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レ・ミゼラブル - Wikipedia

レ・ミゼラブル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

文学
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レ・ミゼラブル』(Les Misérables)は、ヴィクトル・ユーゴーによって1862年に書かれた、ロマン主義フランス文学の大河小説である。


注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。


目次

[編集] 作品概要

 一切れのパンを盗んだために19年間もの監獄生活を送ることになったジャン・ヴァルジャンの生涯が描かれている。作品中ではナポレオン1世没落直後の1815年からルイ18世シャルル10世復古王政時代、七月革命後のルイ・フィリップ王の七月王政時代の最中の1833年までの18年間を描いており、さらに随所でフランス革命、ナポレオンの第一帝政時代と百日天下への回想・記憶が挿入される。当時のフランスを取り巻く社会情勢や民衆の生活も、物語の背景として詳しく記載されている。

 当時、政治的な事情からフランスを追われ、イギリス王室領のガーンジー島に住んでいたユーゴーは、作中の登場人物たちを通して、あらゆる境遇にあるフランスの人々への、そして、フランスという国家への心からの愛を示している。マリユスは若き日のユーゴー自身が、コゼットは彼の妻アデール・フーシェと愛人のジュリエット・ドルーエがモデルだと言われている。

 原題 Les Misérables は、直訳すると「悲惨な人々」「哀れな人々」であるが、日本においては黒岩涙香による翻案作品『噫無情』(ああむじょう)から『ああ無情』の題名が定着している。中国語圏では『悲惨世界』あるいは『孤星涙』と訳されている。

[編集] あらすじ

 1815年10月のある日、75歳になったディーニュのミリエル司教の司教館を、ひとりの男が訪れる。男の名はジャン・ヴァルジャン。貧困に耐え切れず、たった1本のパンを盗んだ罪でトゥーロン徒刑場で19年も服役していた『危険な人物』であった。行く先々で宿泊を断られた彼を、司教は暖かく迎え入れる。しかし、その夜、大切にしていた銀の食器をヴァルジャンに盗まれてしまう。翌朝、彼を捕らえた憲兵に対して司教は「食器は私が与えたもの」だと告げて彼を放免させ、「正直な人間になってもらうために」二本の銀の燭台をも彼に差し出す。それまで人間不信と憎悪の塊であったジャン・ヴァルジャンの魂は司教の信念に打ち砕かれる。そして、サヴォワの少年プティ・ジェルヴェ (Petit-Gervais) の持っていた金40スー[1]を盗んでしまったことを司教に懺悔し、『正直な人間』として生きていくことを誓う。

 1819年、ヴァルジャンはモントルイュ=スュール=メールで『マドレーヌ』と名乗っていた。彼は黒いガラス玉および模造宝石の産業を興して成功をおさめ、さらには、その善良な人柄と行動が人々に高く評価されて、この街の市長になっていた。彼の営む工場では、1年ほど前からひとりの女性が働いていた。彼女の名前はファンティーヌ。パリから戻った彼女は、3歳になる手前の娘をモンフェルメイユのテナルディエ夫妻に預け、故郷のこの街で女工として働いていたのだ。

 しかし、それから4年後の1823年1月、工場を解雇されて生活苦におちいった挙げ句、売春婦に身を落としたファンティーヌは、あるいざこざがきっかけでマドレーヌのもとへ運ばれる。病に倒れた彼女の窮状を調べた彼は、モンフェルメイユから彼女の娘コゼットを連れて帰ることを約束する。テナルディエは"コゼットの養育費"と称し、様々な理由をつけてはファンティーヌから金を請求していたのだ。それが今では100フラン[2]借金となって、ファンティーヌの肩に重くのしかかっていた。

 だが、モンフェルメイユへ行こうとした矢先、ヴァルジャンは、自分と間違えられて逮捕された男・シャンマティユーのことを私服警官ジャヴェールから聞かされる。シャンマティユーを放っておけず、彼を救うために自身の正体を世間に公表し、ファンティーヌの哀れな最期を見届けたあと、プティ・ジェルヴェから金40スーを盗んだ罪でジャヴェールに逮捕される。『終身徒刑(=終身刑)』の判決を受けて監獄へ向かう途中、軍艦オリオン号から落ちそうになった水兵を助けた後、海に転落、通産5度目となる脱獄を図る。

 そして、約束の時からおよそ1年後……1823年のクリスマス・イヴの夜、ファンティーヌとの約束を果たすためモンフェルメイユにやって来たヴァルジャンは、街はずれの泉でコゼットに出会う。当時、コゼットは8歳前後であったにも関わらず、テナルディエ夫妻の営む宿屋で女中としてタダ働きさせられている上に夫妻から虐待され、夫妻の娘たちからも軽蔑されていた。その光景を見たヴァルジャンは静かな怒りをおぼえ、テナルディエの要求どおり1500フランを払い、クリスマスの日にコゼットを奪還する。

 道中、もっと金をせびろうと後を追ってきたテナルディエを牽制したヴァルジャンは、コゼットを連れてそのままパリへ逃亡する。パリに来ていたジャヴェールら警察の追っ手をかいくぐり、フォーシュールヴァン爺さんの協力を得たふたりは、ル・プティ・ピクピュス修道院で暮らし始める。母のことをあまり覚えていないコゼットは、ヴァルジャンを『父』として、また『友達』として心の底から慕い、愛し続ける。ヴァルジャン自身もコゼットを『娘』として、あらゆるたぐいの愛情を捧げる絶対的な存在として、彼女にまごころからの愛を注ぎ続ける。

