コンパクトディスク
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コンパクトディスク(Compact Disc、CD)は、デジタル情報を記録するためのメディア。光ディスク規格の一つで、レコードに代わり音楽を記録するため、ソニーとフィリップスが共同開発した。現在ではコンピュータ用のデータなど、音楽以外のデジタル情報も扱うことができる。
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[編集] 概要
コンパクトディスクの外見は直径12cmまたは8cm、厚さ1.2mmの円盤状で、プラスチックから作られている。プラスチックの材質はポリカーボネートであるが、APO(非晶質ポリオレフィン)を使用したものもある。読み取りには780nmの赤外線レーザーを使用する。肉眼では見えないが、非常に細かなピットと呼ばれる凹凸が連続して彫られており、この凹凸によってデジタル情報を表現している。アルミ蒸着面のくぼんだ部分をピットといい、くぼみでない部分をランドという。ピットはランドより1/4波長くぼんでいる。蒸着面に当ったレーザー光は反射して戻ってくるが、ピットがある部分に当ったレーザ光は、ランドからの反射波と1/2波長の位相差をもつため干渉して打ち消しあい暗くなる(なおCDの虹色のような光沢は、この干渉による構造色である)。この明暗によりデジタル信号を読み取り、アナログ信号に戻した音声を出力する。ピットの幅は0.5μmで、長さは0.83μmから0.3μm単位で3.56μmまで9種類、ピットから次のピットまでの距離も同じ9種類である。またピットの列をトラックというが、このトラックは1.6μm幅の渦巻状に並んでいる。レーザー光を反射させるため、コンパクトディスクはアルミニウム蒸着膜と保護層、印字膜の複数の層を重ねた構造になっている。誤り訂正はCIRCによるが、コンピュータのデータ保管等、1bitの誤りも許されない用途には、追加の誤り検出、訂正が行われている。
音楽用途の場合、デジタルのPCM形式で最大79分58秒、99トラックの音楽が記録できる。アルミニウムのかわりに金を使用したものもある(「ゴールドディスク」と呼ばれる)。
SACDやDVD-Audioが登場した現在でも音楽供給媒体としてはいまだに主流であり、これらの次世代メディアへの置き換えは進んでいない。
[編集] 主な構造
上から印刷層、保護層、反射・記録層、樹脂層で、記録層の部分は印刷面から0.1mm(樹脂層から1.1mm)の所にある。その為、印刷面からの衝撃に弱く、鉛筆やボールペン等、フェルト以外の油性マーカーで記入を行うと記録層にダメージが加わり、音飛びなどの症状が出ることもある。最悪の場合読み込めなくなる可能性も考えられる。印刷層側に深い傷が入ったり、湿度の高い場所に放置すると、記録層をのぞき反射層までがはがれることがある。ちなみに、DVDの記録層は印刷面から0.6mm(樹脂層からも0.6mm)、Blu-ray DiscではCDとは正反対で1.1mm(樹脂層から0.1mm)である。レーベルのデザインによるが、近年では、反射層と印刷層が穴の部分まで拡大されたものが主流となっている。
[編集] 容量
1枚のコンパクトディスクは、CD-ROM形式の場合約650~700MBの容量を持ち、CD-DA形式では最大収録時間は約80分である(当初は最大74分だった)。
コンパクトディスクは、650MBでは333,000セクタ、700MBでは360,000セクタが存在する。1セクタは2352バイトであるが、1セクタあたりのデータ容量はCD-ROMで2,048バイト、CD-DAで2,352バイトである。CD-ROMはCD-DAより厳密なエラー訂正が必要となるため、2,352バイトのうち304バイトをヘッダやエラー訂正などに割り当てていることから、CD-DAより容量が少なくなる。一部では800MBを超える容量のものもあるが、一部の機器では読み取れない場合がある。
[編集] 最大収録時間
最大収録時間(約74分)が決まったいきさつについて、開発元のソニーによれば以下の通りである。
