行政不服審査法
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通称・略称 | 行審法 |
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法令番号 | 昭和37年法律第160号 |
効力 | 現行法 |
種類 | 行政法 |
主な内容 | 行政不服申立ての一般法 |
関連法令 | 行政事件訴訟法、行政手続法、行政機関の保有する情報の公開に関する法律 |
条文リンク | 総務省法令データ提供システム |
行政不服審査法(ぎょうせいふふくしんさほう、1962年(昭和37年)9月15日法律第160号)は、事後における救済制度としての行政不服申立てについての一般法(行審法1条第2項)として制定された日本の法律である。行政法における行政救済法の一つに分類される。行審法と略される。
上記の通り行政不服申立てにおける一般法である本法は地方自治法や公職選挙法が独自に定める不服申立て制度には適用されない(特別法は一般法に優先するという法原則)。
目次 |
[編集] 意義とその背景
行政不服申立てとは、国民が行政機関に対して紛争の解決を求める法的な争訟手続である。つまり、「行政庁の公権力の行使」(処分)に対し、私人が「行政機関」に対して不服を申立てることを指す。この場合、私人は裁判所ではなく行政機関を相手として事後的救済を求める争訟を提起することになる。行政不服申立ては裁判ではないので、日本国憲法第32条による裁判を受ける権利の対象とはならない。よってその制度は政策によって変化する。
1962年に行政不服審査法が制定されるまでは、日本国憲法以前の1890年に制定された訴願法が行政不服申し立ての一般法としていまだ有効であった。訴願法は、「租税及手数料ノ賦課ニ関スル事件、租税滞納処分ニ関スル事件、営業免許ノ拒否又ハ取消ニ関スル事件」等、列記主義の原則により不服申立てのできる場合を限定的に規定していたこともあり、この法律によって十分な救済が図られる内容とは言い難かった。
また、日本国憲法第76条2項後段は行政機関が終審を行うことを禁止しているが、反対解釈すれば前審を禁じてはおらず、裁判所法3条2項も行政機関が裁判所の前審として審判を行うことを認めている。このことから、行政不服審査法は不服申立てのできる場合を限定するのではなくできない場合を例外規定として設け、その他の処分・不作為についてすべて不服申立てができるとする一般概括主義の原則により構成されている。その他、訴願法と行政不服審査法を比較すると、当事者の手続的な権利の充実という面で大きな進展がみられる。
また、行政機関によるものでなく司法上の不服申立て(行政訴訟)については行政事件訴訟法がその一般法として制定されている。行政不服審査法、行政事件訴訟法は、いずれも事後の救済制度であるが、事前の救済制度として行政手続法がある。行政手続法の制定されたのは1993年であるから、行政不服審査法の制定から約30年後となり、日本における行政救済法の制度は事後救済に偏重していたことがわかる。
[編集] 趣旨
- 第1条(この法律の趣旨)
従前の行政不服申立てにおける一般法であった訴願法では第二点のみをその目的として挙げていた。つまり国民からの申立ては行政機関が自らを省みるきっかけという位置付けであった。しかし行政不服審査法においては国民の救済に重点が置かれた。
[編集] 不服申立ての概観
[編集] 対象
不服申立ての対象となるのは行政庁による処分(その他公権力の行使にあたる行為も含む)である。しかし「処分」の具体的な内容が法によって規定されているわけではなく、解釈によって定まる。一般に、「処分」の概念は行政行為とほぼ一致するといわれている。この処分概念を巡っては従来から行政事件訴訟法における処分性論でも同様の論争が続いている。また、行政庁が法令に基づく申請に対して期間内に応答しない「不作為」も不服申立ての対象となる。
行政不服審査法は申立ての対象となる処分や不作為を原則として限定していない。このような規定の仕方を一般概括主義または概括主義という。これに対して申立てのできる処分等を条文で列記したものに限定する方法を列記主義という。行政不服審査法が制定される以前に行政不服申立ての一般法であった訴願法はこの列記主義を採用していた。
