ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団
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『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』(ウルトラろくきょうだいたいかいじゅうぐんだん)は、1975年に制作された 円谷プロ、チャイヨー・プロダクション合作の劇場映画。1979年3月17日 松竹洋画系公開。タイ王国では1974年に初公開され、2001年に劇中音楽の差し替えや再アフレコを施し、リバイバル公開されている。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
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[編集] ストーリー
仏像泥棒に殺害されたコチャン少年がウルトラの母の手によって白猿ハヌマーンとして甦り、ゾフィーからウルトラマンタロウまでのウルトラ兄弟と共にタイ王国に出現した怪獣軍団と戦う。
主役はインドの神話に登場する神ハヌマーンであり、ウルトラ兄弟はどちらかというと脇役といった登場の仕方である。巨大化したハヌマーンが仏像を盗んだ強盗を追いかけ「仏様を大事にしない奴は死ぬべきなんだ!」と握り潰したり、水不足を解決するために接近する太陽にハヌマーンが直談判して遠ざけたり、「卍」のポーズで飛行するハヌマーンなど、タイの文化を下地にして作られている作品である。
[編集] 作品の成立
1970年代半ばはタイにおいて日本の漫画、アニメ、ヒーローが非常に人気を得ていた。本作はタイのチャイヨープロダクションの社長ソンポート=セーンドゥアンチャイ(ソンポート・センゲンチャイとする書籍もある)が、かつて日本の円谷英二の下に留学し映画の修行をしていた縁で製作された。原題は「ハヌマーンと7人のウルトラマン」で、ウルトラの母も含まれている。円谷プロとの合作は「ジャンボーグA対ジャイアント」に続く2作目。また、本作の後東映の仮面ライダーと競演した「ハヌマーンと5人の仮面ライダー」や、「ジャンボーグA対ジャイアント」のフィルムを流用した「キンガー・ガイヤシッ」も製作された。
インドの神話に起源を発し、孫悟空のモデルともなった、怪力で忠孝なハヌマーンはタイの人気者である。芝居などでもオチに困ると脈絡なくハヌマーンが登場し、その度大喝采という具合。日本の加藤清正の様である。そのハヌマーンがウルトラマンと共闘する娯楽作品となった。
本作は、テレビ作品では資金的に苦しく活躍が縮小していた当時の円谷プロにとって、その持てる実力・ノウハウの蓄積を示す大作となった。広大なステージでミニチュアワークの中を暴れまわるウルトラ6兄弟の殺陣、大規模なミニチュア特撮、弾着、カメラ速度の使い分け等によって描かれる壮大な決闘は、第二期ウルトラシリーズの特撮の総決算であり、後年の「ウルトラマン物語」ですら実現されなかった、唯一無二の圧巻な映像となった。 また、ドーナ第7ロケット基地のセット(MAC基地の流用)、所員の服装(ZAT、SAF、MAC、ジャンボーグ内の立花ナオキ服装他)、車両(マックロディ)も見所。
しかし反面、本作の日本国内興業権の支払いに窮した円谷プロが、チャイヨープロに「ウルトラマンタロウ」以前のウルトラシリーズの海外使用権を譲渡する契約を交わす契機ともなった。本契約を巡って裁判沙汰が起こり、そのため現在日本では映像ソフトや主題歌の発売、雑誌掲載がされない状態にある。
[編集] 白猿ハヌマーン
タイの平和を守る風神ラマヤーナの子で、風の女神サワハによって生み出された。3人組の仏像泥棒に殺された、勇気ある少年コチャンにウルトラの母が白猿ハヌマーンの命を与えた。両手を胸の前で合わせて祈ると変身する。常に猿のように跳ねており、踊っているようにも見える。ウルトラ6兄弟と共に、ゴモラ率いる怪獣軍団と戦った。
叙事詩「ラーマーヤナ」においてハヌマーンは風神ヴァーユと、猿王ケーシャーリーの妻アンジャナーとの子となっている。また、友人ラックサナが矢に打たれた、という話も原典では叙事詩の主人公ラーマ王子(ラックサナはその弟)であり、時間稼ぎに諭した相手は太陽ではなく月であった。なお、タイに一般的に流布している『ラーマーヤナ』の伝本は、インドで一般的なヴァールミキ版ではなく、ラーマ1世による『欽定版ラーマキエン』と呼ばれる伝本やその流れをくむもので、タイ独自の要素を多く含んでいる。
身長・体重:不明
[編集] 能力
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- 三叉槍(トライデント)
- 柄の短い三叉槍。剣に変化する。
- ハリケーンガン
- 三叉槍から発射するつむじ風。ゴモラ以外の怪獣を4匹まとめて舞い上げて落下させ、ダメージを与えた。また、ドロボンの体の肉を吹き飛ばして骸骨にしてしまった。
- ウィンドスラッシュ
