クウェンヤ
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クウェンヤ | ||
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話される国: | ノルドール | |
地域: | 中つ国 | |
総話者数: | 不明、上のエルフの間で使われた。 | |
言語系統: | 人工言語 芸術言語 共通エルダール語 クウェンヤ |
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書字システム: | テングワール、キアス | |
参考言語による分類: | フィンランド語、ラテン語、ギリシア語を参考にしたと思われる。 | |
言語コード | ||
ISO 639-1: | なし | |
ISO 639-2: | art | |
ISO/FDIS 639-3: | qya | |
注意: この頁にはユニコードでIPA発音記号が含まれているかもしれません。 |
クウェンヤ (Quenya) は、J・R・R・トールキンの中つ国を舞台とした作品の中で、エルフが話す言語の一つである。共通エルダール語と呼ばれる初期の言語から、ヴァリノールに達したエルフ(かれらは、しばしば「上のエルフ」と呼ばれる)の間で発展した言語である。エルフの三王家のうち、ノルドールおよびヴァンヤールは、異なっているが、相互に理解できるクウェンヤの方言を話した。この言語はヴァラールも採用し、かれら固有の言語からいくらかの新しい要素を導入した。第三王家、テレリ、は異なっているが密接に関連づけられた言語であるテレリ語を使った。
目次 |
[編集] 中つ国でのクウェンヤの使用禁止
ヴァリノールに暗闇が訪れた後中つ国に逃れたノルドールは、お互いの間でクウェンヤを使った。 しかしながら、ドリアスのシンダールの王シンゴルは、ノルドールによるテレリの殺害について知ると、かれの国民とノルドールによるクウェンヤの使用を禁止し、シンダール語のみで意思を伝え合うように強いた。 このためノルドールもシンダール語を日常の言葉とし、クウェンヤはノルドールの公子たちだけに話された。しかし伝承の言葉としては廃れることはなかった。
[編集] 第三紀のクウェンヤ
中つ国の第三紀(『指輪物語』の時代)には、クウェンヤは公式な名前と著作にだけ使われるようになっていた。これは中世ヨーロッパでのラテン語の使用法に近い。公式な言語として、および書き言葉として使用されると想定されていて、シンダール語はすべてのエルフが話し言葉としていた。しかしながら、ノルドールはまだ覚えていて、価値あるものとして扱っていて、フロドの挨拶、エレン シーラ ルーメン オメンティエルヴォ elen síla lúmenn' omentielvo(「われらのあい出会う時一つ星が輝く」『旅の仲間』上第3章)に対する態度からそれを知ることができる。言語が追放の後に発展し続け、伝承の言語としての調整を行ったので、(流謫の)ノルドールのクウェンヤは多少ヴァリノールのクウェンヤと異なっていた。発音にもいくらかの変更があった。
クウェンヤの最も著しい特徴は、それが高度な膠着語であるということで、単語は文法的な機能を示すために(通常接尾辞によって)規則変化する。例えば、英語の一つの文全体と同じ意味を持つ一つのクウェンヤ単語というのはありふれたことである。「かれらはそれを見たことがある」をクウェンヤでは一つの単語(すなわちEcénientes)で言うことができる。
フィクションの外部の観点としては、同じく膠着語であるフィンランド語の影響を受けている。音韻論も、フィンランド語に、またそれより少ないがイタリア語やスペイン語をもとにしている。すなわち、連続する子音を音節の最初や最後に置くことができない(一つの例外は双数与格の語尾―nt)。もう一つの規則は、単語が舌頂音で終わらないということである。
トールキンは生前公表したより多くのクウェンヤおよびかれの他の言語に関する資料を書いていた。Vinyar Tengwar 誌および Parma Eldalamberon 誌はトールキンの言語の書類の編集および公表に献身している。
クウェンヤはSFとファンタジーの作家によって導入された人工言語のうちの一つで、他にはクリンゴン語、ニュースピーク(新語法、『1984年』)、ナッドサット(『時計じかけのオレンジ』)およびLapine(うさぎ語、『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』)がある。
初期のトールキンの著述(『中つ国の歴史』 The History of Middle-earth を参照)では、この言語はQenyaと呼ばれていて、『指輪物語』および『シルマリルの物語』で見られる形式になる前に、文法および語彙の両方で無数の修正をへた。
(2004年4月1日英語版より翻訳)
[編集] 音韻論
[編集] 母音
クウェンヤは音声と同じように長さで弁別される10の基本母音を持つ。
- a : [[a]]
- á : [[ɑː]]
- e : [[ɛ]]
- é : [[eː]]
- i : [[i]]
- í : [[iː]]
- o : [[ɔ]]
- ó : [[oː]]
- u : [[u]]
- ú : [[uː]]
[編集] 子音
子音のほとんどは、特に以下のものに関して相当に確実である。
- h : ときどき [[x]]
- qu : [[kʷ]]
- nw : [[nʷ]]
- ng : [[ŋ]]
- ngw : [[ŋʷ]]
- hy : [[ç]]
- hw : [[ʍ]]
- ty : [[c]]
- ly : [[ʎ]]
