リバタリアニズム
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リバタリアニズム(自由意志論 英:libertarianism)とは、他者の権利を侵害しない限り、各個人の自由を最大限尊重すべきだとする政治思想である。
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[編集] 概要
レッセフェールを唱え、経済や社会に対する国家や政府の介入を否定もしくは最小限にすることを主張した。
各々のリバタリアンの主張には幅があり、政府の権力をどこまで認めるか等によって分類することができる。
リバタリアニズムの主流的考え方として、政府の存在を認めない無政府資本主義(アナルコ・キャピタリズム/anarcho capitalism)、国防・裁判・治安維持にその機能を限定した上で政府の存在を肯定する最小国家主義(Minarchism)、極最低限の行政サービス程度なら国家の役割として承認する古典的自由主義がある。
国家に加え、資本主義をも否定する立場として、リバタリアン社会主義(自由至上社会主義)、アナキズム(無政府主義)がある。しかし、このような左翼リバタリアンは個人の財産権を尊重しないため、リバタリアニズムの名に値しないとの批判もある。また、リバタリアニズムを支持する北米の新保守主義(ただし、後述するように新保守主義の思想自体は必ずしもリバタリアニズムと一致しない)は、元来、反スターリンのトロツキズムから分岐したものであり、思想的源流を辿るとカール・マルクスと同時代人の無政府主義的社会主義者プルードンに行き着く事から、リバタリアン社会主義こそがリバタリアニズムの本道に近いと見る向きもある。
[編集] リバタリアニズムの基本理念
リバタリアニズムでは私的財産権(private property rights)もしくは私有財産制を個人の自由を確保する上で必要不可欠な制度原理と考える。私的財産権には、自分の身体は自分が所有していることを自明とする自己所有権原理(principle of self-ownership)を置く。(→ジョン・ロック)私的財産権が政府や他者により侵害されれば個人の自由に対する制限もしくは破壊に結びつくとし、政府による徴税行為をも基本的に否定する。 法的には、ハイエクに見られるように、自由とは本質的に消極的な概念であるとした上で、自由を確保する法思想(法の支配/rule of law)を追求する。 経済的には、フリードマンに見られるように、市場におきる諸問題は政府の規制や介入が引き起こしているという考えから、市場への一切の政府介入を否定する自由放任主義(レッセフェール/laissez-faire)を唱える。
[編集] リバタリアニズムにおける自由
リバタリアンの唱える自由とは消極的自由を指している。これは、他からの制約や束縛がないことという意味である。リベラリズムにおける、政府のサポートを必要とする積極的自由と、リバタリアニズムにおける消極的な自由とは対照的で多くの場合相反する概念である。
[編集] 生存権、自由権、財産権の根拠
ロバート・ノージックやマリー・ロスバードのようなリバタリアンは生存権、自由権、財産権を自然権、すなわち擁護するに相応しいものとみている。 彼らの自然権に対する見方はトマス・ホッブズやジョン・ロックの著作に由来している。 アイン・ランド(リバタリアリズムに多大な影響を与えた人物)は、そのレッテルを拒絶していたが、これらの権利が自然法に基づくと考えていた。 ロバート・ノージックの「アナーキー・国家・ユートピア」では「自由な社会では、新たに所有するという行為は、個々人の自発的な交換や行動から生じる」といわれる。
ミルトン・フリードマンやルートヴィヒ・フォン・ミーゼス、フリードリヒ・ハイエクといったリバタリアンは、道徳上の観点と同様に実用主義または帰結主義の観点から、これらの権利を説明した。 彼らは、リバタリアリズムが経済効率の追求と社会福祉の増進とが矛盾しないことを主張し、緊急事態のような限定的な状況下での実力の行使を認めた。
ディビッド・ゴティエやジャン・ナーヴソンのようなリバタリアンは、これらの権利が理性的な人々の間で結ばれた一種の契約であるとする社会契約論者の立場をとった。
[編集] 他思想との違い
リバタリアニズムとは、経済的自由と社会的自由を共に尊重する思想である。(ノーラン・チャートを参照。) このことから、経済的自由を尊重し市場原理主義を主張するのでリベラルとは対立する。リベラル側はリバタリアニズムに対して貧富差の拡大により、階層の固定化・社会の不安定化・不公平を招き、また、財界・大企業による専制により市民の自由を損なうとして批判する。
リベラリズムはリバタリアニズムと異なり、自由の前提となるものに帰着する思想である。たとえばリベラル派は貧困者や弱者が奴隷になってしまうのを防ぐために政府による富の再分配や法的規制を肯定し、それにより自由・平等を実現しようとする。しかし、リバタリアニズムでは法的規制と富の再分配に伴う徴税が自由と財産権を損なうものとして否定する一方、結果の平等が実現されるべきであるとは考えない。リベラリズムはリバタリアニズムを個人的自由・社会的自由を失うものとして批判する。