- 三叉槍を変化させた3発の光輪。アストロモンスとダストパンの首を2匹まとめて切断して倒した。
- 三日月状カッター(名称不明)
- 三叉槍を変化させた剣を、三日月状カッターに変化させて投げつける。ゴモラを真っ二つにして倒した。
- 飛行能力
- 雲上昇天菩薩の様に(卍型)飛行する。ウルトラマンやスーパーマンの様なポーズでも飛行する。
- 風化能力
- 風に変化して移動する。
- 投げ技
- 巴投げ、岩石落とし、ジャイアントスイング等が得意。
[編集] 登場人物
- コチャン(演:コ・ガオデンディ)
- ブッダを敬う、勇気ある少年。3人組の仏像泥棒に殺されてしまったが、ウルトラの母によって白猿ハヌマーンの命を与えられて蘇った。
- アナン(演:アナン・プリーチャー)
- コチャンの親友。
- ヴィルッド博士(演:ヨーチャイ・メクスワン)
- ドーナ第7ロケット基地で人工降雨ロケットを開発し、タイの国を干ばつの危機から救おうとしている科学者。科学を過信しており、「科学こそ現代のハヌマーンだ」と考えている。
- マリサー
- アナンダの姉で、ヴィルット博士の助手。ヴィルット博士に「仏の力を忘れるな」と釘を指す。
- シープアク、シースリヤー
- ドーナ第7ロケット基地の職員。『ウルトラマンタロウ』のZATの隊員服に似た制服を着ている。
- 3人組の仏像泥棒
- コチャンを射殺した仏像泥棒達。巨大化したハヌマーンに追い掛け回された挙句、踏み潰されたり握りつぶされたりと惨殺される。
- 太陽の精スーリヤ
- 太陽の動きを支配する精。地球に近づきすぎたためにタイの国に水不足をもたらしてしまい、ハヌマーンに説得されて地球から離れていった。
- 風の女神サワハ
- タイの風の女神で、空から地上の平和を見守っている。体いっぱいに吸い込んだ風を吐き出した時に、風神の子ハヌマーンを生み出した。
[編集] 登場怪獣
- ゴモラ
- ドーナ第7ロケット基地での、人工雨ロケット発射実験の失敗による大爆発により目覚めた。怪獣帝王の異名を取る軍団のリーダー格。地震や津波等を発生させる力を持つ。口からは火炎を吐き、角から敵を球体に閉じ込めるキャッチビームと破壊光線を発射する。相手の攻撃をはね返す怪獣念力を使ってハヌマーンを苦しめるが、仲間を倒され最後の一匹になり、ウルトラ兄弟の光線一斉発射を受けて弱ったところをウルトラ兄弟に袋だたきの目に遭わされたあげく腕を押さえ込まれ抵抗できなくされ、ハヌマーンの剣で一方的に殴られる(このシーンは本作を象徴するものとして有名である)。最後はハヌマーンが剣を変形させた三日月形カッターによって真っ二つにされた。
- アストロモンス
- ウルトラマンタロウに登場。頭の角から怪光線を発射する。メタリウム光線やシネラマショットにも耐えたが、ハヌマーンのウインドスラッシュによってダストパンと共に首と腕を切断された。その状態で二匹とも、まるで慌てふためくかのごとくコミカルに動き回り大爆発。
- ダストパン
- 本来はミラーマンの怪獣。目から破壊光線を発して暴れ回ったが、ハヌマーンのウインドスラッシュによりアストロモンスと共に首と腕を切断され、ともども大爆発して果てた。
- タイラント
- ウルトラマンタロウに登場。ウルトラ兄弟を倒して地球に襲来した本来のタイラントとは異なりかなり弱く、ロケット基地の爆発に巻き込まれるという、あまりにもあっけない最期を遂げた。
- ドロボン
- アストロモンスやタイラント同様、ウルトラマンタロウに登場。口から破壊ガスを吐いて戦闘機を粉々に破壊する。ウルトラ兄弟に頭と腕の肉を剥がれ、さらにハヌマーンのハリケーンガンで体の肉を吹き飛ばされて骨だけにされて倒されている。
[編集] スタッフ
- 監督:東條昭平
- 製作:円谷皐、ソムポート・セーンドゥアンチャーイ、伊藤久夫
- 脚本:若槻文三 、淡豊明、ソムポート・セーンドゥアンチャーイ
- 助監督:中島俊彦
- 特殊技術:佐川和夫
- 主題歌:「ぼくらのウルトラマン」
- 作詞・作曲:谷のぼる 編曲:高田弘 歌:ささきいさお、コロムビアゆりかご会
[編集] 声優
[編集] 映像ソフト
円谷プロとチャイヨー・プロダクションは、ウルトラマンの権利をめぐって国際裁判が行われるなど、現在では関係が悪化しており、日本国内における映像ソフト化は今後絶望的と思われる。
関係悪化以前に発売されたVHS版は、レンタルビデオ店でたまに見かけることがあり、レーザーディスク版も存在する。また、タイではビデオやDVDが現在でも発売されているので、PAL規格を再生可能な機器があれば、それを入手し視聴する事は可能である。
本作オリジナル版では宇宙に帰るウルトラマンをハヌマーンが見送った後、コチャンが守った仏像の目が光り、コチャンはハヌマーンと分離してアナンら友達の下に帰るという筋になっている。日本版にこの件はなく、タイで発売されているソフト(日本版の音楽などを後年の音源にさしかえたもの、泥棒退治など一部日本版より長尺の部分あり)にもない。
[編集] 関連
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