概括主義の例外として不服申立てができない事項は、行政不服審査法第4条第1項の各号に挙げられているもののほか、行政事件訴訟法や私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独禁法)等により規定されたものがある。また、行政不服審査法に基づく処分も対象外とされている。
[編集] 種類
- 第3条(行政不服申立ての種類)
- 審査請求、異議申立て、再審査請求の3つが第1項において規定されている。
- 審査請求と異議申立ては、その申立てを裁決する行政庁の種類によって区別される。
- 再審査請求は、審査請求の裁決を経た後さらに行なうもの。
- 処分をした行政庁のことを処分庁といい、不作為が問題とされる行政庁を不作為庁という(第2項)。
- 第4条(処分についての不服申立てに関する一般概括主義)
- 次の各号に掲げる処分及び他の法律に審査請求又は異議申立てをすることができない旨の定めがある処分については、出来ない。
- 国会の両院若しくは一院又は議会の議決によつて行われる処分
- 裁判所若しくは裁判官の裁判により又は裁判の執行として行われる処分
- 国会の両院若しくは一院若しくは議会の議決を経て、又はこれらの同意若しくは承認を得たうえで行われるべきものとされている処分
- 検査官会議で決すべきものとされている処分
- 当事者間の法律関係を確認し、又は形成する処分で、法令の規定により当該処分に関する訴えにおいてその法律関係の当事者の一方を被告とすべきものと定められているもの
- 刑事事件に関する法令に基づき、検察官、検察事務官又は司法警察職員が行う処分
- 国税又は地方税の犯則事件に関する法令(他の法令において準用する場合を含む。)に基づき、国税庁長官、国税局長、税務署長、収税官吏、税関長、税関職員又は徴税吏員(他の法令の規定に基づき、これらの職員の職務を行う者を含む。)が行う処分
- 学校、講習所、訓練所又は研修所において、教育、講習、訓練又は研修の目的を達成するために、学生、生徒、児童若しくは幼児若しくはこれらの保護者、講習生、訓練生又は研修生に対して行われる処分
- 刑務所、少年刑務所、拘置所、少年院、少年鑑別所又は婦人補導院において、収容の目的を達成するために、被収容者に対して行われる処分
- 外国人の出入国又は帰化に関する処分
- 専ら人の学識技能に関する試験又は検定の結果についての処分
- 次の各号に掲げる処分及び他の法律に審査請求又は異議申立てをすることができない旨の定めがある処分については、出来ない。
- 第5条(処分についての審査請求)
- 審査請求とは、処分を行った行政庁(処分庁)や不作為に関係する行政庁(不作為庁)とは別の処分庁に対して行われる不服申立てである。原則として審査請求は処分庁の直近上級行政庁に対して行われる。処分や不作為に直接の関連をもたない行政庁が裁断するので、公平性が高いといわれる。また、第三者機関が審査をすべき行政庁(審査庁)として特に定められている場合もあり、そうした場合には公平中立な裁断が期待できる。
- 第6条(処分についての異議申立て)
- 異議申立てとは処分庁や不作為庁に対して直接に翻意を求め、作為を促す不服申立てである。公平中立という観点からは審査請求に劣るが、紛争の当事者である行政庁に対して直接に改善を求めることになるので、迅速性と言う点では優れているとも言われる。
- 審査請求中心主義とは、行政庁の処分に対する不服申立ては原則として審査請求によって行われことをいう。
- 自由選択主義は、これに対して行政庁の不作為に関する不服申立ては、申立てをする者が異議申立てと審査請求のどちらによるかを自由に選択できることをいう(第7条)。
- しかし処分に対する不服申立てであっても上級行政庁がない場合や法律によって異議申立てをすべきと規定されている場合には審査請求はできない。後者のように異議申立てが可能である場合にはまず異議申立てをし、それでも紛争が解決しない場合にのみ審査請求が可能であるという構成が採られている。これを異議申立て前置主義といい、本法第20条に規定されている。
- 第7条(不作為についての不服申立て)
- 第8条(再審査請求)
- 例外的な制度であり、審査請求の裁決を経たけれどもその裁決についてなお不服がある場合に行われる不服申立てである。再審査請求は本条第1項に掲げられた事由がある場合にのみ行うことができるという列記主義を採用している。