- 開発の過程で、カセットテープの対角線と同じでDINに適合する11.5センチ(約60分)を主張するフィリップスに対し、当時ソニー副社長で声楽家出身の大賀典雄が「オペラ一幕分、あるいはベートーベンの第九が収まる収録時間」(12cm,75分)を主張して、調査した結果クラシック音楽の95%が75分あれば1枚に収められることから、それを押し通した(ソニー社史より。[1])。
その他、カラヤンが絡んでいるという話も流布している。
- 開発当時、指揮者カラヤンが「ベートーベンの交響曲第九番を収録できるように」と提言した。指揮者によって演奏時間は変わるが、1951年にライブ録音されたフルトヴェングラー指揮の交響曲第九番は歴史に残る名演奏とされ、演奏時間も長い(およそ74分)ことから、この演奏がコンパクトディスクの規格になったといわれる。
- ただし、この話では、カラヤンがなぜ、フルトヴェングラー指揮による演奏のCD化に対して心配しているのか疑問が残る。カラヤンが音楽媒体のディジタル化を望んでいたことは事実である。フィリップスを説得するために大賀がカラヤンの名を引き合いに出しただけであるとする見方もある。
また、8cmCD(CD SINGLE)の最大収録時間は約22分程度である。これは、CDVのオーディオパートとビデオパートを分けてそれぞれ開発した際に由来している。8cmというサイズは、ケースに収納したときレコードのシングル盤のちょうど半分のサイズとなるため、店舗でレコード用の棚を使いまわせるだろうと考えたため。
[編集] マルチメディア媒体
当初から音声・映像記録媒体として開発し、物理フォーマットは既に決まっていたが音声記録ディスクの論理仕様が先行して策定された。そのため少し遅れてビデオ記録用としてCDVが策定されたが、普及しなかった。後にデータ記録用としてCD-ROM、ビデオ記録用としてVideo CDなどの論理仕様が策定された。これらと対比して音声記録ディスクをCD-DAという。
さらに記録にピットを用いずに、レーザーによる媒体の物理的変化を利用して同等なデジタルデータの書き込みを行う方式が開発された。CD-Rはエンドユーザがデータの追加記録ができる。また、記憶領域の再利用(すなわち記録してしまった領域を取り戻し、空き領域とすること)ができない CD-R に対して、データの消去を可能にし、書き換えができるものをCD-RWという。
CDの技術を踏まえて音質の向上、あるいは著作権管理機能の強化を目指したディスク媒体の開発が引き続き行われている。オーディオ分野で実用化されたものとしてはSuper Audio CD(SACD)、DVD-Audioなどが開発されたが、どれもCD-DAを代替するまでの普及には至っていない。
[編集] CDの寿命
CDの寿命としては、蒸着した反射膜の寿命、基板となるポリカーボネートの寿命、そして、CD-Rの場合には色素の寿命の観点がある。全般として直射日光や高温・多湿を嫌う。
[編集] 蒸着した反射膜
現在、反射膜にアルミニウムを用いるCDは、環境にも依るが20~30年が限度と見積られており、現在長期的な保存を可能とした製品の開発が急務となっている。なお、反射膜に金を用いた場合、100年前後保存が可能と見積られているがコストの問題など解決しなければならない課題がある。海外製の安価なものは、印刷・反射層が端からはがれてきたり、水分が反射膜に浸透してアルミニウムが錆びてしまい反射の機能を失うなど短寿命のものが多い。
[編集] 色素
CD-Rでは記録面に真夏の昼間の日差しを当て続けると、色素が変化し読み込めなくなるし、質の悪い媒体の場合には蛍光灯に含まれる紫外線で変化するものもある。また、高温・多湿の環境に置くと、ごく短時間でも印刷・反射層が端からはがれてくる事がある。
[編集] 基板
現在のディスクに用いられるポリカーボネートは湿気に遇うと加水分解する欠点があり、徐々に白濁していく。これにより情報を読み取るレーザーが通らなくなり、情報を読めなくなる。ディスクの寿命としては前述の反射膜や色素の寿命が良く取りざたされるが、環境によってはポリカーボネートの透明度で寿命が定まることに留意が必要である。
尚、この欠点を積極的に活かし、開封後数週間程度で白濁する様に製造された媒体もある。これにより、音楽や映像のソフトウェアを再生できる日数を制限する。
温度や湿度変化の影響が比較的少ないガラス製のCDが開発・発売され、保存性の改善が期待されている。
[編集] コピーコントロールCD
