羽田空港発着枠
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羽田空港発着枠は、東京都にある第一種空港である、東京国際空港の出入場許可便枠の俗称のことである。
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[編集] 概要
戦後、日本の航空業界は国の強い規制のもとに置かれ、需給調整の観点から路線ごとに免許を与えたため、航空会社が自由に参入・撤退はできず、1968年までは、
- 日本航空(現在の日本航空インターナショナル)は国際線と国内幹線を担当
- 全日本空輸は国内幹線を担当
- 日本国内航空(後の日本エアシステム、現在の日本航空インターナショナル)は国内ローカル線を担当
などと、参入できる路線まで区別されてきた。これが、いわゆる45/47体制である。しかし、規制緩和の中で2000年に航空法が改正され、新規育成と競争促進を目的に、空港への発着は原則的に安全基準などを満たせばよい事前届出制となった。これにより、各航空会社の参入・撤退の自由が原則的に保障された。だが、東京国際空港(羽田空港)、成田国際空港、大阪国際空港(伊丹空港)、関西国際空港の主要4空港については、これらを「混雑空港」として指定し、混雑空港については発着を許可制とすることで参入・撤退への規制が維持された。しかし、混雑空港と一口に言っても、具体的な規制については様々であり、伊丹空港については騒音問題を理由としてジェット機の総量規制を行っており、他の空港については国内線の発着枠に余裕があるので、空港の発着能力が限界に達しているため発着枠の配分規制を行っているのは羽田空港のみである。羽田空港については、規制を維持する代わりに、競争促進策として、新規参入者への発着枠の優先配分を行いつつ5年に一度発着枠の配分を見直すこととしている。羽田空港は2005年2月がその期限となっていたため、「有識者懇談会」でルールづくりと実際の配分が決められた。
また、羽田空港では日本の空港としては現在唯一小型機の乗り入れが禁止されている。元々限られた発着枠でできるだけ輸送量を大きくするため1969年の運輸省(当時)航空局長通達で始まったものであり、現在は、混雑空港の許可制を利用して許可基準上小型機については一律に発着を許可しないこととされている。これも、発着枠の配分規制同様に発着枠の不足を原因とするものであり、規制方法について混雑空港の許可制を利用していることにおいても同様である。
[編集] 発着枠の現状
羽田空港は、原則、A滑走路を到着専用、C滑走路を出発専用としている。滑走路ごとに離陸もしくは着陸が連続する場合の処理能力の現状は、以下の通りとなっている。
- 6時台 出発 32回/時 到着 26回/時(環境に配慮)
- 7時~21時台 出発 32回/時 到着 29回/時
- 22時台 出発 32回/時 到着 26回/時(環境に配慮)
総便数は、1日あたり387便である。
[編集] 発着枠を取り巻く状況
エア・ドゥとスカイマークエアラインズ(現・スカイマーク)が就航した1998年以降、羽田空港は5回も発着枠の配分が行われ新規会社は増便している。だが、いずれも新滑走路供用や管制運用の変化、そして日本航空と日本エアシステムの経営統合による自主的な枠の返還など、枠自体の増加が要因であった。
5年に一度の発着枠配分見直しの年となっていた2005年、国土交通省航空局は日本航空グループ・全日空グループの双方20往復(40便分)の発着枠を回収し、再検討の結果、半分の20便分の枠を同2グループに返却、残りの20便の発着枠を新規会社に配分した。
一方でローカル線を保護するために、稚内、中標津、紋別などの1日3便以下の16路線は回収対象から外された。このうち10路線を運航する全日空は「路線固定化では自由な経営ができない」と反発、このため、これら16路線をひとつのグループとして、グループ内での便数の増減を認めつつ、完全撤退には歯止めを加えた。
羽田路線は、1便あたり20億円の価値があるといわれているので、大手2グループとしてはかなりの痛手であった。逆に、新規会社にとっては、配分された発着枠の運用が、今後の成功につながるといえる。
なお、2005年12月13日、国土交通省航空局は新たに「羽田空港発着枠の転用に関するルール」を設定した。これは、羽田空港に関係する多様な輸送網の形成を図るため、新規航空会社に配分される羽田空港の発着枠について、新滑走路(D滑走路)の供用開始までの間、新規航空会社に配分された羽田空港の発着枠を使用して運航している路線を減便しようとする場合は、多様な輸送網の形成を目的として羽田空港の着陸料が軽減されている路線(新千歳・伊丹・福岡・那覇以外の地方路線)に転用する場合を除き、減便に関係する発着枠を回収するものである。なお、この新ルールが適用されるのは以下の通りである。
[編集] 新滑走路(D滑走路)と今後の展望
羽田空港の次回発着枠見直しは2009年度を予定している。ただ、国土交通省は、新たな発着枠の捻出に向けて、2007年7月供用開始を目指し、滑走路に付帯する高速脱出誘導路とそれに接続する誘導路の建設を進めている。そのため、一部では2009年度を迎える前に発着枠見直しが行なわれるのではないか、といった見方もある。
また、羽田空港再拡張事業の一環として、現在2009年12月供用開始を目指し新滑走路(D滑走路)の建設が進められている。この新滑走路ができると、「年間発着能力」は現在の29.6万回(2005年10月)から約1.4倍の約40.7万回に増える見込みである。これによって、国内線については発着枠の増加により現在より飛行機の小型化、多路線化や多頻度化が可能となる。また、国土交通省は将来の国内航空需要に対応した発着枠を確保した後の余裕枠を活用すると年間3万回程度の近距離国際定期便の就航が可能となるという見解を示している。就航可能な国際定期便については概ね羽田発着の国内線の距離(現在最も遠い区間は羽田空港−石垣空港間の1,947km)以内の区間を目安とするとされている。
2010年に予定されている東北新幹線の新青森延伸やスピードアップ、2014年の北陸新幹線金沢延伸、同様に2015年の北海道新幹線新函館開業によって羽田と青森空港、富山空港、小松空港、函館空港、新千歳空港などとの間の旅客数が減ることによる減便で、発着枠に余裕が出る可能性もある。