 フォーシュールヴァン爺さんの死を契機に修道院を出て、パリのプリュメ通りにある邸宅に落ち着いたヴァルジャンとコゼットは、よくリュクサンブール公園に散歩に来ていた。そんなふたりの姿をひとりの若者が見ていた。マリユス・ポンメルシー。共和派秘密結社『ABC(ア・ベ・セー)の友』に所属する貧乏な弁護士である。ブルジョワ出身の彼は幼少の頃に母を亡くし、母方の祖父に育てられたが、17歳のとき、ナポレオン1世のもとで働いていた父の死がきっかけでボナパルティズムに傾倒し、祖父と対立。3年前に家を出ていた。マリユスは美しく成長したコゼットに一目惚れし、『ユルシュール』と勝手に名づけ、何も考えられないほど彼女に恋焦がれてしまう。

 だが、その一方で、彼はある人物を探していた。ワーテルローの戦いで父の命を救った男を。男の名はテナルディエ。死んだ父に代わり、テナルディエに恩を返そうと固く誓っているのだ。しかし、部屋の隣人ジョンドレットがテナルディエであると知り、ショックを受ける。テナルディエが破産して、一家ともども行方知れずになっていることは知っていたが、まさか、こんな形で彼を見つけるとは思ってもいなかったのだ。さらに、4人の頭が率いる悪党集団『パトロン=ミネット』と手を組んで、『ユルシュール』の父を自宅に監禁して金を要求する様を見て愕然とする……。結局テナルディエたちは逮捕されてしまうが、あまりに衝撃的な事件だったので、彼は夜逃げ同然で引っ越してしまう。

 事件の混乱が覚めやらぬところに、テナルディエの長女エポニーヌが現れる。マリユスは彼女の助けを得て、『ユルシュール』の住まいを見つけ、同じころ彼に惚れていた『ユルシュール』ことコゼットに、ようやく出逢うことができた。この出逢い以降、マリユスとコゼットの逢瀬は毎晩続き、ふたりは互いを深く愛し合うようになる。だが、1832年6月3日、コゼットはヴァルジャンから、1週間後にイギリスへ渡ることを聞かされ、それをマリユスに話してしまう。ふたりの恋路は『突然の別れ』という最大の試練に塞がれてしまった――。

 コゼットと、彼女に絶対的な愛を抱くジャン・ヴァルジャンとマリユス――この3人を中心とした運命の渦は、ジャヴェール、テナルディエ一家、マリユスの家族や彼と親しい人々、『パトロン=ミネット』の連中、そして『ABCの友』のメンバーまで巻き込んで、『悲惨な人々』(レ・ミゼラブル)の織りなす物語をページのあちこちに残していく。大きくなった運命の渦は、七月革命の影響でいまだ混沌のなかにあるパリを駆けまわり、やがて1832年6月5日に勃発する『六月暴動』へと向かってゆくことになる……。

これは、ひとりの徒刑囚が偉大なる聖人として生涯を終えるまでの物語であり、その底流を流れているのは、永遠に変わることのない真実の『愛』である。

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[編集] タイトル

※括弧内は原題、日本語訳のタイトルは井上究一郎訳文より

  1. ファンティーヌ(Fantine)
    1. 正しい人(Un juste)
    2. 失墜(La chute)
    3. 一八一七年のこと(En l’année 1817)
    4. 委託は時として譲渡となる(Confier, c’est quelquefois livrer)
    5. 転落(La descente)
    6. ジャヴェール(Javert)
    7. シャンマティユー事件(L’affaire Champmathieu)
    8. 反撃(Contre-coup)
  2. コゼット(Cosette)
    1. ワーテルロー(Waterloo)
    2. 軍艦「オリオン号」(Le vaisseau L’orion)
    3. 死んだ女への約束を果たす(Accomplissement de la promesse faite à la morte)
    4. ゴルボー屋敷(La masure Gorbeau)
    5. 闇の狩りには無言の猟犬を使う(A chasse noire, meute muette)
    6. ル・プティ・ピクピュス(Le petit-Pictus)
    7. 余談(Parenthèse)
    8. 墓地は死人を選り好みしない(Les cimetières prennent ce qu’on leur donnent)
  3. マリユス(Marius)
    1. パリの微粒子の研究(Paris étudié dans son atome)
    2. 大ブルジョワ(Le grand bourgeois)
    3. お祖父さんと孫(Le grand-père et le petit-fils)
    4. 「ABCの友」(Les amis de l’A B C)
    5. 不幸にあがる軍配(Excellence du malheur)
    6. ふたつの星の会合(La conjonction de deux étoiles)
    7. パトロン=ミネット(Patron-minette)
    8. 心がけの悪い貧乏人(Le mauvais pauvre)
  4. プリュメ通りの牧歌とサン・ドゥニ通りの叙事詩(L’idylle rue Plumet et l’épopée rue Saint-Denis)
    1. 歴史の数ページ(Quelques pages d’histoire)
    2. エポニーヌ(Éponine)
    3. プリュメ通りの家(La maison de la rue Plumet)
    4. 低いところからの救いは高いところからの救いとなりうる(Secours d’en bas peut être secours d’en haut)
    5. その結末がはじまりとは似ても似つかぬこと(Dont la fin ne ressemble pas au commencement)
    6. プティ・ガヴローシュ(Le petit Gavroche)
    7. 隠語(L’argot)
    8. 歓喜と悲嘆(Les enchantements et les désolations)
    9. 彼らはどこへ行く?(Où vont-ils ?)
    10. 一八三二年六月五日(Le 5 juin 1832)
    11. 原子は大旋風に協力する(L’atome fraternise avec l’ouragan)
    12. コラント(Corinthe)
    13. マリユス闇のなかへはいる(Marius entre dans l’ombre)
    14. 絶望のけだかさ(Les grandeurs du désespoir)
    15. ロマルメ通り(La rue de l’Homme-Armé)
  5. ジャン・ヴァルジャン(Jean Valjean)
    1. 壁にかこまれたなかの戦争(La guerre entre quatre murs)
    2. 巨獣のはらわた(L’intestin de Léviathan)
    3. 泥であるとともに魂(La boue, mais l’âme)
    4. 脱線したジャヴェール(Javert déraillé)
    5. 孫と祖父(Le petit-fils et le grand-père)
    6. 眠られぬ夜(La nuit blanche)
    7. 苦杯の最後の一口(La dernière gorgée du calice)
    8. たそがれの微光(La décroissance crépusculaire)
    9. 最後の闇、最後のあけぼの(Suprême ombre, suprême aurore)