- 具体的には法律・条例に再審査請求をすることができる旨の定めがあるときと、審査請求をすることができる処分につき、その処分をする権限を有する行政庁(原権限庁)がその権限を他に委任した場合において、委任を受けた行政庁がその委任に基づいてした処分に係る審査請求につき、原権限庁が審査庁として裁決をしたときである。
- 列記主義を採用した理由としては、審査請求の裁決に不服があるのならば重ねて行政に判断を求めるのではなく、裁判を提起して司法審査を受けるべきとの考えがある。再審査請求期間は審査請求の裁決があったことを知った日の翌日から起算して30日以内とされている(第53条)。
[編集] 手続
以下、不服申立が行われてから手続が終了するまでの制度について、行政庁の処分に対する審査請求の手続を念頭に説明する。処分についての異議申立ては第45条以下に、不作為についての不服申立ては第49条以下に、再審査請求については第53条以下にそれぞれ規定があるが、それらの手続については審査請求の規定が準用されているからである。各制度特有の手続についてはその都度説明を加える。なお、これらの手続によっても紛争が解決しない場合には行政事件訴訟法に基づいて訴訟を提起し、司法審査(裁判所による裁判)を受けることができる。
- 第9条(不服申立ての方式)
- 書面の提出によって始まるのが原則である。この書面を不服申立書というが、これは異議申し立ての場合を除き正副2通を提出する。
- 第10条(法人でない社団又は財団の不服申立て)
- 第11条(総代)
- 行政に関する紛争は当事者が多数となることも多い。そこで不服申立てをする者(申立人という)が多数の場合には、3名以内の総代を互選することができ、場合によっては互選を命じられる。
- 第12条(代理人による不服申立て)
- 不服申立ては代理人によって行うこともできる。
- 第13条(代表者の資格の証明等)
[編集] 不服申立ての受理・手続き開始義務
国民が行政機関を相手として救済を求めるために不服申立て手続きを発意(争訟を提起)しても、これを行政機関が受理しなければ救済手続きは実質的に開始されない。よって、不服申立てを不受理として門前払いすることは許されず、たとえ不適法な申立であっても処分庁または審査庁はこれを受理し、不服申立ての手続きを行わなければならない。このような処分庁または審査庁の不服申立ての受理・手続き開始義務の根拠は、次の点にある。
- 法の趣旨
- 行政不服審査法の法律の趣旨は、「国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開くことによつて、簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図る」ことを主要な目的としており、不服申立てを不受理とする処分を行うことは法律の趣旨に反する。
- 手続開始義務を前提とした制度
- 異議申立てに対する決定、審査請求及び再審査請求に対する裁決には、それぞれ「法定の期間経過後にされたものであるとき、その他不適法であるとき」は、これを却下する旨の規定(第47条第2項、第40条第2項)があり、たとえ法定の期間経過後にされた不服申立て、その他不適法である不服申立てであったとしても、これを受理したうえで審理し、却下の決定・裁決をすることとされている。
- 第14条(審査請求期間)
- 処分を知った翌日から起算して60日以内、異議申し立ての決定を知った翌日から起算して30日以内にしなければならない。
- 第20条(異議申立ての前置)
- 第21条(補正)
- 補正命令の存在は、「審査請求が不適法であつて補正することができるものであるときは、審査庁は、相当の期間を定めて、その補正を命じなければならない。」と規定され、同条は異議申立てについて第48条において準用、再審査請求について第56条において準用されている。この規定の趣旨は不服申立てについて、それが不適法であっても補正することができるものであるときは、その補正を命じなければならないところにある。換言すれば、たとえ不適法な不服申立てであっても、これを受理したうえで補正することができるものであるときは、その補正を命じることを処分庁または審査庁に義務付けているのである。
行政庁は申立てがあった場合には何らかの応答をすべき義務を負う。申立てが要件を満たさない場合には却下し、要件を満たした適法な申立てについては審理し、裁決・決定を行う。これを要件審理という。
