罪と罰
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罪と罰(つみ と ばつ、Преступление и наказание)は、ロシアの文豪フョードル・ドストエフスキーによって書かれた長編小説である。「現代の預言書」とも呼ばれ、ドストエフスキーの実存主義的な考え方を垣間見る事が出来る。
目次 |
[編集] 概要
頭脳明晰ではあるが貧しい元大学生ラスコーリニコフが、「一つの微細な罪悪は百の善行に償われる」「選ばれた非凡人は、新たな世の中の成長のためなら、社会道徳を踏み外す権利を持つ」という独自の犯罪理論をもとに、金貸しの強欲狡猾な老婆を殺害し、奪った金で世の中のために善行をしようと企てるも、殺害の現場に偶然居合わせたその妹まで殺害してしまう。この思いがけぬ殺人に、ラスコーリニコフの罪の意識が増長し、発狂していく。
しかし、ラスコーリニコフよりも惨憺たる生活を送る娼婦ソーニャが、家族のためにつくす徹底された自己犠牲の生き方に心をうたれ、最後に自首をするまで様々な葛藤をして、人間回復への強烈な願望を訴えたヒューマニズムが描かれた小説。
殺人犯としてのラスコーリニコフが、予審判事ポルフィーリィに追い詰められ、又それに立ち向かう鬼気迫るやりとりの、推理小説さながらな場面も見ものである。
日本国内では、学生の夏休みの読書感想文を書くための推薦図書として毎年あげられたり、手塚治虫などによってコミックス化されるなど、日本人にもよく親しまれている作品である。
一方、本編に登場する『選ばれし人間は、人類のため社会道徳を踏み外し、悪さをする権利がある』という一節は、しばしば犯罪人の自己弁護、正当化に用いられる。
[編集] 苦境に書かれた作品
ドストエフスキーは、ペテルブルグで兄の遺族の扶養や莫大な借金の返済など様々に悩んでいた。その苦境から脱するために、ある出版社に無謀な契約をして3000ルーブルを前借し借金を返済する。そして、恋人とヴィズバーデンに会いに行くも、そこで残った金を全て賭博で失ってしまう。泊まっていた宿では食事が止められるなど、尋常ではない苦しい状態に立たされた中、1866年1月、雑誌『ロシア報知』で連載が開始された(同時期に連載が開始された小説に同じロシアの文豪レフ・トルストイの『戦争と平和』がある)。
又、ドストエフスキーは出版社と無謀な契約を交わしていたため、この『罪と罰』を執筆途中に『賭博者』も手がけている。二度目の妻となる速記者のアンナ・スニートキナの協力も手伝い、わずか26日間で書かれた事は有名である。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] あらすじ
物語は六部とエピローグからなり、舞台はサンクトペテルブルクで構成されている。
独自の”選ばれた非凡人は現行の秩序を超越できる”という犯罪理論をもつ元大学生ラスコーリニコフが、ふとしたきっかけで強欲な金貸しの老婆アリョーナ・イワノーブナの話を耳にし、金銭を奪い、それを社会のために使おうと殺害を企てようとする。しかし、1ヶ月以上も自分の部屋にこもりきり、外界との接触も絶ち、考え続け悩み続ける。
そして、ある日殺害を実行を決意し、老婆の所へ行くも、常に罪悪感と恐怖にさいなまれる。しかし、実妹のドゥーニャが兄を金銭的に助けるために実業家ピョートル・ペトローヴィチと犠牲的な結婚をしようとしているという母親の手紙、偶然知りえた老婆の妹リザヴェータ・イワノーヴナの不在が殺害の決定的な後押しになり、実行に及ぶ。
しかし、殺害直後に部屋に入ってきた老婆の妹、リザヴェータも殺害してしまう。この咄嗟の殺人は始終彼を苦しめる。その後、ラスコーリニコフは偶然入った酒場でマルメラードフと知り合い、それがきっかけでマルメラードフの娘であるソーニャと会う。ソーニャは一家を支えるために売春婦の仕事をしていた。(※酒場でマルメラードフと知り合ったのは物語冒頭。)
[編集] 登場人物
- ロジオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフ (ロージャ)
- 主人公。美しいが傲慢な若者。貧困故にヒポコンデリーの症状が強まっている。
- イニシャル(Р・Р・Р)を上下反転させると666となる、とされる。
- ソーフィヤ・セミョーノヴナ・マルメラードワ (ソーネチカ、ソーニャ)
- マルメラードフの娘。家族を飢餓から救うため、売春婦となった。信心深い高潔な少女。
- ポルフィーリ・ペトローヴィチ
- 予審判事。ラスコーリニコフを心理的証拠だけで追い詰め、鬼気迫る論戦を展開する。
- アヴドーチャ・ロマーノヴナ・ラスコーリニコワ (ドゥーネチカ、ドゥーニャ)
- ラスコーリニコフの妹。気高く美しい娘。
- アルカージイ・イワーノヴィチ・スヴィドリガイロフ
- ドゥーニャがもと家庭教師をしていた家の主人。不誠実な男。ドゥーニャを愛する。
- ドミートリィ・プロコーフィチ・ラズミーヒン
- ラスコーリニコフの唯一の友達。誠実な青年。頑健。ドゥーニャに好意を抱く。
- セミョーン・ザハールイチ・マルメラードフ
- 貧乏な役人。ソーニャの父。酒におぼれた生活を送る。
- カテリーナ・イワーノヴナ・マルメラードワ
- マルメラードフの 2人目の妻。それなりに裕福な家の出。貧困に打ちひしがれ、精神を害している。
- ポーリナ・ミハイローヴナ・マルメラードワ (ポーレンカ、ポーリャ) - マルメラードフの娘。ソーニャの妹。
- プリーヘヤ・アレクサンドロブナ・ラスコーリニコワ - ラスコーリニコフとドゥーニャの母。
- ピョートル・ペトローヴィチ・ルージン
- ドゥーニャと婚約する弁護士。ラスコーリニコフとは折り合いが悪い。
- アンドレイ・セミョーノヴィチ・レベジャートニコフ - ルージンの同居人。
- アリョーナ・イワーノヴナ
- 質屋の強欲な老婆。ラスコーリニコフに殺害され金品を奪われる。
- リザヴェータ・イワーノヴナ
- アリョーナ・イワーノヴナの妹でソーニャの友人。ラスコーリニコフに殺害される。
- ゾシーモフ - ラズミーヒンの友人で医者。
- ナスターシャ・ペトローヴナ (ナスチェンカ) - ラスコーリニコフの長屋の召使い。
- イリヤ・ペトローヴィチ - 癇癪持ちの警察官。
- アレクサンドル・グリゴリーウィチ・ザミョートフ - 警察署の事務官。ラズミーヒンの友人。
- ニコライ - 殺害の嫌疑をかけられたペンキ職人。
[編集] 映画
小説「罪と罰」は幾度となく映画化されている。以下には有名なものをあげる。
[編集] ロシア本国
- 『罪と罰』レフ・クリジャーノフ監督(1970年)
[編集] 欧米
- 『ラスコーリニコフ』 ロベルト・ウイーネ監督(ドイツ、1923年)
- 『罪と罰』 ピエール・シュナール監督(フランス、1935年)
- 『罪と罰』 ジョルジュ・ランパン監督(フランス、1956年)
- 『罪と罰』 デニス・サンダース監督(アメリカ、1958年)
- 『罪と罰 - 白夜のラスコーリニコフ』 アキ・カウリスマキ監督(フィンランド、1983年)
[編集] 邦訳
新潮文庫版 翻訳:工藤精一郎
- 罪と罰 上 ISBN 4102010211
- 罪と罰 下 ISBN 410201022X
岩波文庫版 原著:Fyodor Mikhailovich Dostoevskii、翻訳:江川卓
- 罪と罰 上 ISBN 4003261356
- 罪と罰 中 ISBN 4003261364
- 罪と罰 下 ISBN 4003261372
旺文社文庫版 翻訳:江川卓
- 罪と罰 上 ISBN 4010620072
- 罪と罰 下 ISBN 4010620080
[編集] 漫画
- 罪と罰(著:手塚治虫)
- ISBN 4061086103(単行本、講談社手塚治虫漫画全集MT10)
- ISBN 4041851254(文庫本、角川書店)
[編集] 関連書籍
- 謎とき『罪と罰』 ISBN 4106003031 著:江川卓