ロックフィルダム
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ロックフィルダムは岩石や土砂を積み上げて建設する形式のダム。
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[編集] 概要
内部は中心部を粘土・その両脇を砂や砂利・外郭部を岩石で覆う3層5重に分かれた構造をもつ。中心部の粘土質はコア材(遮水壁)とも呼ばれ、このコア材が水をせき止める。その両面に砂や砂利からなるフィルター材が積まれ、コアが崩れないようにささえる。さらにその外側に、岩を敷き詰めたロック材を幅広く積み、コアとフィルターをささえる。水を遮る方式によって幾つかの亜型に分類される。
地盤が堅固でなく、コンクリートダムの建設が困難な場合に建設される事が多い。ダム自体の体積が大きい事から安定性がありアースダムよりは丈夫であるが、洪水による越水には弱い。従って重力式コンクリートダム等の様に堤体中央部に洪水吐を設ける事が出来ない。この為、左岸・右岸の何れかの山を掘削して洪水吐を設けるのが一般的である。中にはトンネルを掘ってダム下流に放流するタイプの洪水吐もある。
日本では戦後石淵ダム(胆沢川)の建設着手、小渕ダム(久々利川)の完成で建設の歴史が始まったが、当初は洪水処理・設計理論等技術的に安全性(特に地震)への懸念が払拭されていなかった事、大量の岩石を採取・運搬するノウハウが無かった事などから余り高いダムは建設されていなかった。然し、技術的な進歩やコンクリートダムの建設地点が減少した事などから1970年代以降盛んに建設されるようになり、日本の全ダムで2番目に高い高瀬ダム(176.0m・高瀬川)の様な大ダムが数多く建設された。現在でも多く建設されている。
ちなみに海外ではアスワン・ハイ・ダム(ナイル川)やアコソンボダム(ボルタ川)等が著名である。現在世界で最も高い堤高を有するロックフィルダムはタジキスタンに建設が進められているログンダムであり、堤高が335.0mと東京タワーの高さ333.0mを超える規模のダムである。下流70km地点には現在世界最高の堤高を有するヌレクダム(300.0m)もある。
[編集] 海外の主なダム
国名 | ダム名 | 堤高 (m) |
総貯水 容量 (千m³) |
完成年 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
タジキスタン | ログンダム | 335.0 | 13,300,000 | 建設中 | 堤高世界一 |
インド | テヘリダム | 261.0 | 3,540,000 | 建設中 | 堤高世界第二位 |
メキシコ | ティコアセンダム | 261.0 | 1,613,000 | 1980年 | 堤高世界第三位 |
エジプト | アスワン・ハイ・ダム | 111.0 | 162,000,000 | 1970年 | 総貯水容量世界第三位 |
ガーナ | アコソンボダム | 134.0 | 150,000,000 | 1965年 | 総貯水容量世界第四位 |
[編集] 分類
[編集] 土質遮水壁型ロックフィルダム
ロックフィルダムの基本形とも言える型式。主に粘土質で形成されるコア材の位置によって更に分類される。一つはコア部が基礎岩盤より垂直に建設されている型式で、中央土質遮水壁型ロックフィルダムと呼ばれる。日本のロックフィルダムの大部分はこの方式である。もう一つはコア部が基礎岩盤より斜めに建設されている型式で、傾斜土質遮水壁型ロックフィルダムと呼ばれる。この場合下流部におけるフィルター材・ロック材の分量を多くしてコア材を支える。地形的理由等で選択されるケースが多いが、建設されたケースは余り多くない。
[編集] 主なダム
[編集] 中央土質遮水壁型ロックフィルダム
所在地 | 水系名 | 一次 支川名 (本川) |
二次 支川名 |
三次 支川名 |
ダム名 | 堤高 (m) |
総貯水 容量 (千m³) |
管理主体 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
