アトランティス
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プラトンによればアトランティス(Ατλαντις)とは、かつて大西洋に存在し、神の怒りによって海中に沈められたと伝えられる島もしくは大陸のことである。アトランティスとは「アトラスの島」の意(古代ギリシャではアフリカ北西部のアトラス山脈が西方の代名詞)。
古代ギリシアの哲学者、プラトンの著書『クリティアス』と『ティマイオス』の中に登場することで広く知られている。19世紀、アメリカの作家イグネイシャス・L・ドネリーが著書『アトランティス』を発表したとき、謎の大陸伝説として一大ブームとなった。
近年の研究によって、地中海にあるサントリーニ島の火山噴火によって、紀元前1400年ごろに突然滅んだミノア王国がアトランティス伝説のもとになったとする説が浮上してきた。また、ヘラクレスの柱をダーダネルス海峡とし、トロイア文明と重ねる人もいる。しかし、大西洋のどこかにアトランティスがあると信じる人も未だ存在する。もっとも、現代の構造地質学が示すところによれば大陸規模の土地が短時間で消失することはまずあり得ないため、実在説の多くは島などの消失がモデルになったものとしている。
なお、アトランティスの直接的モデルとなるような事件そのものが存在しないという説も有力である点に注意されたい。
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[編集] 伝説上のアトランティス
現存するアトランティスの史料は、ヘロドトスの『歴史』、プラトンの『クリティアス』と『ティマイオス』、シケリアのディオドロスの『歴史叢書』である。それぞれのアトランティスの関係は不明であるが、アトランティスと言った場合、プラトンのアトランティスであることが一般的である。これは古代から続く傾向で、ストラボンもギリシャ・ローマ地誌でプラトンの言うアトランティスにのみ触れている。
[編集] ヘロドトスのアトランティス
文献上最初にアトランティスという言葉を使ったのはヘロドトスである。
なぜならば、へレーンたち(ギリシャ人)が航海している所(地中海)と、 彼らがアトランティスと呼んでいる、柱(ジブラルタル海峡)の外の海(大西洋)と、 エルトレー(紅海)はすべて繋がっているからである
『歴史』1.203.1
[編集] プラトンの『クリティアス』
紀元前6世紀のギリシアの政治家ソロンが、エジプトの神官から伝え聞いた話(伝説)を、友人のドロピデスに伝え、その息子のクリティアスが引継ぎ、同名の息子クリティアスが編纂したものとされているが、実際にはプラトンが編纂したものである。
アトランティスの消滅は、ソロンの時代を遡る事約9000年前、つまり紀元前9560年頃の出来事であると『クリティアス』には記述されている。また、その位置をヘラクレスの柱の向こう側としている。ヘラクレスの柱とは普通、地中海と大西洋をつなぐジブラルタル海峡の2つの山のことを指すため、アトランティスは大西洋にあると考えられてきた。
プラトンの書き記した伝説(ミュートス)は次のとおりである。
豊かな資源を背後に強大な力を誇ったとされ、その支配は地中海全域に及んでいた。ポセイドンが自分の持ち前として受け取った土地で、ポセイドンを先祖とする十人の王によって治められていた。国土の中心には守護神としてポセイドンを祀り、環状の運河をめぐらした首都があった。首都中央のアクロポリスの中には金・銀・象牙で飾り付けられた神殿があったとされる。非常に富み栄えていたが、次第に堕落した。ギリシアを攻めたがアテナイを中心とするギリシア人に抵抗され潰えたとされる。堕落が頂点に達したため、ゼウスによって海中に沈められた。
[編集] 代表的な諸説
アトランティスの研究においては、「ヘラクレスの柱」解釈をめぐる位置問題とアトランティスを滅ぼしたとされる「洪水」の年代問題を考証することで議論がおこなわれている。
[編集] 地中海説
サントリーニ島の火山噴火説が現在有力。サントリーニ島は阿蘇山のような巨大なカルデラの島であり、サントリーニ島の爆発による津波によって滅んだミノア王国(クレタ文明)をアトランティスとする。年代、及び位置についてはプラトンの誇張としている。
