警笛
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警笛(けいてき)とは、自動車や鉄道車両、船舶等において、自らが近づくことを音を使って他の通行対象に知らせるために使用する保安用具。自動車では「クラクション(フランスの自動車部品メーカー、クラクソン(en:Klaxon)の製品が有名だった為に語源となったといわれる)」やホーンと呼ぶ物を指し、船舶や鉄道車両のうち蒸気機関車を中心に汽笛(きてき)とも称する。
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[編集] 自動車の場合
自動車では「クラクション」と呼ばれることがある。警笛区間や危険な場合に使用される。なお、道路標識で指定された警笛区間や危険な場合を除き、警笛を鳴らす行為は騒音問題の原因となるため道路交通法で禁止されている。無意味な使用は勿論だが、信号などで前車の発進を促す時や、低速走行の車に後車が警笛を鳴らす行為も見受けられるが、このような行為も警笛の乱用につながるため当然違法である。自動車の場合、警笛に端を発するトラブルも発生することもあり、殺人事件に発展してしまった事例もある。
[編集] 鉄道車両における警笛の概要
一般に、エアタンクに圧縮した空気を勢い良く笛に送り込んで笛を吹鳴させる空気笛(または空笛と呼ぶ。形としては笛よりもラッパに似ており、「パーン」という余韻を持つ音を発する)を用いるが、近年は環境(騒音)問題に配慮した電子音(「ファーン」という余韻を持つ音が多い)を採用したり、変わったものとしては音楽を使用するものもある。その内、電子音の警笛を「電子警笛(電笛、電気笛)」、音楽を鳴らすものを「ミュージックホーン(音楽笛)」などという。また近畿日本鉄道ではアーバンライナー以前の特急車と一般車では空気笛とハイウェーホーン(自動車のクラクション音タイプ)の2種類を採用し、アーバンライナー以降の特急車は空気笛と和音の電気笛を採用している。
蒸気機関車では空気の代わりに蒸気を送り込んで2-3和音の「ポー」という音を発する笛が使われている。電気機関車では単音の「ピー」という、甲高い音になる。
社によっては、上りと下りで音階を変えている路線もある(東武鉄道、京王電鉄など)。
通常、電車および気動車の空気笛は、運転台の足元にあるペダルを踏むことによって吹鳴できる。 電子警笛を装備した車両は、このペダルを浅く踏むと電子警笛、強く踏み込むと電子警笛+空気笛を吹鳴させることができる。なお、東日本旅客鉄道(JR東日本)E231系電車などの車両は、運転台足元、向かって左側に、空気笛のみを吹鳴させることができる丸いペダルがある。これは車掌用ペダルである。名古屋鉄道7000系「パノラマカー」では、「空笛」「電気笛」「音楽笛(ミュージックホーン)」に、それぞれ独立したペダルがある。阪急電鉄他一部の車両は足元に空気笛ペダル、電子笛が手押しボタンという配置もある。
警笛(汽笛)を鳴らす場面としては次のような場合が挙げられる。
- 駅を発車する場合(通常の列車ではほとんど見られなくなった)
- 交通量の多い踏切や、警報機のない踏切、上下列車がすれ違った直後に踏切を通過する場合
- ある程度以上のトンネルや鉄橋の通過前
- 保線工事が行われている場合
- 信号待ちの状態から発車する場合
- 優等列車など通過列車が駅を通過する場合(都市近郊駅では列車案内装置の普及で、このケースで鳴らすことは少なくなった)
- 停車駅に到着する場合(主にラッシュ時で混雑している場合、地下鉄駅でカーブの先に駅があるような場合)
- その他、危険回避のため
※かつて盛んに行われた、貨物駅(操車場)における貨車の入れ替え作業でも、移動や停止、連結などを行う際の警笛(汽笛)の鳴らし方が規定されていたが、割愛する。
