恵み野駅西口周辺開発事業
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恵み野駅西口周辺開発事業(めぐみのえきにしぐちしゅうへんかいはつじぎょう)は、北海道恵庭市にある恵み野駅(北海道旅客鉄道)西口周辺における比較的規模の大きい開発事業。多数の商業施設、娯楽施設、高齢者住居などが誘致される。一般には、恵み野駅西口開発と呼称されている。
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[編集] 概説
[編集] 恵み野駅の東側と西側
1982年(昭和57年)に恵み野駅が開駅し、それ以来、駅の東側には新興住宅街が広がっている。主に札幌市へ通勤・通学する市民が多く、駅東口に隣接してイトーヨーカ堂が建設されるなど、札幌圏のベッドタウンとして恵庭市恵み野地区は栄えてきた。しかし、開発されてきたのはあくまでも駅の東側であり、反対の西側には更地が広がるばかりで昔からの小規模な住宅街しか存在していなかった。駅西口に隣接して哲仁会・えにわ病院のみ存在したが、2004年(平成16年)に隣駅である恵庭駅東口に移転(我汝会・えにわ病院に改称)している。
[編集] 計画と恵庭市の姿勢
この開発事業は、閑散とした恵み野駅の西側、およそ27ヘクタールの土地を開発するという計画である。北海道の動脈である国道36号に隣接し、北海道道46号江別恵庭線(道道江別恵庭線)を挟む形になっている。計画を持ち掛けたのは恵庭市内民間事業者の札幌綜合商事であるが、市はこの開発事業に意欲的で計画は既にほぼ決定している。市の拠出金額はおよそ8億円と試算されているが、この財政負担には根拠がないといわれ、民間事業者が行ってきた開発事業に自治体がこのような積極的支援をした例は数少ない。
[編集] 開発事業内容
事業期間は、許可申請などの手続きが2007年(平成19年)度からを予定し、2008年(平成20年)度から造成工事に着手して概ね3、4年内での完成が目指されている。事業費における用地取得や造成などに掛かる費用の総額は約40億円と見込まれている。計画では、4つの事業用地に区画され以下の施設が建設される予定である。
[編集] 事業用地1
- クリニック(830㎡、251坪)
- シルバーマンション、デイサービス(18,129㎡、5,484坪)
- フィットネスジム、スパ(4,800㎡、1,452坪)
- コンビニエンスストア、賃貸共同住宅(1,600㎡、484坪)
- レストラン(300㎡、91坪)
[編集] 事業用地2
- ドラッグストア、スポーツ用品店、飲食店、専門店(6,075㎡、1,838坪)
- CD・ビデオレンタル(1,158㎡、350坪)
- 衣料量販店(990㎡、300坪)
- ゲームセンター、カラオケ、ボーリング場(3,633㎡、1,099坪)
[編集] 事業用地3
[編集] 事業用地4
- 専門店(2,600㎡、787坪)
- 店舗×5(300×5=1,500㎡、91×5=434坪)
[編集] 宅地の開発に関して
戸建ての一般住宅として118区画が造成される予定。シルバーマンションや賃貸共同住宅は合わせて約150戸が建設され、これらの戸数を合計した想定人口は約550人とされている。
[編集] 恵庭市の財政投資
市は、公共施設である道路や公園、下水道といった生活基盤の整備に取り組む。市の財政投資額はこの整備に掛かる費用の総額である約8億円。国庫補助金(約3億4,650万円)、市債[1](約3億6,940万円)、一般財源(約8,410万円)が拠出される。
[編集] 恵庭市民の反応
この開発事業における市民の反応は冷ややかで、恵庭市議会の自民党平成クラブが2006年(平成18年)12月に市内25,000世帯を対象に投函して返送を求めたアンケートでは、全体回収率4.284%(1071通)の内、賛成は191、反対は635、よく分からないとしたものが207という結果であった。また、同市議会の日本共産党が同年に実施したアンケートでは、309人中賛成は8.41%、反対は76.05%という結果であった。[2]
市は2007年(平成19年)1月27日、この開発事業に関してフォーラムを開きアンケートを実施した。開発事業についての考えを問う複数選択可の項目で、回答者123人の39%、48人が「恵庭のまちづくりに必要」と賛成意見を選んだ。しかし、この48人中13人は「既存商業への影響が心配」の選択肢も重複して選んでおり、賛成しながらも地元商店の客足が鈍らないような開発事業を求める声があることを窺わせた。「既存商業への影響が心配」を選んだ回答者は全体で43.1%を占めた。[3]
[編集] 要因と懸案
これだけ規模の大きい開発事業でありながら市民の反対意見が多いのには、以下の要因と懸案があるためである。
- スーパーマーケットが恵庭市に不足していない
- 市が加担する計画のため、恵み野駅隣接のイトーヨーカ堂に撤退する口実を与えてしまう
- ゲームセンターとボーリング場の予定地に、用途地域が同じと考えられてパチンコ店に変わってしまう可能性がある
- 後背人口を持たない(恵み野地区と当事業用地は千歳線によって分断されている)ロードサイド型の商店モールであるため、恵み野及び島松地区の商店が壊滅する恐れがある