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[編集] 登場人物

[編集] 主要人物

ジャン・ヴァルジャン (Jean Valjean)
 1769年ブリーファヴロールの貧しい農家の子供として生まれ、父親はジャン・ヴァルジャン、母親はジャンヌ・マティユー (Jeanne Mathieu)という。両親を幼い時に亡くし、年の離れた姉に育てられるが、25歳の時に姉の夫が死ぬ。1795年の終わり頃、姉の7人の子供達のために1本のパンを盗んで逮捕されてしまう。1796年器物損壊密猟の罪を併せて5年の刑を言い渡され、トゥーロン徒刑場へ送られるが4度も脱獄を図ったため、19年間もの歳月を監獄で過ごすことになる。
 1815年10月に出獄した時、すでに46歳となったヴァルジャンは長い監獄生活のなかで人間社会に対する憎悪の塊となってしまっていたが、ディーニュで出会ったミリエル司教の情愛により改心する。
 1815年の12月、モントルイュ=スュール=メールにやって来た彼は、『マドレーヌ氏』 (M. Madeleine)と名乗る。産業で成功し、人望を集めた結果、1819年にはフランス国王ルイ18世の命で市長の座に就く。1823年1月ファンティーヌを救い、彼女の娘コゼットを連れ帰ることを約束するが、その約束が果たされるまでに1年近くを要することとなる。
 1823年のクリスマスにテナルディエ夫妻からコゼットを奪還した後、パリへ向かう。パリではフォーシュルヴァン爺さんに匿われ、プティ・ピクピュス修道院で庭師として暮らす。以降、フォーシュルヴァン爺さんの弟の名を借り、『ユルティーム・フォーシュールヴァン』(Ultime Fauchelevent)として生きていくこととなる。
 1829年10月、60歳になったヴァルジャンは、フォーシュルヴァン爺さんの死をきっかけにプティ・ピクピュス修道院を出、コゼットとともにプリュメ通りの庭園つきの邸宅に引っ越す。母屋にコゼットと老女中トゥーサン (Toussaint)を住まわせ、自身は小さな門番小屋で質素な生活を送る。
 恋愛を知らないヴァルジャンにとってコゼットとは、姉妹……女性が持つすべての立場を兼ね備えた絶対的な存在だったが……。
 悩み、苦しみ、時には哀しみと絶望を味わいながらも、常にミリエル司教の説く『正直な人間』であろうと努め、日々を過ごす。
シャルル=フランソワ=ビヤンヴニュ・ミリエル (Charles-François-Bienvenu Myriel)
 妹のバティスティーヌ嬢 (mademoiselle Baptistine)と、女中であるマグロワール夫人 (madame Magloire)との三人で慎ましく暮らす司教。バティスティーヌ嬢のほかにふたりの兄弟がおり、ひとりはフランス軍の将軍、もうひとりは知事をつとめた。
 若い頃に結婚し、社交や色恋に埋もれていたが、フランス革命のいざこざによって家族は四散し、イタリア亡命。そこで司祭となり、帰国する。1806年ディーニュの司教に任命されて以来、地域の貧しい住民のために慈善活動を続け、『ビヤンヴニュ(歓迎の意)閣下』 (monseigneur Bienvenu)と呼ばれて民衆に慕われる。
 1815年10月のある日、75歳になった司教は釈放されたものの行き場のないジャン・ヴァルジャンを司教館に泊めてもてなしたが、その夜、彼にの食器を盗まれてしまう。次の日の朝にヴァルジャンは憲兵に捕らえられるが、ミリエル司教は彼を咎めず「食器は私が彼にあげた物だ」と言って放免させる。そして唖然とするヴァルジャンに向かって、さらに二本の銀の燭台を差し出し、「正直な人間になるために、この銀器を使いなさい」と諭す。彼の行動は、ジャン・ヴァルジャンの人間性を大きく変えることとなる。
 1821年のはじめ、82歳で永眠。当時『マドレーヌ氏』であったジャン・ヴァルジャンはその報せを知るや否や、彼のために喪服を着て過ごした。
ジャヴェール警部 (Inspecteur Javert)
 1780年に、服役囚の父と、同じく服役囚のトランプ占いの女の子供としてトゥーロンの徒刑場で生まれた。社会から外れ、「普通の人間として」社会に関われないという絶望から、自身の境遇やそれと同じ境遇に属する人間を憎み、社会を守る人間であることを選ぶ。その素養が備わっていたこともあり、彼は警察官となる。
 社会秩序を絶対的に信奉する法の番人であり、これに逆らう者には公正だが容赦なく振る舞ったため、町のならず者達を震え上がらせる。
 1820年に40歳で捜査官 (inspecteur; 私服警官と呼ばれる刑事の階級で、現在のフランス警察のlieutenant (警部補)に相当)となってモントルイュ=スュール=メールに赴任するが、有名人であるマドレーヌ氏のことを、昔トゥーロンで見たジャン・ヴァルジャンではないかと疑い続ける。
 ある日、バマタボワといざこざを起こしたファンティーヌを逮捕するが、マドレーヌ市長が自らの裁量でファンティーヌを釈放してしまった事に憤慨し、とうとう彼をジャン・ヴァルジャンとしてパリ警視庁へ告発しに行く。結果、シャンマティユーの一件でついに彼を捕らえるものの、後に逃げられてしまう。ヴァルジャンを逮捕するための助っ人としてパリに招集され、警視庁の上層部にその熱意を買われ、一等捜査官 (inspecteur de première classe; 現在のフランス警察のcapitaine (警部)及びcommandant (上級警部)に相当)としてパリに駐在することになる。
