鉄道標識
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鉄道標識(てつどうひょうしき)とは、列車に対して運転条件などを示すもののひとつである。日本の「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」では、信号・合図(汽笛やブザー、旗やランプの色など)・標識に分類している。この省令において標識は、係員に対して、物の位置、方向、条件等を表示するものと定義している。また、この規定には当てはまらないため厳密には標識では無いといえるが、運転上の目標や線路に関する情報が書かれたものに標というものある。
本項では標識とあわせて標についても詳述する。本項では特記なければ日本の国鉄・JR各社で使用されているものを中心に記述するが、標識および標の様式および形状は各鉄道事業者により異なる場合がある。私鉄の標識全てを紹介する事は無理があるので、現版では大手私鉄を中心に、比較的よく見られる標識もあわせて解説する。
系列関係にある私鉄同士(京成電鉄と京成グループ各社、阪急電鉄と能勢電鉄など)、あるいは系列でなくとも地理的に近い私鉄同士(関東鉄道と茨城交通、近畿日本鉄道と三岐鉄道など)では、同じデザインの標識を使用しているケースが多く見られる。
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[編集] 標識の種類
[編集] 速度制限標識
速度制限標識は、そこを通過する列車の速度を制限する標識である。列車はこの標識がある地点までに表示された制限速度以下に速度を落とさなければならない。速度を制限する目的は次の2つである。
- 急カーブや架線の事情などに伴う速度制限。
- 分岐の通過に伴う速度制限。
[編集] 速度制限標識(一般用)
急カーブなど速度を制限する必要のある区間の始点に設置される標識である。制限速度のみが表示された種類と、制限速度に加え、下部に制限区間の距離や適用される列車種別、車種が併記された種類がある。
一般的にこの標識に表示された制限速度は、列車が速度制限区間を通過する際に発生する揺れや遠心力などによる乗り心地低下等に問題が無いという上限の速度であり、この速度を越えるとすぐさま脱線・転覆等の危険に繋がるという上限の速度ではない。実際、多少の揺れは吸収出来る高性能の台車や振り子装置を備えた車両は、同じ速度制限区間でも他の車両より特別に制限速度が高く設定されている場合が多く、その列車用に数種類の標識を縦列に設置していることもある。しかし制限速度を大幅に超えて通過すると危険に繋がるということに変わりはなく、JR福知山線脱線事故では速度制限超過が事故原因の一つではないかとされている。
[編集] 速度制限標識(分岐用)
分岐器の直線側から分岐側に進む、あるいは分岐側から直線側に戻る列車に対して速度を制限する標識である。制限速度とともに分岐する側の上下の隅が黒く塗られている。分岐器は一般的な線路より強度が弱いため転轍器に過剰な負荷がかかりやすく、またカントの設定も困難なため、速度を制限することが必要となる。
分岐器の番数・種類にもよるが、25km/h~60km/hの制限がかかる。転轍器とともに停車場内にのみ存在する。
鉄道会社による違いとしては、色(白地に黒字、黒地に白字、黄色地に黒字)、形状(四角、四隅を切り取った八角形、三角形、円形)、付属情報(常に距離を記す)などが見られる。
[編集] 速度制限解除標識
速度制限のある区間が終わる地点を示す標識である。ただし分岐用の速度制限標識に対しては設置されない。一般的に速度制限区間が100m以上ある場合に設置される。編成を構成する車両の後端がこの標識を通過した時点で、制限事由が消滅することになる。
私鉄では図の様な白黒三角の組み合わせでなく「解除」「解」の字で示す会社や、(分岐用以外では)常に解除標識を示す会社、逆に常に解除標識を示さない会社もある。
速度制限標識と速度制限解除標識の取付位置は、進行方向左の地面か架線柱に付けるのが一般的だが、京浜急行電鉄の複線区間では、上下線路の間という狭い場所に、縦長長方形のものを取り付けている。
[編集] 制限解除後端通過標識
運転士による上記作業を補う為、編成を構成する車両の後端が速度制限区間を通過した時点で、運転士の位置に編成両数付きの数字(「8」「10両」など)を示しておくもの。東武鉄道、東京急行電鉄、京浜急行電鉄などに見られる。また臨時徐行信号においても、同様に後端通過標識が設置される事がある。
[編集] 列車停止標識
