特殊部隊
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特殊部隊(とくしゅぶたい)または特殊作戦部隊(とくしゅさくせんぶたい Special Operations Forces)とは、武装組織において、特別に編制、訓練された部隊、部署をいう。英語ではSOF、SFとしばしば略称される。
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[編集] 概要
特殊部隊は通常戦力とは別個に編成され、特殊な訓練を受け、特別な装備を持つ部隊である。既存の陸海空軍・警察部隊では対処できない特殊作戦に投入され、一般に比較的小人数による部隊行動で、後方攪乱、戦略的攻撃、対テロ、情報収集、心理戦、人質救出などの特別な任務を遂行する。また、警察や税関などの機関に特殊活動(非軍事部門の主要任務外の活動)を行う部隊を置き、これを特殊部隊に含める場合もある。その性格上、個々の能力を重視し、防諜のために高い秘匿性を維持している。ただハイジャック・人質救出などの任務については公にしている場合もある。近年特殊部隊を編成する組織が増え、その能力や任務も多様化しているため、特殊部隊の定義には論争的な要素もあるが、「特殊部隊の一覧」に示されている部隊は特殊部隊として一般的である。
[編集] 分類
軍隊、特に陸軍において特殊部隊は機能によって大きく5つに分類できる。
- 特殊部隊:特殊作戦全般に対応できる能力を持つ。
- レンジャー部隊 空挺が可能であるため高度な機動展開能力を持つ。
- 陸軍特殊航空部隊:航空機を用いて部隊を空輸し、また限定された航空作戦を行う能力を持つ。
- 心理戦部隊:広告、テレビ、ラジオを用いて友軍を支援し、心理戦を遂行する能力を持つ。(心理戦を参照)
- 民事部隊:軍隊と民間人の組織の関係を調整するなどの民事作戦を遂行する能力を持つ。(民事作戦を参照)
また海軍においては水陸両用作戦部隊、空軍においては陸海の特殊部隊に航空戦力を提供する特殊部隊がある場合もある。警察においては人質救出部隊、対テロ作戦部隊、対反乱作戦部隊などを有する場合がある。
[編集] 編制
特殊部隊は規模が小さいことが多いため、独立の軍種・兵科として編成されることは殆どなく、その武装組織において一個の部隊として編成される場合が殆どである。特殊部隊の編制は、国やその任務によって様々だが、原則的には少数精鋭で、優れた人材を選抜したものが多い。
日本の自衛隊のように独立の軍種又は兵科等としていない場合は、その範囲が必ずしも明確ではない。他の大多数の標準的な部隊とは異なる任務を与えられることを想定し、特殊な装備や編制を持ち、特に高い能力を持つ隊員(レンジャー資格を有する隊員など)を集めた部隊を一般に特殊部隊とする。
米国の統合軍の一つとして編成されている『SOCOM(United States Special Operations COMmand/アメリカ特殊作戦軍)』は総数は45000名前後と見られており、全軍の兵力のごく一部に過ぎない(参照として、米軍の規模は、約141万名である。)。
旧ソ連のスペツナズや旧東側国家の特殊部隊の場合はパルチザン部隊が起源であるので、旧西側に比して隊員の数が多く、選抜の基準が異なっていると考えられ、特に北朝鮮軍は10万名を超える規模の特殊部隊を保有していると推定されている。
[編集] 通常部隊との差異
一般的に陸軍では歩兵連隊、砲兵連隊など、兵科ごとに部隊が編成されており、作戦において敵味方が前線において戦闘するのが陸上戦力運用の基本であり、後方における通信・補給・医療などの支援部隊と一体として運用するのが通常である。また海軍では艦艇が、空軍では航空機が戦闘単位であって、これらを効率的に運用することに終始する。ここに後方攪乱や対テロ作戦、心理戦などの作戦に従事するために既存の戦力運用の形態に囚われない特殊部隊と通常部隊との差異がある。
[編集] 軍隊系と警察系の違い
特殊部隊は、その部隊がどの組織(治安組織又は軍隊)の下部組織かによって、その性質が大きく異なり、人質や犯人・敵の扱い方にも大きく影響する。治安組織(警察)の特殊部隊の場合、人質は無事救出、犯人は逮捕するのが原則である。射殺は最後の手段として存在し、発砲による抵抗抑止はその正当性・適法性が問われる事もある(査問の様子はドラマ「NY市警緊急出動部隊 トゥルー・ブルー」第5話「憂うつな警察官」の描写に詳しい)。これに対し軍の特殊部隊は任務の遂行がまず最重要事項であり、人質のある程度の損害、敵の無力化(殺害とほぼ同義)は止むを得ないとしている。
[編集] 日本における特殊部隊
日本には警察の特殊急襲部隊 (SAT) 、特殊捜査班、機動隊銃器対策部隊、海上保安庁の特殊警備隊 (SST) があったのに対し、自衛隊には陸上自衛隊の第1空挺団、冬季戦技教育隊、対馬警備隊があったものの、本来の意味での特殊部隊はなかった。
自衛隊ではまず能登半島沖不審船事件を受けて海上自衛隊に特別警備隊 (SBU) が創設された。ついで近年の特殊部隊への需要の増大を受けて、2002年に、陸上自衛隊に島嶼防衛を目的とする西部方面普通科連隊 (WAiR) が結成され、2004年に対テロ・対ゲリラ作戦を目的とする、特殊作戦群 (SOG) と呼ばれる本格的な特殊部隊が創設された。2007年3月には防衛大臣直轄の機動運用部隊として中央即応集団が創設予定で、第1空挺団及び特殊作戦群は同集団内で一元運用されることとなる。また航空自衛隊にも、テロやゲリラから基地を守るための特殊部隊として2008年度に基地防衛教導隊(仮称)が創設される予定である。
警察においても2002年の日韓W杯を受けて機動隊銃器対策部隊による原子力関連施設警戒隊が常設編成された。また、総理大臣官邸に対するテロ攻撃に備え総理大臣官邸警備隊が警視庁に、NBCテロを警戒してNBCテロ対応専門部隊が各都道府県警察の公安担当部署に設置されている。
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陸上自衛隊 (☆…中央即応集団所属) |
☆特殊作戦群 (SOG) | ☆第1空挺団 西部方面普通科連隊 (WAiR) | 冬季戦技教育隊 | 対馬警備隊 参考項目…レンジャー |
海上自衛隊 | 特別警備隊 (SBU) |
航空自衛隊 | 基地防衛教導隊 |
海上保安庁 | 特殊警備隊 (SST) |
警察庁 | 特殊急襲部隊 (SAT) | 特殊捜査班 (SIT) | 銃器対策部隊 原子力関連施設警戒隊 | 総理大臣官邸警備隊 NBCテロ対応専門部隊 |
皇宮警察 | 皇宮警察特別警備隊 |