聖人
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聖人（せいじん）
一般的に徳が高く、人格高潔で、生き方において他の人物の模範となるような人物のことをさす。一般的な読み方は「聖人」（せいじん）であるが、仏教の場合は「聖人」（しょうにん）と読むことがある。日本語では元来は儒教の聖人のことであり、次に仏教での聖人のことであった。
生きている人にもすでにこの世を去った人にもあてはめられ、世界の多くの宗教で同じような概念があるとして、キリスト教では日本布教の際「Saint」を聖人と翻訳した。
そのような宗教の中で、「聖人」といわれる人々はグループの模範となり、その生涯が記録され、後世を語り継がれることが多い。
教派によってニュアンスにばらつきがあるが、現代の宗教で聖人という概念が存在するのはキリスト教、イスラム教、ユダヤ教、ヒンドゥー教、サンテリアなどがあげられる。
キリスト教のいくつかの宗派では、聖人になるには公式なプロセスを踏まねばならない。プロテスタント諸派の中には、キリスト教初期の慣用表現から、「聖人」という語を単にこの世を去った信徒たちを指す言葉として用いるものもある。
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[編集] 儒教
中国の儒教における聖人とは、過去の偉大な統治者を指す。政治指導者としてだけではなく、道徳の体現者としても理想とされる人物である。
もっとも理想の聖人とされるのは、堯と舜、二人の聖天子である。続く「三代」と言われる時代の統治者、すなわち夏王朝の創業者である禹、殷王朝の創業者である湯王、周王朝の創業者である武王もまた聖人として位置づけられ、堯と舜をあわせて「堯舜三代」と呼ばれる。
また、周王朝の創業に力を尽くした周公旦、儒学の大成者である孔子もまた、聖人として位置づけられている。孟子は、聖人ではないが、それに次ぐ存在であるとして「亜聖」と呼ばれる。
宋代になると、士大夫たちは自らを孔子・孟子を継ぐ聖人となることを目指すようになり、「聖人、学んで至るべし」というスローガンのもと、道徳的な自己修養を重ねて聖人に到る学問を模索した。明代の陽明学では「満街聖人」という街中の人が本来的に聖人であるとする主張をし、王や士大夫のみならず、庶民に到るすべての人が聖人となることができる可能性を見いだした。
[編集] 仏教
日本の仏教宗派の一部の宗祖に対する敬称として、一般的な上人ではなく、聖人（しょうにん）という敬称を付する場合がある。
- 一般的に「聖人」という敬称で呼ばれる仏教者。
なお、浄土真宗では開祖の親鸞のみならずその師である法然に対しても「聖人」と呼称する。
[編集] キリスト教
キリスト教において、聖人という語は、神によって聖とされた信徒を指す。その対象には歴史的に若干の変動があり、また教派によって扱いが異なる。新約聖書に出るギリシア語、ホ・ハギオス（聖なる人）またその複数形ホイ・ハギオイに由来する。新約聖書では、ホ・ハギオスという言葉が、かれらの教会の歴史にとっての重要さにかかわらず、生者と死者の両方にあてはめられている。使徒パウロの手紙の多くは「すべての聖なるものたちに」、あるいは「年長者とともに」と宛てられている。たとえばエフェソの信徒への手紙は「エフェソの聖なる人々へ」で始まっている。
[編集] 聖人崇敬
時として、「キリスト教は一神教といいながら、なぜ多神教のように聖人を崇拝するのか」という疑問が提示されることがあるが、キリスト教では、崇敬・尊崇と崇拝は異なる意義付けをなされている。この観点からは、キリスト教徒は聖人を崇拝しているわけではなく、聖人をうやまうこと（崇敬）は拝むこと（崇拝）ではない。神への信仰と聖人への敬意はまったく別レベルのものである。
