96式装輪装甲車
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96式装輪装甲車 | |
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基礎データ | |
全長 | 6.84 m |
全幅 | 2.48 m |
全高 | 1.85 m |
重量 | 14.5 t |
乗員数 | 2 名 + 兵員8 名 |
装甲・武装 | |
装甲 | 圧延鋼板 |
主武装 | 96式40mm自動てき弾銃 または 12.7mm重機関銃M2 |
副武装 | |
機動力 | |
速度 | 100 km/h |
エンジン | 三菱 液冷4ストローク直列6気筒 ターボチャージド・ディーゼル 360 ps / 2,200 rpm |
懸架・駆動 | トーションバー方式 |
行動距離 | 500 km以上 |
96式装輪装甲車(きゅうろくしきそうりんそうこうしゃ)は、陸上自衛隊で初めて制式採用された装輪式装甲兵員輸送車である。主に北海道の普通科連隊に配備されており、イラク人道復興支援の際に派遣・運用された。
目次 |
[編集] 開発
60式装甲車・73式装甲車の後継車両として、1992年(平成4年)から小松製作所が開発を開始し、1996年(平成8年)に「96式装輪装甲車」として制式化された。平成16年(2004年)度は1両当り約1億円で14両が調達された。生産数は2006年度末までで、264両である。
[編集] 愛称・通称
防衛庁が公募の上決定した愛称は「クーガー」であるが、自衛隊内部においては全く使われておらず、「96」、「96W」、「96WAPC」「WAPC」などと呼ばれている。
[編集] 特徴・武装
8輪式の装輪装甲車で、自衛隊の装甲兵員輸送車としては初の装輪式車両となった。一般的には装輪式車両は装軌式車両に比べて不整地等の走破性が大きく劣り、大口径タイヤを採用するゆえに一般に車高が高くなりがちとなる、といった欠点を持つが、その反面、整備性に優れ故障が少なく、高速・長時間の走行が可能であり、構造が簡単で低コストで調達できるという利点がある。
本車のタイヤはコンバットタイヤであり、パンク等により空気が全て抜けたとしてもある程度の走行が可能である。加えてCTIS(中央タイヤ圧システム)と呼ばれる空気圧調整装置を備えているため状況に応じた空気圧を変更することが可能であり、装軌式車両には及ばないにしても十分な不整地走破性を確保している。通常は後方の2軸(前から数えて第3軸と第4軸)が駆動するが、切り替えよって全軸駆動とすることもできる。操舵については前方の2軸(第1軸と第2軸)によって行われる。
車体については圧延鋼板による溶接構造で、その装甲防護力については防衛庁は公開していないが、小銃弾や砲弾破片程度は十分に防護できると推定されている。乗員配置については前方より、右側に操縦手席、その後方にキューポラをそなえた車長兼銃手席、その左側には分隊長席があり、その後方に左右それぞれ4名、合計8名分のベンチシートが向かい合わせに並ぶ後部乗員席がある。操縦手及び車長席の左側は消火装置を備えたエンジンルームで、この消火装置は車内または車外から作動させることができる。エンジンはトランスミッションと一体化されてパワーパックとなっているため、整備性の向上に寄与している。
後部乗員席の天井には観音開きに外側に開く上部ハッチがある。73式装甲車においては上部ハッチは2枚の大型ハッチで、その大きさゆえの重量があったが、本車においては小型化された4枚のハッチとなり軽量化された。また、側面には防弾ガラスのはまった外部視察用の窓が左右それぞれ2枚づつ取り付けられている。この窓にはマジックテープで止めることのできるブラインドが取り付けられているが、これは防御に資する(たとえば鉄やケブラー製のような)ものではなく、材質も合成繊維となっている。なお、73式装甲車においては後部乗員室床面に緊急時脱出用の非常ハッチがあり、側面にはガンポートが装着され、浮航性能があったが、そのどれもが本車には装備されていない。
後部乗員が乗降する後部ハッチ(ランプ・ドア)は油圧式となっており、車内からも車外からも操作可能である。また、この後部ハッチにはエンジン停止時でも乗降できるように、片開きの手動ドアも取り付けられている。最後部には車両牽引用のフックおよび、トレーラ等に電気及びブレーキ用圧縮空気を供給するためのソケット及び弁があるが、2006年4月現在本車が牽引するためのトレーラ等の車両は採用されていない。
本車が公道上を走行する場合は大型自動車の扱いとなる。また、主として公道を走行する時のために操縦手席及び分隊長席用に風防が用意されている。それが本項目の写真に見られる操縦手席のガラス窓である。この風防は操縦手席および分隊長席のハッチを全開にして固定し、その空いた空間にボルト止めして装着する。したがって風防を取り付けている間はハッチを動かすことはできない。また、戦闘行動時に使用することは考えられていないため、ガラスは防弾ではなく通常の自動車ガラスに準じたものとなっている。