 しかし、職務をまっとうしていくうちに、『ジャン・ヴァルジャン』という人物について深く葛藤していくようになり、ついには……。
ファンティーヌ (Fantine)
 1796年生まれの、美しい髪と前歯を持つ可憐で純粋な女性。モントルイュ=スュール=メール生まれの孤児で、ファンティーヌという名は通りすがりの人からつけられた。町に教会がなかったため洗礼を受けていない。パリに出た彼女は、トゥーロン出身の老学生フェリックス・トロミエス(Félix Tholomyès)との間に娘コゼットをもうける。しかし、1817年トロミエスが突如故郷へ帰ってしまったことがきっかけで生活が一変。翌年コゼットをテナルディエ夫婦に預け、故郷にあるマドレーヌ氏の工場で働くことになる。
 だが、隠し子がいる事がばれて工場を解雇され、コゼットの養育費の支払いが滞り始めると、娘のためにあらゆるものを売ってしまい、ついには売春婦になってしまう。
 コゼットを手放してから5年目の冬、27歳になった彼女はバマタボワ氏 (M. Bamatabois)というハイカラ男といざこざを起こして逮捕されそうになったところを、マドレーヌ市長ことジャン・ヴァルジャンに助けられる。コゼットを手放した頃からを患っていた彼女は、ヴァルジャンにコゼットのことを託し、コゼットと再会できるよう計らってもらうが……。
1879-1882年出版のユーグ版 (Édition Hugues)のために画家エミール・バヤールによって描かれたコゼットの木版画
1879-1882年出版のユーグ版 (Édition Hugues)のために画家エミール・バヤールによって描かれたコゼット木版画
コゼット (Cosette)
 コゼットというのはファンティーヌがつけた愛称で、本名はユーフラジー(Euphrasie)。1815年にファンティーヌとトロミエスとの間に出来た娘。純粋無垢で心優しく、素直で明るい少女。
 1818年の春、まもなく3歳になるという年齢でテナルディエ一家に預けられ、世間では『ル・アルーエット』(l'Alouette, ひばり)と呼ばれていた。物心つかないうちにテナルディエ一家に預けられたため、母のことをほとんど覚えておらず、母が『ファンティーヌ』という名前であることも知らない。
 幼い頃からテナルディエ一家からむごい仕打ちを受けていたため、本来の性格が影を潜めるようになってしまった。が、1823年のクリスマスにヴァルジャンに引き取られてからは、持ち前の明るさを取り戻してゆく。フォーシュールヴァン爺さんが住み込みで働くパリのプティ・ピクピュス修道院で教育を受けるようになり、それ以降はフォーシュルヴァン爺さんの姪『ユーフラジー・フォーシュールヴァン』(Euphrasie Fauchelevent)として生きていくこととなる。
 14歳のときにフォーシュールヴァン爺さんが死去。それにともない修道院を出て、プリュメ通りの庭園つきの邸宅の母屋で何ひとつ不自由しない生活を送るが、自分のために生活を切り詰めているヴァルジャンを常に心配している。
 ジャン・ヴァルジャンを『お父様』 (père)と呼んで彼を心から慕って愛し、彼の精神的な支柱となっていくが、彼の素性に関しては何も知らない。
 やがて成長して美人になった彼女は、マリユスより半年ほど遅れて彼に惚れてしまう。そして、自宅の庭園で再会したマリユスと激しい恋に落ちてしまう。様々な試練に見舞われたものの、1833年2月16日、晴れてマリユスと結婚。60万フラン近くの財産を持つ『百万長者のポンメルシー男爵夫人』となり、ジルノルマン邸で夫とその家族らと幸せに暮らしていくが……。
マリユス・ポンメルシー(Marius Pontmercy)
 パリで弁護士をしながら暮らす貧乏な青年。自由主義者で夢想家。自身の行動を後々後悔する事が多い、激情的だが内省的な性格の持ち主。1810年に生まれるが、母を1815年に喪い、父は母方の祖父ジルノルマンに追放される。ジルノルマンに大切に育てられるが、祖父への不快感と父の死をきっかけにボナパルティズムに傾倒。そのため、思想の違いから祖父と対立して家を飛び出し、『ABCの友』に所属するようになる。
 ある日、リュクサンブール公園で『ルブラン氏』(M.Lebelanc)ことジャン・ヴァルジャンとコゼットの親子連れに出会い、コゼットの美しさに惚れてしまう。そして、拾ったハンカチのイニシャルから『彼のユルシュール(son Ursule)』と勝手に命名する。コゼットの自宅の庭園で彼女と再会してからというもの、コゼットとの逢瀬を重ね、全てを忘れ愛にのめり込んでいくようになる。だが、ふたりに恋路に立ちふさがった試練を乗り越えられず、絶望の淵に追いやられた彼は六月暴動に身を投じる。
 この暴動ののち、祖父と和解。翌年、コゼットと結ばれ、弁護士『ポンメルシー男爵』として多忙ながらも愛と幸せに満ちた生活を送っていくが……。
 尊敬する父の遺言に従い、父に代わってテナルディエに恩を返そうと常々思っている。しかし……。

