カッコーの巣の上で
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『カッコーの巣の上で』(カッコーのすのうえで、One flew over the cuckoo's nest)は、1975年のアメリカ映画。
日本での公開は1976年4月。 アメリカン・ニューシネマの代表作。
精神異常を装って刑務所での強制労働を逃れた男が、患者を完全統制しようとする精神病院の看護婦長から自由を勝ち取ろうと試みる、という物語である。
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[編集] 作品
原作はケン・キージー、邦訳が 『カッコーの巣の上で』 という題で富山房から出ている。邦題は当初「郭公の巣」であったが、後に映画のタイトルに合わせて改題された。
[編集] タイトルとストーリーの由来
いずれの邦題も一読して意味を理解することは難しいが、原題は最後にチーフという名の患者が一人 (One) で自由を求めて、精神病院 (the cuckoo's nest) から飛び出して脱出する (flew over) ことを象徴しており、もともとの由来はマザー・グースの詩である。
- Vintery, mintery, cutery, corn,
- Apple seed and apple thorn;
- Wire, briar, limber lock,
- Three geese in a flock.
- One flew east,
- And one flew west,
- And one flew over the cuckoo's nest.
実はカッコウには巣というものはない。カッコウは自分で子育てをしないのである。モズ、ホオジロなどの、ほかの鳥の巣に自分の卵を押し込んで、そこで一緒に子育てをさせてしまう (托卵)。卵から孵ると、カッコウの雛は同じ巣にある他の卵を巣の外に押し出そうとする。
ひとつの解釈としては、マクマーフィーをカッコウの卵に、看護婦長をほかの鳥の卵を大事に抱え込んでいるモズやホオジロに喩えることができるだろう。また、この詩の内容から、互いに対立するマクマーフィーと看護婦長とを、東と西に飛んでいったガチョウ(goose, 複数形はgeese)に、そして巣の上を飛んでいったガチョウをチーフに喩える解釈もある。
[編集] 主人公は本当に詐病なのか
刑事裁判での精神鑑定を手がける事の多い精神科医の小田晋は、主人公に明らかに虚偽性障害や反社会性人格障害、間欠性爆発障害の兆候が見られると言う[1]。
現実の精神病院でも、精神鑑定で責任能力なしとされた被疑者には「自分では精神障害者のふりをしてやったと思っているが、実際に人格障害などの兆候が見られる」事がままある。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] ストーリー
刑務所から逃れるために精神病院に(詐病によって)入院してきた主人公のマクマーフィー。向精神薬を飲んだふりをしてごまかし、婦長の定めた病棟のルールに片っ端から反抗していく。グループセラピーなどやめてテレビでワールドシリーズを観たいと主張し、他の患者たちに多数決を取ったりなどする。
- ※当時精神医学で新しい療法としてもてはやされていたグループセラピーへの皮肉である。
また他の患者を無断で船に乗せて、海に出たりもする。こうした反抗的な行動が管理主義的な婦長の逆鱗に触れ、彼女はマクマーフィーが病院から出ることが出来ないようにしてしまう。マクマーフィーはチーフが実際はしゃべれないフリをしていることに気づく。
クリスマスの夜、マクマーフィーは病棟に女友達を連れ込み、酒を持ち込んでどんちゃん騒ぎをやる。 その後逃げ出すつもりだったのだが寝過ごしてしまう。 翌日、乱痴気騒ぎが発覚し、そのことで婦長から激しく糾弾される。そのショックで(マクマーフィーにかわいがられていた)若い男性患者が自殺してしまう。マクマーフィーは激昂し、彼女を絞殺しようとする。
その後、婦長を絞殺しようとしたマクマーフィーは他の入院患者と隔離される。
マクマーフィーは病院が行った治療(電気けいれん療法或いはロボトミー手術)によって、もはや言葉もしゃべれず、正常な思考もできない廃人のような姿になって戻ってくる。
- ※これは当時、アメリカの精神医学会で盛んに行われていた脳梁切断手術の揶揄であろう。この手術は凶暴性を持つ癲癇患者を劇的におとなしくする手術としてもてはやされたが、手術後の患者は感情の起伏や外界への反応が極端に乏しくなるものであり、人権的な側面で当時から批判が多かった。現在は、その効果に疑問が持たれている。
ネイティブアメリカンである患者の“チーフ”はマクマーフィーを窒息死させ、「持ち上げた者には奇跡が起きる」とマクマーフィーが言った水飲み台を持ち上げて窓を破り、精神病院を脱走していくところで映画は終わる。
[編集] スタッフ
- 監督:ミロシュ・フォアマン
[編集] キャスト
- ジャック・ニコルソン - マクマーフィー
- ルイーズ・フレッチャー - 看護婦長ラチェッド
- マイケル・ベリーマン
- ブラッド・ドゥーリフ
- クリストファー・ロイド
- ダニー・デヴィート
- ヴィンセント・スキャヴェリ
- ウィル・サンプソン - チーフ・ブロムデン
[編集] 受賞
1975年のアカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、脚色賞と主要5部門を独占した。ちなみに、これら主要5部門の獲得は1934年に受賞した「或る夜の出来事」以来、実に41年ぶりの快挙であった。
[編集] 外部リンク
- ^ 小田 晋 『鼠が猫に食いついた───病棟内のリーダーシップと暴力───』 Imago 1990年5月号 青土社
1961: ウエスト・サイド物語 | 1962: アラビアのロレンス | 1963: トム・ジョーンズの華麗な冒険 | 1964: マイ・フェア・レディ | 1965: サウンド・オブ・ミュージック | |