出発信号機が地形上の理由などにより所定の場所に設置出来ていない場合、本来出発信号機が設置される絶縁継目の場所に設置される標識。また列車が停止する限界も示している。よってこの標識を越えて列車が停止した場合、後退することは出来ない。
列停(れってい)とも呼ばれる。
[編集] 車両停止標識
車両を駅や車両基地の構内で入換え等の運転する際、停止する限界を示す。車停(しゃてい)とも呼ばれる。
[編集] 架線終端標識
架線の終端を示す標識である。この先で架線が無くなるため、ここを越えると電車および電気機関車は自力で加速することは基本的にできない。またパンタグラフも、上昇を維持するためのバネが故障してしまう場合がある。電化・非電化境界駅には必ず設置されている。
[編集] 車止標識
線路の終端を示す標識である。車止め付近に設置される。JR九州では、遠方からも確認できるようかなり大きなものが使われている箇所があるほか、新幹線ではオレンジ色のものが設置されている。
[編集] 出発反応標識
列車の出発合図者に出発の可否を示す標識である。「レピーター」と言う鉄道事業者もある。主に、出発信号機が出発合図者から見難い場合に設置される標識で、停車場および信号場内に設置される。出発信号機がないATC区間では必ず設置される。
駅構内のホームの屋根支柱に設置される場合の他、屋根が無い場合は自立した柱に設置される場合もある。黒い円筒形の筒の端面が白く発光する構造になっている。最近はLEDを使用したものもあるが、その場合は白色に変えて黄色で発光する(JR東日本等一部事業者のLED型レピーターは、黄緑色に発光する)。出発信号機が警戒以上の現示の時に点灯して出発可能な事を示す。
JR線の場合、車掌や運転取扱者がこの標識を見て出発合図を出す。よって、カーブしたホーム等の出発合図者から出発信号機が見えにくい構造の停車場内では、1つの出発信号機に対して複数の出発反応標識が設置されている。
私鉄でも基本的には同じ扱いであるが、一部事業者では出発信号機が警戒以上の現示であっても点灯せず、発車時刻になった地点で点灯するようになっている。
JR東日本の一部駅では、レピーターが点灯(=信号開通)がしない限り、発車メロディーが流せないようになっている。
D-ATC敷設区間のレピータは、運転台の車内信号とは連動しておらず、ある一定の距離が開通していることを条件に点灯する。
[編集] 一旦停止標識
ここで一旦停止するよう指示する標識。車両基地と駅構内との境界地点付近や、車両基地構内の線路の終端手前などに設置され、車両を一旦停止させた運転士は入換信号機やATSの電源、運転速度の確認などを行う。
[編集] 入換標識
駅および車両基地構内で、入換えを行う車両の乗務員に対して線路の進路等が開通しているかを示す標識である。詳しくは、入換信号機を参照されたい。
[編集] 入換信号機識別標識
入換信号機に付属する標識で、紫色灯が点灯していれば入換信号機となり、消灯している時は入換標識となる。
[編集] 最高速度予告標識
次の駅まで出す事ができる最高速度を、駅の少し先(主に出発信号機付近)に表示しておくもの。優等列車が走る区間では、種別のシンボルカラー(赤=急行、黒=普通など)に対応させた標識を、種別の数だけ何段も表示しておくケースが殆どであり、東京急行電鉄のATC区間、京王電鉄、京成電鉄、名古屋鉄道、近畿日本鉄道など、一部の私鉄で使われる。
[編集] 踏切合図標識
警報機や遮断管を持つ踏切が、作動している事を示す。黒い正方形に×型の白色灯が基本的デザインだが、関西など主に西日本地方には、各社固有のデザインが多い。この標識は私鉄のみで、JRには設置義務がない。詳細は「踏切」を参照。
[編集] 標の種類
[編集] 曲線標
曲線標は平面線形(線路の平面的な形状)に関する情報を示しており、円曲線(円弧)と緩和曲線の境界部の線路脇に設置される。具体的には表に円曲線の半径、裏にカント量、スラック量、円曲線の長さ、緩和曲線の長さが書かれている。なおカント量はC(Cantの略)、スラック量はS(Slackの略)、円曲線の長さはCCL(Circle Curve Lengthの略)、緩和曲線の長さはTCL(Transition Curve Lengthの略)とそれぞれ表現されている。
[編集] 逓減標
線路の曲線区間においては、カントを設けるのが原則である。ただし、カントは直線区間ではゼロであることからカントのすりつけ区間(逓減区間)が必要であり、その始点・終点に設けられるのが逓減票である。
