鉱石、石炭、穀物など単価の安いものは今でもバラ積み船や鉱石運搬船など在来貨物船で運ばれている。
コンテナ船には、設備が整った世界各地の基幹港湾(ハブ港)だけを結び深い海路を進む大型船と、ハブ港から地方港湾を結ぶフィーダー路線を進む小型船とがある。世界の大型ハブ港湾にはロッテルダム、コペンハーゲン、シアトル、オークランド、ロサンゼルス、シンガポール、香港、上海、高雄、プサンなどがあり、日本の地方港湾はプサンや上海からの支線が延びるフィーダー港湾に当たる。世界各国の代表的な港湾や、横浜港や神戸港など日本の中枢港湾(指定特定重要港湾)は、超大型コンテナ船が立ち寄るハブ港から外されないよう、大型投資や制度改善を進めている。
[編集] 特殊なコンテナ荷役
通常のコンテナで運ぶには大きすぎる貨物は、天井のないオープントップコンテナや、天井・両側壁のないフラットラックコンテナ、床しかないフラットベッドコンテナに載せてコンテナ船に積むことがある。通常は海損防止のため船倉内に船積みされるが、その際にデッドスペースが発生するため海上運賃は高い。
生鮮食品や冷凍食品、電子部品など、冷凍輸送の必要な貨物は冷凍コンテナ(リーファーコンテナ)で運ばれる。コンテナ船ではこれらの運送の際、船内のコンセントで常時コンテナの冷凍ユニットを稼動できるようになっており、航海中に停止していないか船員によって管理されている。
コンテナ船の中にはRO-RO船(ローローせん、ロールオン・ロールオフ船)というものもあり、フェリーのようなランプを備え、コンテナトレーラーが岸壁から直接船内に入ってそのまま積載されるようになっている。RO-RO船は普通、コンテナ用クレーンを備えていない小規模港湾を結ぶ航路に投入されており、荷役の簡単さと早さからコンテナの末端輸送手段として頻繁に使われている。
[編集] コンテナ荷役の流れ
以下は一般的な荷役を時系列に並べたものであるが、港によって多少異なる。
- コンテナヤードに搬入されたコンテナは、サイズ・タイプ・向け地別に大まかに分類され、仮置きされる。
- 船積みする一つ一つのコンテナの種類・向け地・重量などのデータを細かく計算し、本船への積みつけプランを作成する。この重要な作業を行う者をプランナーと呼ぶ。
- 積みつけが決まったら、電話やFAX又は本船が他港に停泊中であればその港の荷役会社(=ステベ)を通して一等航海士と事前に打ち合わせをし、変更点があれば修正する。これはコンテナ船のスケジュールが分刻みで定められており、荷役当日のトラブルを極力回避するためである。またコンテナヤードではスムーズに船積みできるよう、積みつけプランに基づき仮置きされたコンテナの配置替えを行う。
- 本船が着岸すると作業員は速やかに乗り込み、当該箇所のコンテナ固定器具を解除して船卸しの用意に取りかかる。同時に荷役責任者は一等航海士とプランの最終確認および出港時刻などの打ち合わせを行う。この荷役責任者のことをフォーマンとよぶ。
- 荷役は通常、船卸し(=揚げ)から始められる。岸壁では次々と揚がってくるコンテナの番号・シール番号と外装を検数員がマニフェストに基づくデータと対査し、問題がなければ専用シャーシに乗せられヤードに搬入される。
- ヤード内ではストラドルキャリアやトランステナーなどの荷役機器によって段積みで蔵置される。また冷凍コンテナや危険品は専用の区画へ蔵置される。
- 船積みは船卸しと逆の要領である。ヤード内から船側(せんそく)に運ばれたコンテナは、プランに従って本船に積み込まれる。通常船倉にはセルガイドという横ずれ防止用の枠があるので特に強固に固定する必要はないが、甲板上(=デッキ)に積む際には上下のコンテナ同士を「ツイストロック」又は「オートロック」などの器具で固定するほか、1~3段目までのコンテナを「ラッシングバー」「ターンバックル」などの頑丈な器具で厳重に固定する。
- 出港時刻は本船が着岸する前にすでに決まっていることが多く、定められた時間までに荷役を終わらせ本船は次の港へと出港していく。
[編集] コンテナ船のリスク
最新のコンテナ船は、14,000TEUという桁外れに大きなものが登場してきているが、この場合一隻の積む貨物の総額は3億USAドルにも達することがある。こうした大型船が絶えず世界の海を航行しているため(常時、500万から600万個のコンテナが海を行き交っている)それに伴うリスクも非常に大きい。
リスクの中には荷役に関わるものもある。コンテナ積載時に税関へ提出するマニフェスト以外に、コンテナの中身を知る手段はない。それぞれの船が非常に大量に、行き先の違うコンテナを積んでいるため、コンテナの荷役の際は紛失や積み間違いが起こらないよう細心の注意を要する。またコンテナを積みおろしするガントリークレーンは中身を守るためにできるだけコンテナを揺らさないようにしなければならない。安全に、しかも効率的に積み下ろしをするためには、クレーンのオペレーターには熟練した作業員を当てる必要がある。またコンテナ埠頭やコンテナ船の甲板上で働く作業員は、トレーラーやコンテナ荷役機械などの大型車や、コンテナを積む際のバランスや転落、コンテナの下敷きなどに注意しなければならない。
海上では暴風雨がコンテナ船を襲い、甲板上のコンテナを波で奪い去ってしまう危険がある。一個でも流されれば取り返しはつかず、巨額の損害が出る。また高い商品の入ったコンテナはハイジャッカーたちの標的になりうる。マラッカ海峡やインドネシアなどでは海賊が脅威となっている。
コンテナは禁制品(武器、麻薬など)の密輸や密航者の入国に使われることもある。