- ny : [[ɲ]]
[編集] 文法
[編集] 名詞
名詞は、主格、対格、属格、与格、具格、所有格(Possessive)、処格、アラティヴ(Allative)、奪格、そして時折「リスペクティヴ」(respective)またはディダティヴ(dedative)と呼ばれる第十の「謎の」格からなる10の格により曲用される。
- 主格は主に動詞の主語を表すことに使用される。クウェンヤの口語においては、対格としても機能する。(以下参照)
- 対格は動詞の直接目的語を示す。これは口語クウェンヤでは使用されず、主格に置き換えられるが、書き言葉には現れる。
- 属格は主に起源を示すことに使用される(e.g. フランス の 最高の画家).。この用法は、時々対格や所有格を兼ねる。
- 与格は動詞の間接目的語を示す。
- 具格は、道具や手段として使われる名詞を示す。
- 所有格は、所有や所有権を示す。この用法は、ときどき属格を兼ねる。
- 処格は、場所や位置を表す。
- アラティヴは動きを言い表す。
- 奪格は、動作の始点を言い表す。
- 「謎の格」またはリスペクティヴ格は、処格の比喩的な相当語句かもしれない。
[編集] 名詞の曲用
Plotz Letterは、'cirya'と'lassë'という語の曲用を与える。我々は、'子音軸'局用を持たない。そのうえ、クウェンヤの局用は、1915年のクウェンヤから指輪物語の後の成熟したクウェンヤへ変化し終えた。
単数形 | lassë | cirya | meldo | elen | nat |
主格 | lassë | cirya | meldo | elen | nat |
対格 | lassë | cirya | meldo | elen | nat |
属格 | lassëo | ciryo | meldo | eleno | nato |
与格 | lassen | ciryan | meldon | elenen | naten |
具格 | lassenen | ciryanen | meldonen | elennen | natenen |
所有格 | lasséva | ciryava | meldova | elenwa | nateva |
処格 | lassessë | ciryassë | meldossë | elenessë | natessë |
アラティヴ | lassenna | ciryanna | meldonna | elenenna | natenna |
奪格 | lassello | ciryallo | meldollo | elenello | natello |
リスペクティヴ | lasses | ciryas | meldos | elenes | nates |
双数形 | lassë | cirya | meldo | elen | nat |
主格 | lasset | ciryat | meldu | elenet | natu |
対格 | lasset | ciryat | meldu | elenet | natu |
属格 | lasseto | ciryato | melduo | eleneto | natuo |
与格 | lassent | ciryant | meldun | elenent | natun |
具格 | lassenten | ciryanten | meldunen | elenenten | natunen |
所有格 | lassetwa | ciryatwa | melduva | elenetwa | natuva |
処格 | lassetsë | ciryatsë | meldussë | elenetsë | natussë |
アラティヴ | lassenta | ciryanta | meldunna | elenenta | natunna |
奪格 | lasselto | ciryalto | meldullo | elenelto | natullo |
リスペクティヴ | lassetes | ciryates | meldus | elenetes | natus |
複数形 | lassë | cirya | meldo | elen | nat |
主格 | lassi | ciryar | meldor | eleni | nati |
対格 | lassi | ciryar | meldor | eleni | nati |
属格 | lassion | ciryaron | meldoron | elenion | nation |
与格 | lassin | ciryain | meldoin | elenin | natin |
具格 | lassinen | ciryainen | meldoinen | eleninen | natinen |
所有格 | lassiva | ciryaiva | meldoiva | eleniva | nativa |
処格 | lassessen | ciryassen | meldossen | elenissen | natissen |
アラティヴ | lassennar | ciryannar | meldonnar | eleninnar | natinnar |
奪格 | lassellon | ciryallon | meldollon | elenillon | natillon |
リスペクティヴ | lassis | ciryais | meldois | elenis | natis |
部分複数形 | lassë | cirya | meldo | elen | nat |