武装については96式40mm自動てき弾銃を装備する「A型」と12.7mm重機関銃M2を装備する「B型」の2種類がある。また、車両後部に左右各1基の発煙弾発射機が装備されている。「A型」と「B型」の比率はおおむね10:1となっているのだが、重機関銃あるいは自動てき弾銃が装備されるキューポラはそれぞれ異なった物となっている。重機関銃搭載型は73式装甲車のものを流用しているが、自動てき弾銃搭載型塔は新規に設計されている。したがって両車の武装を交換するためにはキューポラごと交換する必要があるため、互換性は事実上ないといえる。また両車とも、車内からも車外からも重機関銃あるいは自動てき弾銃を操作することができる。ただし、この「車内から操作できる」ということが一部の文献において「リモート式」と紹介されたため、本車がストライカー装甲車のようにTVモニターなどのついた完全な遠隔操作装置が搭載されているとの誤解を生むことになった。本車における「リモート式」の実態は、旋回・俯仰は手回しハンドル、照準は倍率のないペリスコープ(JM1照準潜望鏡)、電気作動による機械式の引き金の遠隔操作といったものである。
後部乗員室後端部の後部ハッチの両脇上部に左右各1基のベンチレータ(換気装置)をそなえる。また、NBC兵器防護のための空気清浄機も搭載されており、作動時には空気配管およびガスマスクの付属品であるゴムホースを介して、各人が装着するガスマスクに直接清浄な空気を供給することができる。ベンチシート後端の足元にあたる部分に左右各1基のヒーターがあるが、クーラーについては装備されていない。本車は73式装甲車と比較して内部容積が広くなり、あわせて後部ハッチと床面部分をのぞくほとんどの内面にクッション材が内張りされたこともあって、車内の居住性と静粛性は大きく向上した。予談ながら、73式装甲車には内張りも無く車体のアルミ材は塗装されただけの剥き出しであり、ヒーターも装備されていなかった。
本車は自衛隊イラク派遣のさいにサマーワへ持ち込んだ装備のひとつとして知られるが、その全車両が重機関銃を装備する「B型」であった。また、本来2色の塗料による迷彩塗装をOD色(深緑色)に改めたり、キューポラの左右に上半身を保護できるように装甲板を追加する等といった処置がとられた。
本車には、外見的特長からいくつかの防御性能における不備を指摘することができる。その第1が触雷(地雷を踏むこと)時の脆弱性が存在する可能性、第2が側面にある視察用の窓の存在、第3が後部ハッチが油圧式であることによる問題である。
第1の触雷時の問題とは、本車の底板(つまり車の床)がケブラーを張るなどの地雷対策をしていない上に凹型をしているため爆発力を呼び込みやすく、タイヤハウスについても爆風に対して特に考慮されておらず、最低地上高についても諸外国の装甲車に比して低いことから導き出されたものである。諸外国、特にドイツのフクスやアメリカのストライカーが地雷対策を講じているのと比べれば本車の地雷に対する性能は明らかに低い。第2の窓の存在はほとんど自明であるとも言える。鋼鉄板と防弾ガラスとではどちらが強靭であるかは論を待たない。厚さの問題も関係してくるが、本車の窓に使われている防弾ガラスは側面の装甲板の厚さに比して何cmも違うわけではない。第3は、油圧式である以上その作動には作動油が不可欠であり、作動油はそのほとんどが可燃性であるという問題である。ただし、以上の問題については防衛庁が細部データについて一切公表していないため、その蓋然性は横に置くとしても、あくまでも推測でしかないことに留意する必要がある。特に、第3の作動油の問題については難燃性の作動油を採用していた場合には危険性は大きく減る。
さらに、先述した本車の触雷時の問題が全般的な性能の低さを直ちに示す、ということではないことにも注意しなければならない。最低地上高の低さはそのまま全高の低さにつながるものであり、それは発見され難さ(→すなわち撃たれ難さでもある)に直結する。事実、本車の全高(1.85mである)は諸外国の装輪装甲車はおろか装軌式の兵員輸送車と比較しても十分に低い。そして、車両底部等に地雷対策の処置を施すということは、全高を含む車両サイズの大型化(あわせて重量と価格の上昇)を招くことに他ならないのである。
[編集] 後継車両
現在研究試作中の将来装輪戦闘車両は、2007年(平成19年)度での開発完了を予定している。これをベース車両とし、各種派生型によるファミリー化が構想されているが、96式装輪装甲車の後継となる人員輸送車型の開発については未定である。
[編集] 登場作品
- ゴジラ2000 ミレニアムで実物の96式が日本映画初登場以来、戦国自衛隊1549 や戦国自衛隊 関ヶ原の戦いなどに登場。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
自走榴弾砲 | |
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