表現の自主規制
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
表現の自主規制(ひょうげんのじしゅきせい)とは、集団、個人からの抗議に対して出版社、著者、作曲家や作詞家、レコード会社、放送局等が自主的に判断して言葉の置き換えや著作物の発表を取り止めるなどの行為を指す。単に「自主規制」とも言う。これが日常慣例化し、タブーとなる事がある。
これらを好ましくないとする立場からは「言葉狩り」と呼称されたり、マスコミの事勿れ主義と批判される事も多い。
目次 |
[編集] 概要
日本のマスコミによる自主規制の例として、身体的障害を表現する用語を「放送禁止用語」として「○○が不自由な人」と言い換えることが一般的だが、これを例えば過去の文学作品のテキストにまであてはめてそれを改変しようとする行為は表現の自由に反するとして批判される。現在ではこのような語を含む文学的テキストには末尾に、差別用語とされる語も含むが当時の状況を鑑みまた芸術作品であることに配慮して原文のままとした旨記されていることも多い。
マスコミとて利潤を追求する企業なので、読者・視聴者からの抗議で売り上げが下がることを一番恐れているのである。
[編集] 歴史
規制が叫ばれるようになったのは、ヘレン・バンナーマンの絵本『ちびくろサンボ』問題あたりからだとされる。日本においては、1988年にワシントン・ポストに掲載された日本の黒人のキャラクター人形に対する批判記事を発端として、市民団体「黒人差別をなくす会」が『ちびくろサンボ』の内容は黒人を貶めるものだと最も有名な翻訳版の発行元である岩波書店に抗議し、本書は全社自主規制で絶版になった。これを契機に黒人差別をなくそうとする世論が高まる。これを受けて、黒人差別に繋がるとして厚い唇で肌が黒いキャラクターが問題視された結果、カルピスの黒人マークが廃止され、ジャングル黒べえ・ダッコちゃん人形などが販売中止になった。その後一部行き過ぎの面があったとして批判もあり、ダッコちゃん人形の色を変更してのリニューアル、『ちびくろサンボ』の原書直訳版刊行や岩波版の復刻など見直しが進んだ。
[編集] IMEにおける漢字変換
MS-IMEやATOK等、一部のPC用かな漢字変換ソフトウエアでは、差別用語とされている語句(例:きちがい)などが出荷時の辞書登録から除外されており初期状態では変換できない。なお、同用語であってもマッキントッシュに標準搭載されていることえりでは出荷時の状態で変換が可能であったりと、必ずしも確立された見識や条件で採用されているとは限らない。
[編集] 出版
1993年には高校の国語の教科書に掲載される予定だった筒井康隆の小説『無人警察』が、文中のてんかんに関する描写、結論が誤解・偏見を招くとしててんかん協会から抗議を受け出版元の角川書店により収録が取り消されたことに対し、筒井康隆は抗議として断筆を宣言した(リンク参照、両者は痛み分けの形で譲歩・和解し、1996年に執筆再開)。
[編集] 音楽
CDを発売する時に、暴力的、差別的、卑猥な内容等を、はっきり歌っていても歌詞カードに載せない時がある。これも自主規制の一環である。この場合はレコ倫またはレコード会社の判断である。
1974年発売の吉田拓郎の『ペニーレインでバーボン』の歌詞にある「つんぼ桟敷」という語、および1980年発売の山口百恵の『謝肉祭』の歌詞にある「ジプシー」という語に対し使用が問題視され、両者の発売元ソニー・ミュージックエンタテインメント(当時のCBS / SONY)の判断で後に発売が中止されて廃盤となっていた。『ペニーレイン~』は2006年の「つま恋」コンサートでも拓郎本人が「蚊帳の外で」と言い換えて歌っていた。「謝肉祭」に関しては、1997年7月21日発売の「山口百恵ベスト・セレクションVol.2」を最後にしばらくCD収録が見送られたり、引退公演の模様を収めたDVDからもカットされたが(ライブCD、またライブビデオやLD発売時はカットされず収録)、2005年5月25日発売の「コンプリート百恵回帰」に「謝肉祭」を収録したことについての注釈を歌詞カードに載せ収録された。また、2006年1月18日に発売された山口の「モモエ・ライブ・プレムアム」ではCD・DVD共にカットされず収録された。
最近では、トッド・ラングレンのアルバム『nearly human』は日本盤でジャケットを作り変えられた(6本指の手形を5本指に変更)。2002年にはキングギドラの『UNSTOPPABLE』『F.F.B.』の歌詞に同性愛者やエイズ患者に対する表現が問題となり、回収、発売が中止されたことがある。
発売禁止にならない曲においても猥褻、暴力表現が強いとされたものは放送禁止歌として規制された時代があった。ほかにもイムジン河のように政治的要因から自主規制された例もある。
[編集] テレビ放送
テレビ番組においても自主規制は存在するが、この中でもテレビ東京におけるテレビアニメ作品への自主規制ぶりが顕著である。同局で放送された『新世紀エヴァンゲリオン』『ポケットモンスター』におけるトラブル(ポケモンショックも参照)がきっかけで、この傾向が一気に加速されて行ったが、同局で放送されている他のジャンルの番組では、テレビアニメ番組なら間違いなく規制対象になるような表現があっても特に不問とされていた事が多かった事から(『出動!ミニスカポリス』など)、同局の審査基準に対する疑問と批判が少なくない。この事が、基準の緩い独立UHF放送局やWOWOWなどの局への放送のシフトを促すきっかけにもなった。
一方で、2002年放送の『機動戦士ガンダムSEED』以降の毎日放送製作のアニメには過激な表現が多い。理由として、同局のアニメ担当プロデューサーである竹田菁滋は過激な表現に寛容だからだと言われている。しかし、アニメファンからも表現が行き過ぎているのではないかとの批判がある。
具体的にどのような自主規制やタブーが存在するのかは、報道におけるタブーに、より詳細な内容が記載されているので、そちらもご参照願いたい。
[編集] 宣伝への利用
「上映禁止」「放送禁止」などの言葉には猥褻、暴力表現が強いというイメージがあるため宣伝文句等に利用されたこともある。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 森達也・森巣博 『ご臨終メディア-質問しないマスコミと一人で考えない日本人』 集英社、2005年。ISBN 978-4087203141
[編集] 外部リンク
カテゴリ: 書きかけの節のある項目 | 表現規制問題 | 差別 | メディア