シャチ
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シャチ Killer whale |
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分類 | ||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||
Orcinus orca | ||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||
Killer whale |
シャチ(鯱)は、クジラ目ハクジラ亜目マイルカ科シャチ属に属するハクジラの一種。オスは体長約9m、体重約10トンに及び、メスは一回り小さく、体長6~7m、体重は3~4トン程である。サカマタ(逆叉)ともいわれる。一部、英名でもあるオルカを使う研究者もいる。シャチ属に属するのはシャチ1種のみである。一般ではイルカとクジラのように、別族のように思われがちだが、クジラというよりは大型のイルカと解するのが妥当である。
目次 |
[編集] 特徴
背面は黒、腹面は白色で、両目の上方に白い模様があり、アイパッチと呼ばれる。背びれの根元には灰色の模様があり、水中ではカムフラージュ効果があると同時に、個々の模様は一頭一頭異なるため、背びれの形状とともに個体識別に役立っている。頭は円錐形で、特にオスの背びれは大きく、2m近くにもなる。肉食動物である。歯は鋭く、獲物を口の中で噛むためと言うより、むしろ飲み込みやすい大きさに引き裂くために使われる。イルカ、つまりはハクジラの一種であり、発生音を使い分け、仲間とコミュニケーションをとることもでき、他のイルカの発声音を察知して、いる場所を突き止め、狩に役立てている。
[編集] 分布
一般的に冷水を好むが世界中の海に生息し、クジラ目としては珍しく地中海やアラビア海にも生息する。餌になる動物が多いことなどから、特に極地付近の沿岸に多く住む。主にカナダのブリティッシュコロンビア、ノルウェーのティスフィヨルド、アルゼンチンのパタゴニア、インド洋のクローゼット諸島などに住む個体群の研究が進んでいる。地球上で最も広く分布する哺乳類の一種と言われる。時には餌を求めて、数百kmも川を遡上することも報告されている。日本では北海道の根室海峡から北方四島にかけてや、和歌山県太地町にて度々目撃されている。
[編集] 生態
食物連鎖の頂点に位置し、武器を使う人間を例外にすると自然界での天敵は存在しない。多くの生物を捕食することから、獰猛で貪欲な捕食者として知られているが、知能が高く利益にならない戦闘は避ける傾向もあり、食べる必要のないものを襲うことは少ない。ただしアザラシを襲うとき、水上に放り投げ必要以上の苦痛を与えることがある。英名のKiller whaleは「殺し屋クジラ」であり、学名のOrcinus Orcaは「冥界よりの魔物」という意味である。
攻撃力は非常に高く、自分よりも遥かに大きいシロナガスクジラなどを襲ったり、獰猛なホホジロザメですら制圧してしまう力を持つ。その為「海のギャング」などと呼ばれることがある。しかし、他のクジラ(イルカを含む)に比べ、同種間での攻撃的な行動は知られていない。また、人を襲うことは稀であり、捕食の対象として人間を認識し、襲ったと見られるケースにいたっては皆無である。人間が襲われるのはアザラシと勘違いしているものと言われている。実際サーフボードに寝ころんでパドリングしている人間を海中から見上げるとアザラシに似ている。また一例のみサーファーが足を噛まれた例があるがシャチが本気を出せば噛むでは済まない為、これも捕食目的ではないと見られる。また小さな漁船などが襲われるケースもみられるが、これは「襲っている」のではなく「遊んでいる」という「じゃれる行為」ともいわれる。ただしこれらの事例からはシャチが人間を意識的に捕食する可能性はほぼ皆無でも、人間がその知的遊戯に巻きこまれて命を落とす可能性は有り得る訳である。