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[編集] テナルディエ一家 (Les Thénardier)

テナルディエ(Thénardier)
 『テナルディエ』とは名前ではなく苗字である。ファーストネームは不明。パリ郊外のモンフェルメイユで宿屋(安料理屋)を経営する根っからの悪道者で小悪党。背が低く、やせぎすで病人のような男。ワーテルローの戦いでは軍曹だったと自称しているが、これは全くのでたらめである。
 幼いコゼットを引き取った頃には宿屋の経営に行き詰り、借金がかさみ始めていた。借金のかたにコゼットの衣類を全部に入れ、幼い彼女を女中としてタダ働きさせて精神的に虐待する一方で、ファンティーヌに金をせびり続けた。が、1823年のクリスマス・イヴに、白髪の謎の男が宿屋を訪れる。できる限り金を搾り取ろうと大金をふっかけるが、コゼットに関わることであればどんな法外な金額にも応じる『謎の男』ジャン・ヴァルジャンに驚き、コゼットを1500フランで引き渡す。しかし、15000フランでも応じたかもしれない金持ちらしき男に、当時抱えていた借金とほぼ同額の額面でコゼットを「売って」しまったことを、彼は後後まで後悔することになる。
 その後(1824年から1826年の間に[3])、宿屋が破産したため一家でパリに移住し、ジョンドレット (Jondrette)と名乗るようになる。貧民だけが住むゴルボー屋敷に住み、悪事を働きながら乞食まがいの生活をして暮らす。
 1832年2月3日、『ルブラン氏』ことヴァルジャンから大金をせびり取ろうと、モンパルナッス以外の『パトロン=ミネット』の主要メンバーとともに自宅に彼を監禁するが、ジャヴェールの手で家族や仲間とともに検挙されてしまう(=『ゴルボー屋敷待ち伏せ事件』)。
 脱獄に成功した彼は、のちに『男爵になり損ねた男・テナール(Thénard)』として、コゼットと結婚したマリユスの前に姿を現すが……。
テナルディエ夫人 (Madame Thénardier)
 テナルディエの妻(ファーストネームは不明)。宿屋のおかみ。口ひげの生えた、口八丁手八丁の恰幅の良い大女で、夫よりは12~15歳ほど年下である。夫に負けず劣らずの悪党だが、若干の良心は持っている模様。
 自分の娘は可愛がるが、自分の息子や他人の子供には愛情を持てず、夫しか怖がらない偏った心の持ち主。それゆえに、里子のコゼットに無茶な労働をさせ、肉体的な虐待を加えた。
 1800年代初頭に有名だった作家ピゴー・ルブランデュクレー・デュミニルの書いた、淫猥でくだらない小説をよく読み、娘たちに読んでいた小説の登場人物の名をつけた。
 実はガヴローシュの弟をふたり産んでいるが、手持ち無沙汰であったため、パリで有名な悪女マニョンに月10フランの貸賃で息子たちを売った。
その後、夫や子供たちとともにパリに移住。ゴルボー屋敷での一件で夫や娘たちとともにジャヴェールに逮捕され、みじめな最期を迎えることとなる。
エポニーヌ (Éponine)
 テナルディエの長女。本名はエポニーヌ・テナルディエ(Éponine Thénardier)。テナルディエ一家のなかで唯一フルネームが書かれている。1815年の終わりに生まれたので、コゼットとは同い年である。母親の寵愛を受けて育ち、コゼットを軽蔑した。下層民としてパリに移り住んでからは、父親の悪事を手伝いながら何とか生きている。
ゴルボー屋敷に住んでいたころの隣人であったマリユスに恋心を抱くが、そのときすでに、彼の目はコゼットに向けられていた。マリユスのために影となり、彼の恋の成就を手助けしたり、彼の知り合いの世話をしたりする。彼の身を危険から守るため、六月暴動に参加するが……。
アゼルマ (Azelma)
 テナルディエの次女。下手をしたら、母親に『ギュルナール』(Gulnare)と名づけられていた。エポニーヌと共に母親から溺愛され、姉や母と同様にコゼットを見下した。貧しさで身を持ち崩した彼女は、低俗な隠語を喋っては悪漢達とつるみ、父親の悪事を手伝っていた。が、『ゴルボー屋敷待ち伏せ事件』で最初にジャヴェールの手にかかる。
 のちに逮捕されたエポニーヌと一緒に《証拠不十分》として釈放された後、警察の下司女(下級女役人)として働かされていたが……。
ガヴローシュ (Gavroche)
 パリの路上でたくましく生活する浮浪児。1820年にテナルディエの長男として生まれる。エポニーヌとアゼルマの実弟だが、両親(とくに母親)に愛されず邪険に扱われた。親のを知らない哀れな子供ゆえ、家族とパリへ出てからは路上で過ごすようになる。
 歌と皮肉めいた物言いが特徴で、大人たちからは『プティ・ガヴローシュ (Petit Gavroche)』(小僧ガヴローシュ)と呼ばれ、邪険に扱われる。
 1832年のアンジョルラスらの六月暴動には、最年少で参加する。