[編集] コンテナ船の将来
コンテナ市場は規模の経済が支配するため、船会社はコンテナ一個あたりの運送コストを減らして運賃を抑えるためにできるだけ多くのコンテナを船に積もうとし、コンテナ船は年々巨大化している。かつてはパナマ運河を航行できる最大の大きさ(パナマックス)がコンテナ船の大きさの限度だったが、アジア発の輸出が増えたため、1990年代までにパナマ運河の通過をあきらめてパナマックスを越える大きさにしたオーバーパナマックス船が主流になった。2000年代、コンテナ船のサイズの限度は水深16mのスエズ運河を通ることのできる最大の大きさ(スエズマックス:これまではタンカーの大きさの限度だった)となっている。スエズマックスは、コンテナ積載数14,000 TEU、最大積載量137,000 DWT(載貨重量トン)、船の全長400m、幅50m、喫水15m以内、速度25.5ノットのときに出力は85MW以上という基準だが、2006年に進水した世界最大のコンテナ船エマ・マースクはこのスペックにほぼ達している。
スエズマックスの先には、一番浅いところで水深25mとなるマラッカ海峡を通ることのできるマラッカマックスという基準がある。マラッカマックスは、コンテナ積載量18,000TEU、最大積載量200,000 DWT、船の全長470m、幅60m、喫水20m以内、速度25.5ノットのときに出力は100MW以上となる。これ以上の大きさになると、スエズ運河もマラッカ海峡も通れないため世界のコンテナ航路の大規模再編が必要となる。
この規模を実現する大きな制約の一つだったエンジン出力は、デンマークの重機械企業 MAN B&W が製造した2サイクル機関ディーゼルエンジン、MAN B&W K108ME-C の登場によってクリアされようとしている。最大の問題はこの出力を伝達することのできる直径10m、重さ130トンのプロペラを作ることのできる会社がないことである。また港での荷役にかかる時間が長くなる、通ることのできる航路が限られるなど、スーパータンカーの大きさを制限しているのと同じ問題にコンテナ船も直面しようとしている。
[編集] 大型コンテナ船の造船所
7,000TEU以上の大型コンテナ船は、以下の造船所で建造されてきた。
[編集] 大型コンテナ船のサイズ順一覧
- 本当の積載数に関しては各社とも公開に敏感なため、実際はこれより数千TEUは積める可能性はある。
建造年 | 船名 | 全長(Length o.a.) | 船幅(Beam) | 最大TEU | 総トン数(GT) | 船主/船籍 |
---|---|---|---|---|---|---|
2006 | Emma Mærsk | 397.7 m | 56.4 m | 14,500 | 151,687 | Maersk Line/デンマーク |
2007 | Eleonora Mærsk | 397.7 m | 56.4 m | 14,500 | 151,687 | Maersk Line/デンマーク |
2006 | Estelle Mærsk | 397.7 m | 56.4 m | 14,500 | 151,687 | Maersk Line/デンマーク |
2006 | Georg Mærsk | 367.3 m | 42.8 m | 10,150 | 97,933 | Maersk Line/デンマーク |
2006 | Gerd Mærsk | 367.3 m | 42.8 m | 10,150 | 97,933 | Maersk Line/デンマーク |
2005 | Gjertrud Mærsk | 367.3 m | 42.8 m | 10,150 | 97,933 | Maersk Line/デンマーク |
2005 | Grete Mærsk | 367.3 m | 42.8 m | 10,150 | 97,933 | Maersk Line/デンマーク |
2005 | Gudrun Mærsk | 367.3 m | 42.8 m | 10,150 | 97,933 | Maersk Line/デンマーク |
2005 | Gunvor Mærsk | 367.3 m | 42.8 m | 10,150 | 97,933 | Maersk Line/デンマーク |
2006 | CSCL Le Havre | 336.7 m | 45.6 m | 9,580 | 107,200 | Danaos Shipping/キプロス |
2006 | CSCL Pusan | 336.7 m | 45.6 m | 9,580 | 107,200 | Danaos Shipping/キプロス |
2006 | Xin Los Angeles | 336.7 m | 45.6 m | 9,580 | 107,200 | China Shipping Container Lines (CSCL)/香港 |
2006 | Xin Shanghai | 336.7 m | 45.6 m | 9,580 | 107,200 | China Shipping Container Lines (CSCL)/香港 |
2006 | Cosco Beijing | 350.0 m | 42.8 m | 9,469 | 99,833 | Costamare Shipping/ギリシャ |
2006 | Cosco Hellas | 350.0 m | 42.8 m | 9,469 | 99,833 | Costamare Shipping/ギリシャ |