聖人への崇敬は伝統によってキリスト教信仰の一部をなしてきた。たとえばカトリック教会では聖書と同様に聖伝（古代からの伝承）を現代に至るまで尊重してきている。このような伝統にしたがって、聖人は神のそばでとりなしを行うことで人々の祈りを聞き入れ、神と人間の媒介としての役割を担うとみなされてきた。聖人への崇敬はカトリック教会、東方正教会、東方諸教会、聖公会などで行われる。これらの教派では、教会によって公式に認定（列聖）されなければ聖人と認められない。一般に、聖人として認めるための調査は死後に時間をかけて行われ、厳しい審査を経てようやく認められる。東方正教会の場合は、さらに急ぐのを避け、その人の人生の反響が冷めるのに十分な時間を割り当てる場合が多い。一方で、稀に生者が列聖されることもある[要出典]。
聖人崇敬は現実の信仰生活のなかで行われるものであって、そこにはおのずと地方や時代の独自性が反映される。聖人のリストは世界で共通であるが、ある聖人とかかわりの深い地域では、その聖人はより重く崇敬される。そのような信仰生活の個別性は、個人や集団の守護聖人への信心に現れている。
古代以来聖人の数が次第に増えていったことで、中世のカトリック教会では、すでに一年のほとんどの日が聖人など何らかの祝い日となっているような状況になった。このため第2バチカン公会議後のカトリック教会のあり方の見直しの中で史実での存在が疑われる伝説的な聖人は聖人暦からはずされた。またキリストの降誕を準備する待降節、復活を準備する四旬節からも、本来の精神を大切にするという意味で聖人の祝い日が移動された。他方、東方正教会では、特に記憶する聖人には祭を行うものの、たいていの聖人の記憶は日々の時課等で簡略に行われている。
東方正教会の場合、聖人には使徒、亜使徒、克聖者、義なる……などの称号が付く（詳しくは東方正教会における聖人の称号の一覧を参照）。これはその聖人の信仰のありようを示すため教会が決めるもので、個人が恣意的に変更してよいものではない。ただし「主教」「大主教」等の称号には、地域差が反映されることがある。たとえば新致命者聖アンドロニク（ロシア革命で殉教）は、世界的には「ペルミの大主教」と呼ばれるが、日本においては京都初代主教という関係を重くみて「京都の主教」と称する。
プロテスタントの諸教派では、マルティン・ルターが聖書に根拠のない伝統をすべて廃そうとしたことに影響され、聖人という概念を廃止あるいは意味を変化させているところがほとんどである。たとえばある教派では死亡したすべての信徒に「聖人」（聖徒）という言葉があてられる。プロテスタント教派のなかでも、ルター派教会などでは聖人の概念をもち、信仰の模範としてとくに礼拝でとりあげ、洗礼名の根拠としたり、記念日を祝ったりするところがある（聖名祝日の項を参照せよ）。聖公会（イギリス国教会）はプロテスタントとはいっても信仰を理由にしてカトリック教会から分離したわけではなく、教義や精神が非常にカトリックに近いことから聖人の崇敬を行っている。
古代からの教会、すなわち東方正教会、東方諸教会、カトリック教会は、聖人崇敬においてさまざまな伝統を共有している。古代のキリスト教では、聖人として尊崇された者はみな殉教者だった。殉教者を尊び、その遺骸や遺物を集めて墓を立て、崇敬することがなされていた。殉教者の墓（マルティリウム）は礼拝堂と並んで、信仰生活の中心となった。こうした崇敬は時に行き過ぎ、聖人の遺骸と称されるものが高額で取引されたり、ある崇敬が過度の熱狂におちいることがあった。アウグスティヌスなどこうした風潮に警鐘を鳴らし、聖人の遺骸を崇敬の対象にすることに反対を唱えたものもいた。教会公認後は、聖人崇敬は殉教者だけでなく、信仰の模範とされた信者にも及んだ。
