献血
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献血(けんけつ)とは、輸血や血液製剤製造のために無償で血液を提供すること。現在、日本では日本赤十字社がすべて手がけており、提供された血液は感染症の検査ののち各医療機関へ提供される。
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[編集] 経緯
2006年現在、血液に完全に代わるもの(人工血液)は未だ開発されておらず、また代替血液は開発されてはいるが、限度がある。そのため輸血には人の血液を使用せざるを得ない。献血制度が整備される以前は売血によって血液の需要を充たしていたが、金銭を得る目的で過度に売血をする者が多数現れ、これらから得られる血液は血液としての質(「黄色い血液」)および供血者の健康の面で問題があることが多かったため、現在は輸血用血液は専ら献血によりまかなわれている。
献血の根拠となっていたのは、1964年の閣議決定だが、2005年に新たな法律が出来た。これにより献血事業の主導権は赤十字社から厚生労働省に移った。
[編集] 安全性
安全性は以前より格段に向上しているものの、ウイルス感染には感染後一定期間は検出のできないウィンドウ・ピリオド(検査空白期間)があり、この期間に献血された血液は検査をすり抜けてしまう。また、未知の病原体については当然チェックの対象とならない。
HIV感染を心配する人が検査目的で献血する例が後を絶たず問題となったので、たとえ陽性でも献血者に通知しないことになっている。HIVをはじめとした感染症の検査は、市区町村の保健所で行っている(プライバシーは厳守されているうえ、多くの保健所では無料で検査できる)。日本赤十字社も、献血時の問診表に「エイズの検査を受けるための献血ですか」という質問を入れることで、エイズ検査目的で献血しようとする人のチェックおよび指導を行っている。
[編集] 種類
大別して、血液の成分すべてを採取する全血献血と、特定の成分のみを採取する成分献血がある。
- 全血献血
- 200mL献血(16歳から可。次回の献血可能日は、4週間後の同じ曜日になる。)
- 400mL献血(18歳以上のみ可。次回の献血可能日は、成分献血が8週間後の同じ曜日、全血献血が男性12週間後、女性16週間後の同じ曜日になる。)
年間採血量に限度がある。男性では1200mL、女性では800mL
年間回数に限度がある。血小板は1回を2回に換算して合計24回
かつては200mL献血だけであった。 400mL献血は、より多くの血液を1人の献血者から採血することによって、輸血時の副作用(発熱、発疹、感染等)の可能性低減を期待できる。 成分献血は、回復に時間を要する赤血球を献血者に戻すため、全血献血に比べてより多くの血小板や血漿を採血できる。 献血をする側の身体や臓器への負担は、200mL献血もしくは成分献血が比較的軽いが、400mL献血であっても日常生活に支障はなく、健康体であれば身体的にも害はない(健康体でない場合は負担が軽い種類の献血もしてはならない)。
成分献血は、いったん全血を採取し、遠心分離した後に必要な成分を回収、それ以外を体内に還流させるという手順を複数回(主に3~4回、機械・体調等により決定)繰り返す。そのため採血に時間がかかる(30分~90分、全血なら10~40分程度)。
上記の条件や採血設備、血液の需要、所要時間などが考慮された上で、いずれかの献血への協力をお願いされるが、その決定については献血者の意思が優先される。 通常、成分献血が可能であれば成分献血を勧められ、不可能な場合は400mLが可能であれば400mLを勧められる。 なお成分献血において血小板献血・血漿献血の別は献血者には知らされないこともある。ただし、55歳以上は自動的に血漿献血となる。
注1)現在、血小板献血において、血漿も同時に採取していることが多い。血小板献血で、採血に血漿を含まないときは、1週間後に血小板成分献血が可能になる。ただし4週間に4回実施した場合には次回までに4週間以上あけなくてはならない。