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[編集] パトロン=ミネット

 パトロン=ミネット (Patron-Minette) とは、1830年-1835年にかけてパリで暗躍した悪党集団。4人のを中心に構成されている。『パトロン=ミネット』の言葉の意味は『朝』。朝に仕事が終わるだろうという意味からつけられた。彼らは夜に頃に目を覚まし、ラ・サルペトリエール救護院 (Hôpital de la Salpêtrière) の近くの草原に集まり、そこで彼らは会議を開く。そして、ひと肌ぬぐ必要があり、金になる悪事ならば、4人の頭はそれぞれ必要なだけのを手下を他の頭に貸して(頭自身も参加して)悪事を働くのだった。

[編集] 4人の頭

バベ (Babet)
 『パトロン=ミネット』の頭のひとり。自称:化学者。ひよわで薄っぺらな身体をしている。道化役者をやったり、『国家の元首』の石膏や肖像画を売ったりして生きてきたが、家族を故郷に捨て、単身パリにやって来た。ひとくせもふたくせもある男で、心の奥底で何を考えているか全く分からない。
 昔からの習慣で、暗黒社会を生きるものにはめずらしく、新聞を読む。
 1832年2月3日の、いわゆる『ゴルボー屋敷待ちぶせ事件』で逮捕され、ラ・フォルス監獄に収容されたが……。
グールメール (Gueulemer)
 『パトロン=ミネット』の頭のひとり。ラルシュ・マリオン通りの下水道を隠れ家にしている。6フィートもある身の丈と大理石のような胸板、青銅のような腕の筋肉、巨人のような胴と小作りの頭……それから怪力の持ち主である。が、怠け者で働こうとは思わず、代わりに人殺しを平気でやってのけていた。
 バベ、クラクスー同様、『ゴルボー屋敷待ちぶせ事件』でラ・フォルス監獄に収監されるが……。
1815年のブリューヌ元帥暗殺事件が起きたとき、現場となったアヴィニョンで人夫の仕事をしており、暗殺に関わったと考えられている。
クラクスー (Claquesous)
 『パトロン=ミネット』の頭のひとり。夜になると穴から出てきて、朝になると穴に帰る『闇』のような、正体不明の男。「クラクスー」という名前はあだ名で、本名は誰も分らない。本人いわく『パ=デュ=トゥー』 (Pas-du-tout, 何もなし)。光を向けられると仮面をかぶり、腹話術で他人と話をした。仮面の下の素顔を見たものはおらず、本当に顔があるのかどうかすら疑われた。
 『ゴルボー屋敷待ちぶせ事件』で逮捕されるも、ラ・フォルス監獄へ搬送中に行方不明となる。六月暴動以降、彼がその後を知る者はいないというが……。
モンパルナッス (Montparnasse)
 『パトロン=ミネット』のひとり。まだ二十歳を迎えていない美少年。つねに流行の服を身にまとう伊達男で、「おしゃれをするため」に犯罪を犯し、「どろぼう」になりたい『のらくら者』。女性的でしなやかだが、残忍な性根の持ち主。もとは浮浪児。成長段階で犯罪(とくに殺人)に手を染め、世間から恐れられていた。あらゆる悪徳を身につけ、あらゆる罪悪に憧れ、最大のに飢えている。
 『ゴルボー屋敷待ちぶせ事件』では、仲間の中で唯一警察の追っ手から逃れた。

[編集] パトロン=ミネットと関係のある人物

パンショー (Panchaud)
 『パトロン=ミネット』の腹心のひとり。プランタニエ(Printanier)、ビグルナイユ(Bigrenaille)という別名を持つ。タバコを好む。
3人の頭とふたりの仲間とともに『ゴルボー屋敷待ちぶせ事件』に加担するが……。
ブリュジョン (Brujon)
 『パトロン=ミネット』の腹心のひとり。父親も犯罪者。うわべは暗愚で愚鈍に見えるが、実は機敏でこざかしい若者。
 パンショーらとともに『ゴルボー屋敷待ちぶせ事件』に参加するも逮捕されてしまう。しかし……。
ドゥミ・リヤール (Demi-liards)
 『パトロン=ミネット』の腹心のひとり。別名ドゥ・ミリヤール(Deux-milliards)
 パンショー、ブリュジョンらとともに『ゴルボー屋敷待ちぶせ事件』に参加するが、ひとり酔いつぶれてしまい……。
マニョン (Magnon)
 テナルディエ一家と縁があり、監獄間の『仲介役』でもある悪女。かつてはジルノルマン邸で女中『ニコレット』として働いていたが、ジルノルマン氏をゆすり、彼から『ふたりの息子たちの養育費』として月80フランという大金をせしめていたが、1823年の春、病で息子たちを次々と喪ったため、テナルディエ夫妻の幼い息子ふたりを買った。これ以後、テナルディエの息子たちとイギリス人の女泥棒ミス嬢(Mamselle Miss)とともにクロシュペルス通りで暮らしていた。
 しかし、1832年の春、警察の強制捜査のメスが入れられ……。

