セイラ・マス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
セイラ・マス(Sayla Mass、U.C.0062年9月12日 - ?)はアニメ『機動戦士ガンダム』に登場する架空の人物(声優:井上瑤(故人))。第2話~43話に登場。その後の作品にも幾度か登場している。
総監督の富野由悠季によれば、命名の由来は「テレビコードに引っかかるので説明出来ない」とのことである(NHK・BSアニメ夜話)。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
目次 |
[編集] 機動戦士ガンダム
本名はアルテイシア・ソム・ダイクン。ジオニズムの提唱者ジオン・ズム・ダイクンの娘であり、シャア・アズナブルことキャスバル・レム・ダイクンの実妹である。
幼少の頃に父ジオンが死去し、当時ダイクン派だったジンバ・ラルの元に兄と共に引き取られる。このとき、ジオン共和国の独裁化を目論むザビ家の迫害から逃れるためにマス家の養女となり、セイラ・マスと言う偽名で素性を隠し地球で過ごすこととなる。その後、兄がサイド3(ジオン公国)へ向けて旅立ったと同時に自らはサイド7へ移住していった。父ジオン・ダイクンの死に際しては幼少で未だよく事情を理解できなかったことに加え、早々に逐電した兄と違いマス家で健やかに優しく成長した経緯もあって、「ザビ家への復讐」といった負の感情は全く持ち合わせていなかった。しかし、早くに父母と死別し唯一の肉親として兄を強く慕う気持ちはキャスバルの失踪後によりいっそう増幅され、極度のブラザーコンプレックスとも呼べる状態に陥っていた。
第2話にて、ホワイトベースの避難民の一人として登場する。登場して早々、避難民の収容に手を貸そうともせず自分勝手な言動しかしないカイ・シデンをいきなり平手打ちし「軟弱者!」と叱責したシーンは有名であり、彼女の気高く凛としたキャラクターを決定付ける名場面の一つである。その後は人手不足のホワイトベースの中で医療スタッフの手助け(彼女は医者の卵であった)や通信士(オペレーター)の役を任される。ブライト・ノアから「さん」付けで呼ばれた唯一の搭乗員で、最高責任者として敢えて高圧的であろうとしたブライトがそう呼んだのは、セイラのカリスマ性を感じ取っていたのだと思われる。臨時で担当したにしては、パイロットのプライドをくすぐり一気にモチベーションを高める巧みなオペレーターぶりを見せ、後に23話でカイから「おだてのセイラさん」などと揶揄されていた。またミライ・ヤシマとは年齢や立場が近いためかしばしば行動を共にしている。
第13話では束の間の休息を取るホワイトベースクルーの姿が描かれ、彼女はグリーンの水着姿で優雅に日光浴を楽しんでおり、サングラスをかけた様子は前回のシャアを彷彿とさせた。
第16話では、以前ジオンに向かった兄の消息を知りたい一心でガンダムに勝手に乗りジオン兵と接触しようとする。が、戦闘経験のないセイラはノーマルスーツも着用せずGの凄さに嘔吐し、敵モビルスーツに翻弄され、危うくガンダムを捕獲されそうになってしまう失態を演じて独房入りとなった。なお、アムロ・レイ以外でガンダムを操縦したのはTV版では彼女だけである(劇場版『哀・戦士編』では一瞬だけリュウが操縦している)。
第20話でランバ・ラル隊がホワイトベースに白兵戦を挑んで来た際、ホワイトベースの第2ブリッジ付近で彼と偶然出会ってしまう。彼はジンバ・ラルの息子であり、セイラ(アルテイシア)の幼少期にはよく可愛がってもらった仲だった。「アルテイシアと知って何故銃を向けるか!」とラルは彼女に叱責されて怯んでしまった隙にリュウ・ホセイの銃撃で負傷。セイラは彼に退却するよう叫ぶ事しかできなかった。しかし、ラルは彼女の眼前で第2ブリッジから飛び降りて自爆、思わずジオン・ダイクンの遺児としての己の運命の重さを呪う。
その後、中盤ではパイロットとして24話からGファイター(劇場版ではコア・ブースター)に搭乗し、戦闘に出撃していくようになる。当初は慣れずに戸惑う面もあったが、ガンダム(アムロ)との連係プレー等で次々と戦果を上げていく。
ホワイトベースがジャブローに寄港した第30話では、再び兄と再会。現在のキャスバルが復讐に生きていることを察し諭すが、彼は地球連邦軍を辞めるよう言い残して立ち去る。また、ホワイトベースがテキサスコロニー近くに移動した第38話でも三度キャスバルと再会。しかし歩み寄りは見られず、兄との決別が決定的になり泣き崩れる。その後、キャスバルから彼女への手紙を添えた金塊がホワイトベースに回収され、ブライトに尋ねられたセイラは自らの素性を明かし、ホワイトベースのクルーで分けるようにと金塊を差し出している(分配せず丸ごと株式投資の元手にしたという説もある)。
最終話(第43話)、ア・バオア・クー戦にて生身で決闘を繰り広げるアムロとシャアを制止に入る。爆発に巻き込まれるが、アムロの誘導を受けてホワイトベースのクルーと共にア・バオア・クーより脱出。生還を果たしたが、これが兄・キャスバルとの今生の別れとなった。
