ヴォクスホール (自動車)

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ヴォクスホール（Vauxhall）は、イギリスのアメリカ資本系自動車メーカー。ジェネラルモーターズ(GM)グループの企業の一つ。

[編集] 概要

1903年から自動車製造に参入し、初期には高性能スポーツカーを製造したことで名門メーカーとして自動車史にその名を残したが、1925年のGM系列入り後は実用的な量産車のメーカーとなった。第二次世界大戦後はやはりGM傘下のドイツのオペルとの車種共通化を進められ、現行車種は完全にオペルのバッジ・エンジニアリング・モデルとなっている。なお、現在ヴォクスホールのブランドで自動車が販売されているのは、イギリスとイギリス連邦傘下の一部の国のみである。

社名・ブランド名のVauxhallは、創業地であるランベスの工場近くの地名に由来する。ここには13世紀・ジョン王時代の軍人貴族であるファーク・レ・ブレアント(Fulk le Breant)の館跡があり、元々「ファークス・ホール(Fulk's Hall)」と呼ばれていたのが徐々に訛って「Vauxhall」となった。

Vauxhallは日本では「ボグゾール」、または「ボックスホール」とも読まれ、呼ばれ方はまちまちであるが、発音をそのまま表記すれば「ヴァークスホール」に近く、敷衍された表記法の中では「ヴォクスホール」が適切な表記に近いと考えられる。

エンブレムは旗を手にしたグリフィン像である。

現在GM社がアメリカ国外で100％資本出資する自動車メーカー（ブランド）は、このヴォクスホールのほか、ドイツのアダム・オペル、スウェーデンのサーブ、そしてオーストラリアのホールデンのみである。

[編集] 歴史

[編集] 創業期

1857年に実業家で技術者のアレクサンダー・ウィルソンがロンドン近郊のランベスに設立した機械メーカー『ヴォクスホール・アイアン・カンパニー』（Vauxhall Iron Company）が前身。その初期には船舶用の蒸気機関やポンプなどを多く手がけていた。1892年に経営危機に陥ったのち、経営再建の過程で1897年には『ヴォクスホール・アイアンワークス』（Vauxhall Ironworks）と改称した。

1900年頃からガソリン自動車製造を目論み、社内の主任技術者F.W.ホッジスの設計で1903年に単気筒1,000ccの小型車「5h.p.」を発表して自動車業界に参入した。その初期には堅実で丈夫な小型～中型車のメーカーとして発展する。1905年発表の「18h.p.」では、ボンネットの両肩部分に凹んだライン（フルート）を入れるデザインを取り入れ、以後1959年までのヴォクスホール車に共通するデザインモチーフとなった。

1905年には、当時工場誘致活動があったロンドン北方ベドフォードシャーの農村ルートンに新工場を建設して自動車生産を移転した。ルートンは偶然にもヴォクスホールの語源であるファーク・レ・ブレアントの出た所領地であった。翌1906年、隣接する工場のあったウェスト・ハイドロリック・エンジニアリング社と合併して、『ヴォクスホール&ウェスト・ハイドロリック・エンジニアリング・カンパニー』となったが、更に1907年には自動車生産部門を他部門から切り離す形で独立させ、『ヴォクスホール・モーターズ・リミテッド』となった。

[編集] ローレンス・ポメロイとヴォクスホールの最盛期

1907年、弱冠24歳の技術者ローレンス・ポメロイ(Laurence Henry Pomeroy 1883-1941) が、製図工補という低い職階でヴォクスホールに入社した。

その年、ヴォクスホール社では翌年にイギリス王立自動車クラブ(RAC)が開催する競技会「2000マイル・スコティッシュ・トライアル」への参加を計画し、新型車の開発を目論んだ。ところが主任技術者ホッジスは休暇でエジプトへの長期旅行中であり、急遽代わりの開発者が必要になった。エンジン技術について独学を重ねていたポメロイは、「自分に開発を任せてもらえれば、従来型エンジンの倍のパワーを出してみせる」と会社の重役陣に申し出、運良く新車設計を委ねられることになった。