2006 | Cosco Guangzhou | 350.0 m | 42.8 m | 9,469 | 99,833 | Costamare Shipping/ギリシャ |
2006 | Cosco Ningbo | 350.0 m | 42.8 m | 9,469 | 99,833 | Costamare Shipping/ギリシャ |
2006 | Cosco Yantian | 350.0 m | 42.8 m | 9,469 | 99,833 | Costamare Shipping/ギリシャ |
2006 | CMA CGM Fidelio | 350.0 m | 42.8 m | 9,415 | 99,500 | CMA CGM/フランス |
2006 | CMA CGM Medea | 350.0 m | 42.8 m | 9,415 | 95,000 | CMA CGM/フランス |
2006 | CMA CGM Norma | 350.0 m | 42.8 m | 9,415 | 95,000 | CMA CGM/バハマ |
2006 | CMA CGM Rigoletto | 350.0 m | 42.8 m | 9,415 | 99,500 | CMA CGM/フランス |
2003 | Arnold Mærsk | 352.6 m | 42.8 m | 9,310 | 93,496 | Maersk Line/デンマーク |
2003 | Anna Mærsk | 352.6 m | 42.8 m | 9,310 | 93,496 | Maersk Line/デンマーク |
2004 | Albert Mærsk | 352.6 m | 42.8 m | 9,310 | 93,496 | Maersk Line/デンマーク |
2004 | Adrian Mærsk | 352.6 m | 42.8 m | 9,310 | 93,496 | Maersk Line/デンマーク |
2003 | Arthur Mærsk | 352.6 m | 42.8 m | 9,310 | 93,496 | Maersk Line/デンマーク |
2003 | Axel Mærsk | 352.6 m | 42.8 m | 9,310 | 93,496 | Maersk Line/デンマーク |
2006 | NYK Vega | 338.2 m | 45.6 m | 9,200 | 97,825 | 日本郵船/パナマ |
2006 | MSC Esthi | 336.7 m | 45.6 m | 9,178 | 99,500 | MSC(Mediterranean Shipping Company S.A.)/リベリア |
2005 | MSC Pamela | 336.7 m | 45.6 m | 9,178 | 90,449 | MSC(Mediterranean Shipping Company S.A.)/リベリア |
2005 | MSC Susanna | 336.7 m | 45.6 m | 9,178 | 90,449 | MSC(Mediterranean Shipping Company S.A.)/リベリア |
2005 | MSC Chicago | 336.7 m | 45.6 m | 9,178 | 90,449 | Offen Claus-Peter/リベリア |
2005 | MSC Bruxelles | 336.7 m | 45.6 m | 9,178 | 90,449 | Offen Claus-Peter/リベリア |
2006 | MSC Roma | 336.7 m | 45.6 m | 9,178 | 99,500 | Offen Claus-Peter/リベリア |
2006 | MSC Madeleine | 348.5 m | 42.8 m | 9,100 | 107,551 | MSC(Mediterranean Shipping Company S.A.)/リベリア |
2006 | MSC Ines | 348.5 m | 42.8 m | 9,100 | 107,551 | MSC(Mediterranean Shipping Company S.A.)/リベリア |
2006 | Hannover Bridge | 336.0 m | 45.8 m | 9,040 | 99,500 | 川崎汽船/日本 |
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 社団法人日本港運協会
- 社団法人日本船主協会
- 日本海事新聞社
- 物流タウン
- SHIP PHOTO 船の写真
- The world in a box from The Economist magazine, 16 March 2006
- http://www.containership-info.net.tc - containership-info and vessel data base
- http://www.containerhandbuch.de/chb_e/stra/index.html Container ship handbook in English and German, excellent detail of the varieties of ships and their uses
- ship-photos.de: Categorized ship photos.