昨今ではシャチの生態も漁業関係者の間でもほぼ認知されておりいわゆる「漁船を襲う」とされるケースにおいても皆無である。特に昨今シャチによる被害が、直接的にも間接的にも報告される事例がほぼ皆無であるが、諸説あるものの理由は不明である。 仮説としては、長い生物としての歴史の中で人間を食べ物として学習してこなかった、というものがある。海底から見たシルエットがアザラシ等に似ていたと思われる場合(ボディーボードで浮いていたなど)に「襲われかけた」という事例があるが、距離が接近してアザラシではないと分かった(と思われる)時点で攻撃をやめたと報告されている。鳥羽水族館名誉館長の中村幸昭氏はその著書で日本近海のシャチ600頭で一番多いのは魚を捕食していた個体である事を記している。後述のシャチの行動半径と速度から中村氏はシャチは獲物を好きなだけ捕れる状況にあり、人間をわざわざ食べる理由もないとしている。ただし、数少ない被害者は絶命した為に捕食例が伝わってないだけという怖い説もある。 通常の動物で良く言われている「人間を単に恐れている」という説も水中での人間の動きの悪さを考えれば、船を恐れる事はあっても海中で人間を恐れるとは考えにくい。
非常に活発な動物であり、ブリーチング(海面へ自らの体を打ちつけるジャンプ)、スパイホッピング(頭部を海面に出し、辺りを見渡すためと言われる行動)など、あらゆる行動が水上でも観察されている。泳ぐ最高速度は時速82Kmに及び、これは「泳ぎの達人」であるバンドウイルカを超え、水中を最も速く泳ぐことができる動物である。また、餌を求めて、一日に100km以上も移動することが知られている。
単体、または数頭から数十頭ほどの群れ(ポッド)をつくって生活する。
小さいものでは魚・イカ・海鳥・ペンギン、比較的大きなものではアザラシ・イルカ・ホッキョクグマ、時にはクジラやサメなど、捕食する動物は多岐に渡る。それぞれの海域で、最も利用しやすい動物を餌にすると言われている。
研究の進んでいるカナダのブリティッシュ・コロンビアでは、レジデント(定住型)、トランジエント(回遊型)、オフショア(沖合い型)の3タイプのシャチの個体群が知られている。レジデントのシャチは、主に魚を餌とし、大抵は十数頭の家族群を形成して生活する。魚の豊富な季節になると、特定の海域に定住し、餌を追うことから定住型と呼ばれる。それに比べ、トランジエントは小さな群れまたは一頭のみで生活し、決まった行動区域を持たず、餌も海に住む哺乳類に限られる。「獰猛」と形容されるシャチの一般のイメージに、近い生態といえるかもしれない。オフショアのシャチは文字通り沖合いに生息し、何十頭もの巨大な群れを形成し、ニシンなどの魚類を捕食する。
世界の他の区域のシャチにも、この3タイプいずれかが当てはまるかと言うと、そうでもない。シャチは住む地域に最も適した生活形態を編み出し、それに基づいた個体群を形成する。上に上げた3タイプのシャチの間での交配は報告されておらず、遺伝子も異なることがわかっている。
他のハクジラと同様、二つの種類の音を使い分けていることが知られている。一つはコールと呼ばれ、群れのメンバー同士のコミュニケーションに使用される。もう一つはクリック音と呼ばれ、噴気孔の奥にある溝から、メロンと呼ばれる脂肪で凝縮して発射される音波のことである。この音波は物質に当たるまで、水中を移動し、その反響音を下あごの骨から感じ取ることで、シャチは前方に何があるか判断することが出来る。この能力をエコーロケーション(反響定位)と呼ぶ。クリック音の性能は高く、わずか数mmしか離れていない二本の糸を認識したり、反響音の波形の違いから物質の成分、果ては内容物まで認識することが可能だという。また、クリック音を通常よりも凝縮させて、餌に当てることで麻痺させ、捕食しやすくする行動も知られている。