長野県 | 信濃川 | 犀川 | 高瀬川 | - | 高瀬ダム | 176.0 | 76,200 | 東京電力 | |
岐阜県 | 木曽川 | 揖斐川 | - | - | 徳山ダム | 161.0 | 660,000 | 水資源機構 | 建設中 |
群馬県 | 利根川 | 楢俣川 | - | - | 奈良俣ダム | 158.0 | 90,000 | 水資源機構 | |
石川県 | 手取川 | 手取川 | - | - | 手取川ダム | 153.0 | 231,000 | 国土交通省 電源開発 石川県 |
|
滋賀県 | 淀川 | 姉川 | 高時川 | - | 丹生ダム | 145.0 | 150,000 | 水資源機構 | 凍結検討中 |
長野県 | 木曽川 | 木曽川 | - | - | 味噌川ダム | 140.0 | 61,000 | 水資源機構 | |
岩手県 | 北上川 | 胆沢川 | - | - | 胆沢ダム | 132.0 | 143,000 | 国土交通省 | 建設中 |
群馬県 | 利根川 | 薄根川 | 発知川 | - | 玉原ダム | 116.0 | 14,800 | 東京電力 | |
高知県 | 奈半利川 | 奈半利川 | - | - | 魚梁瀬ダム | 115.0 | 104,625 | 電源開発 | |
北海道 | 石狩川 | 石狩川 | - | - | 大雪ダム | 86.5 | 66,000 | 国土交通省 |
[編集] 傾斜土質遮水壁型ロックフィルダム
所在地 | 水系名 | 一次 支川名 (本川) |
二次 支川名 |
三次 支川名 |
ダム名 | 堤高 (m) |
総貯水 容量 (千m³) |
管理主体 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
岐阜県 | 庄川 | 庄川 | - | - | 御母衣ダム | 131.0 | 370,000 | 電源開発 | |
福井県 | 九頭竜川 | 九頭竜川 | - | - | 九頭竜ダム | 128.0 | 353,000 | 国土交通省 電源開発 |
|
岐阜県 | 木曽川 | 飛騨川 | 馬瀬川 | - | 岩屋ダム | 127.5 | 173,500 | 水資源機構 中部電力 |
|
岩手県 | 北上川 | 丹藤川 | - | - | 岩洞ダム | 40.0 | 65,600 | 農林水産省 | |
富山県 | 小矢部川 | 子撫川 | - | - | 子撫川ダム | 45.0 | 6,600 | 富山県 |
[編集] アスファルトフェイシングフィルダム
アスファルトフェイシングフィルダムは、厚く舗装したアスファルト(アスファルトコンクリート)で上流部表面を覆い、遮水する型式。アスファルト表面遮水壁型ロックフィルダムとも呼ばれる。
ロックフィルダムの一型式だが、ダム関連の書籍等では独立して記載されている。岩石を台形状に積み上げたダムの上流面に厚さ数十cmにも成る緻密なアスファルト舗装を施し、これで水をせき止める。付近で良質の粘土質が満足に取れない場合などに用いられる型式である。近年の純揚水発電用ダムでよく用いられる型式である。八汐ダムがこの形式では世界一の堤高を誇る。山中に池を掘りアスファルトで舗装するタイプのダム(沼原ダム等)も多く、その場合は河道外に建設される場合が殆どと成る。
所在地 | 水系名 | 一次 支川名 (本川) |
二次 支川名 |
三次 支川名 |
ダム名 | 堤高 (m) |
総貯水 容量 (千m³) |
管理主体 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
栃木県 | 那珂川 | 箒川 | 蛇尾川 | 鍋有沢川 | 八汐ダム | 90.5 | 11,900 | 東京電力 | 堤高世界一 |
栃木県 | 那珂川 | 那珂川 | - | - | 深山ダム | 75.5 | 25,800 | 栃木県 | 農林省施工 |
兵庫県 | 円山川 | 多々良木川 | - | - | 多々良木ダム | 64.5 | 19,440 | 関西電力 | |
北海道 | 尻別川 | ペーペナイ川 | - | - | 双葉ダム | 61.1 | 10,450 | 北海道開発局 | 農林水産省管理 |