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[編集] ABC(ア・ベ・セー)の友

 ABCの友 (Les amis de l'A B C) とは、成立してから間もない共和派の秘密結社。『ABC』とは、民衆(Abaissé)を意味し、民衆を向上させることを目的に結成された。メンバーの大部分は、労働者と、彼らと心から理解しあっている学生たちであった。活動拠点はル・シャンヴルリー通り(rue de la Chanvrerie,現在のランバントゥー街)の居酒屋コラント(Corinthe)とサン・ミッシェル通りのル=カフェ=ミュザン(le café Musain)である。主なメンバーは2.以降で述べるが、孤児であるフイイー以外は、家族に王党派や正当理論派の人間がいた。

[編集] ABCの友の主なメンバーと同調者

アンジョルラス (Enjolras)
 『ABCの友』に所属する若作りで容姿端麗な22歳の青年で、結社の首領。富裕な家庭の1人息子。一徹な理想主義者として革命の論理を代表し、マリユスのボナパルティズムの主張を諭す。
 1832年6月5日、ラマルク将軍葬儀のあった夜、他の共和派と共に決起し、居酒屋コラントを中心としてバリケードを築き、マリユスらとともにバリケードに立て篭もって暴徒たちを指揮する。後にこの暴動は六月暴動と呼ばれるようになる。
コンブフェール (Combeferre)
 『ABCの友』に所属する青年で、結社の哲学面での指導者。『シトワイヤン』(Citoyen、公民という意味の革命用語)が好きで、人間そのものに愛着を感じている。マリユスのボナパルティズムの主張を「自由になること」の一言で捻じ伏せた。
 仲間とともに六月暴動に参加し、バリケードを作る際はアンジョルラス・クークフェラックとともに指揮を取っていた。
ジャン・プルーヴェール (Jean Prouvaire)
 『ABCの友』に所属する心優しいロマン主義派の学生。文学に精通し、東洋語学もマスターしている。アンジョルラス同様、金持ちの1人息子。善良な性格のため臆病に見えるが、実は大胆。
 六月暴動に参加するが、一旦包囲されたバリケードが解放されたあと行方不明になり……。
クールフェラック (Courfeyrac)
 マリユスの『親友』のひとりで、『ABCの友』に所属している学生。結社の中心的存在。父親は『ド・クールフェラック(de Courfeyrac)』という貴族の姓を名乗る地方の名士。義侠心にあふれている。マリユスを『ABCの友』に連れて行き、仲間に引き入れた。ジャン・ヴァルジャンを『ルブラン (白髪) 氏』 と命名した張本人。
 1832年6月5日、アンジョルラスらとともに決起し暴動を起こすが……。
フイイー (Feuilly)
 孤児として育った扇作りの職工で、独学で諸言語を覚えた。『ABCの友』に所属している民族主義者。大らかで、深い包容力の持ち主だが、1772年(=ポーランド分割)を憎んでいる。
 六月暴動に参加。居酒屋コラントの2階にいる仲間の指揮を取っていたが……。
バオレル (Bahorel)
 革命以外の暴動が好きで、11年間大学生を続けている裕福な農家出身の放蕩息子。おしゃべりで浪費家で無謀に近い大胆さを持つ。『ABCの友』に所属し、他の団体とのパイプ役となる。
 六月暴動にはもちろん参加し、バリケード作りに精を出す。
レーグル・ド・モー (Laigle de Meaux)
 郵便局長の息子で、25歳にして禿げている法学の学生。南部出身ではない唯一の人物。親しい友達にはボシュエ (Bossuet)と呼ばれている。『ABCの友』に所属し、マリユスがクールフェラックと友人になる最初のきっかけを作った人物でもある。
 六月暴動に参加。ジョリー、グランテールとともに居酒屋コラントにおり、ラ・シャンヴルリー通りにバリケードを設けるきっかけを作った。
ジョリー (Joly)
 『ABCの友』に所属する23歳の神経症気味で、はしゃぎ屋の医学生。自分の名前に「L」を4つつけて、『ジョルルルリー』(Jolllly)と呼ばせていた。自宅には宿なしのレーグルがしょっちゅう泊まっていた。
 六月暴動に仲間とともに参加。現場となる居酒屋コラントに最初からいた。
グランテール (Grantaire)
 『ABCの友』に所属する無政府的懐疑主義の大酒飲みの学生。アンジョルラスをひたすら崇拝する。六月暴動の際はレーグル、ジョリーとともに酒を飲み、他のふたりをよそにずっと酔いつぶれていた。
 1832年6月6日、アンジョルラスと最後まで生き延びたが……。
マブーフ氏 (M. Mabeuf)
 マリユスの『親友』のひとりで、パリ郊外のオーステルリッツ村の田舎家に住む老人。マリユスの父ジョルジュの数少ない賓客のひとり。兄はジョルジュの住むヴェルノンの主任司祭であった。老女中のプリュタルク婆さん(la mère Plutarque)と一緒に暮らしている。植物研究家で、サン・シュルピス教会堂の教区財産管理委員をつとめていた。が、兄の死、破産……と様々な不運により、無一文になっていったため、教区財産管理委員を辞し、オーステルリッツに定住した。
 しかし、大切な書物すら売ってしまうほど困窮した彼は、六月暴動に参加。そこで彼が見せた行動とは……?