氷の下から奇襲、群れで協力し、挟み撃ちをするなど高度な狩りの技術を持つ。また、浜辺にいるアシカなどに対して(これも奇襲といえるかもしれないが)そこへ這い上がって来て捕食したりもする。大型のクジラを襲う場合は、一頭がクジラの頭上に陣取り、海面での呼吸を妨げ、もう一頭はクジラを底から押し上げ、潜水を妨げるなどの行動が観察されている。好物はクジラの舌、口付近であり、他の多くの部分は放置されることがしばしばある。
非常に社会的な生活を営むことで知られる。群れは多くの場合、母親を中心とした血の繋がった家族のみで構成され、オスは通常一生を同じ群れで過ごし、メスも自身の群れを新しく形成するものの、生まれた群れから離れることは少ない(ただしこれらの情報は主に、研究の比較的進んでいるカナダのレジデント個体群から集められたものであり、同海域でのほかの2タイプ、または他の海域のシャチ全てに当てはまるわけではない)。それぞれの群れは、その家族独自の「方言」とも呼ばれるコールを持ち、それにより情報を互いに交換し合っている。「方言」は親から子へ、代々受け継がれていく。群れの中でのじゃれ合いなどの他にも、違う群れ同士が交じり合い、特に若い個体間での揉み合いや、激しいコールの交換なども観察されている。ある特定の海域では、一年に一回、いくつもの家族が、100頭以上の群れを形成する「スーパーポッド」という行動も知られている。
特に生まれたばかりの個体に対する、「気配り」とも取れる行動は多く観察されている。母親が餌取りに専念している間、他のメスが若い固体の面倒を見る「ベビーシッティング」的な行動や、自身のとった獲物を若い個体にゆずったり、狩りの練習をさせるため、わざと獲物を放ったりすることも知られている。一般に生まれたばかりの若い個体のいる群れは、移動速度が遅く、潜水時間も短い。このあたりからバンドウイルカなどと非常に似通った習性を持つと考えられる。
オスの平均寿命は30歳、最高寿命は約50歳で、メスの平均寿命は50歳、最高寿命は80歳あまりである。
[編集] 日本で見られる施設
日本の施設で見られるシャチは、アイスランドにて捕獲されてセイディラサフニドから送られてきたものか、和歌山県太地町で捕獲されたものが殆どである。
シャチは獰猛とのイメージがあるが、人間には懐きやすく知能も極めて高いため、シャチのもつ壮大な運動能力を生かして各地の水族館などでショーに利用されている。
[編集] かつて見られた施設
[編集] シャチの登場するフィクション
- 『オルカ』監督 マイケル・アンダーソン アメリカ 1977年
- 『フリー・ウィリー』監督 サイモン・ウィンサー アメリカ 1993年
- 『フリー・ウィリー2』監督 ドワイト・リトル アメリカ 1995年
- 『七つの海のティコ』世界名作劇場(フジテレビ) 1994年
これらは、いずれもシャチを肯定的に描いている(ただしオルカでは復讐の為に怪獣並の破壊行為を行うのだが)。しかし、古い時代の作品では、否定的な描写もある。『科学忍者隊ガッチャマン』(1972年~1974年)の第18話「復讐! くじら作戦」での、シャチがみなしごの子鯨を食い殺そうとするシーンなどである。
[編集] シャチをモチーフとしたキャラクター
- 『超星神グランセイザー』のセイザーパイシーズ
- 『名古屋グランパスエイト』のマスコット「グランパス君」(通称「師匠」)
[編集] 関連書籍
- 『ケイコという名のオルカ ケイコという名のオルカ水族館から故郷の海へ』 辺見栄 集英社 ISBN 4087812049
- 『フリー・ウィリー』タイトルロール、シャチの実話。
- 『オルカ~海の王シャチと風の物語』 水口博也 早川書房
- 『オルカアゲイン』 水口博也 風樹社
- 『Misty~幻想のオルカ~』 水口博也 ブロンズ新社
- 『リトルオルカ』 水口博也 アップフロントブックス