藤原正彦
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藤原 正彦(ふじわら まさひこ、1943年7月9日 - )は、満州国新京生まれの数学者、エッセイスト。専攻は数論、特に不定方程式論。
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[編集] 来歴・人物
作家新田次郎・藤原てい夫妻の次男として、満州に生まれる。ソ連軍の満州侵攻当日、満州国気象台職員だった次郎の特権を生かし、一家はいち早く汽車で新京を脱出したものの、朝鮮北部で汽車が停車し苦難の逃避行となった。母親の機転がなければ死亡、よくて残留孤児になっていたであろう。母ていのベストセラー『流れる星は生きている』の中でも活写されたこの経験は、本人のエッセイの中でも様々な形で繰り返し言及されており、老いた母を伴っての満州再訪記が『祖国とは国語』(2003年)に収録されている。
アメリカ留学記『若き数学者のアメリカ』(1977年)が話題となり、日本エッセイストクラブ賞を受賞。以後エッセイストとして人気を博している。身辺雑記からイギリス滞在記や科学エッセイ、数学者の評伝に至るまで対象は広く、端正な文章とユーモア溢れる筆致にファンが多い。
エッセイではしばしば「武士道」や「祖国愛」、「情緒」の大切さを諧謔を交えて説いてきたが、そのエッセンスを平易な語り口でまとめた『国家の品格』(2005年11月、新潮新書)が200万部を超えるベストセラーとなり、翌2006年の新語・流行語大賞に選ばれるなど大きな話題となった。同書では数学者の立場でありながら、あえて「論理より情緒」「英語より国語」「国際化より武士道」と説いている。
現在は第二次世界大戦においてナチス・ドイツの暗号解読に暗躍したイギリスの数学者、アラン・チューリングを巡る物語「知りすぎた男たち」を「小説新潮」に連載中である。またここ数年来、父の絶筆『孤愁―サウダーデ』(ヴェンセスラウ・デ・モラエスの伝記小説)を書き次ぐべく、準備を続けている。
[編集] エピソード
読書を、“教養を獲得して人間の知的レベルを高める極めて重要な要素”、と位置付け、大学で1年生を対象とした読書ゼミナールを開いている。主に新渡戸稲造、内村鑑三、福沢諭吉の思想書や、宮本常一の民俗学の学術書等を読ませる。国語教育の重要性を説き、英語の早期教育を批判している。
映画「博士の愛した数式」のヒットを機に、4ch(日本テレビ)、6ch(TBS)、8ch(フジテレビ)、10ch(テレビ朝日)、12ch(テレビ東京)から何故かその順番で出演依頼が来たが、「僕はラジオ向きだから」と断る。
NHK教育テレビの「人間講座」で2001年に、教育論を語る。
著書によると愛人との共同生活が夢らしいが、まだ実現していない模様。世間の女性の目が曇っているのか、美貌の奥方の目が恐いのか、理由は定かでない。夫人は、お茶の水女子大学で発達心理学を専攻し、カウンセラー・心理学講師・翻訳家として活動する藤原美子。『国家の品格』の著者インタビューで彼女の容姿を褒められ、彼は「顔なら私も絶対的自信がある」とコメントしている。
[編集] 略歴
- 1962年:東京都立西高等学校卒業。
- 1966年:東京大学理学部数学科卒業。
- 1968年:同大学院理学系研究科修士課程数学専攻修了。
- 1968年:東京都立大学理学部助手。
- 1972年:ミシガン大学研究員。
- 1973年:東大に学位請求論文を提出して理学博士号取得。
- 1973年:コロラド大学助教授。
- 1976年:お茶の水女子大学理学部数学科助教授。
- 1988年:同教授。
- 2000年:同付属図書館館長兼任。
[編集] 受賞歴
[編集] 著書
[編集] 単著
- 若き数学者のアメリカ 1977年。新潮社。
- 数学者の言葉では 1984年。新潮社。
- 父の旅私の旅 1987年。新潮社。
- 遥かなるケンブリッジ―一数学者のイギリス 1991年。新潮社。
- 数学者の休憩時間 1993年。新潮社。
- 父の威厳 1994年。講談社。
- 心は孤独な数学者 1997年。新潮社。
- 古風堂々数学者 2000年。講談社。
- 天才の栄光と挫折―数学者列伝 2002年。新潮社(新潮選書)。
- 祖国とは国語 2003年。ISBN 4062117126(講談社) ISBN 4101248087(新潮文庫)
- 国家の品格 2005年。新潮社(新潮新書)。
- この国のけじめ 2006年。文藝春秋社。
- 藤原正彦の人生案内 2006年。中央公論新社。
[編集] 共著
[編集] 編著
- 山本夏彦著『「夏彦の写真コラム」傑作戦1』2004年。新潮社。
[編集] 訳書
- アーノルド・L・リーバー著『月の魔力―バイオタイドと人間の感情』(How The Moon Affects You)1984年。東京書籍。
- ジョン・L・キャスティ著『ケンブリッジ・クインテット』(The Cambridge Quintet)1998年。新潮社。