注2)上記のこともあり、現在血漿が供給過剰気味となっている。その場合、血漿のみの献血を希望しても血小板での協力を頼まれることがある。
[編集] 献血の実際
[編集] 準備
献血に必要なものは、基本的には献血カード「愛-Ca(アイカ)」(すでに交付されている場合)のみである。
ただし、初回の献血時、もしくは2004年10月1日以降に血液センターに身分証明書の提示をしていない場合、もしくは、献血カードの献血履歴の血液センター名の右側に「1」(2006年10月1日のカード移行後に献血していない場合やカードに移行していない場合は献血手帳に「確認1」)が記載されてない場合は、身分証明書の提示が必要である。これは、献血する人がその人本人であることを確認する(虚偽の住所や氏名を使っていないかを確認する)ためのものである。未確認者から身元証明が3回連続で為されなかった場合は献血申し出を断る規定が2006年4月から導入された。
なお、2006年10月1日以前は紙製で、クレジットカードサイズより一回り大きい「献血手帳」が使われていた。これは磁気記録式の献血カード「愛-Ca(アイカ)」の導入後も利用することが可能とされることもある(岩手センターでは切り替えは任意である旨コメントしている、また千葉センターについても同じ)。また、北海道では、1998年10月から独自の献血カードシステムを採用していた。こちらは全国共通の献血カード導入に伴い廃止されている。
血液センターや献血ルームによっては、需給の調整のため、電話などによる事前の予約を勧めている場所もある。
[編集] 献血できる場所
献血は、各地にある血液センター(一部を除く)や献血ルーム、駅前などに現れるバス型の移動採血車(マイクロバスタイプの検診車、テントなどを運ぶ軽トラックの資材車とトリオで行動)などで受け入れる。
- 移動採血車は、街頭や企業/学校などの集団献血等で利用される。主に200mL/400mLの採血を行なう。なお、移動献血車では場所が手狭のため、ほとんどの場合成分献血が出来ない。
- 血液センターや献血ルームでは、成分献血が広く行なわれている。献血ルームは大きな駅の近辺など、人通りが多い所に配置されている場合が多い。
[編集] 献血の手順
まず、問診票に所定の事項を記入する。その後、医師による記入内容の問診と血圧測定があり、さらに看護師によって少量の血液が採取され、血液型や血液の比重を調べる(順番はルームや状況によって異なるが、いずれにしても医師が献血適否を最終的に判断する)。
血液比重検査(一定濃度に調製した硫酸銅溶液に血液を滴下し、沈降するか否かを見る)、もしくは赤血球指数やヘモグロビン濃度(Hb)の測定(機器を利用)が行われる。場合によっては心電図検査がある場合もある。血液が一定比重以上(200ml全血・各主成分献血で1.052以上、400ml全血献血で比重1.053以上(*1))、またはHb値(200ml全血、血漿成分献血は12.0以上(*2)、400ml全血、血小板成分献血は12.5g/dl)に達していなければ献血をすることはできない。体重は自己申告だが、余りに痩せて見える場合は実測される事もある(成分献血の場合、採取可能量は体重に左右される)。
- (*1)例外として北海道ブロックでは、男性について200ml全血で13.0g/dl以上、400ml全血で13.5g/dl以上のHb値を基準としている。
- (*2)例外として血小板成分献血では、女性で一定の赤血球指数を超える場合、11.5g/dl以上で可能である。
献血での採血針は、血液検査や点滴で使用する針より太い(17G:ゲージ)。 採血針、採血キット、採血バッグは、滅菌済みのディスポ(ひとりずつ使い捨て)である。
検査用の採血と本採血(本番の採血)は別々の腕で行われる。ただし、本採血については、血管が細いなどの理由で片腕だけでは時間がかかる場合にまれに両腕で同時に採血することがあるほか、成分献血の採血機械によって両腕(片方から採血、片方から返血)に穿刺することがある。
所要時間は、血圧や血管の太さなどにより個人差があるが、200mL献血・400mL献血共に約5分程度(最長で15分程度)、血小板・血漿献血ならば約30~70分かかる。