ポメロイの開発した高圧縮・高回転型のサイドバルブ3リッター4気筒エンジンは、完成後のベンチテストで、実際に同排気量の従来型に比して倍近い38hpの出力を発生した。これを搭載した新型車A09タイプ「20h.p.」（車名は当時の課税基準20hp級に属することによる）は、1908年の「スコティッシュ・トライアル」においてトラブル皆無で総合優勝を獲得したほか、1910年には60hpまで強化されて流線型ボディを載せたレコードブレーカー仕様が100マイル/h（約160km/h）を突破するなど、ヴォクスホールの名を上げる非常な成功を収めた。ポメロイはこの実績によって大抜擢され、1912年から1919年の退社までヴォクスホールのチーフエンジニアを務めることになる。

30/98

以後ポメロイが手がけたヴォクスホール車の多くは20h.p.の改良発展型で、1910年のCタイプ「プリンス・ヘンリー」（3～4リッター）、1912年のDタイプ25h.p.（4リッター）、1913年のEタイプ「30/98」（4.5リッター、のち4.2リッター）などが該当する。これらは何れも20h.p.の4気筒エンジンを強化・拡大して搭載していた。

「プリンス・ヘンリー」と「30/98」はレース出場を念頭に設計されたスポーティモデルで、強力なエンジン（例えば30/98は初期形でも90hpを発生し、この時代では異例のハイパワーであった）と、当時としては優れたコーナリング性能によって、1910年代～1920年代のレースやヒルクライムで膨大な回数の勝利を収め、ヴォクスホールの名声を高めた。特に「30/98」は、改良を受けながら1927年までの長期に渡って生産され（しかしその総生産台数は586台に過ぎない）、エドワーディアン期（1910年前後）からヴィンテージ期（1920年代）における屈指の傑作スポーツカーとして、後世に至るまで高く評価されている。その最終形は最高出力120hpを発生し、最高速度はノーマルで85マイル/h以上、レーシング仕様では100マイル/hに達したと言われる。

また大型のツーリング車であるDタイプのうち、第一次世界大戦中に生産された1,998台は、イギリス陸軍省に納入され、軍用のスタッフカーとして活躍した（第一次大戦で軍用に用いられた乗用車では名車ロールス・ロイス・シルヴァーゴーストが著名であるが、イギリスの軍用乗用車としてはヴォクスホールの方が主力だった）。西部戦線をはじめ、バルカン半島や中近東に至る各地の戦場で指揮官車・連絡業務等に用いられ、その信頼性を実証することになった。1916年8月、イギリス国王ジョージ5世がソンムの激戦の最中に戦場を巡察した際には、臨時の御料車としてフランダースの泥濘地を踏み越え、1917年12月には、オスマン・トルコ軍を破ったイギリス陸軍のアレンビー将軍を乗せてエルサレム市街に入城し、1918年の第一次大戦終戦直後には、ライン川を渡ってドイツ領内に踏み入った最初の戦勝国側車両となったのである。

[編集] GMによる買収

しかし、比較的高価なモデルを少量生産するヴォクスホールの経営は元々不安定なもので、第一次世界大戦後には外国企業の参入などによる競争激化の影響を受けて経営不振に陥った。1922年からは量産型の中型車を生産するなど、マス・プロダクションへの志向を見せるようになるが、経営状況の困難さは変わらず、ついに1925年には、257万5,000ドルでアメリカの大手自動車メーカーであるジェネラルモーターズ（GM）に買収された。

GMは第一次世界大戦後、ヨーロッパへの大規模な進出を進めていた。しかし当時のイギリスでは輸入自動車に対する30%超の高額課税政策「マッケンナ・デューティ」が行われており、同時に高速向けなショートストローク・エンジンを搭載した大排気量車への自動車税も高かった（イギリス車が後年まで低速型のロングストローク・エンジンを主流としたのも、この税制が理由である）。これでは大排気量ショートストロークエンジンが主流のアメリカ車を単純に輸入するのは得策といえず、GMはイギリスメーカーの買収を図って現地生産を行おうとしたのである（GMは当初オースチンを550万ドルで買収しようとしたが失敗していた）。実際にはGMの影響を受けながらも、イギリスの国情に合致した独自車種の開発・生産が続けられた。