また、社会的自由も尊重する点で、家族や性道徳などに対する保守的な価値観を重視する新保守主義とも異なる。
アナキズムは政府を否定する代わりに中間集団・地域コミュニティによる相互扶助を肯定するリベラリズムの一種である。よってリバタリアニズムとは真っ向から対立する。
[編集] リバタリアニズムという語が用いられるようになった理由
個人の自由を尊重する立場としては、元来リベラリズムという用語があるが、この語は社会的公正を志向するがゆえに政府による再分配によって平等を実現しようとする社会主義~社会民主主義的・福祉国家的な文脈で使われるようになった。 そのように変化した概念と区別し古典的な意味での自由主義を現わす言葉として、リバタリアニズムという用語が使われるようになった。
[編集] リバタリアニズムの政策
政治面では国家による個人への関与を可能な限り否定する。具体例として、結婚制度の廃止、銃・麻薬・売春に対する規制の撤廃、賭博や同性愛の容認が挙げられる。
経済面では、個人の経済活動の自由を実現するため、市場による代替的な供給が可能なあらゆる財への国家による関与を否定する。具体的には、公共事業・財政政策の廃止、累進税率廃止、都市計画反対、貨幣発行の自由化などである。
また、他者からの不可侵が保障されるべき自由は人身所有権のみであるということから、それ以外のいわゆる「新しい人権」(名誉権、環境権、プライバシー権など)は認めない。著作権その他の知的財産権についても処分の自由を尊重する観点から、排他的な処分の権利は認めない。他者の人格批判なども一切公権力による取締りの対象とはならないが、自生的な秩序としてそのような悪趣味な行為が非難の対象となる社会が形成されるだろうというのがリバタリアンの考えである。
ミルトン・フリードマンが提唱した負の所得税が有名である。実際にはイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドで一部導入され、拡大されつつある。アメリカにおける勤労税額控除もこの負の所得税のバリエーションだと評価される。日本においては小沢一郎が党首を務めた自由党が負の所得税に近い政策を掲げていた。また、彼が民主党の代表選挙に出馬する際に、再びこの公約が掲げられた。
[編集] 左翼リバタリアンの政策
ベーシック・インカム(基本所得)が有名である。ヨーロッパの左翼リバタリアン政党がしばしばこれを掲げる。日本においては横路孝弘衆議院副議長の側近である朝日俊弘参議院議員が国会で取り上げたことがある。
[編集] 現代のリバタリアニズム
- オーストリア学派リバタリアン
- ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス(→en:Praxeology)
- フリードリヒ・ハイエク
- マリー・ロスバード(en:Murry Rothbard)
- ハンス・ハーマン・ホップ(en:Hans herman Hoppe)
- シカゴ学派リバタリアン
- アナルコ・キャピタリズム
- 客観主義(en:Objectivism)
- メタ・ユートピア論
[編集] 参考文献
- ミルトン・フリードマン『選択の自由』 西山千明 翻訳
- ミルトン・フリードマン『政府からの自由』 土屋 政雄 翻訳
- デヴィッド・フリードマン『自由のためのメカニズム』森村 進、高津 融男 翻訳 勁草書房 (2003/12)
- スティーブン・ランズバーグ 『ランチタイムの経済学』
- フリードリヒ・ハイエク『隷属への道』西山千明 翻訳 春秋社
- フリードリヒ・ハイエク『法、立法、自由』 春秋社
- ランディ・E・ バーネット 『自由の構造 正義・法の支配』 木鐸社 (2000/07)
- ロバート・ノージック『アナーキー・国家・ユートピア』木鐸社 ISBN 4833221705
- デイヴィッド・ボウツ 著 副島隆彦 訳『リバータリアニズム入門』洋泉社 ISBN 4896913442
- 森村進『自由はどこまで可能か―リバタリアニズム入門』講談社現代新書 ISBN 4061495429
- 森村進[編著]『リバタリアニズム読本』勁草書房 ISBN 4326101547
- ウォルター・ブロック著 橘玲訳『不道徳教育』講談社 ISBN4062132729
[編集] 関連項目
- リバタリアン党
- 最小国家主義
- 新自由主義
- 新保守主義
- 自由主義
- 小さな政府
- 政府の失敗
- 夜警国家
- リベラリズム
- 共同体主義
- パターナリズム
- 自己決定権
- ジョン・スチュアート・ミル
- ケイトー研究所
- ブードゥー経済学
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