遺言
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遺言(いごん、日常用語としては通常ゆいごん)とは、死後の法律関係を定めるための最終意思の表示をいう。要式行為(一定の方式によることを必要とする行為)であり、方式に違反する遺言は無効となる。
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- この記事では、日本の現行民法における遺言の制度を解説する。条名は、特に断りない限り民法のものである。
目次 |
[編集] 遺言
[編集] 資格
[編集] 遺言指定事項
遺言のもっとも重要な機能は、遺産の処分について、被相続人の意思を反映させることにある。遺言がない場合は、民法の規定に従って相続が行われる(これを法定相続という)。これに対し、遺言を作成しておくと、遺産の全体または個々の遺産を誰が受け継ぐかについて自らの意思を反映させることができる。遺贈の方法により、相続人以外の者に遺産を与えることも可能である。
遺言がない場合、通常、相続手続には相続人全員で共同して遺産分割協議書を作成し、登記所、金融機関などに提出しなければならない。相続人の間で合意が得られない場合、相続人が行方不明となっていたり遠方に居住している場合などには、遺産分割協議書の作成は困難な仕事である。加えて、相続税の申告期限(10か月以内)に分割が確定しない場合は、各種の軽減特例を受けられないなどのデメリットがある。
遺言でどの財産を誰に相続させるかを明確に記載することにより、不動産の所有権移転登記が単独で行える。また、遺言で遺言執行者を指定することにより、預貯金の払戻しを円滑に行うことができる。このように遺言には、相続に関するさまざまな手続に関する遺族の負担を軽減するという実務上の利点がある。
遺産の処分に関連しない行為(未成年後見人の指定など)も遺言によって行うことができる。また、生前に行うこともできるし、遺言によっても行うことができる行為がある(子の認知など)。
このように遺言事項は多種に及ぶが、まず、民法上規定されている事項について、それぞれ規定のある条名とともに示すと以下の通りである。
- 相続人の廃除と廃除取消(第893条・第894条)
- 相続分の指定および指定の委託(第902条)
- 遺産分割方法の指定および指定の委託、遺産分割禁止(5年を限度とする)(第908条)
- 遺贈(第964条)
- 子の認知(第781条第2項)
- 未成年後見人・未成年後見監督人の指定(第839条・第848条)
- 祭祀主宰者の指定(第897条1項)
- 特別受益の持戻しの免除(第903条3項)
- 相続人間の担保責任の定め(第914条)
- 遺言執行者の指定および指定の委託等(第1006条・第1016条~第1018条)
- 遺贈の減殺の方法(第1034条)
その他、財団法人の設立を目的とする寄附行為(第42条2項)、信託の設定(信託法第2条)もすることができるほか、判例によれば生命保険受取人の変更も可能とされている(これらは遺言によらず生前に行うことが一般的であろう)。遺言の撤回は遺言の方式のみによって可能である(第1022条)。
[編集] 「相続させる」旨の遺言
判例により、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言は、遺産分割方法の指定と解する[1]とされ、当該遺産が不動産である場合、当該相続人が単独で登記手続をすることができるとされていることから、利用価値が高い(2003年度(平成15年度)税制改正以前は登記に関して必要となる登録免許税が遺贈の場合に比べて低額であるというメリットもあった)。
さらに、「相続させる」遺言によって不動産を取得した相続人は、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができるとの判例[2]が出たことから、他の相続人の債権者による相続財産の差押えを未然に防ぐことができるというメリットも生まれた。
[編集] 証人の条件
証人欠格者以外なら誰でもなることができる(974条)。
- 証人欠格者
[編集] 方式
[編集] 普通方式遺言
[編集] 自筆証書遺言
- 条件
- 遺言書の全文が遺言者の自筆で記述(代筆やワープロ打ちは不可)
- 日付と氏名の自署
- 押印してあること(実印である必要はない)