[編集] 献血後
止血バンドを10~15分以上したままにし、ルーム内や仮設テント等で休憩や水分補給をする。
所定の記録が記載され、愛-Caもしくは献血手帳(初献血の場合は1冊目が交付される)が、献血後の注意書き等と共に渡される。
併せて、ボールペンや絆創膏などの粗品が贈られることが多い。スタンプカードなどを用いたキャンペーンもしばしば行われている。テレホンカードや図書券等の金券類が贈られた時期もあるが、「売血となる恐れがある」との指摘により現在は廃止されている。また、献血の回数に応じて記念品や感謝状などが贈られる。(→表彰記章#日本赤十字社を参照)
献血直後に排尿する場合、男性は洋式便座に座ってすることが推奨されている。これは、排尿によって内圧があがる為に起こる、立ち眩みや昏倒などの事故を防ぐためである(後述の事故死例がある)。また、成分献血の場合長い時間がかかるため、献血前にトイレに行っておくのがよい。
[編集] その他
献血ルームでは、献血前のリラックスのために、また、献血後の休息や水分補給のために、簡単な菓子、飲み物等が提供されることが多い。場所によっては、アイスクリームやドーナツ等が振る舞われる場合がある。血管の収縮を避けるため、採血前には冷たい飲食物をあまりとらないほうがよいとされることもある。
またルームによっては、採血中の退屈を紛らわす為にテレビや、場所によってはビデオデッキ、DVDプレーヤーが設置されており、テレビ番組や備え付けの映画ソフトなどを見ることができる。ロビーの雑誌や漫画を持ち込むことも可能。飲食物の持ち込みはルームによって可否が分かれる(衛生上の問題から保健所により禁止指示を受けているところも)。
[編集] 献血ができない例
[編集] 献血する人への負担軽減の理由から
- 体調が良くない、睡眠不足
- 40kg未満の女性、45kg未満の男性(200mL献血)。50kg未満(400mL献血)
- 妊娠・授乳中の女性
- 血液比重の数値が低い(Hbが低い)
[編集] 輸血される側の安全の理由から
- 発熱
- 特定の病気に罹患したことがある
- 服薬の一部
- 問診に於いては「直近三日以内」が不適格基準とされているが、薬剤によってはさらに長い期間体内に貯留したり血液に影響を与える物もある。ただし、薬剤は製造中にも受血者内でも希釈されるので、実際的影響というより理論的なものが多い。三日以内ならサプリメントの服用も、問診時に相談する事が望ましい。
- HIVの可能性がある場合(6か月以内の複数との性行為、男性間性行為、覚醒剤注射等)
- 肝炎(急性のA,E型は治癒後6か月でよい)
- 肝機能検査(ALT、AST)高値の場合
- 輸血歴・臓器移植歴がある
- 血液や臓器には未知の病原体が多数あり、その全容は今後も解明されないだろうという認識がある。今日ではvCJD(変異型クロイツフェルト・ヤコブ病)の病原体も仮想対象となっている。
- ピアス施行後の一定期間(ディスポの器具なら1月、それ以外では1年)
- 入れ墨施術(アートメイクを含む)後1年
- 海外から帰国後4週間
- 予防接種・ワクチン・血清後の一定期間(不活性化ワクチンで24時間、生ワクチンで3週間、種痘で2か月、抗血清で3か月)
- 狂犬病接種対象外の動物に噛まれて狂犬病ワクチンを接種後1年間、HBグロブリン投与後1年間
- 抜歯、出血を伴う歯科手術後3日間
- 変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)に関連して、1980年以降にヨーロッパを中心とした約35カ国に、厳重警戒地域では6ヶ月以上、それ以外の地域でも5年以上の滞在歴がある場合。特にイギリスについては、1980~96年に1日でも滞在した場合は献血ができなくなっている。(後者は世界でもっとも厳しいといわれる日本だけの些か非合理的な基準)
その他(身近な例)
- 怪我をして化膿ないし、じくじくした生傷がある
- 犬に噛まれた:これらの場合、血液に細菌が混じっている恐れがある。生体内では細菌は白血球により迅速に除去されるが、採血バッグ内では細菌は繁殖してしまう。