旧・日本国有鉄道(国鉄)時代は駅での発車時に警笛(汽笛)を吹鳴することが多く、私鉄では社にもよるが、通過列車の駅の通過時に鳴らす場合も多かったが、最近では騒音問題の為か、上下列車がすれ違った直後に踏切を通過するときや、危険防止の為、鉄橋やトンネル通過前、やむを得ないときなどにしか吹鳴しない事業者が多い(特に関東地方)。一方、大阪市交通局と京都市交通局のように駅入線時と発車時、カーブ通過前に必ず吹鳴する事業者、近鉄のように駅入線時(名古屋輸送統括部は発車時)に警笛吹鳴する事業者、阪急のように乗務員交替駅発車時に吹鳴する事業者もある。
[編集] ミュージックホーン
ミュージックホーンとは、複数の音色で音楽を奏でる警笛の事である。小田急ロマンスカーの3000形「SE」車に採用されたのが最初の例である。のちに名古屋鉄道の7000系パノラマカーや小田急電鉄の他の特急車でも採用された他、地方私鉄でも、富山地方鉄道、遠州鉄道、静岡鉄道で採用された。 なお、小田急ではミュージックホーンとは呼ばず、オルゴールと呼ぶ。
小田急では騒音問題に絡み、ミュージュクホーン装置の使用停止・装置自体の取り外しが進められたが、50000形「VSE」車で久々に復活した。同社では他社への譲渡後ではあるが使用停止後の使用再開例もある。1983年に大井川鉄道(現・大井川鐵道)に譲渡された3000形「SSE」車は同社の産業遺産保存方針から小田急時代のサービスのほとんどを復活させ、ミュージックホーンも復活した。しかし、利用客は同様に産業遺産保存方針で運転されているSL急行に流れてしまったため、1989年に廃車され、1993年に解体された。
東日本旅客鉄道では、次のような列車に採用されている。
などの特急形車両
に採用している。
~西日本旅客鉄道(JR西日本)~
などの特急型車両
~東海旅客鉄道(JR東海)~ 東海旅客鉄道では、ミュージックホーンをはじめとする電気笛を警笛として認めていないため、JR西日本と同一仕様の285系電車以外には、電気笛を搭載した車両は無い。よって同社線に乗り入れている285系や683系やE231系や223系が警笛を鳴らす場合は空気笛のみ、もしくはミュージックホーンあるいは電気笛と空気笛を同時に鳴らさなければ、警笛を吹鳴したとはみなされない。なお、JR東海の飯田線と名鉄の共用区間内においては、名鉄車両によるミュージックホーンの吹鳴は、JR東海の要請によって禁止されている。
国鉄時代においては、四国総局に配置されたキハ58系気動車の一部に1960年代前半、第四種踏切の事故対策として、「ミュージックサイレン」を設置していた。この「ミュージックサイレン」装備車には車体前面に青色の帯を塗装していたが、すぐに撤去された。
エンドレステープ式を採用した小田急「SE車」以外のミュージックホーンは「トランジスタ式」「IC式」の違いこそあれ、全て電子装置による演奏である。ミュージックホーンで小田急に先を越された名鉄は、小田急のテープ式とは違い、当時の先端技術であるトランジスタを採用した警笛である事を強調するため、ミュージックホーンの事を「トランジスタホーン」と謳い、大いに宣伝した。往年の名鉄では、高山本線直通列車用キハ8000系を間合いで使用していた名古屋本線豊橋方面行き特急列車がミュージックホーンを連続吹鳴しつつ早朝の三河路を駆け抜けていた事から、沿線住人はキハ8000系が奏でるミュージックホーンの音楽を、毎日の時報がわりにしていたという逸話が残っている。
名鉄のミュージックホーンには、「ドケヨホーン」というあだ名もある。これは子供がそのように聴こえるということで、呼ぶようになったものとされる。「どけよどけよそこどけ」や、「どけよどけよどけどけ」など、子供が勝手に作った様々な歌詞が存在する。正式な歌詞はおそらく存在しないと思われる。ちなみに作曲は、ミュージックホーンの製作を担当した小糸工業に依頼された作曲家とされるが、今も名前は伏せられている。また、中京競馬場で行われる名鉄杯(1000万条件)で演奏されるファンファーレにもアレンジされている。
元々は遮断機等未整備の踏切が多い中、列車の接近を知らせるために常時吹鳴させる事を前提に作られたミュージックホーンであったが、近年は騒音問題から常時吹鳴することはなく、トンネルや駅ホームに進入する場合など、吹鳴させる場所が限られつつある。