[編集] 公正証書遺言
遺言内容を公証人に確認してもらってから公正証書にする方式。証人2名と手数料を用意し、公証役場を訪問する必要はない(公証人に出向いてもらうことが可能)。遺言書の検認は不要である(1004条2項)。
[編集] 秘密証書遺言
遺言内容を秘密にして公正証書にする方式。証人2名と共に、手数料を用意し、公証役場を訪問する必要がある。代筆やワープロ打ちも可能だが、遺言者の署名と押印は必要であり(970条1項1号)、その押印と同じ印章で証書を封印する(同項2号)。代筆の場合、証人欠格者以外が代筆する必要がある。遺言者の氏名と住所を申述したのち(同項3号)、公証人が証書提出日及び遺言者の申述内容を封紙に記載し、遺言者及び証人と共に署名押印する(同項4号)。
[編集] 特別方式遺言
普通方式遺言が不可能な場合の遺言方式。普通方式遺言が可能になってから6ヶ月間生存した場合は、遺言は無効となる(983条)。
[編集] 一般危急時遺言
疾病や負傷で死亡の危急が迫った人の遺言形式。証人3人以上の立ち会いが必要。証人の内の1人に遺言者が遺言内容を口授。遺言不適格者が主導するのは禁止。口授を受けた者が筆記をして、他の証人が確認。各証人が署名と押印。20日以内に家庭裁判所で確認手続を経ない場合、遺言が無効。
[編集] 一般隔絶地遺言
伝染病による行政処分によって交通を断たれた場所にいる人の遺言方式。刑務所の服役囚や災害現場の被災者もこの方式で遺言をすることが可能。警察官1人と証人1人の立ち会いが必要。家庭裁判所の確認は不要。
[編集] 船舶隔絶地遺言
船舶に乗っていて陸地から離れた人の遺言方式。飛行機の乗客はこの方式を選択不可。船長又は事務員1人と、証人2人以上の立ち会いが必要。家庭裁判所の確認は不要。
[編集] 難船危急時遺言
船舶や飛行機に乗っていて死亡の危急が迫った人の遺言方式。証人2人以上の立ち会いが必要。証人の1人に遺言者が遺言内容を口授。口授を受けた者が筆記をして、他の証人が確認。各証人が署名と押印。遅滞なく家庭裁判所で確認手続を経る必要。
[編集] 遺言の執行
遺言により遺言執行者が指定されている場合または指定の委託がある場合は、遺言執行者が就職し、直ちに任務を開始する(1006条・1007条)。子の認知・相続人の廃除およびその取り消しを除き、遺言執行者がなくても相続人が遺言の内容を実現することが可能であるが、手続を円滑に進めるためには、遺言執行者を指定しておく方がよい。遺言執行者がないときは、家庭裁判所は利害関係人の請求によって、遺言執行者を選任することができる(1010条)。遺言執行者は遺言に定めた報酬または家庭裁判所の定める報酬を受ける(1018条)。
遺言執行者は相続人の代理人とみなされる(1015条)。不動産の登記について、遺贈の場合は遺言執行者が登記義務者となるが、「相続させる」遺言の場合は前述の判例により、相続開始時に承継されたとみなされ、相続人が単独で登記することができるため遺言執行者は関与しない。
遺言の執行は伝統的に弁護士が引き受けてきたが、司法書士・行政書士も手がけている。また、信託銀行でも遺言信託と称して遺言執行サービスを提供している。
[編集] 備考
- 遺言の日付は「平成15年吉日」などの年月日が特定できないものは無効だが、「還暦の誕生日」、「65歳の誕生日」、「平成15年大晦日」など、年月日が特定できるものなら有効。しかし、できる限り混乱防止のために普通に年月日を記載するほうが望ましい。
- 遺言者が通常使用している芸名等でも、遺言書を書いた者が特定できる場合は有効。
- 共同で遺言書を書くことは原則無効(例、夫婦の連名による遺言)。
- 遺言は封書しなくても有効。ただし、封印のある場合は家庭裁判所に提出して検認を受けるときに、相続人(もしくはその代理人)の立ち会いがなければ開封できない(1004条3項)。ちなみに検認を経なくても遺言が無効とはならず、ただ過料の制裁を受ける可能性があるだけである(1005条)。
[編集] 撤回及び取消
- 遺言内容が異なる遺言書が発見された場合、後の日付の遺言書によって、前の日付の遺言書が撤回されたものとして扱われる(最後に書いた日付が同じだが、遺言内容が異なる遺言書が複数出た場合は一方の遺言を無効とする旨の記述がないと無効となる)。
[編集] 脚注
[編集] 関連項目
- 民法
- 相続
- 遺贈
- 遺言自由の原則
- 遺言の方式の準拠法に関する法律