- 恵み野地区から当事業用地へは道幅の狭い市道南23号踏切を渡らなければならず、渋滞が容易に予想でき(現在でも朝夕に渋滞が発生している)、事故発生の可能性も大きくなる
- オーバーパス、アンダーパスの設置には20億円以上の費用が掛かるが、現在の道路状況では設置が不可能に近い
- 人道用の恵み野地下歩道が犯罪発生の温床になる(後述)
- 恵庭駅東側の住宅地の売れ行き(後述)
- 商店モールはリースバック方式により建築されるものがほとんどだが、手持ち資金の豊かな計画ではないように思える
- これだけの規模の計画で、商社もゼネコンも筆頭にない
- 固定資産税等の歳入が恵庭市長の説明では2、3年後より1億2千万円との説明だったが、計画書では10年後にそのような数字の見込みになっている
[編集] 恵庭市の矛盾
JR北海道の主力列車である快速エアポートは以前、恵庭市内の全駅(島松駅、恵み野駅、恵庭駅、サッポロビール庭園駅)を通過していた。2002年(平成14年)3月、快速エアポートの停車駅に恵庭駅が追加されたが、停車駅を「恵庭駅」と決定したのは市である。
当時、乗降人員が最多であったのは恵み野駅である。それでも恵庭駅が新たな停車駅として選ばれたのは、恵庭駅が街の顔であることと老朽化した周辺地域の再整備を考えて、というのが市側の説明である。確かに恵庭駅東側の黄金(こがね)地区の住宅地造成や駅周辺地域の再整備計画(黄金地区土地区画整理事業)も進展しているが、この再整備計画よりも規模が大きい恵み野駅西口周辺開発事業を市が積極的支援するのならば、新たな停車駅に恵庭駅を追加させたことに対しても市民は疑念を抱いてしまう。これによって市がこの地域の再整備を実質「失敗」だったと認めてしまう形になっている。
[編集] 治安の悪化
この開発事業において、治安の悪化も懸念されている。事業用地から近い人道用の恵み野地下歩道では過去に暴力事件が発生している。ここが犯罪発生の温床になるばかりではなく、恵み野駅周辺地域全体の治安の悪化が懸念されている。なお、恵庭市には警察署がなく、今後も警察署が設置される見通しはない。
[編集] 恵庭市の説明
2006年(平成18年)11月27日、この開発事業における初の説明会が恵庭商工会議所で市商店街振興組合連合会に対するものとして開かれた。市長の中島興世氏は「今こそ変化の時」と、この開発事業に関して説明した。
2007年(平成19年)3月、市が発行する広報の特集でこの開発事業を掲載し、市民に対して初めて開発事業内容を周知させた。特集の中で、市の考えとして利点や必要性をアピールしている。ただしデメリットやリスクに対する言及はしていない。[4]
- 既存の恵み野駅東口周辺施設と連携した商業施設の整備を目指す
- 宅地開発にあたって、自然環境や景観に配慮した住宅地の造成を目指し、自然林を保全し生かしていくことで良好な住環境を確保する
- 宅地開発などは税源強化を目的とした施策で、税が街の基盤を強固にし、自立したまちづくりが可能になる
- 財政状況が悪い今であるが、今がチャンスの時で開発事業は4年目から黒字になると試算されている
- 人口増加と市街化区域への編入による土地評価額の上昇から税収が伸び、償還金と維持管理費を上回る
- 市外に流れている多くの購買力を市内に向けさせるきっかけになる(恵庭市は地元消費率が低い)
- 恵庭市全体にとっての最良の選択として、開発事業に賛成か反対かの二者択一的な答えではいけない
[編集] 「反対のための反対」論
市や一部の市議会議員は、この開発事業に反対している市民や商業者に対し「反対のための反対」に過ぎないと批判している。賛成側には、反対意見に説明が伴っていてもこのように批判するケースが多く、市民に周知されず計画が一人歩きしてきた現状は無視されている。
[編集] 市議会議員の意見
恵庭市議会議員の林謙治氏(無所属)は、同氏が発行する広告にこの開発事業に対する自身の意見を掲載し、市民に紹介した。[5]
- 市内にはスーパーマーケットや大型店が多いわけではない
- イトーヨーカ堂も商社だから、撤退は採算が取れるか取れないかで判断するもの
- 恵み野地区は住民の高齢化によっていずれ地盤沈下する
- 市内店舗の空洞化は、ホーマックが責任を持ってくれる(ソースは示されていない)
- 市内で見聞きする意見には「反対のための反対」や「江戸の敵を長崎で討つ」ための反対が大方を占めているように思える
- 北広島市や千歳市では大型商業施設の計画が次々と出ているのに、恵庭市だけ何もしないで座視していて良いのか
林氏はこの開発事業に賛成している立場だが、その意見は市民と乖離している。例えば、1の意見は恵庭市と北広島市、千歳市の店舗数と店舗面積という数字を単純に列挙して比較したものに過ぎず、市民が現状に何も不満を抱いていないことは反映されていない。4の意見のソースは示されておらず、読者は本当の情報か判断できない。また、6の意見は北広島市、千歳市に大型商業施設の計画があるから、恵庭市も追随しなければならないというものである。広告の中で北広島市の大型商業施設の計画[6]を紹介しているが、林氏の意見では恵み野駅西口周辺開発事業が市民の求めていない計画だということは無視されている。