福島県 | 阿賀野川 | 只見川 | 大津岐川 | - | 大津岐ダム | 52.0 | 1,825 | 電源開発 | |
栃木県 | 那珂川 | (河道外) | - | - | 沼原ダム | 38.0 | 4,336 | 電源開発 |
[編集] コンクリートフェイシングフィルダム
コンクリートフェイシングフィルダムは、岩石を台形状に積み上げたダムの上流面にコンクリート(セメントコンクリート)を打設し、これで水をせき止める。コンクリート表面遮水壁型ロックフィルダムとも呼ばれる。
ロックフィルダムの一型式だが、アスファルトフェイシングフィルダムと同様にダム関連の書籍などでは独立した型式として記載されている。ロックフィルダムとしては建設の歴史が古く1940年代後半~1950年代前半に集中しており、日本で最初に着手された石淵ダムや日本で最初に完成した小渕ダムはこの形式である。戦後の物資難でセメントが著しく不足していた時代、コンクリートダムから型式を切り替えて建設した経緯のあるもので、その後遮水壁の陥没といった問題があり、これらへの技術的問題が解決できず近年は徳山ダム(揖斐川)の上流部2次仮締切堤で施工されている他は、ダム単体での施工は現在行われていない。
所在地 | 水系名 | 一次 支川名 (本川) |
二次 支川名 |
三次 支川名 |
ダム名 | 堤高 (m) |
総貯水 容量 (千m³) |
管理主体 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
秋田県 | 雄物川 | 皆瀬川 | - | - | 皆瀬ダム | 66.5 | 31,600 | 秋田県 | 建設省施工 |
岩手県 | 北上川 | 胆沢川 | - | - | 石淵ダム | 53.0 | 16,150 | 国土交通省 | 再開発中 |
群馬県 | 信濃川 | 中津川 | - | - | 野反ダム | 44.0 | 28,700 | 東京電力 | 野反湖 |
岐阜県 | 木曽川 | 可児川 | 久々利川 | - | 小渕ダム | 18.4 | 552 | 岐阜県 |
[編集] コンクリートコアフィルダム
コンクリート中央遮水壁型ロックフィルダムとも呼ばれ、コア部が土質主体ではなくコンクリートで形成されたロックフィルダム。簡単に言えばロックフィルダムの堤体内にコンクリートダムが入っている様なものである。全国では1基しか存在しない、極めてまれな型式である。
所在地 | 水系名 | 一次 支川名 (本川) |
二次 支川名 |
三次 支川名 |
ダム名 | 堤高 (m) |
総貯水 容量 (千m³) |
管理主体 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
北海道 | 湧別川 | 武利川 | - | - | 武利ダム | 15.5 | 820 | 北海道電力 |
[編集] グラベルフィルダム
「グラベル」とはラリー用語で『未舗装の』という意味であるが、この場合は少し意味合いが異なる。ロックフィルダムは通常付近の山からコア材の原料となる粘土質やロック材の原料となる岩石・土塊を採取する。だが、この型式の場合はコア材は同様の手法で採取するがロック材に関しては、ダムを建設する河川の川底に堆積している砂礫(グラベル)を主原料として堤体へ盛り土する。
日本においては中央土質遮水壁型グラベルフィルダムが1例あるのみで、これ以降は全く建設されていない。尚、成書によっては単なるロックフィルダムとして扱われている場合もある。
- (参考文献)「日本の多目的ダム」1972年版・1980年版(建設省河川局監修・全国河川総合開発推進期成同盟会編。山海堂:1972年・1980年)
所在地 | 水系名 | 一次 支川名 (本川) |
二次 支川名 |
三次 支川名 |
ダム名 | 堤高 (m) |
総貯水 容量 (千m³) |
管理主体 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
滋賀県 | 淀川 | 日野川 | - | - | 日野川ダム | 25.0 | 10,380 | 滋賀県 |