具体的には、行政庁による処分または不作為が存在するか、当該不服申立ては当事者能力と当事者適格のある者が、その不服申立てを処理する権限のある行政庁に対して、不服申立て期間内に行われたものであるか、の確認である。たとえ申立てが要件を満たさない不適法なものであっても、補正が可能であれば行政庁は補正を命じなければならないのは前述の通りである。
上記のように、不服申立てには一定の申立て期間が定められている。これを徒過した場合、もはや不服申立てをすることが不可能となる(行政行為の不可争力を参照)。
- 第22条(弁明書の提出)
- 審査請求の場合、審査庁は処分庁に対して弁明書の提出を求め、争点を明らかにすることができる。
- 弁明書は、正副2通提出し副本を審査請求人に送付する。ただし、審査請求の全部を容認すべきときは、この限りでない。
- 第23条(反論書の提出)
- 弁明書が提出された場合、これの副本が申立人に送付される。申立人はこれを受けて反論書を提出することができる。
- 第24条(参加人)
- 審査庁に申し出て、あるいは審査庁の職権によって利害関係人が審理に参加することができる。こうして審理に参加した者を参加人という。
[編集] 審理
- 審理原則
- 書面審理主義
- 審理は、原則として書面によって行われる。(第25条)これは迅速で簡易な処理を行うためであり、書面審査主義と言われる。ただし、申立てがあったときは、口頭で述べる機会を与えなければならない。
- 職権主義
- 行政庁は職権によって証拠調べを行う。つまり、申立人の主張しない理由等も独自に調査した上で審理を行うことができる。これは職権主義といわれ、証拠調べは職権主義に則り、審査庁の職権によって行われる。ここでいう「証拠調べ」とは、参考人の陳述や鑑定、書類その他の物件の提出要求、検証、当事者の審尋を指し、職権によって行われる証拠調べのことを職権証拠調べという。、やはり迅速・簡易な手続のために有効だが、裏を返せば審理の主導権は行政庁が握るということになり、恣意的な審理が行われるおそれもある。
- 当事者主義
- そこで行審法は当事者主義的構造をも大幅に採用し、これら原則の欠点を補っている。
- 具体的には、審査請求をした申立人や参加人は口頭で意見を述べる機会を与えるよう審査庁に請求することができるとした第16条の規定や審査請求人および参加人からの証拠提出権や証拠調べに立ち会う権利、提出された物権の閲覧請求権などが認められることなどである。
- 書面審理主義
- 第25条(審理の方式)
- 第26条(証拠書類等の提出)
- 第29条(検証)
- 第34条(執行停止)
- 不服申立による手続が開始されても、問題とされている行政庁の処分が停止するわけではないというのが原則である。
- 審査請求人の申立てにより、審査庁は重要な損害を避けるため必要と認めたならば執行停止をしなければならない。
[編集] 手続の終了
審査請求などの不服申立ての審理は、申立人による申立ての取下げか、審査庁による裁決または決定によって終了する。
裁決とは審査請求または再審査請求に対する裁断行為をいい(第40条)、決定とは異議申立てに対する裁断行為をいう(第47条)。
裁決はその実効性を確保するため、他の行政機関に対する拘束力をもつ(第43条)。また、裁決を職権によって変更することはできない。これは伝統的に行政行為の不可変更力と言われてきたものである。
- 第40条(裁決)
- 裁決・決定にはその内容に応じて却下、棄却、認容の3つに分類される。
- 不利益変更禁止の原則
[編集] 却下・棄却
却下は、不服申立てが要件を満たさず、不適法であった場合に行われる。つまり要件審理の段階で裁断されるので、申立ての内容については審理されない。
これに対して棄却は、不服申立ての内容を審理したものの申立てを認めるべき理由がない場合に行われる。
ただし、申立ての言い分が正しいと判断しつつもそれを棄却する場合がある。これを事情裁決という(第40条第6項)。つまり、処分が違法又は不当ではあるが、これを取り消し又は撤廃することによって公の利益に著しい障害を生ずる場合には、諸般の事情を考慮して請求を棄却することができるのである。ただしこの場合、審査庁は裁決で当該処分が違法又は不当であることを宣言しなければならない。
[編集] 認容
不服申立てに理由があると認められる場合を認容という。認容の内容はその不服申立ての種類によって異なる。またその対象が処分についてのものか、事実行為についてのものか、不作為についてのものかに応じて規定が設けられている。