[編集] 献血カードと献血手帳
[編集] 献血手帳
献血者コードならびに献血した日付・場所・採血種類を記した手帳。献血前に前回の採血日時を確認するために必要。発行は各地域(主に都府県ごと)の赤十字血液センターだが、日本全国共通で利用できる。
10回分の記入欄があり、欄が埋まると新しいものが交付される。400mL献血および成分献血の導入当初は、400mL 1回で2回分、成分献血1回で3回分として記入されていた(協力促進のため。即ち、記録上の献血回数が実際の回数より多くなる)が、現在では(平成7年(1995年)4月1日以降)いずれも等しく1回として記入される。
- 献血手帳の歴史的経緯や、この通知発効後は献血手帳の有無に関わらず公平に輸血が受けられる事等が記されている。嘗ては献血経験者及びその家族は優先的に輸血を受けられる旨定められていた。このため、手術で輸血が必要な場合は患者や家族に献血手帳保持の有無が尋ねられ、ない場合は家族がその場で献血するような事態もあったという。
従来、手帳には「既献血回数」と共に「供給本数」の欄もあった(これゆえ、別称血液通帳)が、上述の精神に則り「供給―」は昭和56年度で削除された。
[編集] 献血カード「愛-Ca(アイカ)」の導入
2006年10月から献血手帳に替わり磁気記録式の献血カードが導入された。札幌、山梨、岡山の各血液センターでは2006年8月に手帳を廃止し献血カードを先行導入した。その他の血液センターは、2006年10月に献血カードへ移行した。なお、献血カード導入以前の献血手帳の情報は、献血カードへ移し変える事が出来る。手帳の履歴欄に空欄が残っている場合は、申し出により全部埋まるまで継続使用出来る。
カードには4桁の暗証番号を設定することになっており、これにより本人確認を行うことになった。
カード裏面にはカタカナ表記の献血者氏名、献血者コード番号のほか、血液型(ABO式、Rh式)、これまでの献血回数、表彰・顕彰の記録に加え、直近3回分の献血履歴(日付及び献血方法)、次回献血可能日が表示されている。この表示は献血を行うごとに毎回書き換えられるようになっている。他、専用リーダーのみで読み出し可能な磁気情報で住所・漢字表記の氏名・生年月日が記録される。
なお、北海道ではこれ以前の1998年から献血カードが導入されていた。暗証番号は設定されてはいなかったものの、カード裏面に様々な情報が記録されることは全く同じであった。当時はその他の地域では献血手帳が用いられていたため、その献血カードは北海道内でしか使用できないものであり、他都府県で献血カードを出した場合は献血手帳が発行された。
[編集] 献血手帳の歴史
- 1952年:供血者に「供血感謝のしるし」発行
- 1954年:「奉仕供血手帳」発行
- 1961年:「奉仕供血手帳」を「献血手帳」に改称
- 1962年:「献血手帳」(緑表紙)に加えて「預血手帳」(青表紙)も発行
- 1964年:預血手帳廃止
- 1965年:献血手帳、冊子型に様式改正(外皮は現行型の“赤地に金のマージン”に)。預血手帳の要素が入り「供給欄」を記載
- 1970年:様式改訂。従来型の二つ折りカードに。
- 1980年:書式改訂。輸血の優先権条文を削除。
- 1982年:書式改訂。「供給欄」を削除。
- 2006年10月:制度全面改訂。愛-ca、全国で使用開始。
[編集] 献血関連の事件
- 2003年12月ごろ、検査をすり抜け輸血でHIVウイルス(エイズ)に感染した例が発覚。
- 2004年1月7日、藤田徳人(整形外科医で作家)の開設していたウェブサイト恋愛科学研究所に、エイズ検査目的の献血を勧める内容が記載されていたことが発覚。
- 2005年9月、献血者が採血終了直後に昏倒し、頭部強打で急死する事故が発生。血管迷走神経反射の疑い。
[編集] 参考文献
- 矢原靖司ほか 『新輸血医学』1990年01月 金芳堂 ISBN 4-7653-0709-3
- 霜山龍志 『新版今日の輸血』2006年11月 北海道大学出版会 ISBN 4-8329-7242-1