曲線区間の前後には緩和曲線を挿入することが多いため、一般に緩和曲線の始点・終点に設けられる。しかし、反向曲線(いわゆるS字カーブ)など緩和曲線が設けられない区間では、円弧曲線部や直線部の途中に逓減区間を設けることもある。
[編集] 勾配標
勾配標は線路の縦断勾配を示すものであり、縦断勾配の変化点に設けられる。勾配の大きさは千分率(パーミル、記号‰)をもって示し、水平に1000メートル進んだときの高低差(メートル)に相当する。勾配が0、すなわち水平のときは、水平を意味するLevelの頭文字Lを表記する。
裏の黒い腕木がここまでの勾配、柱が現在地点、手前の腕木がここからの勾配を表しているといえる。例えば、裏の腕木が水平で手前の腕木が下向きならここまで水平・ここから下り勾配であり、2本の腕木が共に上向きならここまで下り・ここから上りである。
[編集] 距離標
その路線の起点からの距離を示す。示す甲号・乙号・丙号の3種があり、甲号と乙号には大きさや形状等に規定があるが、丙号に大きさ等の規定は無い。基本的に複線の場合は下り線の進行方向左側、単線の場合は下り列車の進行方向左側の線路際に設置されるが、複線であっても上下線が離れている場合などは上り線の線路際にも設置される場合がある。
- 甲号
- 1km毎に設置される。キロポストとも。1.2m程度の白い柱で、側面に黒い文字で距離の数字が書かれている。0km地点の距離標は独特の形状のものもある。
- 乙号距離標
- 0.5km単位の位置に設置される。0.9m程度の白い柱で、側面に「1/2」と大きく、柱の下方に小さくkm単位の距離の数字が書かれている。
- 丙号距離標
- 0.1km単位の位置に設置される。大きさや形状等に規定が無いため、会社や支社により形状は異なる。一般的に100mの位の数字が大きく、km単位の距離の数字が小さく書かれている。
[編集] 車両接触限界標
ここを超えるとほかの車両と接触する場所であることを示す。分岐器の途中、ほかの車両と接触する箇所に設置される。「クリアランス」とも呼ぶ。
[編集] 信号警標
次の信号の現示をこの標識の地点で確かめ、喚呼する地点を示す標識である。主に出発信号、場内信号、遠方信号の為に設置される。
[編集] 信号喚呼位置標
信号警標と同様に、次の信号の現示をこの標識の地点で確かめ、喚呼する地点を示す標識であるが、主に閉塞信号の為に設置される。これらは会社や支社により形状が異なっている。主な違いを並べると以下の通り。
- JRでは、黄色い三角形(都市部では背景に埋もれないよう黒い丸の中に表記している例が多い)が描かれ、閉塞信号機の場合は中に閉塞番号が書いてあるものが多い。
- JR北海道、京成グループ、小田急電鉄では三角形のみ。
- JR四国では黄色い四角の中に黒線で丸が描かれているだけで、閉塞番号も記されていない。
- 私鉄全般で見た場合、黒い丸の中に白い三角で閉塞番号を記さないか、または信号喚呼位置標そのものを設置しないか、どちらかが多い。
- 場内信号機の場合は三角形の中に「場」、遠方信号機の場合は「遠」とかかれている場合もある)。
[編集] 汽笛吹鳴標
警笛を鳴らすよう指示する標識である。列車が見通しが悪い踏切やホーム、トンネル、橋梁を通過する際または保線工事を行っている際に、注意を促すために警笛を鳴らす必要がある場所に設置される。 最近では、騒音を意識する運転士が増えてきたため、この標識を省略して警笛を鳴らさない場合がある。
[編集] 力行標
運転士にここから加速せよという目安を送る標識である。あくまで目安であるため、強制力は無い。デッドセクション終了地点に多い。
[編集] 惰行標
ここで加速をやめて惰性運転に切り替えよと運転士に目安を提示する標識である。直流区間では目安であるが、交流区間では交-交セクション・交-直セクション手前で力行を中断しないとセクションオーバー事故となるため、重要な標識となる。
力行標・惰行標とも、私鉄で独自のデザインが使用される場合、力行標は丸、惰行標は線をモチーフにする所が多い。また最高速度予告標識と同じ様に、種別毎に何段も表示する会社も多く(京成電鉄、京王電鉄、阪神電気鉄道など)、逆に力行標・惰行標自体を表示しない私鉄も存在する。
[編集] 架線死区間標識(交直セクション)
電流切り替え地点にある。ここから電気が流れていない区間(無電区間)であることを示す。六角形に赤のゼブラ模様が入っている。
[編集] 架線死区間標識(交交セクション)
異相区分用セクション地点に設置されている。四角い白地に赤のラインが斜めに入っている。
[編集] 関連項目
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