- 処分についての審査請求が認容された場合、審査庁は裁決によって処分の全部または一部を取り消し、さらには審査請求人のために処分の内容を変更する。事実行為に対する審査請求の場合、その全部または一部を撤廃すべきことを命じ、裁決によってそのことを宣言する。
- 不作為に対する審査請求が認容された場合、審査庁は不作為庁に対して何らかの行為をすべきことを命じ、そのことを宣言する。「何らかの行為をすべきことを命ずる」とはいうものの、その内容については争いがある。一つは不作為庁に事務処理促進を命じるにとどまるとする説であり、もう一つはそれだけでなく特定の処分をすべき旨を命じることもできるとする説である。
- 第55条(裁決)
- 再審査請求が認容された場合は審査請求が認容された場合とほぼ同様であるが、再審査請求を却下・棄却した裁決に違法や不当の瑕疵があっても従来までの処分に瑕疵がない限り、それが維持される。
- 異議申立てが認容された場合にも、同様に異議申立ての対象が処分であるか、事実行為であるか、不作為であるかに応じて異なった規定がある。その内容は審査請求の場合とほぼ同様であるが、不作為については異なった扱いがなされている。つまり不作為に対する異議申立てにおいては、申立てのあった日の翌日から起算して20日以内に不作為庁は何らかの行為をするか、書面で不作為の理由を示さなければならない(第50条第2項)。こうした制度が設けられたのは不作為庁がすぐさま判断を提示すべきという趣旨からである。よって「何らかの行為」は申請を拒否するという判断であってもよいが、例えば「検討の上、あらためて連絡する」といったように判断を先延ばしにする行為はここでいう「何らかの行為」には含まれない。
[編集] 不作為についての不服申立て
- 第50条(不作為庁の決定その他の措置)
- 申立てのあった日の翌日から起算して20日以内に行為をするか、理由を示さなければならない。
[編集] 再審査請求
[編集] 教示
行政不服審査法において特徴的な制度が教示である。これは行政庁が処分をする際に、不服申立てができる場合には、その処分を受ける相手方に対して、不服申立てをする手続を教えなければならないという制度である。
- 第57条(審査庁等の教示)
- 教示すべき内容が具体的に示されており、不服申立てをすることができるということ、申立てをすべき行政庁、申立期間を原則として書面によって通知すべきとされている。
教示が行われなかった場合、処分を受けた当事者が、例えば審査請求をすべき審査庁ではなく当該処分を行った処分庁に審査請求をしてくるといった事態も考えられる。本来ならば不適法な不服申立てであるとして却下裁決がなされるところだが、そのような申立てが行われてしまった責任は教示すべき義務を怠った行政庁にある。よってこの場合には不服申立てを受けた行政庁はその不服申立書を適法な審査庁へ送付しなければならない(第58条)。
この制度が設けられた趣旨は国民の権利利益の救済を実質的に保障することであり、それは行政不服審査法の目的でもある。確かに不服申立ての制度は行審法を通読すれば(少なくとも申立てが可能であるということは)誰でも分かることである。しかしそうした行為を一般市民に要求するのではなく、行政の側から積極的に行審法の制度活用を国民に呼びかけるのがこの教示制度であり、行政不服審査法の目的をよく表している。
[編集] 行政不服審査法と行政事件訴訟法の比較
行政不服審査法はしばしば行政事件訴訟法と比較され、その特徴が説明される。
行政不服審査法の手続では、行政機関が審査を行う。これに対して行政事件訴訟法では行政機関からは独立した裁判所が審査を行う。これにより、行政不服申立て制度には2つのメリットがあるとされる。一つは裁判手続よりも簡易迅速な手続が可能であるということである。もう一つは、行政不服申立てにおいては処分の適法性だけでなく妥当性をも争うことができる点である。
しかし行政機関自らが審査をするため、第三者である裁判所が関与する場合に比べて公平性の点では劣るといわざるを得ない。ただし行政機関の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)の18条では、開示請求の決定に関する不服申立てにおいては情報公開審査会に諮問しなければならないと規定されている。これは審査の透明性を高めて公平性を確保する方策といえる。
以上のように両者は性格を異にするが、請願や苦情処理とことなり、法定された正式の争訟手続であるという点においては共通する。