誇張説とは、プラトンの記録が単位について全て1桁多く誤って記述しているとするもので、エジプトの司祭が100をあらわす象形文字と1000をあらわす象形文字を誤って記録したためという。年代は、プラトンの9000年前でなく900年前ならほぼ一致するし、アトランティスの大きさも記録の10分の1であれば納得できるとされている。
ガラノプロスはアトランティス伝説に登場する「ヘラクレスの柱」が、この場合ジブラルタル海峡を指すのではなく、現在のギリシャ南部にあるマタパン岬--当時の言葉で言えばマレアスとテナロンだとされ、地形上の特性にかなっているという--であると見ている。ガラノプロスはプラトンがアトランティスを青銅器文明だと述べているといい、クレタ文明が青銅器文明であることに合致するという。
また、周辺の海底に文明の痕跡が沈んでいるのが発見されているマルタ島の巨石文明をアトランティスとする説も唱えられている。この説では、暦の違いを把握していなかったプラトンが年代を大きく見積もりすぎたとしており、その点を修正すると、島内の神殿遺跡などと同じ5000年前あたりになるとする。
[編集] 大西洋説
プラトンの叙述をそのまま適用すると大西洋にアトランティスがある。大西洋説では、アイルランドの地形が伝説と似ているため、アイルランドが津波で沈んだように見えたのではと言う説が近年発表されている。アイルランドにはケルト人の伝承として、イスの海没の伝説がある。しかし関連性は指摘されていない。また、近年アマゾン文明の発見がなされる中で、その文明がアトランティスに当たるのではないか、という説もある。
[編集] プレートテクトニクス理論に基づく大西洋説
現在の構造地質学、すなわちプレートテクトニクス理論に基づくと称する説もある。これは、大西洋の両岸の海岸線を近づけてもキューバのあたりで大きく隔たりがあることに意味があるとして、これを「何かが沈んだ空白地帯」と主張するものである。この「空白地帯」は大陸よりずっと小さいが日本列島ぐらいの規模はあり、ここにアトランティスがあったとする。[要出典]
[編集] 南極説
オカルト雑誌ライターの南山宏が提唱する説で、ポールシフト(地球の自転軸移動)以前の南極大陸こそがアトランティスであるという説。この説の特徴は「アトランティスは沈んでいない」ので構造地質学的な問題が全く発生しないとされている点であるが、そもそも大陸の気候帯が急激に変動するような自転軸移動自体が地質学的にありえないとされているので大陸沈没同様荒唐無稽な説である。(詳細はポールシフトの項を参照のこと)
なお、南極大陸から恐竜などの温暖な気候帯の生物の化石が発見されているのは事実であるが、プレートテクトニクスでは何万年もかけて大陸が移動した証拠とされている。
[編集] 大海進説
紀元前9560年頃にアトランティスが海中に沈んだとするのは、氷河期の終焉による海面の上昇とかつての陸地の水没を指すとする説。
[編集] 科学的研究
- 1939年 - ギリシアの考古学者マリナトスが、クレタ島の北岸に位置するアムニソスにある宮殿を調査。宮殿の崩壊が津波によるものであることを発見。同時に火山灰が厚く堆積していることも確認した。
- 1956年 - アテネ大学の地震学者ガラノプロスがサントリーニ島を調査。炭素14法で、島の噴火が紀元前1400年ごろであることが分かった。
- 1967年 - マリナトスがサントリーニ島の南端に位置するアクロテリで火山灰の中から宮殿を発見。クレタ島とサントリーニ島が、あわせてミノア王国であったとするフレスコ画を発見。
[編集] エジプト文明との関係の指摘
『エメラルド・タブレット』は「エジプトのギザの大ピラミッドの中から発見されたとの伝説をもつが、これには歴史的に伝承されたものと近年モーリス・ドリールにより発見された「世界最古の書籍」である原本と称するものがあり、その原本には、その著者はアトランティスの祭司王トートであり、タブレットIの文頭にて『われアトランティス人トートは、諸神秘の精通者、諸記録の管理者、力ある王、正魔術師にして世々代々生き続ける者なるが…』と書かれているといわれている。
またグラハム・ハンコックの『神々の指紋』によれば、原本にはギザのピラミッドはトートが造ったとも記載されていることからエジプト文明の源流がアトランティスにあることも推測ができるとしている。
[編集] フィクションへの影響
- 『指輪物語』- 作品中のヌーメノールはトールキンによるアトランティス伝説の変形である。