聖人の遺骸は、カトリック教会では聖遺物、東方正教会では不朽体と呼ばれる。遺体が腐敗せずに残ることを聖人である証明の一つとみなすことは伝統的な見方である。聖人の遺骸またその一部は古代から中世においては強い崇敬の対象となり、それに関連した奇跡が多く語られている。現在でも一部の教派では聖人の遺骸に接吻するなどして崇敬を表明することもある。東方正教会においては、聖人の遺骸に対する崇敬の表明は、聖像（イコン）への崇敬の表明と同じ形式を取る。これはイコンと同様聖人の遺骸が、究極には神に由来する聖性が現実界に現れる窓とする考えに基いており、信者の見解によれば、ものそのものが崇拝ないし信仰の対象となっているわけではないとされる。
これらの教会は、美術作品によって聖人の像や生涯を描画した聖像（イコン）をつくり、崇敬の対象とする。聖像破壊運動で古代の多くの聖像は失われたが、この運動が及ばなかった地域、とりわけそれ以前にカトリック教会や東方正教会と分かれた東方諸教会の聖堂には、古いイコンが残っていることがある。
また伝統的に、教会の祭壇の下には聖人の遺骸または遺物をおくことが必要であるとされる。これは東方教会においては必ずしも必須の要件ではないが、しかしそのようにすることが望ましいと今でも考えられている。カトリック教会においてはかつては必須の要件であったが、現代ではこの要件は撤廃されている。
聖人の伝記を読み書きすることも、聖人を崇敬する上で重要な役割を果たしている。これは古代から行なわれ、信仰上の模範を示すことで後世の信仰のあり方に大きな影響を与えたものも少なくない。たとえばアタナシオスによる『アントニオス伝』は、修道者に大きな影響を与えた。聖人伝として著名なものにヤコブス・デ・ヴォラギネの『黄金伝説』がある。
それぞれの教会において、一年間の中で聖人の祝い日は特定の日付に固定されている。これをまとめたものを聖人暦（聖人カレンダー）と呼ぶ。多くはその聖人が死亡した日が記念日となるが、異なる場合もある。特に重要な聖人の場合は、複数回の記念日がある。古代より崇敬される聖人は、カトリック教会と東方教会で記念の日を同じくする（ただし後者の日付はユリウス暦によるため、現代では日付のずれを生じる）事が多いが、一部の聖人は違った日に記念されることがある。
聖人の祝い日は、基本的にそれぞれの聖人に個々に決まっているが、幾人かの聖人は、他の聖人と共通の祝い日をもっている。そのような例にペトロとパウロ、キュリロスとメトディオス、東方正教会における七十門徒などがある。多数の聖人をともに記憶する祭を東方正教会では「会衆祭」（シュナクサイ）という。東方正教会では、十二大祭のいくつかの祭で、その翌日に関連する聖人の祭を行うが、これも会衆祭と呼ぶ。
聖人はつねに個人名で記念（記憶）されるとは限らない。七十門徒などはそのよい例で、七十人の内訳には幾つかの説があり、かならずしも確定していない。古代の殉教者などには、名前の伝わっていない聖人も数多い。聖書に出てくる例では、ベツレヘムの幼児虐殺の死亡者は「聖嬰児」「幼子殉教者」として聖人であるが、彼らの個人名は伝わっていない。
聖人崇敬において重要な概念には守護聖人の考えがある。これは伝統的教会において存在する考え方で、個人のほか、特定の団体や地域に対してある聖人が特別な加護を与えているという概念である。
一般に、洗礼名をそれによってつけた聖人を、個人の守護聖人とする。守護聖人の祭日を一般には聖名祝日といい、特別な意義をみる。
自分の洗礼名の聖人の祝日を、カトリック教会では霊名日、東方正教会では聖名日といって祝う習慣がある。一部の地域では誕生日より盛大に祝うこともある。カトリック教会などの西方教会では、洗礼名のほかに堅信のときには堅信名を付ける習慣があり、これは洗礼名と別の聖人を選ぶこともできる。また修道者は、ある聖人の名前にちなんで自らの修道名をつける。
聖人の名をつけた地名は多い。聖人は各国語でセント、サン、サンタ、サント、サンクト等になるため、これらで始まる地名は概ね守護聖人の名が使われている。
例：サンフランシスコ（聖フランシスコ）、セントルイス（聖王ルイ）、サンクトペテルブルグ（聖ペテロ）、サンパウロ市（聖パウロ）、サンタモニカ（聖モニカ）、セントヘレナ島、サンマリノ共和国
