整体
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整体(せいたい)とは、脊椎・骨盤・肩甲骨・四肢等の体全体の骨格の関節の歪み・ズレ(亜脱臼)の矯正と、骨格筋の調整などを、(手足を使った)手技にて行うことで、症状の改善や治療をおこなう民間療法の一種である。「整体術」「整体法」「整体療法」と呼ばれることもある。
現在の整体の起源は、日本武術に伝わる手技療法に、伝統中国医学の手技療法や、大正時代に日本に伝わったオステオパシーやカイロプラクティックなどの欧米伝来の手技療法と、当時の治療家たちの独自の工夫などを加えたものを集大成したものである。
なお、柔道整復業(接骨,整骨)他とは、治療に対する思想、施術内容が全く異なる。
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[編集] 「整体」という名称
「整体」という言葉には、体を整える、あるいは、体のバランスを整える、という意味合いがある。「整体」という名称は、元来は野口晴哉(1911年 - 1976年)が古今東西の療術を統合し、その身体の操法を体系化して創始した治療法の名称である。昭和18年から19年にかけて、野口が中心的役割を果たした整体操法制定委員会において「整体操法」が制定されたのが始まりとされる。
それ以前は柔術などの一部流派で「正體」・「正体」・「正胎」という名で呼ばれていたが、野口により「整体」と命名された。しかし整体という用語が他の治療法でも称されるようになったため、野口の整体は現在は特に「野口整体」といって区別されている。
野口整体では「人間にあるという体癖(体の歪み)を愉気法や活元という独自の方法で自己治療し、修正現象がおきることで自然体になる」とする。基本的には他人を治療するのではなく自分で自分を治療できるよう指導するのが野口整体の整体道場である。
[編集] 治療者の名義
整体の民間治療法を用いる者は整体師・整体士・整体療法士などの名称で呼ばれる。整体師の一部からは、法制化による国家資格化を期待する意見もある。あん摩マッサージ指圧師には3年間の専門教育と国家試験による免許取得が義務づけられている。はり師・きゅう師などからは、無資格での治療行為の禁止を求める運動も起きている。
ただし、各流派の間で、組織的な統合の合意がされていない事、国家資格化に伴う健康保険の適用による厚生労働省の医療費の更なる支出の増加、あん摩マッサージ指圧師と業務が重複する可能性があることなどの理由から、実現性は疑問視されている。
無資格者である整体師が、医業類似行為を業として行っても、1960年最高裁判所昭和35年1月27日大法廷判決が「憲法22条は何人も公共の福祉に反しない限り職業選択の自由を有することを保障している」と判示したことを根拠に、合法であるとする主張がある。ただし、この判決は、いわゆる民間療法を行った被告人が、無資格診療を行ったとして刑事訴追された刑事事件に関する判決であるが、同時に、「人の健康に害を及ぼすおそれのある業務行為に限れば、法律でこれを禁止することは合憲である」とも判示して、仙台高等裁判所に事件を差戻している。そして、仙台高等裁判所は、当該事件の民間療法が「人の健康に害を及ぼすおそれのある業務行為」であることを認定して有罪判決を維持し、再度上告された最高裁判所で有罪判決が確定している(それぞれ、仙台高裁判決昭和38年7月22日、最高裁判所決定昭和39年5月7日)。
そこで、主に整体師の側からは、「整体はそもそも医業類似行為にはあたらない。仮にあたるとしても、人の健康に害を及ぼすおそれがない。したがって、整体は法律に違反しない。」と主張されている。これに対して、主に 有資格者であるマッサージ師や医療従事者からは、「骨折や脱臼、神経麻痺などを起こすおそれがある。また、悪性腫瘍などの重大疾患が隠れているような場合に、医療機関への受診遅れにもつながりかねない。したがって、整体は『人の健康に害を及ぼすおそれがある医業類似行為』であり、無資格でこれを行うことは違法で、国民の利益に反する」と懸念されている(後述)。
[編集] 医療・医業等との関連、法規上の解釈、制限
- 整体師(整体士)は、医師法に定める医師ではないので診察を行うことはできない。つまり具体的には医学で使用されている病名を判断してはならない、とされる。(「胃潰瘍である」とか「腱鞘炎である」等)。また外科的手術、注射、はり、灸、麻酔、レントゲン撮影、さらには血圧を測ることも医師法により禁止されている。
- 整体師は、薬剤師ではないので、薬を調合したり投与することは禁止されている。
- 整体師は、あん摩、マッサージ、ハリ、灸という用語を使用することは「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」により禁止されている。
- 資格がある場合でも、整体師は国家資格ではなく、法的根拠のない民間の資格にすぎない。人の体に触って行う治療類似行為(体重をかけて痛みを伴う場合)を行い、それが著しく好ましくない結果をもたらした場合は、刑法の定める業務上過失傷害罪等に問われる場合がある。また、医療機関への受診が必要であるにもかかわらず、これを妨げて相手が死傷した場合に、保護責任者遺棄致死傷罪や、不作為による殺人罪にも問われる可能性もある(ライフスペース主宰者によるシャクティパット事件参照)。
- 整体師は、「接骨」「整骨」「○○療院」「□□治療院」という用語は、医師法で認められた病院と紛らわしいため、使用が禁止されている。
- 治療実績などの広告を出すこと、効果のある病名を掲示すること、「○○流□□派」などの流派の誇示は、「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」の第七条によって禁止されている。〔最高裁判例(S36.02.15 大法廷・判決 昭和29(あ)2861)〕
[編集] 患者・施術者が憶えておくべき 整体の禁忌対象疾患
整体術(カイロプラクティックなど)の対象とすることが適当でない疾患として、厚生労働省通達(平成03年06月28日 医事第58号)において、腫瘍性、出血性、感染性疾患、リュウマチ、筋萎縮性疾患、心疾患等とされている。さらに、椎間板ヘルニア、後縦靭帯骨化症、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症、骨粗しょう症、環軸椎亜脱臼、不安定脊椎、側彎症、二分脊椎症、脊椎すべり症などと明確な診断がなされているものについては、整体などの徒手調整の手技では悪化させる恐れがあるため注意が必要である。たとえば、寝違えて首が痛い場合は、首筋を揉んだり叩いたりしてはいけない。整体師は、正式な医学知識がないため「寝違えた」と訴えてきた患者にたいして、安易に揉んだり叩いたりする人がいるが、寝違えた場合は首筋の筋が炎症を起こしている可能性が高く、揉んだり叩いたりすると症状を悪化させるだけであるため注意が必要である。さらに血圧が高いときは要注意である。通常、血管に障害があるときは血圧が高くなるため、整体術により脳梗塞、脳血栓などの致命的な障害を誘発しかねない。整体師は血圧を測ることも禁止事項であり、患者が自分の血圧を認識しておくことが重要である。
この項は、カイロプラクティック#医療・医業等との関連も参照のこと。
[編集] 参考文献
『整体入門』野口晴哉 著、1968年 東都書房、1976年 講談社、2002年 ちくま文庫
[編集] 関連項目
- 手技療法
- カイロプラクティック(脊椎矯正療法)
- リフレクソロジー
- クオリティ・オブ・ライフ(QOL)
- 健康法
- 医業
- 医業類似行為
- 代替医療
- 永井秋夫
[編集] 整体団体
*日本武道医学会
- 骨法整体師会
- 村上整体医学院
- 一心堂整体院(賢命整体学院)
その他