彼女もジオンの忘れ形見である以上、一応ニュータイプではあるが、最後までアムロのような超絶的な覚醒や高いニュータイプ能力は見られなかった。明確に描写された最初のシーンは第39話と遅く、それもララァ・スンの乗るエルメスのサイコミュに微かに反応した程度のものだった。41話ではアムロとララァの共振を感知するがただそれだけであり、兄シャアともどもニュータイプ能力では二人に完全に抜き去られている。最終話ではアムロの声を聞いて脱出に成功しているが、他のクルーもアムロの声を聞いており彼女だけ特別というわけでもなかった。何より爆発するア・バオア・クーからコアファイターで脱出するアムロをテレパシー誘導したのは彼女ではなく、幼いカツ・レツ・キッカの三人組だったことからも彼女のニュータイプ能力の限界が推察できる。
アムロとは後述する小説版のように懇ろな関係になることもなく、戦闘でのパートナーシップ以上の親密な恋愛感情を匂わせる描写は特に無かった。しかし、井上はアムロ役の古谷徹と「あの二人は絶対に陰で付き合っているはず」とTV放映中のアフレコ時によく話し合っていたという。
[編集] 小説版、もうひとつのセイラ
小説版『機動戦士ガンダム』のセイラは原作者であり小説作者の富野由悠季(発表当時は“富野喜幸”名義)によって別の表現を施されている。彼女は同作品でアムロと肉体関係を持ち、またアムロにシャア殺害のプランを明かしそれを託すという、のちの『機動戦士ガンダムSEED』のフレイ・アルスター並みの過激な一面をみせる。このような、アニメ版とはまったく異なるセイラの過激さが、これまたアニメ版とは対極的な“娼婦的性格”と結合されて表現されたことは注目に値する。
富野は小説版で、セイラのヌードに対するアムロの印象やセイラの性的な嗜好についてなどをも(本項ではふさわしくないため省略するが)つぶさに描出しており、そのようなリアリズム描写によって、彼の大テーマの一つである“女という生々しい生き物”を、まさにこのセイラを通じて表現したかったと推測される。富野の根本的なセイラ像が分かるというものだろう。小説版ラストも全裸で海に飛び込むセイラの姿で締め括られている。
[編集] THE ORIGIN
安彦良和の漫画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では、本編より時間を遡ってダイクンの死から開戦にいたる経緯が描かれており、アニメ版では不明瞭であったセイラの過去も詳細に描かれている。
地球へ亡命した後、養父テアボロ・マスと共にサイド5のテキサスへ移住、兄「エドワウ・マス」は友人の「シャア・アズナブル」と共にサイド3へ向かう途中「事故死」する。
一年戦争序盤、マス家を暴徒が襲撃した際には使用人らを率いてこれを撃退するが、病床にあったテアボロはその間に息を引き取っていた。
[編集] 機動戦士Ζガンダム
TV版では第37話「ダカールの日」に1シーンのみ、セリフ無しで登場。クワトロ・バジーナ(=キャスバル)がダカールで自らの素性を明かしてまで行った演説のテレビ中継を何処かの別荘で憂いを帯びた表情で見入っていた。セリフが無かったのはセイラ役の井上が当時インドへ長期旅行中で離日しており、連絡がつかず収録出来なかった為と言われている。
小説版『Ζガンダム』では、“株式投資で生計を立てながら、地中海岸の街で一人暮らし。シャアのダカール演説の偽善を見抜き、殺意に近い思いさえ抱いている”という主旨の記述が成されている。
なお、劇場版『機動戦士ΖガンダムIII 星の鼓動は愛』では上記とは異なるシーンに登場。井上は既に逝去していたが、過去のガンダム出演時のセリフを抽出・編集する事で“声の出演”も果たした(劇場版エンドロールでは“ライブラリ出演”と表示されている)。
ちなみに『Ζガンダム』終了直前の月刊OUTに掲載された嘘企画『機動戦士Oガンダム』(『ΖΖ』のパロディ)では、ハマーン・カーンの弟カーン・ジュニアが率いる「スーパージオン」に参加してアルテイシア少佐を名乗り、兄のシャア・アズナブルと戦うという設定になっていた。
[編集] 機動戦士ガンダムΖΖ
第28話でジュドー・アーシタの妹であるリィナ・アーシタは戦闘に巻き込まれて死んだと思われたが、実はセイラに助けられていた。第46話で、セイラはリィナとともにかつてのホワイトベース艦長、ブライト・ノアの前に登場。投資家として暮らしていることがブライトによって語られ、また兄・シャアについて、いっそ死んでしまえばいいという思いを口にする。
最終話(第47話)ではブライトを介してリィナとジュドーを再会させた。
[編集] 主な搭乗機体
[編集] 備考
- 月刊OUTは1980年3月号で、「悩ましのアルテイシア」と題してセイラの全裸ピンナップを掲載した。これに対する富野のコメントは「なんでもっと奇麗に描いてくれなかったんだ!」だったという。
- ガンプラブーム絶頂期の1981年にバンダイから発売された、1/20スケールでメインキャラを立体化したフィギュアプラモデル「キャラクターコレクション」の中で、特にセイラは「原型師入魂の出来」と高評価を受けた。またアニメ雑誌で同作を改造したフィギュア版「悩ましのアルテイシア」が発表されて反響を呼び、後のフィギュア魔改造のはしりになったと言われている。