主格 | lasseli | ciryali | meldoli | eleneli | nateli |
対格 | lasseli | ciryali | meldoli | eleneli | nateli |
属格 | lasselion | ciryalion | meldolion | elenelion | natelion |
与格 | lasselin | ciryalin | meldolin | elenelin | natelin |
具格 | lasselínen | ciryalínen | meldolínen | elenelínen | natelínen |
所有格 | lasselíva | ciryalíva | meldolíva | elenelíva | natelíva |
処格 | lasselissë | ciryalissë | meldolissë | elenelissë | natelissë |
アラティヴ | lasselinna | ciryalinna | meldolinna | elenelinna | natelinna |
奪格 | lasselillo | ciryalillo | meldolillo | elenelillo | natelillo |
リスペクティヴ | lasselis | ciryalis | meldolis | elenelis | natelis |
[編集] 動詞
動詞には主に2種類ある。すなわち、tir-という形態素からなるtire (tiri-) (見ること)のような基本語幹からなる基本動詞(あるいは原始動詞)、そして形態素の終わりに-aがあり、TULは「来る」よりtulta(召還)のような基礎へ準動詞の接尾辞を置くことにより、またはkúna(曲げる、本来は形容詞の「曲がった」)のような非準動詞的基礎に由来して、各々形成される派生動詞(あるいはA軸動詞)である。
これらの活用はトールキンによって書かれたのではないが、様々な時期の多くの資料から推論され引き出された一つのありうる再構築を表す。後期の未刊行文書の一例から推測され、A軸の連続形として提案されたtultëaを除き、ほとんどの形は研究者の間で比較的議論にならない。(もう一つの提案によって、A軸は不定過去と連続的な形の区別をすることができません。)
派生動詞 | 基本動詞 | |||
単数 | 複数 | 単数 | 複数 | |
不定詞 | tulta | tirë | ||
アオリスト/単純現在 | tulta | tultar | tirë (tiri-) | tirir |
現在進行 | tultëa | tultëar | tíra | tírar |
過去 | tultanë | tultaner | tirnë | tirner |
未来 | tultuva | tultuvar | tiruva | tiruvar |
完了 | utultië | utultiër | itírië | itíriër |
[編集] 代名詞
代名詞は、独立語、そして合成動詞の語尾に似た前接語の両方としてみなされる。この規則は完全に理解されないが、証拠が前接語が通常使用される形である間、自然において独立形がよりはっきりしていることを示す。前接語による偽合成と独立代名詞による分析的動詞の両方を持つことの影響は、クウェンヤにゲール語に強度に類似したシステムをもたらした。しばしば、長く、そして、不足して、2つの異なる形で来ている前接の形で、知られていることは、自動詞のために、代名詞が独立した語か前接語として現れることができるということである。第三者において、短い形が、主題よりむしろ直接目的語のために使われる。以下の表は、トールキンの資料で証明される異なる形を概説する。仮定的であるか再建された形は、疑問符(?)または星印によって示される。決定されることができないそれらの形は含まず、それらの不在は、スラッシュ(/)によって示される。
形 | ---短--- | --中-- | -長- | 独立形 | 所有 |
一人称単数 | -n | -në | -nyë | ni, nyë | -nya |
二人称親称(単複同形) | -t | / | / | ki, tyë | *-tya |
二人称単数敬称 | -l | -lë | -lyë | lë, elyë | -lya |
三人称単数男性 | -0 | -r | -ro | so | / |
三人称単数女性 | -0 | -r | -rë | së | -rya |
三人称単数中性 | -s | -sa | / | sa | / |
一人称双数 | / | / | -lvë, -lwë | met | -lwa, -lva |
一人称複数排他 | / | / | -mmë | më, emmë | -mma |
一人称複数包括 | / | / | -lmë (-ngwë?) | më | -lma |
二人称複数敬称 | -l | -lë | -llë | ellë | / |
三人称複数 | -t | -të | -ntë | të | *-nta |
三人称複数非人称 | -t | -ta, -at | / | ta | / |
三人称複数男性 | / | -ron/-lto | / | / | / |
三人称複数女性 | / | -ren | / | / | / |
- '-ntë'は主語が言及されないとき、三人かそれ以上の人々を表すとき使用される。
[編集] 参照
[編集] 外部リンク
[http://p9c.cc.titech.ac.jp/jrrt/ardalambion/quenya.html| クウェンヤ(クウェニャ)- 古き言葉