- 光瀬龍『百億の昼と千億の夜』アトランティスは惑星開発委員会による人為的開発であり、高度な科学文明を有していた。海中に沈んだ後はエジプトに過去の文明を伝えながら遺民が生活している。プラトンが登場し、アトランティスの文明について調査旅行を行う。
- 『海底二万リーグ』-ジュール・ヴェルヌの古典的SF小説。潜水艦小説のはしりでもある。作中でアトランティスの海底遺跡が登場。記事冒頭のイラストは初版の挿絵である。
- 『ふしぎの海のナディア』(The Secret of Blue Water)はガイナックスによるSFアニメ。主人公ナディアはアトランティス人の生き残りであり、アトランティス復活を狙う秘密結社ネオアトランティスに追われている。『海底二万リーグ』『神秘の島』に影響を受けている。
- 『アトランティス 失われた帝国』(Atlantis: The Lost Empire) - ディズニーによるアニメ映画。ヴェルヌ作品の影響下にあるが、同時に上記作品の盗作疑惑がある。
- 『風の大陸』 - 竹河聖のファンタジー小説。一万年以上前のまだアトランティスが沈んでいなかった時代を描いた仮想歴史小説。『巡検使カルナー』など時代を違えたシリーズ作品も複数ある。
- 次の3作品はムー大陸と対になって登場。いずれもムーが主人公側、アトランティスが敵側という傾向にある。
- 平成『ガメラ』 - アトランティス人が生み出した巨大生命体とされている。
- 『イリヤッド-入矢堂見聞録-』 -東周斎雅楽原作、魚戸おさむ画の本格考古学アドベンチャー・ロマン漫画。アトランティス伝説の謎へ挑む考古学者に、秘密結社“山の老人”の影が忍び寄る。2002年よりビッグコミックオリジナルに連載。
- 『天空のエスカフローネ』 - 1996年にテレビ東京で放映された全26話のテレビアニメ。物語の舞台になったのが、地球で生き残った古代アトランティス人が作り出した惑星ガイア。
- 『スターゲイト アトランティス』 - 2004年より米国にて(日本では2006年より)放送されているSF TVドラマ。アトランティスの人々はエンシェントと呼ばれる超古代文明を擁する種族で遥か昔に地球を離れ、ペガサス銀河へ移住し、大部分がアセンション(昇天)したということになっている。
- 『アトランティス7つの海底都市』 - ケヴィン・コナー監督によるSF映画(1978、英)。アトランティスを築いたのは地球人ではなく、火星人だったと言う、荒唐無稽ながらユニークな設定となっている。大ダコを始めとする数々の怪獣の登場も見所。
- 『黄金バット』- 昭和初期に紙芝居として描かれたヒーロー。戦後にデザインが現在の形にリニューアルされた際、主人公・黄金バットの出自がアトランティスの守護神という設定にされた。また、この設定はこの作品を原型とした漫画『ワッハマン』でも受け継いでいる。
[編集] 参考文献
- 『地球物理学者 竹内均の旧約聖書』 竹内均著 ISBN 4810380017
- 『スタイビング教授の超古代文明謎解き講座』 ウィリアム・H・スタイビング著 福岡洋一訳 ISBN 4872334825
- 『プラトンのアトランティス』 L・スプレイグ・ディ=キャンプ著 小泉源太郎訳 ISBN 4894563657
- 大陸書房刊 『幻想大陸』 の改題再刊
- 『トンデモ超常現象99の真相』 と学会著(山本弘 志水一夫 皆神龍太郎) ISBN 4896912519 ISBN 4796618007
- 『神々の指紋』グラハム・ハンコック著、大地瞬訳
- 『アトランティス物語 失われた帝国の全貌』エドガー・エバンス・ケイシー著、林 陽訳
- ウルフ エルリンソン『アトランティスは沈まなかった―伝説を読み解く考古地理学』山本史郎訳 ISBN 4562038780
[編集] 関連項目
- 架空の国一覧
- 伝説上の大陸
- 超古代文明
- エメラルド・タブレット
- オリハルコン
- 西インド諸島
- ニューアトランティス
- エイジ・オブ・ミソロジー(実際ゼウスなどギリシャ神話に登場する英雄などが登場する)
[編集] 外部リンク
- Perseus Digital Library(プラトンの作品を始めとするギリシア・ローマの古典が原文で読める。)
- Atlantis(スペイン語/英語)
- アトランティス大陸(超常現象の謎解き)
- Gmter
- エメラルド・タブレット