CD技術のコピーが容易になったこととコピーされた音声ファイルのネットワークによる大量頒布の問題が顕在化したことにともない、2000年頃からコピーコントロールCD(CCCD)と呼ばれるコンピュータで読み取ることができない種類のディスクが登場した。日本では2002年に初導入された。
CCCDは後述のCDの規格に沿っていないため、厳密にはコンパクトディスクと称することはできない。そのため、パッケージにはコンパクトディスクのロゴが入っていない。「コンパクトディスクではない」ため、一般のCD再生機器での再生は保証されていない。
コピー防止の原理はディスクに意図的なエラーを付与されることにより、読み取り精度が重視されるコンピュータのCDドライブはそのエラーの多いCD-DAトラックを読み飛ばすことで、音楽CDとして認識しない場合や、正確なデータの読み込みのためにエラー部分の再読み込みを続けることになり、正常に再生ができなくなる。音声データにエラーを追加するため、通常のCDに比べ音質面で劣ると言われ、エラー訂正によりプレーヤー側に負担をかけると言われている。また、名目上はコピー不能としつつもそのままコピーできたり、CDドライブやソフトの向上により、読み取ることができるCDドライブの普及により、コピー防止技術として疑問が残る結果となった。
2005年10月にソニーBMG・ミュージックエンタテインメントがCCCDの中にrootkitを混入させたとして、大問題になった。詳細はソニーBMG製CD XCP問題を参照。
ただメーカー側は、コピー防止技術として一定の効果をあげたとし、市販されているCDへの採用は終息の方向に向かっている。
[編集] コンパクトディスクの規格
コンパクトディスクの仕様・規格は、対象とする範囲や目的によって複数の規格に分かれており、各規格基準書の表紙の色によってそれぞれが呼び分けられている。
(以下、「規格名 / 対象範囲」)
- レッドブック / 物理仕様, CD-DA, CD-G, CD-EG, CDV, HDCD, CD-MIDI, CD-TEXT,CD SINGLE
- イエローブック / CD-ROM
- オレンジブック / CD-MO, CD-R, CD-RW
- グリーンブック / CD-i, CD-ROM XA
- ホワイトブック / Video CD
- ブルーブック / CD EXTRA
- パープルブック / DDCD
- スカーレットブック / SACD
[編集] コンパクトディスクの歴史
1982年10月、日本ではソニーから最初のコンパクトディスクプレーヤー(CDP-101)とCDソフトが発売された。同時に、レコード店で取扱いが始まったが、当初は「レコードよりも音質がよく、ノイズがないニューメディア」として扱われた。レコードと同じ商品のCD版として売られ、価格もレコードより2割ほど高かった。レコードではライナーノーツといわれる楽曲説明を載せた印刷物が入っていたが、当時のCDは現在の様に中綴じ製本されたものではなく、LPと同じライナーノーツを4つに折ってCDケースに入れる例が多かった。
1980年代中頃になると、"AAD" / "ADD" / "DDD" といった表記が印刷されるようになる(レコード会社によっては"Digital Recording""Digital Mastering"など異なった表記がされているものがある)。最初の文字が、レコーディング方式がアナログかデジタルかを、二番目の文字がマスタリング方式がアナログかデジタルかを表す。三番目の文字は、商品がデジタルメディアであることを示すものであり、CDでは常に"D"である。この表示は日本ではすぐに廃れた(若しくは他の表記に変更された)が、輸入盤CDや、クラシックやジャズなどの作品には今だにこのマークが印刷されているものがある。
1986年、販売枚数ベースでCDがLPを追い抜き、その後、1990年代にかけて、LPは生産されなくなっていく。しかし、90年代末期以降、ごくわずかな需要や、最近注目されつつあるアナログ音響ブームもありLPが再生産されるケースが増えてきている。
2006年、樹脂層がガラス製のCD発売。音質の劣化がプラスチック製に比べると、理論上は起きにくいとされているが、コスト面やプレイヤーとの互換性に関して欠点もあげられている。
[編集] 関連項目
※次の規格は、CDの上位規格にあたる。