1930年には、GMのイギリスにおける販売部門のトップであったイギリス人チャールズ・ジョン・バートレットがヴォクスホールの社長に就任した。バートレットは1953年まで長きにわたって社長職を務め、穏健な労使協調路線のもと業績を拡大、ヴォクスホールをマス・プロダクションメーカーへと脱皮させる功績を果たした。

1930年代のヴォクスホールは、1.2リッターから3.2リッターまでのワイドレンジに生産モデルを広げた。また1931年からはシボレー・トラックを国産化した2トン積トラック「ベドフォード」を生産開始して商用車部門に進出、以後「ベドフォード」ブランドの商用車は、ヴォクスホールの経営を下支えする重要部門となった。戦前最盛期の1938年には年産6万台に達し、イギリスにおける量産自動車メーカーの一つになっていた。

チャーチル戦車

この間には、アメリカのGM本社で開発された新技術が続々と移入された。シンクロメッシュ・ギアボックス（1931年）、ノー・ドラフト・ベンチレーション（いわゆる「三角窓」を用いて隙間風を防いだ換気システム　1933年）、前輪独立懸架（トーションバー・デュボネ式　1935年）、モノコック構造（1937年）、油圧ブレーキ（1937年）などは、該して技術面で保守的なイギリス車の中では極めて早い採用例であった。

第二次世界大戦中は軍需向けに25,000台のベドフォード・トラック、2,500台の軍用乗用車を生産したほか、自社で設計・開発した38t重戦車の「チャーチル戦車」5,600両以上を生産した。このためヴォクスホール工場は、ドイツ軍による爆撃の被害を受けてもいる。

[編集] 戦後のオペル化

1949年型ワイヴァーン（4気筒1443cc33HP）

ヴィーヴァ

第二次世界大戦後のヴォクスホールは、終戦翌年の1946年から乗用車生産を再開したが、以後1960年代初頭までのモデルは、1.5リッター級4気筒と2.3～2.6リッター級6気筒の2系統に絞られた。何れもアメリカ車の影響著しい若干派手目のデザインと、保守堅実なメカニズムとを兼ね備えた、当時のイギリスにおける典型的な実用車であった。しかし、ブリティッシュ・フォードやBMCなど上位メーカーの台頭に押され、メーカーとしての存在感の薄さは否めない傾向にあった。

イギリス国内の大衆車市場において、Miniやフォード・アングリアに対抗しうる最量販モデルとなる1リッタークラスの小型車が、ヴォクスホールには長年にわたって欠落していた。これを補うため、1963年からは1056ccの小型車「ヴィーヴァ」を生産開始したが、これは同じGM傘下のドイツのオペルが前年から生産していた小型車「カデット」に若干改変を加えただけのモデルであった。これをきっかけに、GMは国際的な生産モデル共通化の傾向を強め、ヨーロッパ市場では生産台数が一番大きく開発能力が高かったオペルを開発拠点とするようになる。

1970年以降はオペル追随の動きが顕著になり、ヴォクスホールによる完全な自社開発モデルは全てのカテゴリーにおいて消滅した。オペル車との共通化はボディシェルの共用化から始まって、徐々に内外の全体的な共通化が進められ、現在のヴォクスホール車は実質的にオペルのイギリス向けバッジ・エンジニアリングの状態となっている。

やはりGM傘下にある日本のいすゞ自動車の4輪駆動車であるいすゞ・ビッグホーンを、バッジエンジニアリングで、ヴォクスホールブランドで販売していたことがある。

[編集] 主な車種

現行の車種名の多くはオペルと共通である。

コルサ

アジラ (Agila)
コルサ（Corsa）
メリーバ（Meriva）
ティグラ（Tigra）
アストラ（Astra）
ザフィーラ（Zafira）
ベクトラ（Vectra）
シグナム（Signum）
スピードスター（VX220）

[編集] モータースポーツ

BTCCに参戦するアストラ

英国ツーリングカー選手権（BTCC）には1993年から継続参戦。2007年現在もアストラで参戦している。このほか、最近までフォーミュラ・ヴォクスホールというジュニア・フォーミュラを行っていた。他にも、ジム・ラッセル・レーシングスクールに長年協賛するなど、若手レーシングドライバーの育成に力を入れていた。