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[編集] そのほかの重要人物

サンプリス修道女 (Sœur Simplice)
 マドレーヌ氏設立の診療所で、慈善看護婦として働くラザリスト会修道女。若さも老いも感じない外見の持ち主で、沈着冷静で上品かつ芯の強い女性。必要最低限のことしか喋らない。ファンティーヌを看護し、その死を看取る。
 マドレーヌ氏を救うため、ジャヴェールに対し、生涯で始めての嘘をつく。
フォーシュルヴァン爺さん (Père Fauchelevent)
 モントルイュ=スュール=メールに住む老人。公証人というれっきとした職を持つ自分が没落していく一方で、いち労働者に過ぎなかったヴァルジャンが成功を収めていったため、彼を敵視していた。
 やがて破産し、荷馬車引きとして働いていたある日、雨にぬかるんだ通りで馬車が倒れて下敷きになったが間一髪でヴァルジャンに助けられる。これをきっかけに膝を悪くしたため、パリのプティ・ピクピュス修道院の庭師の仕事を与えられる。
 ユルティーム (Ultime)という名前の死んだ弟がおり、「以前助けてくれた礼に」と、パリに逃げてきたジャン・ヴァルジャンを弟ユルティームとして、コゼットを孫娘としてプティ・ピクピュス修道院に迎え入れる。
ジョルジュ・ポンメルシー (Georges Pontmercy)
 ナポレオン軍の少佐。王党派のジルノルマン氏の次女と結婚し、1810年にマリユスの父となる。ワーテルローの戦いの最中に手柄を立て、ナポレオンから直に陸軍大佐に昇進し、男爵の地位を貰ったが、戦後政府に無効にされる。ワーテルローで重傷を負い、死にかけたところを『酒営兼かっぱらい』のテナルディエに救われ、彼を命の恩人であると思う。同時期に妻を失い、義父ジルノルマン氏にマリユスと会うことを禁じられた。
 その後、ヴェルノンの橋の近くに家を構え、セーヌ川沿いに美しい庭園を築く日々を送り、1827年、自宅にやって来た息子の顔を見ぬままこの世を去る。一通の遺書を残して。
リュック=エスプリ・ジルノルマン (Luc-Esprit Gillenormand)
 マリユスの祖父にあたり、母親の違う二人の娘がいる(次女はすでに死去)。2番目の妻に財産のほとんどを食いつぶされたブルジョワ。90歳を過ぎても、物言いも身のこなしもしっかりしている。洗礼名の『リュック=エスプリ』とは「使徒ルカ聖霊」という意味を。
 好色家の社交人として知られ、ふたりの妻とたくさんの情婦を持っていたが、現在は50歳過ぎの長女ジルノルマン嬢 (mademoiselle Gillenormand l'aînée)や、バスク (Basque)を始めとする召使、全員まとめてニコレット (Nicolette)と呼んだ女中とともに暮らしており、元女中のマニョンにふたりの『息子』の『養育費』を支払っている。
 1789年(=フランス革命)を心底憎み、ナポレオンの下で働く次女の夫ポンメルシーを勘当同然に扱うなど、生粋の王党派のため、後にボナパルティズムに走ったマリユスとも対立してしまう。
 しかし、心の底からマリユスを可愛がっていた彼は、六月暴動をきっかけにマリユスと和解する。さらに自身の政治上の主張も捨て、マリユスが『男爵』と名乗ることを許した。しかも、一度反対したコゼットとの結婚を快諾し、彼女の美貌と境遇を心から絶賛した。
テオデュール・ジルノルマン(Théodule Gillenormand)
 ジルノルマン氏の甥の子で、マリユスのまたいとこにあたる陸軍中尉 (lieutenant)。槍騎兵。美しい青年将校で、普段は家を離れ、兵営で暮らしている。長女のジルノルマン嬢にたいそう気に入られているが、見識が軽薄でうぬぼれ屋で礼儀がなっていないため、大伯父のジルノルマン氏には嫌われる。また、コゼットからもあまり良く思われていない。
 マリユスと顔を合わせたことが一度もなかったが……。

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[編集] 出版に関する逸話

 ヴィクトル・ユーゴーは当初、本作の売れ行きを心配し、出版社に「?」(売れてる?)とだけ記した問い合わせの手紙を出し、「!」(売れて売れて!)とだけ記された返事を受け取ったといわれる。これは、世界一短い手紙であると言われている。

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[編集] 『レ・ミゼラブル』に基づく作品

[編集] 映画

 20世紀初頭以来、数多くの作品が制作されてきた。ここではその一部を挙げる。原題はいずれも“Les Miserables”。

[編集] その他

※日本版(時代設定:明治昭和)として、TVドラマ「愛無情」(主演:榎木孝明)が、1988年東海テレビ製作の昼ドラ枠で放送された。

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[編集] 脚注

  1. ^ 約2フラン、この時代は1フラン=20スー(鹿島茂著『「レ・ミゼラブル」』百六景より)
  2. ^ 脚注1.より、100フラン=2000スーと換算することが出来る。本書の設定によると、肉体労働者の1日の賃金が25~30スー。それから換算すると、飲まず食わず休まずで働いても、返済までに最低3~4か月、生活のことを考えると半年以上はかかると思われる。
  3. ^ コゼットが引き取られた1823年のクリスマスまでは宿屋があり、マリユスが父の遺言に従って宿屋を訪ねた1827年には宿屋は破産していた。

[編集] 外部リンク

Wikisource
ウィキソースレ・ミゼラブルの原文があります。

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