うま味調味料
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うま味調味料(うまみちょうみりょう)、化学調味料(かがく―)は、うま味の元となる物質(グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸)を精製した調味料の一。代表的なうま味調味料にグルタミン酸ナトリウムを主成分とする味の素がある。
製品は一般に結晶状の粉末として供給され、これを水やスープに溶かして使用する。食品や料理に直接粉末をかけて使用することもある。
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[編集] 歴史
1908年に日本の池田菊苗によってうま味という味が発見され、そのうま味を引き起こす成分であるグルタミン酸ナトリウムの生産が日本で開始された。
初期の製造法は、蛋白質を工業的に分解するというものだった。
1960年代、微生物による製造が可能になり、こちらの製法のほうが安価で大量に生産できることから、順次、微生物分解による製法に切り替わった。
1980年代、業界団体が「うま味調味料」という名称を用いはじめた。
[編集] 製法
ここでは日本で多く使われている製法を記す。
サトウキビの廃糖蜜(糖蜜から砂糖を抽出した残渣)を特定の条件下である種の微生物に与え、微生物にグルタミン酸を生成させる。これを回収して水酸化ナトリウムと反応させてナトリウム塩とし、調味料とする。トウモロコシなどの澱粉を酵母に与え、生成されたイノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムを製品の成分とする製法もある。
かつて日本でも石油を原料としていた時期があったが、発癌性が指摘されているタールの混入が疑われた問題などから現在では上記の方法が主流となっている(詳細は味の素参照)。
[編集] 問題点
日本の加工食品・外食産業では、あらゆる食品にうま味調味料が使われていると言っても過言ではない。食材本来の自然なうま味を大切にするべきだという批判があり、1980年代のグルメブーム以降、自然志向の消費者はうま味調味料を避けようとする傾向がある。
1970年代、これを増量剤として使用して健康被害が出た問題があった[1]。この時うま味調味料が商品に占める割合は商品によって40%を超えていたとされる。これは極端な例であるが、現在でもうま味の元となる原料の代用としてコストカットを目的に用いられることがあり批判の対象となっている。
グルタミン酸ナトリウムや味の素の項も参照のこと。
[編集] 「うま味調味料」という表記
かつては業界・消費者とも「化学調味料」という呼称が一般的に用いられていた。この呼称は、昭和30年代にNHKが商標回避の目的(「味の素」が商標であるため)使用したのが最初といわれている[2]。業界団体である日本うま味調味料協会自身、1960年代後半から20年近く「日本化学調味料工業協会」と名乗っていた[3]。
しかし1980年代、グルメブームとともに化学調味料に対する批判が高まる中、現在の日本うま味調味料協会は「うま味調味料」という語を造り、その使用を提唱した。協会はこの理由として、味覚としてのうま味が世界的に認められたこと、現在は天然原料による発酵法で製造されているため「化学」という語がもはや製品の特性を正確に表していないこと、「化学調味料」よりも「うま味調味料」とした方が、「料理にうま味を付与する」という製品の特性を良く表していること、などを挙げている[4]。
その後、1990年に日本標準商品分類(現総務省)[5]が、1993年に計量法(経済産業省)[6]が、2002年に日本標準産業分類(総務省)[7]が「うま味調味料」の表記を採用した。現在では各種法令等でもこちらの表記が使われている[2]。報道においては、共同通信社・記者ハンドブック、NHK・新用字用語辞典などが「うま味調味料」の表記を採用している。辞書においては大辞泉増補・新装版が「化学調味料」、大辞林第二版と広辞苑第五版が「旨(うま)味調味料」を見出し語としている。
しかし提唱から20年経過した現在でも「化学調味料」という言葉は一般に浸透している。行政、業界団体やマスコミが「うま味調味料」という語を使用する一方で、うま味調味料に批判的な立場(消費者団体や生協、また「不使用」の表記の際など)から意図的に「化学調味料」の語が使われる場合もある。一般にどちらの語がどのような割合で使われているかに関しては、統計がないので明らかになっていない。
グルタミン酸ナトリウムを生成する際には、発酵法であってもグルタミン酸を水酸化ナトリウムで中和する工程が含まれる。これを「化学的」とする見方もある。水酸化ナトリウムは中和目的での食品への使用が認められている。
日本における加工食品の原材料名としては、調味料として「調味料(アミノ酸等)」と表示される。それ以外の目的(栄養目的等)では「グルタミン酸ナトリウム」あるいは単に「グルタミン酸Na」と表記される場合が多い。
[編集] 「化学調味料無使用」という表記
ラーメンブームが起きている2000年頃から、ラーメン専門店ではうま味調味料を使わないことを「無化調(むかちょう)」と呼び、「化学調味料」を使ってないことを宣伝材料のひとつとして扱っている。 調味料や他の食品にも「化学調味料無使用(無添加)」といった語が使われる傾向が見られる。
しかし日本うま味調味料協会や日本食品添加物協会は、これらの語は無使用の商品の方が優れているようなイメージを消費者に与えかねない、という見解を示している[4]。
また、「化学調味料無使用」という表記は、単に「うま味調味料」を使用しなければ標榜できるため、実際にはたんぱく加水分解物や酵母エキスのような他の食品が代用されている場合がある。これらには原料を塩酸で加水分解反応を起こしたものが含まれ[8] [9]、かえって「化学的」な食品を摂取してしまう可能性がある。特に、アミノ酸類に目立った毒性が発見されていないのに対し、ある種のたんぱく加水分解物には微量ではあるが有害なクロロプロパノール類を含むことが分かっており、「化学調味料無使用」すなわち安全であるとは限らない。なおこれらは「食品」であると見なされているため、「無添加」表示の食品についても同様の問題を抱えている。
[編集] 主な商品
- 味の素
- ハイミー
- いの一番
- 旭味
- ミタス
- フレーブ
- キーパー
など
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- ^ 食品添加物(グルタミン酸ナトリウム)の使用に関する指導の徹底について 昭和47年4月25日 環食第255号
- ^ a b 「味の素」Q&A - 味の素株式会社
- ^ 日本うま味調味料協会Webサイト - プロフィールの項
- ^ a b 化学調味料無添加表示:協会はこう考えます - 日本うま味調味料協会
- ^ 工業統計調査の分類について
- ^ 特定商品の販売に係る計量に関する政令
- ^ 日本標準産業分類
- ^ 食品中のクロロプロパノール類に関する情報 - 農林水産省
- ^ 酵母エキスについて - 独立行政法人農林水産消費技術センター