交直流電車
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交直流電車(こうちょくりゅうでんしゃ)とは、電車のうち、直流電化区間と交流電化区間の双方を直通できる構造を持つものを指す用語である。「交直両用電車」とも称する。なお、電気機関車にも同じように「交直流電気機関車」が存在する。電気機関車を参照。
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[編集] 概要
2006年現在の日本では、東日本旅客鉄道(JR東日本)・西日本旅客鉄道(JR西日本)・九州旅客鉄道(JR九州)・北越急行・首都圏新都市鉄道の各社が保有している。
交直流電車は後述の通り構造が複雑となるため、直流型電車と比べてのみならず交流専用の電車と比べても、車両の製造コストが高額となる。
日本国有鉄道(国鉄)時代は、交流区間でのみの運用であっても交直流両用の車両を製造することが多かった。当初は交流専用電車のメリットが少なかったこと、製造されるようになった後も技術的な理由で一時製造が見合わせられたこと、全国的な車両の配置転換があったこと等が大きいが、結果的に機器コストのかかる車両を大量に造らざるを得なくなり、交流電化のメリットも生かしにくかった。
国鉄分割民営化後は、JRグループ各社で運用が局地化し、全国的な配置転換もなくなったため、交流電化されている東北地方や九州地方、北海道では交流電車を導入し、交直流電車は常磐線や北陸地方など、交流と直流区間をまたがって運用される区間で導入するのが一般的になった。なお、コスト面などから羽越本線のように交流区間と直流区間をまたがる列車には、気動車を使用する例も存在する。また、運行区間が直流区間のみとなったために交流対応の機器を撤去して直流専用に改造されたものもあり、交直流電車は減少しつつある。
[編集] 交直流電車の構造
回路の設計は直流型電車に準じているが、他に変圧器・整流器を搭載している。交流電化区間直通時には交流電源を変圧器により降圧し、整流器により直流電源に変換して使用するものである。直流電化区間では変圧器・整流器を通さず電源をそのまま用いる。
交流専用車両に見られるタップ制御方式やサイリスタ位相制御方式は通常用いられない。それらは制御の過程が整流装置と不可分で、交流電化区間でしか使用できないからである。従って制御方式は直流専用車両と同様な方式となる。ほとんどは直並列抵抗制御、界磁添加励磁制御、VVVFインバータ制御のいずれかである。
直流型電車を基本にしているため、前述の通り交直流電車の変圧器・整流器を撤去して直流型電車に改造した例もあれば、直流専用電車に変圧器・整流器を付加して交直流電車に改造した例もある。
走行中に交直流の切り替えが正常にできるよう遮断器(真空遮断器・空気遮断器など)を取り付けている。また誤操作により冒進した場合に機器を焼損しないようヒューズを取り付けている。その他機器も多数設置されている関係で、パンタグラフ周りはものものしくなっている。 また実際のダイヤで交直流転換が予定されている場合、始発駅停車中に運転士が遮断機が正常に作動するか確認することがある。その際、遮断器から音がしたり、車内の照明が消え、空調設備などが一時的に止まることがある。
日本の交直両用車両はこのパンタグラフを、極端に異なる電源で共用していることが特筆される。異なる電源ではそれぞれに設計された集電装置を搭載した方が設計上は簡単だが、整備、重量の点で難が残る。また日本の交直両用車両が標準的に行う車上切替にも対応しにくい。しかし、海外には後者の例も多く見られる。
[編集] 交直流電車の形式
国鉄・JRの交直流電車は、形式番号(3ケタの場合)の百位が4,5,6のいずれかで表される。規定上は4~8のいずれかだが、慣例的に7,8は交流専用電車用とされている。
括弧内は対応している交流電源周波数を示す。
[編集] 特急形電車
- 国鉄581系電車(60Hz)
- 国鉄583系電車(50/60Hz)
- 国鉄481系電車(60Hz)
- 国鉄483系電車(50Hz)
- 国鉄485系電車(50/60Hz)
- 国鉄489系電車(50/60Hz)
- JR東日本651系電車(50Hz)
- JR東日本E653系電車(50/60Hz)
- JR西日本・北越急行681系電車(60Hz)
- JR西日本・北越急行683系電車(60Hz)
[編集] 急行形電車
- 国鉄451系電車(50Hz)
- 国鉄471系電車(60Hz)
- 国鉄453系電車(50Hz)
- 国鉄473系電車(60Hz)
- 国鉄455系電車(50Hz)
- 国鉄475系電車(60Hz)
- 国鉄457系電車(50/60Hz)
[編集] 近郊形電車
- 新規設計製造
- 国鉄401・403系電車(50Hz)
- 国鉄421・423系電車(60Hz)
- 国鉄415系電車(50/60Hz)
- 国鉄417系電車(50/60Hz)
- JR西日本521系電車(60Hz)
- 改造車
[編集] 一般形電車
- JR東日本E531系電車(50Hz)
[編集] 通勤形電車
- JR東日本E501系電車(50Hz)
- 首都圏新都市鉄道TX-2000系電車(50Hz)
[編集] 事業用電車
- 国鉄443系電車(50/60Hz)
- JR東日本E491系電車(50/60Hz)
[編集] 試作電車
- 国鉄591系電車(50/60Hz)
[編集] 他の電源方式から、もしくは他の電源方式への改造例
[編集] 直流電車を交直流電車ヘ改造した例
- JR西日本所属分415系電車(50/60Hz)
- 113系電車からの改造。七尾線直流電化の際必要となる交直流電車調達のため後述する直流区間のみで使用されていた485系から取り外して捻出した交流用機器を113系に取り付けたもの。
[編集] 交直流電車を直流電車へ改造した例
- JR西日本所属分183系電車
- 485系電車を改造。取り外した交流機器は上記の415系(800番台)に転用。このために485系とは併結運転が可能であるが、JR東日本所属の183系電車とは併結不可能。
[編集] 交直流電車を交流電車へ改造した例
- 国鉄715系電車
- 419系電車と同じ手法で581系電車を近郊形に改造したものが0番代(60Hz)、583系を改造したものが1000番台(50/60Hz)。運転区間が交流区間に限られるため、交直切り替えをなくしたもので、機構的には交直両用車のままである。
この他、改造により交直切替回路を使用不能にし、事実上交流専用となった車両もある。
[編集] 関連項目
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